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第二章:王都学園編~初年度前期~

閑話:2ー2カーラの悩み

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 私の名前は、カーラ。
 カーラ・フォン・グレイブホルン。
 ステージア王国の名門、グレイブホルン伯爵家の次女です。
 我が家は、領地を持たない宮廷貴族の中でも中堅に位置する名家なのです。
 地方住みの田舎領主貴族とは、格が違うのです。

 エルザ様には、公務員の中間管理職ね! 私の個人的な経験と偏見ですが、幸せな家庭が築きやすくて家族サービスをきちんとしてくれるお父様が多い素晴らしい職場ですね!
 夫婦揃って働いていると、完全勝ち組で老後の心配が無い感じの。

 と言われました。
 なんでしょう……庶民派の勝ち組と言われたような気がして、微妙な気持ちになりました。

「ごめんごめん、ここ王都だった。省庁勤めの中間管理職かぁ。凄いねぇ」

 と慌てて言い直してました。
 勝ち組エリートに格上げされた印象でしたが……なんでしょう。
 なんというか、上手く言い表せれないのですが。
 端的に言って、何かモヤっとします。

 確かに税収がないので、国から支給される年金暮らしですからあまり環境に左右されませんし。
 収支の予測が立てやすいので、身を崩すこともないですからね。

 そのエルザ様ですが……
 そう、エルザ様はとても気さくで、優しくて……おかしな方です。
 そして、とてもじゃないですが操れるような方でもありませんでした。

 私の家はスペアステージアというか、ガシェット侯爵家と縁続きなのです。
 ですので、ガシェット侯爵家と同じ身分至上主義派閥に属しております。
 高位貴族が国の主導権を握り、無能な下級層を管理することで国をより発展させられるという思想をもった家なのです。
 
 平民や下級貴族に気を遣ういまの王族に、不満を持つ派閥ですね。
 
「それ、第一王子の婚約者にぶっちゃけちゃっていいやつなの? そもそも、その高位貴族とやらも王族が身分を保証してるだけであって、反抗的だと攻め滅ぼして接収されちゃうと思うんだけど? 宮廷貴族なんか地方の代官に左遷させられて終わりじゃない?」

 私の言葉に、エルザ様が呆れた表情を浮かべております。
 能天気で破天荒な言動が目立ち、そちらにばかり目がいってしまいますが地頭はいいのです。
 この方は。

「とはいえ、私たちの派閥の土地を持つ貴族たちも、元は独立した国や部族の長達ですよ? しかも、北東の主要貴族はこちら側です。力を合わせれば、無視できない損害を被るのは王族側ですよ?」
「いやいや、国を乗っ取られるくらいなら、そりゃ損害覚悟で潰しにいくよ……というか、主要貴族が集まったところで、身分至上主義派閥に虐げられてきた下位貴族たちが力を合わせて抵抗するでしょうし。領民も、こちらから煽れば簡単に矛先を向けると思う。そして、農民兵等の一般兵がいない貴族の私兵なんて、簡単に蹂躙できるくらいの軍事力はあるよ? うちも、レオブラッド家も、ニシェリア家も。農民による反乱。周辺領地による包囲網。そんな混乱状況で連携が取れるとでも?」

 確かに……連合軍という形は難しいですね。

「南西の主要貴族もこちら側だし、そもそも反乱軍の扱いだから討伐した領軍の領主にはその土地を与えて陞爵するとでもいえば」
「餌に群がる蟻の如く、襲い掛かってくるでしょうね」
「そういうこと」

 これ、無理ですね。

「宮廷貴族は、そのまま王城の騎士達に身柄を拘束されて終わるでしょうし……なんで、そんな勝ち目のない賭けに出ようとしたのやら」
「私たちは高貴な身分ですから、命じれば下々のものは従うべきかと……皆、考えてますね」
「ばっかじゃないの? じゃあ、身分至上主義派は王命どころか、私の命令にも従うべきよね? 呆れて何も言えないよ」

 耳が痛いですね。
 私も、エルザ様と出会うまでは、そっち側でしたから。
 従わなければ、何をしても良いと思ってましたし。


「身分至上主義を謳っておきながら、王族や私に敵意を向けるってそもそも派閥の名前が破綻しているというか……そして、自分たちの身分は保証されると思ってるのが馬鹿すぎる」 

 いやいや!
 王族は別です。
 ちゃんと、尊重してますよ!
 ですので、表向きは王族に服従を誓っているのです。
 身分至上主義派閥という派閥名なので、最高位である王族を雲上人として扱う姿勢を見せております。
 うまくいってませんが。

「でしょうね。おだてられて現場の指揮権を全て奪われるような無能が、王になれるわけがないですし。王族を補佐する貴族の方も、代々の信用を重ねてきた優秀な方が多いのは当然でしょう……というか、派閥名が不穏過ぎて、はなから疑われてると思うけど」

 エルザ様の指摘に、逆にこちらが溜息を吐くことになりました。
 そう……この派閥、派閥外の貴族からの評判が凄く悪いのです。
 参加していない高位貴族からも。
 ですので、王の信認を得られていないのが現状なのです。

「それに、後ろにスペアステージア公爵家がいるってバレてたら、普通に警戒されると思うよ? いつかは、こういう日がくると初代陛下の頃から予想はされていただろうし」

 権力に目が眩んだ人たちには、分からないでしょうね。
 現に、私もエルザ様と懇意にさせてもらうまで、分かってなかったですし。
 上手くいけば、うちが大きくなるとしか聞かされてなかったです。
 領地も貰えるかもと……父はもしそうなったら湖のほとりに大きな屋敷でも立ててと、何やら具体的な妄想をしておりました。
 王都から外に出られない生活に、だいぶ鬱憤が溜まっている様子でした。

「仮に事がなったとして、スペアステージア家が現王族のあとを継いで国が回るとは思えないですね。領地もうちの半分程度で、それを身内だけで回しているような経験の乏しい家に」

 エルザ様が辛辣なことを言います。
 だからこそ、私たち高位貴族がスペアステージア家の代理として……

「いままで、王族の予備として鬱々としていた家が、ようやく表舞台に出て傀儡に収まるとでも? 好き勝手やるわよ? 自分たちが今までできなかったことを。机上の空論で描いた、裏付けもなにもない独善的な政策に、勝手にイメージした王族の優雅な生活。反対したら、敵対派閥として一方的に断罪されるでしょうね」

 うーん……仮にも、公爵家の当主がそこまで愚かでしょうか?

「愚かだから、特に大きな問題もないこの国で、王族に対して下剋上みたいなアホなことを考えるんでしょう?」
 
 うーん……本気で、まずい気がしてきた。
 この派閥に残るのが。

 いや、そもそもなんでこんな話をエルザ様としているかというと。
 根掘り葉掘り聞かれたからで。
 今の私の立場も、かなり危ういからです。

 そもそもが、エルザ様に近づいたのはレオハート家をこちらの派閥に引き込むためです。
 来年には、スペアステージア公爵のお孫様が入学されます。
 エルザ様とそのお孫様を結び付けて、二大公爵家が手を組めばより確実に王権簒奪が行えると考えたからです。

「えっと……我が家は正式な王族だから、分家でもレオハート家の中の嫡流には王位継承権はあるよ? 本家の血が途絶えたらとかじゃなくて、ちゃんとした継承権が。しかも、今のおじいさまは正真正銘の本家筋だし。たぶん、おじいさまが王家に戻ることになるけど、その後は本筋の子供がいたらそっちに、そうじゃなければ……お父様が……国王になる……だ……け。そうなるのか……うん、それはそれで国が傾きそうだから、おじいさまが全力で阻止するでしょうね」

 レオハート伯爵に対する信用の無さが気になりますが、そうですか……
 仮にスペアステージアが王家を滅ぼしても、正統な後継者はレオハートと……
 もともとスペアステージア家とレオハート家には縁が無かったようです。

 うちは宮廷貴族でも中堅なのです。
 ですので、上の方々が当然存在します。
 そして、その方々に言われたのです。
 エルザ様を引き込めと。
 頭が残念だから、簡単だとも……

 騙されました。
 エルザ様は身分を気にされません。
 はなっから、無理筋の戦いに挑まされたようなものです。

 頭がいいとか、悪いとかの問題じゃないのです。
 それでも彼女を引き込まないと、お父様にご迷惑が掛かります。
 そして、頑張った結果……私は、クラスで浮いてしまいました。
 周りの子たちも離れていきました。

「あの子だけ、次期王妃様に取り入っていい気な物ね」
「裏切り者にかける情けはないわ」
「自分さえよければ、それでいいのよ。汚い子」

 と、友達だった子たちまで、冷たくしてきます。
 しかし、辛いと思う暇もないくらいに、エルザ様に引きずり回されています。
 具体的には、私がクラスで浮き始めたくらいから積極的に声を掛けて気にしてくださるようになりました。
 孤立しないようにと、クリント様を巻き込んで他の子たちとも縁を繋いでくれました。

 正直、お父様にお話しするべきだとは思うのですが、私がエルザ様と仲良くしていることを知ったお父様は浮かれまくってます。
 これで、派閥内の立場が強くなると、勘違いされています。
 実際は、我がグレイブホルン家は崖っぷちなのです。

 こうなったら、エルザ様にとことん取り入るしかないでしょう。
 
 くしくも最初に身分至上主義派閥を裏切って抜けた、ズールアーク家の子と手を組むことになるとは思いませんでした。
 ですが、今は立場は似たようなものですしね。

 ズールアーク家は、長女のミッシェル様の進言で派閥と距離を置き始めた家です。
 色々な実績を上げて、派閥を抜けた後に王城内での足場固めを堅実に進めています。
 今となっては、要職に任じられてそれなりの立場を得た家です。
 他の家は、それを認めることができずに乏すことしかしませんが。

 現実から目を背けているのでしょう。
 事が成ればいいですが、そうでなければ危険視され多くの家が閑職へ追いやられるでしょうね。
 そして、事が成る可能性はかなり低そうです。

 エルザ様を見て分かりました。
 王族の守護者と呼ばれるレオハートの異常性が。

 まともな高位貴族は、みなレオハート家に気を遣っております。
 それもそうでしょう……

 レオハート公爵家、ニシェリア侯爵家、レオブラッド辺境伯家。
 この家の方々はみんな、一騎当千の猛者揃いです。
 そして、領軍の精強さは他国にまで名を馳せらせているのです。
 武力で来られたら、東側はとてもじゃないですが抵抗できないでしょう。

 そして、この3家はとても仲が良いのです。
 レオハート公爵と、エルザ様を中心に。

 この2人……嘘か誠か、国内での個人の戦闘力での上位2名とのこと。
 国内最強の騎士であるレオハート公。
 その彼が手ずから鍛え上げた令嬢が、エルザ様。

 剣術の講義を受けている男子生徒からも、話は聞かされています。
 エルザ様と組手を出来るのは、ダリウス殿下とクリント様とレイチェル嬢だけだと。
 しかもダリウス殿下とレイチェル嬢には、手加減をしたうえで指導するほどの腕前だと。

 普段のエルザ様を見ていると、とてもそうは見えませんが。
 いまも、レイチェル嬢にせっせと食べ物を与えています。
 時折、叔母様を思い出してしまうような言動もありますが、面倒見はかなり良いです。
 それに正義感も強く、間違ったことは許さない姿勢も素晴らしいです。
 それを貫き通すだけの力もお持ちです。
 戦力も権力も。

 戦力……そういえば、お父様が王城の騎士からエルザ様は一人で竜を狩れるなんて話を聞いて、大笑いしてましたね。
 そんな人間がいるわけないと。

 そのことをエルザ様に言った時に、エルザ様は照れた様子で否定はされませんでした。

 ただそのあとクリント様に呼び出され、真顔で先の話はあくまで噂話に留めておくようにと釘を刺されました。
 あまりに真剣にエルザ様を心配される様子を見て、あっ……実話なんだと思ってしまいました。

 竜より強い人間って……大隊レベルってことじゃないですか。
 下手な領地なら、領軍を集めても太刀打ちできない相手ですよね?

 冒険者なら英雄クラスとか。
 もしくは本来なら集団で行う大規模殲滅魔法を、個人で使える伝説の賢者とか……そういったレベルじゃないですか。
 たかだか学園の一クラスの中の一部の派閥よりも、よっぽど心強いですけど。
 
 私、最初の印象たぶん最悪でしたけど、大丈夫でしょうか?
 大丈夫ですよね?
 底抜けに優しそうな方ですし……いま、梯子を外されたら詰む……
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