上 下
45 / 98
第二章:王都学園編~初年度前期~

第24話:終業式

しおりを挟む
「であるからして、我が校の生徒として他の貴族の子息令息の模範となるべき行動を心がけ……」

 学園長の長い話を聞きながら、長期休暇の予定に思いを馳せる。
 とりあえず、補習には1週間は確定で出ることにした。
 そのことをブライト先生に告げると、何を企んでいると訝しがられてしまったけど。
 別に、何も企んでいないですよ。
 カーラとフローラの他に、ソフィも参加すると聞いたから参加するだけです。
 レイチェルとテレサも誘ったけど、振られてしまった。
 レイチェルは一度、自領に戻るみたいだし。
 だから、その前にお茶会とお泊り会は提案している。
 本当はズールアーク領へのお誘いも期待したけど、ついぞ誘われることは無かった。
 寂しい……

「他者を思いやり、慎みある行動を取り、それでいて高貴で領地を背負う血族としての誇りを大事にし……」

 にしても、長いなぁ……
 誰も寝ていないけど、幻影魔法で起きてる姿を映しつつ目を瞑ってる子とかいないよねぇ……

「振り返れば、様々なことがあったと言える3ヶ月間であったでしょう。嬉しかったこと、楽しかったこと、悲しかったこと、悔しかったこと、それらが全て皆さんの血肉となり、成長の糧となるよう……」

 これ、先輩方は毎年聞かされているんだよね?
 グレイドルフ学園長の話を子守歌に、それこそ幻影魔法で胡麻化しながら寝ようかなと思うほどに長い。
 まあ、椅子に座って聞けるだけましかな?

 運動場で炎天下の下、立って聞かされたら昔の私なら倒れる自信はあるよ。

「私が最初の長期休暇を迎えた時は、それはそれは……」

 出た、自分語り。
 これがまた長いし、中身が薄いんだよねー。
 山なし、谷なし、落ちなし、笑いなしの無いものずくしだ。
 とりあえず、身分至上主義派にしっかりと先の話を言い聞かせるべきだと思うけどね。
 たぶん、学園長はあっちよりだろうけど。
 もしかしたら身分至上主義派というよりも、スペアステージア公爵家よりなだけかもしれない。
 
「最後に私事わたしごとになりますが……」

 嘘……だろ?
 学園とまったく関係ない話を、取りにもってきやがった。
 こいつ、腐ってやがる。
 と言いたくなるような、本当にろくでもない学園長だよ。 
 校内ではニコニコと生徒の様子を見守りながら、見回りをする姿をよく見るけど。
 いまいち、掴みどころが無いと言うか。
 子供は純粋に好きなのかもしれない。

「今年は優秀な生徒も多く、エルザ・フォン・レオハート嬢は習熟度テストにて満点の成績を修め……」

 さっきのプライベートが最後じゃなかったのか!
 あと、カーラも満点だ。
 こっちに、注目を集めるな。
 嫌がらせにもほどがある。

「それでは、良い休暇を」

 そう言って、学園長の話は締めくくられた。
 正直、ぐったりしてる。
 私だけじゃない。
 それなりの生徒が少し死んだ目をしながら講堂を出て、陽の光を浴びて伸びをしながら復活していた。

「エリー」
「ダリウス殿下」

 それから外に出た私は、兄はどこかなとキョロキョロしていたらダリウスに声を掛けられた。
 違うお前じゃないとは言わない。
 笑顔でニッコリと、対応する。
 ちなみにクリントは私の後ろにちゃんといる。
 私が探したのは、クリスお兄さまだ。

「これからしばらく、学園で貴女の姿を見られないと思うと寂しいですね」
「まあ、でも王妃殿下から茶会のお誘いは頂いておりますし、王都邸にしばらくは滞在するので是非殿下もいらしてください」

 無難に対応。
 こうやって仲の良いアピールを周囲にするのも、大事なのだろう。
 水面下では婚約破棄の危機にあるという噂が流れているけど。

 きっと、その噂を払拭するために、ダリウス殿下が動いていると皆思ってそうだね。

「素敵……」
「羨ましいですわ」

 素直なことは良い事だと思います。
 純粋な子は好きですわ。
 私たちのやり取りを見て、頬を染めながら華やいだ声をあげた子たちに笑顔を振りまく。
 顔は覚えたよ。
 ぜひ、お近づきになりたいね。

「今はまだ、関係の悪化を見せるのは拙いということか」
「公爵家には利用価値がありますからね……表立って次世代の不仲を見せるわけには、いかないでしょう」
「どうりで、どこか芝居じみたやり取りだと思いましたわ」

 それに引き換え、この子たちは。
 大人顔負けの腹黒さだ。
 殿下の言葉は概ね字面通りの意味だし、私も事実と社交辞令しか言ってない。
 信じたいものを信じるのが人の性というけど、陳腐な悪人の性ではないだろうか。

「エリー……目が怖いよ」
「そうですか? 笑えていると思ったのですが」
「だから、余計にだよ」

 ダリウス殿下に突っ込まれつつも、3人で仲良くおしゃべり。
 相変わらず髪は短めに綺麗に切りそろえられていて、王子感が少ない。
 ここまで来たらツンツンにおっ立てて、武闘派王子を目指すのも良いんじゃないかな。
 ブレザーのお陰か、肩回りや背中周りに筋肉が付いたのか背中周りが少し大きく見える。
 立派で頼りがいのある背中だ。
 
 しかし、ときめかない。
 いや婚約者だしこちらからは断れないのは、分かっているけどね。
 幼馴染補正というものも発動しない。
 小さい頃から知っている、歳の離れた近所の子供に対する感覚に近いかな?
 彼の方が年上だけど。
 1歳差なんて、誤差の範囲だ。
 
「ダリウス殿下、エルザ様、クリント様」
「シャルル!」
「シャルロット嬢か、どうした?」

 私たちに近寄ってきて、声を掛ける子がさらに一人。
 ニシェリア侯爵令嬢の、シャルルだ。
 私と仲の良い先輩だね。
 学園に通ったから、先輩後輩の関係になってしまった。
 こんな小さい時から知っているのに、子供の成長は本当に早いものだ。

「エルザ様が久しぶりに会ったおばあ様みたいな目で私を見ているのはともかくとして、私は明日には王都を出て一度自領に向かいますので是非ご挨拶をと思いまして」
「なるほど、忙しいのだな。確かにニシェリア侯爵領は、その方の叔父が代官を務めているんだったな」
「来週には領都で夏を迎える祭事もありますし、私は今年からそういった方面のお手伝いを始めますの」
「えー! 長期休暇は、シャルルにもうちに泊まりにきてもらいたかったのに」

 殿下とシャルルが真面目に挨拶を交わしているところに申し訳ないが、子供らしくない。
 なので、子供らしく話の腰を折りにいった。
 おおう、周りからも少し呆れた様子の視線が。

「お嬢様、もう少し成長なさってください。あまり我儘を言って、ニシェリア侯爵令嬢を困らせてはいけませんよ」

 周囲に人が多いからか、クリントは完全に余所行き従者ポジションだし。
 でも、クスクスと笑いながらも好意的な視線を向けてくれるご令嬢も、少なくはない。
 3年生の先輩かな?
 思わずそちらに、笑顔で軽く手を振ってしまった。
 おおう……何やら、胸を抑えている。
 ……ハルナと似たような匂いがするから、あまりお近づきになりたくないね。

「やあ、皆ここに居たんだね。殿下もお疲れさまでした。ああ、シャルロットもいたのかい? いつも妹がお世話になっていたみたいだね。感謝するよ」
「いえ、そんな。私の方こそ学園内でエルザ様には、とてもよくしていただいてましたのよ。会う度に、美味しいお菓子も分けてくださいますし……これは、昔からでしたね」

 ああ、そういえばシャルルには小さい頃から、鞄に入れた飴やクッキーをよく渡していた。
 きちんと綺麗な紙で包んで、堅めの紙の箱で保護したお菓子。
 最初は戸惑っていたけど、私が一緒に食べると意を決して食べてたのが懐かしい。
 あの頃のシャルルも可愛かったな。

 そんな感じで4人に増えて、わいわいやっていたらというか……わいわいやろうとしたら、お兄さまが私たちを見つけて駆け寄ってきた。
 いまは、ダリウスとシャルルに挨拶をしている。

 周囲に人が増えた気配はあるのに、周りにあったスペースが広くなったのが分かった。
 どうやら兄は遠巻きに見るのが、丁度いいくらいの男性なのかな?

「クリス、私もその方の妹に多少は振り回されたが?」
「はは、殿下はこれから先も妹にずっと振り回されるのですから、今から慣れておかないとね。貴重な練習期間をもらえたと、感謝してもいいくらいだよ」
「はぁ……死が二人を分かつまで……か。死ぬまで退屈することのない、笑顔の絶えない人生になりそうだよ。苦笑も絶えなさそうだ」
「お二人とも失礼ですよ」

 お兄さまとダリウスのやり取りに、シャルルが笑いながら突っ込んでいる。
 仲が宜しくて、大変結構……これ、シャルルのことをお義姉様と呼ぶ日が来たりしないよね?

 この2人なら家格も容姿も、釣り合いが取れてるし。
 それって、なんて素敵!

「エルザ様が、婚約話を持ってくる叔母様のようなお顔になってきたので、私はここで失礼いたしますね。正門のところに、家の者を待たせておりますし」
「何よそれ。じゃあ、シャルルも元気でね! 手紙も書くし、領地にも遊びに行くからシャルルも来てちょうだい」
「ふふ、楽しみにしておりますわ。それでは皆様、ご機嫌よう」

 そう言って、シャルルが私たちの前から立ち去る。
 お兄さま、ダリウス、クリントが三者三様の表情で、その後姿を見送っていた。
 そして、その後で三人がこっちに視線を向ける。
 今度は、三人とも同じような表情だ。
 あっ、クリントが溜息を吐いた。

「シャルロット様の半分で良いから、おしとやかな部分をお嬢に分けてもらいたい」
「分かっていないな。他と違うからこそ、エリーは魅力的なのだ」
「私はエルザがどんな娘に育っても、大事にするよ」

 ふむ……合格点をあげられるのは、お兄さまだけだった。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

婚約破棄にも寝過ごした

シアノ
恋愛
 悪役令嬢なんて面倒くさい。  とにかくひたすら寝ていたい。  三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。  そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。  それって──最高じゃない?  ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい! 10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。 これで完結となります。ありがとうございました!

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...