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第二章:王都学園編~初年度前期~

閑話:2-7オルガ・フォン・ビルウッドの事情と私情

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 私と一緒に行動するエルザ様を見ます。
 はぁ……やっぱり、素敵ですわ。
 女性でありながら中性的であり、男性的な立ち振る舞いも板についている不思議なご令嬢。
 いまは、歳相応の少女のような振る舞いをしてますが。
 それでも、リーダーシップを遺憾なく発揮するお姿は、頼もしい限りです。
 有体に言って、かっこいいです。

 冒険者としてのランクもS級というのもポイントが高いですね。
 そして公爵家のご令嬢ですから、貴族としてもS級ですね。
 
 冒険者のS級というのは、王族でも気を遣う相手です。
 いえ実際に気を遣うのではなく、扱いに関してですね。
 流石に国家を敵に回して生き残れるほどの実力があるとは誰も考えませんが、下手な領地なら簡単に制圧されて乗っ取られてしまうくらいの力はあります。
 一人で大隊を相手にしても勝ちを拾うものすらいるのが、S級冒険者なのです。

 そして私たちビルウッド家の祖も、元をただせばそのS級冒険者なのです。
 王国に取り込まれた結果、我がビルウッド伯爵家が生まれたのです。
 不思議な力を持ち、行商を生業としながらも片手間でS級冒険者にのし上がった傑物。
 国が放っておくわけがありません。
 経済力も馬鹿にできないS級冒険者なんて、不穏分子の最たるものですからね。
 手元に置いて、うまいこと利用するくらいの方が良いのでしょう。

 ですから、私にも王族の血が流れております。
 エルザ様とはかなり遠い親戚でもあるのです。

 S級冒険者の取り扱いを間違えた場合、何が厄介かというと……彼らが暴走した時ですね。
 自重を忘れて大暴れされたら、被害は甚大であることは間違いありません。
 小規模の戦争くらいの被害が出るでしょう。
 十中八九、国が勝ちますけどね。
 その後が問題です。
 国同士の争いなら、賠償の話になるのでしょうが。
 普通の冒険者は、国家予算規模の財産を持っているわけではないのです。
 S級冒険者でも、上位で中規模の伯爵家程度の財産でしょうか?
 全てを接収したところで、国同士の賠償金のやり取りに比べたら微々たるものでしかないのです。
 鎮圧したところで、得るものがないのです。

 まあ、彼らも自身の命は大事ですからね。
 国との衝突は望むところではないでしょ。
 お互いに協力関係を築き上げて、上手い事やっております。
 一部を除いて。
 中にはその……性格的にあれな方もいらっしゃいますからね。

「こっちも、美味しいよー」
「いえ、そのそんなにたくさんは……でも、そこまで勧められるのならば、いただきます」
 
 目の前でレイチェル嬢に、せっせと餌やりをしているエルザ嬢を見る。
 美味しい物を美味しそうに食べる人を好むと言う情報は、間違いではなさそうですね。

 初代様は色々な訓示を残されております。
 その中に”人からは馬鹿に思われろ”というものがありました。
 相手はこちらを見下したら、ペラペラと余計な自慢をしてくる。
 中には重要な機密を、うっかりと話す本物の馬鹿もいるとか。
 
 それとは別に、厄介事に巻き込まれないようにという思いもあったらしい。
 ただ、利用はされるなともおっしゃられてたようです。
 難しいですが、私も父も祖父も実践を心がけております。
 清貧を心がけよ。
 謙虚であれ。
 貸しは作れど、借りは作るな。
 他にもたくさんの言葉を残しております。

 それにしても、補習は理科にしておいて正解でしたね。
 本当に、エルザ様が来られるとは。
 どの教科で不合格を取るか悩んだのですが、エルザ様と仲のいいカーラ嬢の苦手科目ならば近づく機会を得られるかと思ったので。
 
「ほーら、だんだんお腹が空いてくるー」
「いえ、もともとそこまでお腹いっぱいじゃなかったですし」
「えっ? 家で食べて来て、うちでもお昼食べて、こんなにおやつをも食べてまだ? っていうか、逆に食べてる量からしたらレイチェル細すぎる気がしてきた」
「こんなにお腹が出てて、ほっぺも丸々してるのにですか?」
「ふつうそんなに食べたら、お腹出るどころか垂れるよ……てか、なにこの頬っぺた! 餅肌通り越して、求肥じゃん!」
「ぎゅうひ?」

 声をした方を見ると、エルザ様が紐に吊るした穴の開いた丸いお菓子でレイチェル様に何かしていました。
 あれは何をしているのでしょうか?

 そして、レイチェルさん食べ過ぎでは?
 公爵家で昼食をご相伴に預かれたのは、羨ましい限りですが。
 エルザ様に言われて気付きましたが、確かに食べる量からしたら細いと言わざるを得ないですね。
 あとぎゅうひとはなんでしょうね?

「今度、作ってあげるよ! スポンジの上に生クリームと苺を置いてそれを求肥でくるんだの、めちゃくちゃ美味しいよ」
「それは、私も興味がありますねー」
「そう? じゃあ、ソフィアやカーラたちも呼んで、皆でお茶会しよう。その時に、出してあげる」
「私も誘っていただけるので?」
「勿論じゃん」

 将を射んと欲すれば先ず馬を射よという初代様の言葉を実践し、周りから取り入ろうと思ったのですが。
 二日目でいきなり将を射ったような状況になって、拍子抜けでしたが。
 本当に、闊達かったつな方のようですね。
 ソフィアさんのためにチョコレートを用意したら、エルザ様は私とソフィアさんの分を用意してこられました。
 この時点で、ほぼほぼ私の目的は達成されたようなものですね。

 目的は二つあります。
 エルザ様の側について、彼女の情報を集めること。
 もう一つは……純粋にエルザ様が素敵すぎて。
 
 何をそんなにと思われるかもしれませんが、あの瞬間に私の心は完全に鷲掴みにされたのです。
 そう、成果発表の日に。
 いえ、エルザ様の剣術の発表のことではないですよ。
 私は剣術は受けてません。
 舞踏を受けてます。

 ですから、あの場に居たのです。
 エルザ様とカーラ嬢が踊った、あの場に。
 剣術の成果発表があったからか、少しラフな格好のエルザ様でしたが。
 片膝をついてカーラ嬢をダンスに誘う様は、男装の麗人という言葉が相応しいお姿でした。
 
 もうね……全てがね……

 剣術の授業を受けているはずなのに、この場にいる全ての男子の上をいく技量。
 男性パートの技量がですよ?
 しかも、本人は国内でもトップクラスの美貌と謳われるエルザ様。
 ときめかない訳がないでしょう。
 カーラ嬢がボーっとしてしまうのも、分かりすぎます。

 そして時折見せる涼し気な笑み。
 誰よりも、この場を楽しんでおられるのが分かりました。
 場を支配してしまったことも。
 全員の視線が、エルザ様とカーラ嬢に釘付けになっておりましたからね。
 私たち舞踏クラスの女子も全員。
 皆が、エルザ様と踊りたいと思ったでしょう。
 なんせ、私もそう思ったのですから。

 普段からサバサバした印象を受けますが、たまにちゃんとご令嬢の時もあります。
 その時も、そつなく令嬢らしさを取り繕っております。
 冒険者の時は、常にあの男装の麗人モードらしいです……ぜひ、その時にお会いしたいです。
 しかもですよ! 冒険者の時には魔法で、姿を成長させているらしいのです。
 王族も冒険者達も知る、公然の秘密です。
 身分証も偽造したみたいですが、公爵領でのことですからね。
 そもそもそれを咎めたところで、レオハート公とエルザ様が王国に牙を剥いたら師団でも全滅を覚悟しての衝突になるでしょう。
 であれば、見て見ぬふりをするのも大事です。
 そのうえで国から彼ら獅子の心に依頼を出して、有効活用した方がいいでしょう。
 これが、S級冒険者の扱いというものです。

 さて、色々と語りましたが……察しの良い方ならバレてしまいそうですね。
 そう、我がビルウッド家は王家よりです。
 ……身分至上主義派閥の三巨頭の一つとなってますが、我が家の役割は情報調達です。

 ビルウッド伯爵家は、領地自体が諜報機関の一つなのです。
 東のスペアステージ公爵家の近くに領地があり、経済的に大きく発展した交易が盛んな街を抱えております。
 それも、複数。
 ですので、様々な情報も集まるのです。
 こればっかりは、ご先祖様に感謝ですね。
 
「待てー」
「それ以上は、ほっぺが取れちゃいます」
「取れたら、私がもらってあげるよー」
「いやー」

 公衆の面前で、ご令嬢二人が駆け回っている姿は微笑ましいものがありますね。
 護衛としてついてこられたクリント様と、エルザ様の侍女であるハルナ嬢が呆れておりますが。
 ハルナ嬢は侍女ではありますが、貴族の子女ですし後ろ盾はレオブラッド辺境伯ですからね。
 油断は禁物です。 
 かなりの食わせ者だという情報も得ております。
 
 呆れていても、微笑ましい物を見るような柔らかな視線を向けるクリント様。
 噂通り、早熟な方のようです。
 そしてレイチェル嬢が、時折クリント様に向けられる視線は……
 あおはるですね。
 
 さて……私も、エルザ様を虜にするぎゅうひのようなほっぺを、少し触らせてもらいましょうか。

「お二方とも、待ってください」

 小走りで、2人を追いかける。
 勿論、目標はレイチェル嬢です。
 
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