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第二章:王都学園編~初年度前期~

第20話:成果発表見学

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「おじいさま!」

 観覧席の階段を一気に駆け上がり、祖父に飛びつく。
 凄い勢いだったけど、難なく受け止めてクルリと回って抱きしめてくれた。
 腕の中でおじいさまの方を見上げて、ニンマリと微笑む。

「どうでしたか、私の闘いっぷりわ! 少しは腕をあげたでしょう!」
「なかなか良かったぞ! 確かに、エルザの言うように多少は腕があがっている! 反応も動きも無駄がなくなってきたな。この調子で頑張るといい」

 おじいさまが褒めてくださったので、思わず小さな声でやったと呟いた。
 おじいさまに付いてきていたハルナも、嬉しそうにしている。

「いまので、なかなか?」
「少し腕をあげて、あのレベル?」
「多少? 多少ってなんだ? なかなか? なかなかってのは、最上級の誉め言葉だったか?」

 ただ、おじいさまの褒め方が足りなかったようだ。
 周囲からは、困惑したような声ばかりが聞こえてきた。

「次は2年生の部だから、ダリウス殿下が出られますよ」
「ふむ、小僧がどの程度腕を上げたか、みものじゃな」

 第二部について説明すると、おじいさまは顎髭をしごきながら不敵な笑みを浮かべていた。
 王子様を小僧呼ばわりして良いのかな?
 良いんだろうね。
 おじいさまだし。
 周りが、ざわざわしているけど。
 気にしたらだめだ。
 おじいさまは、何も聞こえていないかのように平常心で舞台を見ている。
 私はつい周囲の悪意とかに、過敏に反応してしまうけれども。
 このそよ風を受けているかのように、小動こゆるぎもしない姿を見て見習うべきだと思った。
 ただ、自分に向けられた悪意に関してのみだけれども。

 自分のことはどう思おうが、なんと言おうが関係ない。
 ただ、俺の周りの人間を馬鹿にするやつは、絶対に許さん!

 うん……どこの熱血少年漫画の主人公かな?
 静かに微笑みながら、上品に半殺しにする程度にしよう。

「出てきたのう」
「あっ、本当だ」

 おじいさまの声を聞いて舞台に視線を向けると、ダリウス殿下が立っていた。
 相手の子も、なかなか強そうだ。

 先生の合図で、お互いに一度剣をぶつけてから打ち合いが始まった。

「ほう?」
「へえ……」

 確かにダリウスは強くなっていた。
 堅実に鍛錬を重ねてきたことがよく分かる、堅実な剣だ。
 面白味は無いけれども、基礎部分の練度が対戦相手の子とは段違いだ。

「いや、2人とも怖いから」

 横から遅れてきたクリントが失礼なことを言っている。
 当主様に無礼だよ。
 まあ、クリントのおじいちゃんでもあるけど。
 
「いま、良いところだから黙ってて」
「えぇ……」
「クリントか。お主も、よく見ておけ! 基礎の重要性が詰まった良い動きだ」
「基本の突く斬るだけなのに、なかなか厭らしい」

 私とおじいさまが視線も向けずに言葉を返すと、渋々彼も横に座った。
 クリントもそれなり以上に腕は上げていたし、ダリウス殿下よりは確かに強い。
 ただ技術の面では、小手先の技に頼りすぎてる気がする。

「すべて力技でねじ伏せるお二方に、そんな気配を向けられても」
「ふむ……人の心を読むことだけは、長けておるな」
「それだけじゃないと、思うんだけど」

 おじいさまの言葉に、クリントが少し拗ね気味だ。
 あっ、勝負あった。

 素早い突きで出鼻をくじかれなかなか前に出ることができず、息を付けば強烈な斬撃で後ろに追い込まれ、だいぶ鬱憤が溜まっていたのだろう。
 全力で上段から斬りかかろうとした相手の剣の握り手に、突きをピンポイントで合わせて剣を弾き飛ばし首筋に一撃を添えて終了していた。
 
 まああれだけ力んで動きが遅くなっているうえに、上段からの雑で大ぶりな一撃だったら簡単に合わせられるか。
 ジリ貧だったのだろう。
 上から勢いと腕力で押し込んで、少しでも押し返したかったのかもしれない。
 悪手でしかなかったけど。

「悪くないな」
「ええ、この調子で精進して欲しいですね」

 おじいさまが顎髭を扱きながら、やや満足そうに首を傾げていた。
 私も婚約者の成長を間近で感じられて、満足だ。
 この調子で頑張れば、剣の基礎だけなら私を越えていきそうだ。

「あの戦いを見て、この上から目線」
「ぱねぇな……」

 ん? 
 なんか、懐かしい響きの言葉が聞こえた気がした。
 ハルナも声の主を探して、キョロキョロしている。
 しかし、結構な観客が居るから、分からずじまいだった。
 たまたまかな?
 翻訳さんが、頑張っただけかもしれない。

 自分たちの出番が終わったので、基本的には自由行動になる。
 他の選択科目の見学に行っても良いし、家族と思い思いの時間を過ごしても良い。
 ということで、ソフィを連れて校内を見回ろう! と思ったんだけどね。
 せっかくご両親が来ているわけだから、彼らとの時間を優先させてあげよう。
 その代わりにレイチェルと……ああ、お姉さんが来てるのね。
 あんまり表に顔を出したがらないと聞いたけど、やっぱり妹が可愛いのかな。
 
 レイチェルの出番の時に、柱の影からジッと見ていたのはちょっとゾッとしたけど。
 その後は大人しく観覧席に座って、小さく扇子を振っていた。
 物凄く小さくレイチェルって書いてあった。
 私じゃなきゃ、見えないだろうってくらいに小さい文字。
 
 ただレイチェルが顔を背けてたから、彼女には見えたのかな?
 いや、お姉さんから顔を背けてただけかもしれない。

 さて、レイチェルも家族と一緒に行動するようだし……一人で、カーラのところにでも行ってみようかな?
 舞踏の授業だったっけ?
 あんまり選択科目の話を聞くことが無いんだよね。
 確か、この時間はフリーダンスって言ってたような気がする。
 各々がその場でパートナーを見つけて、即席で踊りを披露するって言ってたけど。
 大体が先輩後輩で組んで、先輩がリードする流れなんだろう。
 確か、場所は講堂だったはず。

 中庭を通って、講堂に向かう。
 道すがらに親との再会を喜ぶ子たちを尻目に一人で歩くのって、結構目立つね。
 他にもいるけど、一人じゃない。
 友達と歩いている子ばかりだ。
 こんなことなら、ハルナを誘うんだった。
 おじいさまは上級生の部も見る気満々だったし、クリントもそれに付き合うようだったからそそくさ出て来てしまったが。
 ちょっと、後悔した。

 たぶん誰も気にしていないと思いつつも、見られているような気まずさを感じる。
 それこそ、私は気にはしないけど。
 そんなことを考えたってことは、ちょっとは気にしたのかな?
 まあ、いいか。

「おっ、踊ってる」
 
 講堂の中に入ると、会場の真ん中で華やかな衣装を身に纏った子たちが、誇らしげにダンスを披露していた。
 えっと、カーラはどこかなっと……

 ……うーん、結構な人数いるから見つけにくいけど、カーラの気配は分かるし。
 気配探知で……壁?

 気配のある方に視線を向けると、壁際に佇んでいるカーラが居た。
 いや、カーラだけじゃなくて、数人の生徒が踊らずに壁際に立っているだけだった。
 パートナーに誘われなかった子たちかとも思ったけど、男の子もいる。
 いや余ってるんなら、余りもの同士で組んだらいいじゃん。
 そう思って、再度会場の中央に目をやる。
 もしかしなくても、身分至上主義派閥の子たちが独占してる感じかな?
 
 いや、どうなのそれ?
 先生からパートナーを組むように、促したりしないのかな?
 舞踏の担当の先生のことはよく分からないけど、この状況で良いのかな?
 この壁際の子たちを見に来ている親御さんたちも、きっといると思うんだけど。
 まあ学年別の発表の舞台は、予め決められたパートナーと練習した踊りを踊るみたいだけれども。
 こっちが本番のような空気があるって、言ってたような気がしたんだけどな。
 
 もしかして私と一緒に行動するようになってから、クラスでも浮いてたのが原因だったりするのかな?
 身分至上主義派閥の子から、距離を置かれていたし。
 いや、カーラ自身も距離を置いていた気がするけど。

 どっちにしろカーラの応援に来た私としては、非常に面白くない。
 かといって、これが終わるまで舞踏の子たちは自由行動が取れないとも聞いている。
 無視して、連れ出そうか……

 それとも壁際の子たちに声を掛けて、踊らせるか。
 そこまででしゃばるのは、流石にやり過ぎか。

 ……面白いかも。
 この状況を看過している先生にも問題があると思うし、ちょっとくらいかき回しても良いよね?

 あっ、カーラがこっちに気付いたから、とりあえず笑顔で手を振ってみる。
 凄く気まずそうに、苦笑いて手を振り返してくれた。
 うん、恥を掻かせてしまったかもしれない。
 じゃあ、カーラのために一肌脱いでも良いよね?

 どうしよう……ここで、大声で彼らに発破をかけるのは流石に違うと分かる。
 だったら……
 私は姿勢を正し、堂々と真っすぐカーラの方へと向かって優雅に歩を進めた。
 そして、カーラの前で一礼して手を差し出す。
 気分は、某女性だけの劇団の男役だ。
 爽やかな笑みで白い歯をチラリと見せつつ、出来るだけハスキーな声で話しかける。

「そこの可愛いお嬢さん。私と一曲踊っていただけますか?」 
「えっ?」

 凄く、困惑した表情で聞き返されてしまった。
 恥ずかしい。
 盛大に滑った。
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