上 下
61 / 95
第三章:王都学園編~初年度後期~

第1話:王都再び

しおりを挟む
「ステージアよ! 私は帰ってきた」
「なんですか、それ?」

 入門審査を相変わらずの顔パスでスルーしたあと、門からすぐのところに馬車を止めてもらった。
 そして石畳を踏みしめ大きく息を吸い込んで、そこそこの声量で帰還を喜んだのだけれどもハルナには伝わらなかったよ。
 
「ここからは、歩きですか?」
「いや、馬車で送るよ」

 それからもう一人、ソフィが乗っていた。
 彼女も降りて来て首を傾げてそんなことを尋ねてきたので、馬車へ押し戻す。
 ふふん、今回はダリウスが一緒じゃないから、ずっと彼女の横をキープできた。
 私の肩に頭を乗せて、寝ることは無かったけどね。
 代わりに私の膝に頭を乗せて寝たので、触り心地のいい絹のような白い髪をたっぷりと堪能させてもらった。
 起きた時の彼女の慌てようも、可愛かったなぁ。

 ちなみにクリントは、ずっと馬に乗ってついてきていた。
 馬車には乗ってない。
 完全に護衛のつもりだ。
 自身が護衛対象でもあるけれども、一応騎士を目指しているので哨戒の役割をもらっていたけど。
 確かに、クリントも気配探知は変態じみてるからね。

 しかし、レオハートでの領都で過ごした日々も、だいぶ前のように思える。
 三日前まで、居たけど。
 王都に入ると気が引き締まるというか、気持ちが切り替わるというか。
 長期休暇も終わりかという実感が、沸々と湧き上がってくる。
 長期休暇も中だるみの半分よりやや前くらいは、早く学校始まらないかなとか思ってたけど。
 残りが指折り数えるほどになったら、もう少し休みたいと思うのは人の業だね。

 長期休暇の間は冒険者活動も頑張ったし、レイチェルを招いてお泊り会もした。
 ソフィも呼んだし、結構充実していた。
 ソフィを連れて、魔物狩りにもいったし。
 少しは彼女のレベル上げもしないとと思ってね。
 魔物とはいえ生き物を殺すのは、性に合わないみたいだったけど。
 あれは魔物じゃなくて、経験値よ! と言ったら、変な顔をしていた。
 私がおかしいみたいだ。

 どうにかこうにか連れて行ったメンバーの助けもあってか、少しはレベルが上がったけど。
 目標までは、まだまだ遠いよね。

 他にはあれだ……怪しい食材たちに囲まれて、帰還パーティもやった。
 サガラさんを招待したら、百鬼夜行みたいで懐かしいと言っていた。
 いや、リアルで百鬼夜行を見たことがあるのだろうか?

「昔に何度かな」

 と言っていたから、そうなんだろう。
 何個かの野菜が、サガラさんの直近の部下に抜擢されて喜んでいた。

 一つ目のぱっくりと口が裂けた大根とか。
 牙の生えた、一つ目のリンゴやトマトとか。
 目つきの悪い、カボチャとか。

 腐臭を放つ、手足のある謎の肉は……遠回しに遠慮されて、物凄く凹んでいた。
 腐った魚も、動く骨も。
 あっ、動く骨は鳥やら牛やら豚やら。
 あとは中型以上の海水魚のあらとか。
 ガラスープに使おうと思って、取ってたやつ。
 一応変質はしたけど、入浴感覚で熱湯に入ってダシを提供できると言っていた。
 あと生きているから、時間が経てば流れ出た髄液やらも再生するとか。
 うーん……としか、答えようが無かったよ。

 そして、この馬車と一緒に来ている荷馬車に、それらの食物? の一部が乗っている。
 こっそりついてきて、混じったらしい。
 腐ってる連中は、悪いけど離れたところで完全密封型の袋に入ってもらって、私がその外側を結界で覆っておいた。
 いや、他の食材と一緒にしたら、そっちも腐りそうだし。
 あと、臭い移りも嫌だったからね。
 彼らにフォローのつもりで、「凄くショックを受けてるのはわかるけど、食材的にあんたらそのデリケートな時期はとっくに過ぎてると思うよ!」と慰めたら、遠い目をしていた。

 言葉の選択を間違えてしまったらしい。
 
 そんなこんなで、毎日が目まぐるしく過ぎてあっという間に、後期再開まで一週間を切ってしまったのだ。
 
 そういえば、ジェシカは修道院送りで落ち着いたらしい。
 爵位を持つ教員や、貴族子息、令嬢の命を脅かしたにしては随分と甘い処置だと思う。
 彼女の親は、早々にジェシカとの縁を切って煮るなり焼くなり好きにしてくださいと言ったらしい。
 うーん……世知辛い。
 一切の申し開きもせず、罪を粛々と受け入れることで印象を良くしようとしての発言……だったら、良いな。

 それでも彼女が労役や死刑にならなかったのは、高度な取引があったとか無かったとか。
 いや、オルガがシャルルと連携して裏で手を回していたらしい。
 まあ、唆されたということも多少は手助けになった。
 身分至上主義派に対する牽制も期待して、命は助けるように彼女たちの親に動いてもらったらしい。

 表向きはそうだけど、たぶん私が気に掛けていたからだと思う。
 学園への復帰は絶望的かと思われたけど、何やらまだ動いているようだ。
 なんせ実家との縁は完全に切れて、ただのジェシカになったわけだ。
 他の貴族が養子として迎え入れる分には、問題は無い。
 いや、ある。
 犯罪者ということと、養子に迎え入れることにメリットが無いという点で。

 一応、お父様に打診したら「私を犯罪者の親にするつもりか」と、呆れた表情で言われてしまった。
 薄情者め。
 寄子に頼むことをも、禁止された。
 
 シャルルとしては彼女を学園に通わせることで、ジニー達を焦らせたいという思惑があるらしい。
 そのジニーとレイモンドだけど、特にお咎めらしいお咎めは無かった。
 無かったけど長期休暇中に、事情聴取のために親同伴で登校を命じられたらしい。
 ジニーは三度目の親の呼び出しで、色々とあったのだろう。
 頬が腫れていたと、ブライト先生が教えてくれた。
 というか、一年の前期だけで三度も親が呼び出しとか、前代未聞らしい。
 笑える。

 レイモンドに至っては、顔がボコボコに腫れあがっていたらしい。
 二人とも体面を大事にしてそうな、親をもってそうだしね。
 つい、ざまあみろと思ってしまった。

 ソフィを送り届けた後は、王都邸にまずは戻る。
 それから、一晩ほどゆっくり休める。
 明日は……王城に呼び出しだ。
 ダリウスと、シャルルから。
 いや、本当はシャルルに呼ばれてたんだけど。
 ダリウスが後から私を誘ったくせに、強引にシャルルも巻き込んで王城でお茶会にとの流れになった。

 勿論、話題は合宿の件だろう。
 ジェシカの処遇のこともあるし。
 このまま修道女として過ごしてもらうのも、別に良いと思うんだけどね。
 殺されなかっただけでも、十分だと思うし。

 ちなみにジェーンは、ジェシカと一緒に修道女になろうか本気で悩んでいたらしい。
 弟のことがあったので、どうにか踏みとどまった……というか、そのことを理由にジェシカに説得されたらしい。
 仲間内では、仲が宜しかったんだろう。

 ジェイの話も聞いたけど、特に気にした様子はないらしい。
 意外と薄情というか、現実的というか、合理的というか。
 
 しかし、修道院での生活は……改心に役に立つのだろうか。
 そもそも、この世界の宗教の教義は地球のそれとは、違うからなぁ。
 だって、神話や聖書に出てくるような存在が、普通にいる世界だし。
 集団で宗教活動を行い、教義と向き合いながら生活するという意味での修道院だとしたら……
 それこそヴァンパイアハンター教会的な修道院も、あるかもしれない。

 ガチで、死こそが救いなんて修道院が……あったら、真っ先に修道士が死んで誰も残らないか。

 人々の生活を守るために魔物絶対殺すマン的な修道院とか、ヤバイよね。
 もう、やってることが集団でのミサじゃなくて、魔物の大量討伐を行うの猛者の集団だ。
 
 ジェ三姉妹とは、あれから会ってないからなぁ。
 学園生活が始まったら、ちょっとジェーンとジェイに話を聞いてみないと。

 それと、男子三人組は補習と反省文。
 さらには奉仕活動を命じられたとか。
 未遂とはいえ、その程度で良いのかと思わなくもない。
 実際は学園の寮に押し込まれて、ずっと何かしらの活動をさせられていたらしい。
 長期休暇の全没収だ。

 ……子供に与える罰としては最上級かもしれないけどさ。
 まあ、本当の罰は学園が再開してからだろう。
 今回の件は、多くの生徒どころか貴族にも広まったからね。
 その分、身分至上主義派が警戒して、慎重になっているくらいには。
 
 まずは、我が家に帰らないと。
 ロンたちが、首を長くして待っているらしい。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。 スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。 ※誤字報告、感想などありがとうございます! 書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました! 電子書籍も出ました。 文庫版が2024年7月5日に発売されました!

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

逆ハーレムエンドは凡人には無理なので、主人公の座は喜んで、お渡しします

猿喰 森繁
ファンタジー
青柳千智は、神様が趣味で作った乙女ゲームの主人公として、無理やり転生させられてしまう。 元の生活に戻るには、逆ハーレムエンドを迎えなくてはいけないと言われる。 そして、何度もループを繰り返すうちに、ついに千智の心は完全に折れてしまい、廃人一歩手前までいってしまった。 そこで、神様は今までループのたびにリセットしていたレベルの経験値を渡し、最強状態にするが、もうすでに心が折れている千智は、やる気がなかった。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...