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第二章:王都学園編~初年度前期~
第28話:舞踏会
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「準備は出来ましたか?」
部屋の外から、クリントが声を掛けてくる。
自分の服装を鏡で確認して、溜息を吐く。
あれほど抵抗したのに、私の腰はいまコルセットで締め上げられている。
はずなのに、普段と変わった様子はない。
私の防御力を前に女性である侍女が締め上げた程度で、私の腹筋は小動もしない。
するはずがない。
決して、腹筋に力を入れて抵抗したわけではない。
それでも胴回りに密着した衣類というのは、窮屈で仕方ない。
本気を出して、紐を引きちぎりたい衝動に駆られる。
もちろん、腹筋の力だけで。
でも、それをやると色々と女性として終わる気がするよね?
コルセットの紐が切れて、コルセットがはじけ飛ぶとか。
どこの、世紀末救世主様だ。
色々と前世では多趣味だったから、それなりに色々と知っているよ。
世紀末救世主様の物語は、当時好きだった男の子が崇拝していたから読んでみた。
一巻で挫折したけどね。
絵が強すぎて。
彼は、主人公の兄2人の方が好きだったみたいだけど。
長兄と次兄。
三男は色々と問題児だったらしい。
他には、新宿の種馬の物語とか。
続編はちゃんと読んだ。
見られる絵だったから。
そんなことはどうでもいい。
私がこれから向かうのは、パーティ会場だ。
開催場所は……うん、王城。
学生を集めた、若者だけの舞踏会が開かれる。
卒業したばかりのOB、OGも参加するけど、主役は私たち現役学生。
学生間の親交を深めるために、王家が主催する舞踏会。
領地に帰ってしまった子たちは、残念ながら参加はできない。
いや、わざわざこのためだけに、王都に戻る子もいるらしいけど。
私も今月は、王都にいることにしているし。
お父様が寂しがっていると手紙が来たけど、知ったこっちゃない。
お兄さまが帰ったのだから、それで満足してもらいたい。
おじいさまは、こちらにまだいるし。
今度、王都の冒険者ギルドで依頼を受けて一緒に出掛ける約束もしてる。
お母様には少し会いたい気持ちもあるけども、おじいさまもクリントもいるから寂しさは無い。
来週には学園主催の合宿という名の、小旅行もあるし。
レイチェルとカーラ達も誘ったけど、あまり乗り気じゃなかった。
私の表情を見て、渋々といった感じかな?
つい本気で悲しくなってしまった私は、溜息を吐いてお知らせの書いた紙を畳んだだけ。
それから、外を見て黄昏てみただけだよ。
「そうよね……よく考えると、そこまで魅力的ではないわよね……」
と呟いたら、皆がぜひ行きたいです! と声をあげてくれた。
別に、情に訴えるためにそんな顔をしたわけじゃないよ。
自分の気持ちを胡麻化して、整理しようとしてただけだから。
その話を聞いたオルガも、急遽参加を表明してた。
皆さんが行かれるなら、私もご一緒しようかしらと名乗り出てくれたのだ。
知り合いが多いに越したことは無いし。
残念ながら、ソフィアは参加できない。
実家に帰るから。
学生が長期休暇のこの時期は、かき入れ時でもあるからね。
ただでさえ、成果発表会の為に両親がこっちに来てたわけだし。
その間は、うちから貸し出した人員と、彼らが雇った人間で回していたらしいけど。
うちの貸し出し人員の帰還を延長すると申し出たけど、彼女自身が両親を手伝いと言われたら引くしかなかった。
その代わり、今日の舞踏会には参加だ。
うちでドレスを貸し出して、うちの馬車で一緒に行く。
誰がソフィアの後ろにいるか、周囲に見せつけてやらないと。
そう意気込んでいたら、一緒に準備をしていたソフィアも終わったらしい。
衝立がどけられて、ヘアメイクの終わったソフィアが恥ずかしそうに顔を見せた。
公式には銀色とされる白髪。
それに合わせるドレスの色は、本当に悩んだ。
濃い色のダーク系にして、コントラストを出すか。
パステルカラーで上から下まで和かな印象を出しつつ、明るい感じに無難にまとめて行くか。
結局、ちょっと濃いめのパステルグリーンの、ロングフレアドレスにした。
袖はタイトな感じで、肘下まで。
胸元は首元まで、しっかり襟がしまるタイプ。
裾も足元から膝下までは、レースを使ったシースルーの生地であつらえた。
極小の金属片を使ったスパンコールも、ちりばめている。
私のドレスはおじいさまやお母様が準備してくれるから、なかなか自分で選べないけど。
小さいパーティとかのは、自分で選ぶけどね。
公式なものには、TPOを弁えたドレスが必要だ。
その暗黙のルールに詳しくない私は、突飛なものを選ぶと思われているらしい。
信用がない。
だから、今回ソフィのドレスを選ぶのは、とても楽しかった。
椅子から降りたソフィアは、私の前に少し躊躇した様子で出てきた。
うん、満点に可愛い。
「こんな豪華な衣装、汚したり破ったりしたらと思うと怖くて動けません」
「大丈夫! 多少の汚れどころかそこそこ頑固な汚れでも、おばあちゃんの知恵袋と私の魔法ですぐに綺麗になるよ」
「それをやってもらうのが、恐れ多いです」
何を遠慮してるんだろうね、この子は。
魔法なんだから、元手は掛からないし気にしなくていいのに。
「破れても、それも私の魔法やうちの裁縫師でなんとかできるよ」
「エルザ様の魔法が大変優秀なのは分かりましたが、その手を煩わせるのが申し訳ないのです」
「その程度の魔法、息をするようにできるからね? 手間でもなんでもないよ! 大丈夫、液体は弾くように魔法でコーティングしてあるから」
「……このドレスの価値が恐ろしくて、確認も出来ません。もう一度、聞きますよ? 本当に、お貸ししていただけるのですよね? ……貸していただくだけですよね?」
「そのつもりだったんだけどね……ソフィの体形に合わせてあるから、あげるよ」
「ほら! 家にあるもので、古くて汚れて良いものを貸してくださるとおっしゃったじゃないですか! どう見ても、これ新品じゃないですか!」
「……そういうこともあると思うよ?」
「ありませんって!」
私の回答に、ソフィが溜息を吐いている。
ソフィー、もう少し私に甘えても良いんだよー。
目指せ、ソフィの足長おじさん!
忍んでないけど。
「本来なら入学式で選んだ分岐ルートの相手からドレスが届き、馬車で迎えがくるはずでしたが……裏ルートに完全に突入してますね」
ハルナが私たちを横目で見て、また大きな独り言を呟いている。
呟いているという表現が、正しいかどうか分からないほどの声量だ。
本当に、聞かせようとしてないの?
それ。
ちなみに友人たちとの個人的な旅行も提案したけど、これもあまり乗り気じゃなかった。
やっぱりみんな、実家関連で色々と忙しいらしい。
あと、お金持ちのご令嬢ばかりだけれども、海外旅行に行くわけでもない。
国内旅行しか、選択肢は無い。
まあ、領地によってはガラリと雰囲気が変わるから、異国情緒を味合うことはできるけどね。
海外はハードルが高すぎる。
国際情勢的に。
他国の貴族令嬢とか、もう格好の餌食だよね。
連行というか、拉致されて人質にされる可能性も高い。
同盟国の中から選んでも、完全に安全と言い切れるかどうか。
王国から正式に通達を出してもらって、外交の一環として賓客として迎え入れてもらうのが一番確か。
自由な観光はできなくなるけど。
うん、残念。
私一人なら、どうとでもなるんだけどね。
パーティ会場となる王城に着くと、すでに多くの子息令嬢が集まっていた。
私とソフィアは、クリントにエスコートされながら大広間の中に入っていく。
今日は金髪を後ろに撫でつけて、かっこいいタキシード姿のクリント。
流れるような自然な動作で、両手に花を携えた登場だ。
会場内から、溜息が漏れている。
私も、ほうっと溜息が出た。
うちの兄も、なかなかやるではないか。
「ほらっ、やっぱり私は後ろからエルザ様のドレスの裾を持ち上げて、中に入るくらいで良かったんですよ!」
ソフィが小声でクリント越しに、何やら喚いている。
小声で喚く姿が、餌を強請る雛鳥みたいで可愛い。
「ほらほら、これでも食べて落ち着いて」
鞄から飴ちゃんを出して、クリントの前から手を伸ばして彼女の口に押し込む。
「もう」
ソフィは不満そうにしながらも、ちょっと笑みを浮かべて俯いてしまった。
「キャー!」
会場から、知り合いっぽい黄色い声援が聞こえた気がした。
とりあえず、放っておこう。
「おい、あの令嬢は誰だ?」
「ん? ああ、クリントが連れてきたなら、当然妹のエルザ様だろう」
「そっちじゃない、反対側の……その、少し儚げのある女性の方だ」
「誰かな? 確かに綺麗な子だな」
おお……うちのソフィの噂話かな?
可愛かろう、可愛かろう。
私の子たちは、皆可愛いんだ。
早く、私の周りに侍らせたい。
可愛い子に囲まれたいよ。
今回のパーティには入学前の幼い子たちは、参加しないからね。
残念ながら、癒しが足りない。
毎年、大きなパーティでは子供たちの取りまとめを買って出ている。
だって、大人と混じって退屈な話をするより、子供たちの話を聞いたり遊んであげたりしてる方が楽しいんだもん。
さて、うちの可愛い子たちはどこかなっと……
「あのドレス、凄く綺麗」
「シャンデリアの光を反射して、輝いて見える」
「彼女の髪の毛も、綺麗……」
「うん、全身で光を反射して輝いてるのって、なんか本物の聖女様っぽい」
おお……おお?
本物の聖女?
そういえばハルナがソフィに対して、そんなような独り言を言ってたような気が。
まあ、確かにソフィは聖女っぽいもんね。
聖属性も使えるし。
政治利用される聖女になる可能性も高いし。
王族が、上手い事彼女を保護できなければ……
王国認定聖女か、教会認定聖女にはなるはず。
「お二方とも、本当に素敵ですね」
おっと、私も含まれて……いるのかな?
この場合、クリントとソフィの可能性もあるよね。
今日のクリントは、髪型も相まって大人っぽさ3割増しくらいになってるし。
妹の私からしても、かっこよく見えるよ。
「クリント様、少し後ろに下がってくれないかしら」
知り合いっぽい子……というか、もうオルガの声だ。
さっきの黄色い声援と、同一人物の声が近づいているのが分かる。
「分かります! 綺麗なご令嬢を2人が並ぶところを見たいです」
同意してる子がいるけど、誰だろう。
オルガの知り合いかな?
「あら、あなた話が分かりますわね」
どうやら、知り合いではないらしい。
声が聞こえていただろうクリントが、手を離しそうな雰囲気だったのでぎゅっと握る。
「痛い」
「知り合いのところまでは、最低でもエスコートしてくださいね。私とソフィだけになったら、歩きにくいですもの」
クリントに笑顔で声を掛ける。
ごめんよ……つい、割と本気で握った。
男子の視線、特にソフィに向けるものに怪しい雰囲気を感じたので、しっかりと虫よけを身につけておかないと。
なんなら、今日はソフィの専属護衛にしようか……
部屋の外から、クリントが声を掛けてくる。
自分の服装を鏡で確認して、溜息を吐く。
あれほど抵抗したのに、私の腰はいまコルセットで締め上げられている。
はずなのに、普段と変わった様子はない。
私の防御力を前に女性である侍女が締め上げた程度で、私の腹筋は小動もしない。
するはずがない。
決して、腹筋に力を入れて抵抗したわけではない。
それでも胴回りに密着した衣類というのは、窮屈で仕方ない。
本気を出して、紐を引きちぎりたい衝動に駆られる。
もちろん、腹筋の力だけで。
でも、それをやると色々と女性として終わる気がするよね?
コルセットの紐が切れて、コルセットがはじけ飛ぶとか。
どこの、世紀末救世主様だ。
色々と前世では多趣味だったから、それなりに色々と知っているよ。
世紀末救世主様の物語は、当時好きだった男の子が崇拝していたから読んでみた。
一巻で挫折したけどね。
絵が強すぎて。
彼は、主人公の兄2人の方が好きだったみたいだけど。
長兄と次兄。
三男は色々と問題児だったらしい。
他には、新宿の種馬の物語とか。
続編はちゃんと読んだ。
見られる絵だったから。
そんなことはどうでもいい。
私がこれから向かうのは、パーティ会場だ。
開催場所は……うん、王城。
学生を集めた、若者だけの舞踏会が開かれる。
卒業したばかりのOB、OGも参加するけど、主役は私たち現役学生。
学生間の親交を深めるために、王家が主催する舞踏会。
領地に帰ってしまった子たちは、残念ながら参加はできない。
いや、わざわざこのためだけに、王都に戻る子もいるらしいけど。
私も今月は、王都にいることにしているし。
お父様が寂しがっていると手紙が来たけど、知ったこっちゃない。
お兄さまが帰ったのだから、それで満足してもらいたい。
おじいさまは、こちらにまだいるし。
今度、王都の冒険者ギルドで依頼を受けて一緒に出掛ける約束もしてる。
お母様には少し会いたい気持ちもあるけども、おじいさまもクリントもいるから寂しさは無い。
来週には学園主催の合宿という名の、小旅行もあるし。
レイチェルとカーラ達も誘ったけど、あまり乗り気じゃなかった。
私の表情を見て、渋々といった感じかな?
つい本気で悲しくなってしまった私は、溜息を吐いてお知らせの書いた紙を畳んだだけ。
それから、外を見て黄昏てみただけだよ。
「そうよね……よく考えると、そこまで魅力的ではないわよね……」
と呟いたら、皆がぜひ行きたいです! と声をあげてくれた。
別に、情に訴えるためにそんな顔をしたわけじゃないよ。
自分の気持ちを胡麻化して、整理しようとしてただけだから。
その話を聞いたオルガも、急遽参加を表明してた。
皆さんが行かれるなら、私もご一緒しようかしらと名乗り出てくれたのだ。
知り合いが多いに越したことは無いし。
残念ながら、ソフィアは参加できない。
実家に帰るから。
学生が長期休暇のこの時期は、かき入れ時でもあるからね。
ただでさえ、成果発表会の為に両親がこっちに来てたわけだし。
その間は、うちから貸し出した人員と、彼らが雇った人間で回していたらしいけど。
うちの貸し出し人員の帰還を延長すると申し出たけど、彼女自身が両親を手伝いと言われたら引くしかなかった。
その代わり、今日の舞踏会には参加だ。
うちでドレスを貸し出して、うちの馬車で一緒に行く。
誰がソフィアの後ろにいるか、周囲に見せつけてやらないと。
そう意気込んでいたら、一緒に準備をしていたソフィアも終わったらしい。
衝立がどけられて、ヘアメイクの終わったソフィアが恥ずかしそうに顔を見せた。
公式には銀色とされる白髪。
それに合わせるドレスの色は、本当に悩んだ。
濃い色のダーク系にして、コントラストを出すか。
パステルカラーで上から下まで和かな印象を出しつつ、明るい感じに無難にまとめて行くか。
結局、ちょっと濃いめのパステルグリーンの、ロングフレアドレスにした。
袖はタイトな感じで、肘下まで。
胸元は首元まで、しっかり襟がしまるタイプ。
裾も足元から膝下までは、レースを使ったシースルーの生地であつらえた。
極小の金属片を使ったスパンコールも、ちりばめている。
私のドレスはおじいさまやお母様が準備してくれるから、なかなか自分で選べないけど。
小さいパーティとかのは、自分で選ぶけどね。
公式なものには、TPOを弁えたドレスが必要だ。
その暗黙のルールに詳しくない私は、突飛なものを選ぶと思われているらしい。
信用がない。
だから、今回ソフィのドレスを選ぶのは、とても楽しかった。
椅子から降りたソフィアは、私の前に少し躊躇した様子で出てきた。
うん、満点に可愛い。
「こんな豪華な衣装、汚したり破ったりしたらと思うと怖くて動けません」
「大丈夫! 多少の汚れどころかそこそこ頑固な汚れでも、おばあちゃんの知恵袋と私の魔法ですぐに綺麗になるよ」
「それをやってもらうのが、恐れ多いです」
何を遠慮してるんだろうね、この子は。
魔法なんだから、元手は掛からないし気にしなくていいのに。
「破れても、それも私の魔法やうちの裁縫師でなんとかできるよ」
「エルザ様の魔法が大変優秀なのは分かりましたが、その手を煩わせるのが申し訳ないのです」
「その程度の魔法、息をするようにできるからね? 手間でもなんでもないよ! 大丈夫、液体は弾くように魔法でコーティングしてあるから」
「……このドレスの価値が恐ろしくて、確認も出来ません。もう一度、聞きますよ? 本当に、お貸ししていただけるのですよね? ……貸していただくだけですよね?」
「そのつもりだったんだけどね……ソフィの体形に合わせてあるから、あげるよ」
「ほら! 家にあるもので、古くて汚れて良いものを貸してくださるとおっしゃったじゃないですか! どう見ても、これ新品じゃないですか!」
「……そういうこともあると思うよ?」
「ありませんって!」
私の回答に、ソフィが溜息を吐いている。
ソフィー、もう少し私に甘えても良いんだよー。
目指せ、ソフィの足長おじさん!
忍んでないけど。
「本来なら入学式で選んだ分岐ルートの相手からドレスが届き、馬車で迎えがくるはずでしたが……裏ルートに完全に突入してますね」
ハルナが私たちを横目で見て、また大きな独り言を呟いている。
呟いているという表現が、正しいかどうか分からないほどの声量だ。
本当に、聞かせようとしてないの?
それ。
ちなみに友人たちとの個人的な旅行も提案したけど、これもあまり乗り気じゃなかった。
やっぱりみんな、実家関連で色々と忙しいらしい。
あと、お金持ちのご令嬢ばかりだけれども、海外旅行に行くわけでもない。
国内旅行しか、選択肢は無い。
まあ、領地によってはガラリと雰囲気が変わるから、異国情緒を味合うことはできるけどね。
海外はハードルが高すぎる。
国際情勢的に。
他国の貴族令嬢とか、もう格好の餌食だよね。
連行というか、拉致されて人質にされる可能性も高い。
同盟国の中から選んでも、完全に安全と言い切れるかどうか。
王国から正式に通達を出してもらって、外交の一環として賓客として迎え入れてもらうのが一番確か。
自由な観光はできなくなるけど。
うん、残念。
私一人なら、どうとでもなるんだけどね。
パーティ会場となる王城に着くと、すでに多くの子息令嬢が集まっていた。
私とソフィアは、クリントにエスコートされながら大広間の中に入っていく。
今日は金髪を後ろに撫でつけて、かっこいいタキシード姿のクリント。
流れるような自然な動作で、両手に花を携えた登場だ。
会場内から、溜息が漏れている。
私も、ほうっと溜息が出た。
うちの兄も、なかなかやるではないか。
「ほらっ、やっぱり私は後ろからエルザ様のドレスの裾を持ち上げて、中に入るくらいで良かったんですよ!」
ソフィが小声でクリント越しに、何やら喚いている。
小声で喚く姿が、餌を強請る雛鳥みたいで可愛い。
「ほらほら、これでも食べて落ち着いて」
鞄から飴ちゃんを出して、クリントの前から手を伸ばして彼女の口に押し込む。
「もう」
ソフィは不満そうにしながらも、ちょっと笑みを浮かべて俯いてしまった。
「キャー!」
会場から、知り合いっぽい黄色い声援が聞こえた気がした。
とりあえず、放っておこう。
「おい、あの令嬢は誰だ?」
「ん? ああ、クリントが連れてきたなら、当然妹のエルザ様だろう」
「そっちじゃない、反対側の……その、少し儚げのある女性の方だ」
「誰かな? 確かに綺麗な子だな」
おお……うちのソフィの噂話かな?
可愛かろう、可愛かろう。
私の子たちは、皆可愛いんだ。
早く、私の周りに侍らせたい。
可愛い子に囲まれたいよ。
今回のパーティには入学前の幼い子たちは、参加しないからね。
残念ながら、癒しが足りない。
毎年、大きなパーティでは子供たちの取りまとめを買って出ている。
だって、大人と混じって退屈な話をするより、子供たちの話を聞いたり遊んであげたりしてる方が楽しいんだもん。
さて、うちの可愛い子たちはどこかなっと……
「あのドレス、凄く綺麗」
「シャンデリアの光を反射して、輝いて見える」
「彼女の髪の毛も、綺麗……」
「うん、全身で光を反射して輝いてるのって、なんか本物の聖女様っぽい」
おお……おお?
本物の聖女?
そういえばハルナがソフィに対して、そんなような独り言を言ってたような気が。
まあ、確かにソフィは聖女っぽいもんね。
聖属性も使えるし。
政治利用される聖女になる可能性も高いし。
王族が、上手い事彼女を保護できなければ……
王国認定聖女か、教会認定聖女にはなるはず。
「お二方とも、本当に素敵ですね」
おっと、私も含まれて……いるのかな?
この場合、クリントとソフィの可能性もあるよね。
今日のクリントは、髪型も相まって大人っぽさ3割増しくらいになってるし。
妹の私からしても、かっこよく見えるよ。
「クリント様、少し後ろに下がってくれないかしら」
知り合いっぽい子……というか、もうオルガの声だ。
さっきの黄色い声援と、同一人物の声が近づいているのが分かる。
「分かります! 綺麗なご令嬢を2人が並ぶところを見たいです」
同意してる子がいるけど、誰だろう。
オルガの知り合いかな?
「あら、あなた話が分かりますわね」
どうやら、知り合いではないらしい。
声が聞こえていただろうクリントが、手を離しそうな雰囲気だったのでぎゅっと握る。
「痛い」
「知り合いのところまでは、最低でもエスコートしてくださいね。私とソフィだけになったら、歩きにくいですもの」
クリントに笑顔で声を掛ける。
ごめんよ……つい、割と本気で握った。
男子の視線、特にソフィに向けるものに怪しい雰囲気を感じたので、しっかりと虫よけを身につけておかないと。
なんなら、今日はソフィの専属護衛にしようか……
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