上 下
39 / 102
第二章:王都学園編~初年度前期~

第18話:習熟度テスト

しおりを挟む
「何やら、ご機嫌ですね」
 
 教室でいつものように、大声で皆に挨拶をしたらカーラが声を掛けて来てくれた。
 他の生徒も、チラホラとだけど大きめの声で挨拶を返してくれるようになった。
 そして、カーラの他にも3人の女子生徒が。
 うんうん、少しずつだけどクラスに馴染めてるようで良かった。

 クリントは少し、不満そうだけど。
 私が気安く他の生徒に接するのが、気に入らないらしい。
 嫉妬かな?
 いや、身分至上主義派閥の子にも積極的に、声を掛けていることにモヤっとしているらしい。
 なんせ、彼らの反応は割と塩対応だからね。
 目礼で済まされる程度。
 一度クリントがブチ切れて、リベラル伯爵の子息の胸倉を掴んで恫喝していた。

「クリントこわーい」

 って茶化したら、怒りの矛先がこっちに向いてしまった。
 藪蛇だったよ。
 実力はこっちが上でも、兄として詰められるとごめんなさいをするしかない。
 なんともまあ丁寧な口調で下手に出ながら、あそこまで高圧的に説教が出来るものだ。
 本当に器用になったし、周囲から早熟な子供と評価されるのがよく分かる。
 それでクリントのクラス内の評価が上がるもんだから、今度は私がモヤっとすることになったけど。
 そもそも精神年齢でいったら、私の方が遥かに上なのに。
 早熟ではなく、お転婆と言われるのはどうなのだろうか?
 今度二階の部屋の壁を壊して、屋敷を抜け出してみようか。

 とりあえず、カーラと他の子たちとホームルームまでお喋り。
 周囲はとても静かだから、なるべく小声でね。

「分かる?」
「ええ、いつもより声が弾んでますから」
「昨日は久しぶりに、外でストレスを発散できたからね。可愛いもの成分も補給できたし」
「へえ……余裕ですね」

 蛇狩りのことを話すわけにもいかないので、適当に濁しながら機嫌の良い理由を言ったらそんな答えが返ってきた。
 うん、周囲が静かなのは、みんな教科書を一生懸命読んでるからだね。
 今日は、前期の習熟度テストの日だ。
 期末テスト的なものかな?

 私は全教科満点を取る自信があるから、そこまで焦ってもいない。
 というか、今更悪あがきをしたところで手遅れだと思う。
 一個二個何かを覚えてテストに出たら、その分点数は増えるだろうけど。
 そんなもの焼け石に水だ。
 当日にやるなら復習であって、詰め込みではないと思うよ。
 
「まあ、基礎しか習ってないしね。家庭教師に習ったことを再確認しただけの、3ヶ月だったよ」

 そういうことだ。
 それに加えて、前世の知識もある。
 四則計算で躓くことはまずないし、語学系は異世界翻訳さんの仕事の範囲内。
 魔法世界の理科も、特にこれといって問題はない。
 ファンタジー要素が楽しくて、するすると身に付いた気がする。
 世界史は……うん、異世界語翻訳さんと独自の勉強法で隙は無いと思いたい。

 適当に80年前の国境の戦争で敵軍の大将が病気になった隙をついた戦いって思い浮かべると、エリウッド岬の奇襲という風に言葉が思い浮かぶのだ。
 まさに逆引き辞典だね。
 同様にオスワルドの救出劇って言葉を見ると、152年前の国境侵犯戦争でオスワルド伯爵が孤立した際にといった形で内容が思い浮かぶ。
 言葉に対する鑑定ここに極まれるけど、翻訳の範疇らしい。
 ザルすぎるよ、このスキル。
 まあ、便利だけどね。

 というわけで、本当に余裕だったりする。
 
「おはよう」
「おはようございます、ブライト先生」

 そんな感じでカーラ達と話をしていたら、担任のブライト先生が教室に入ってきた。
 朝のホームルームの時間だね。

「さて、諸君たちがこれまでどれだけ真面目に授業を受けてきたか、今日のテストでぜひ証明をしてもらいたい」

 そして話題はテストのことに。
 そこでチラリと私を見るのは、ちょっと失礼だと思うよ先生?
 確かに授業態度はあまりよくないかもしれないけど。
 ついつい別のことを考えて、上の空になっちゃうことが多いし。
 ファンタジーな授業って、妄想も捗るもんね。

「授業もちゃんと聞いていないんだから、ホームルームの俺の話くらいは真面目に聞け」

 あっ、別のことに思いを馳せていたら、先生に怒られてしまった。
 こういうところだろう。
 でもまあ、テストの結果を見てから怒ってもらおう。
 怒れるものならね。

「なぜ、レオハート嬢はいつもそう挑戦的な不敵な笑みを浮かべて、俺を見るんだ」

 先生が何やらぼやいているけど。

「ふふ、先生が皮肉の利いた挑戦状を送り付けてくるので、受けて立っているだけですのよ」
「挑戦状ではなく、自ら自身の問題点に気付いてもらうための指導の一環なんだけどな」
「私に、問題など何もございませんので」

 あっ、盛大に溜息を吐かれてしまった。
 そして、テストの注意事項が説明されて、10分の休憩の後にテストが開始されるらしい。
 ふふ、腕が鳴る。

***
「今日の日替わりは蛇肉か」
「何やら、大量の蛇肉が王都と周辺領地に納品されたみたいで、価格が暴落しているみたいですよ」
「へぇ……蛇祭りでもあったのかな?」

 食堂で日替わり定食を頼んだら、蛇肉のシチューが出てきた。
 それと蛇肉のベーコンサラダっぽいのも。
 あと焼き蛇肉。
 食感といい味といい、鶏肉っぽいけどさ。
 肉推しが過ぎる内容だね。
 誰だ、大量の蛇を市場に流した奴は!

「こんな時でも、お二方とも美味しそうに食事をされるのですね」

 一緒のテーブルのカーラは少し暗い。
 テストの手応えがいまいちだったのだろう。
 テレサとフローラはあまり気にした様子は無さそうだ。
 まあ、将来は騎士希望ということもあるのだろう。
 勉強はさほど出来なくても良いと思ってるのかもしれない。
 駄目だと思うけど。

「騎士であれば護衛対象との会話で、知識を求められることもあると思いますよ」

 と2人にアドバイスしたら、青い顔をしていた。 
 本当に腕っぷしだけで、どうにかしようと考えていたのか。

「簡単な計算や、地理や歴史が分からないと任務に支障をきたすこともあるでしょうし」

 さらに、落ち込んでしまった。
 今更、カーラに教科書を見せてもらっても、手遅れだと思う。
 午後からの2教科で、習熟度テストは終わるしね。

 食事中に本を読むのはマナーとしてどうなのかなと思うけども、目を瞑ろう。
 気持ちは分からなくもない。

「レイチェルは、問題なさそうね」
「はぁ……姉と姉が用意した家庭教師の方のお陰で、大体のことは覚えてますし」
「そうよね。私も、お兄様や家庭教師の方の授業で学んだことばかりで、授業が退屈でどうしようかと思ったよ」
「エルザ様は、割と楽しそうでしたよね?」

 うーん……カーラは集中力が散漫なのかもしれない。
 教科書とにらめっこしながら、こっちの会話に口を挟んでくるなんて。
 マルチタスクって感じの子には、どう見ても見えないもんね。
 それだと、苦労しそうだ。

 とりあえずレイチェルと話をしながら、周囲の様子を伺う。
 あまり話し声が聞こえないし、話しているのはテストに対して余裕な者とテストを気にしない者だけだろうし。 
 この日ばかりは、身分至上主義派閥の子たちも大人しいね。
 まあ、食堂で毎度毎度騒ぎを起こされても、本当に迷惑だ。
 
 他には先のテストの答えについて、話し合ってるグループもいる。

「えっ? あれって、13じゃなかったの?」
「あれぇ? 俺も13だと思ってた」
「えっ? じゃあ、俺が違う?」
「でも、グスタフも1291って言ってたぞ」

 3年生の先輩方のグループだけど、答え合わせの結果が13と1291って数字が違いすぎるんだけど。
 なに、その問題。
 気になりすぎる。
 見知らぬ先輩方に、いきなり声を掛けるわけにもいかないもんね。
 二年後の楽しみに取っておこう。
 二年後も、この内容を覚えていたら。
 
 まあ、あくまで習熟度テストであって、点数を競うようなものではないし。
 一定水準を満たしていたら、オッケーって内容のテストだ。
 ちなみにこの一定水準を満たしていないと……休み返上で補習が行われるわけだ。
 一週間単位で習熟度テストを受けなおして、基準を満たしたら順次休暇に入れる。
 ソフィは大丈夫だったかな。
 少し心配になってきた。
 彼女とは長期休暇で、是非遊びたいと思っているし。
 
「おかわりもらっても良いですか?}
「よく食べるねー」
「今日の蛇肉は、美味しいですから」

 周囲の様子を伺っていたら、レイチェルが食堂の給仕の方におかわりをお願いしていた。
 どうやら蛇肉が気に入ったみたいだ。
 ちょっと嬉しい。
 間違いなく、私が納品したものだろうし。
 このポイズンボアフィーバーの王都で、他の蛇肉を出すことは無いはず。

 それから、それぞれがエールを送り合って午後のテスト戦場へと向かった。
 私とレイチェルは、わりとヘラヘラした感じだったけど。
 死角なしと思ってるし、油断してても満点取れるくらいの自信はある。
 そうやって嘗めてても、足元を掬われないくらいにはイージーモードだった。

***
「解せぬ」

 一週間後、テストの結果を伝えるときにブライト先生が、渋い顔でそう呟きながら答案を返してくれた。
 当然の如く、全科目満点だった。
 ズルかもしれないけど、テストにスキルを使ってはいけないってルールは……あったね。
 カンニング防止のために、一部のスキルは使用できないように見張られてるんだった。
 けど異世界翻訳さんはスキルっていうより、才能だからね。
 仕方ないよね。
 そもそもまったくの別物だから、監視に引っかかることもないし。

 そして、テストの上位5名は発表されるらしい。
 私とレイチェルが全教科満点で同率1位だった。
 うーむ……レイチェルさん、やりおる。

 3位はフィフスとかっていう、良く知らない男の子だった。
 5位じゃないんかいと、突っ込みたくなったけど顔も知らないから仕方ない。

 ちなみに5位はテレサだった。
 本人に話を聞いたら、授業で聞いたことしかテストに出なかったから簡単だよね? って言ってたけど。
 それを横で聞いていたカーラが、悔しそうにハンカチを噛んでいた。
 話をするに、テレサは一度聞いたことはしばらく忘れないらしい。
 意識したら、ずっと覚えていることも出来るとか。
 うん……ガチの天才だった。
 なんで、騎士の道を目指したんだろう……

「剣技も一度見たら覚えて再現できるから、簡単だなって」

 ……思わぬ強敵だ。
 この子鍛えたら、最強のライバルが生まれそうな予感がしてきた。
 自分の強敵ともを育てるのも、面白そう。

「わ……私だけ、補習ですの?」

 カーラが私たちを見て、切なそうな表情を浮かべている。
 そして、その肩に手を置く少女が一人。

「一緒に、頑張りましょう」

 フローラ……名前は勉強できそうなのに。
 
 ちなみに、カーラは算数と理科が基準を満たしていなかったらしい。
 そしてフローラは、理科だけらしい。
 カーラ……頑張って。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

婚約破棄にも寝過ごした

シアノ
恋愛
 悪役令嬢なんて面倒くさい。  とにかくひたすら寝ていたい。  三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。  そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。  それって──最高じゃない?  ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい! 10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。 これで完結となります。ありがとうございました!

三回も婚約破棄された小リス令嬢は黒豹騎士に睨まれる~実は溺愛されてるようですが怖すぎて気づきません~

鳥花風星
恋愛
常に何かを食べていなければ魔力が枯渇してしまい命も危うい令嬢ヴィオラ。小柄でいつも両頬に食べ物を詰めこみモグモグと食べてばかりいるのでついたあだ名が「小リス令嬢」だった。 大食いのせいで三度も婚約破棄されてしまい家族にも疎まれるヴィオラは、ひょんなことからとある騎士に縁談を申し込まれる。 見た目は申し分ないのに全身黒づくめの服装でいつも無表情。手足が長く戦いの際にとても俊敏なことからついたあだ名が「黒豹騎士」だ。 黒豹に睨まれ怯える小リスだったが、どうやら睨まれているわけではないようで…? 対照的な二人が距離を縮めていくハッピーエンドストーリー。

私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!

杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。 彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。 さあ、私どうしよう?  とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。 小説家になろう、カクヨムにも投稿中。

処理中です...