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第二章:王都学園編~初年度前期~
第4話:王子様来襲
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「お嬢様、殿下がお見えです」
朝早くに起こされて何事かと思えば、ダリウスが来たらしい。
女性は準備に時間が掛かるんだから、アポくらいとって来きてもらいたい。
いまは、王都レオハート邸の執事長のロンが対応してくれているとのことだったので、しっかりと準備をしてから向かおう。
ハルナにお願いして、髪をセットしてもらって薄く化粧もしてもらう。
服は……普段着でいいよね。
そんなに気合を入れて会う相手でもないですし。
「普通なら、全力でおめかしをして会うべき方ですよ」
「私は普通じゃないから、別に良いってことね」
ハルナの小言を聞き流しながら、楽な格好で応接室に向かう。
そこにはダリウスと、彼の従者が一人待っていた。
従者の方も、ただの世話係じゃなくて護衛を兼ねているような身体つき。
目つきも鋭いけど、婚約者の家でそこまで警戒心を露わにするのは失礼じゃないかな?
それにしても、この従者……うちの、ロンと微妙に被ってる。
髪型が。
ロンは白髪だけど、肩まである髪を全て後ろに流して一本にまとめて括っている。
この従者は赤髪だけど、まったく同じ髪型だ。
おでこの位置は……どっちも、遺伝子に恵まれた毛髪量だね。
「久しいな、エリー。入学おめでとう」
「あら、ありがとうございます」
ダリウスが立ち上がって花束を渡してくれた。
その後、従者の男性から小さな箱を受け取って、それも渡してくれる。
純粋にお祝いに来てくれたのかな?
それにしても、手ぶらじゃないとか。
「花は私が選んだものを、侍女にうちの庭から摘んでもらったものだ。保存の魔法も掛けてもらっているから、花瓶でもひと月は持つと思う。こっちの小箱は、後で開けてくれ」
「分かりました。楽しみですわ」
なんだろう?
音がしないから、何かに包まれているみたいだ。
指輪っぽいけど、この箱で指輪だったら当たり前すぎて。
違うものだったらいいな。
「あまり、ハードルをあげないで見てもらえると助かるな。何やら、深読みしてそうで怖いよ」
「あらやだ。ホホホ、申し訳ありません」
しかし自分で選んでくれたのか。
最初の頃は、明らかに王妃殿下のセンスっぽい贈り物ばっかりだったからね。
手ぶらで来ようとして、慌てて渡されたのがよく分かるチョイスばっかりだった。
ダリウスの綺麗な緑色の目が不安げに揺れているので、笑顔で胡麻化しておこう。
なかなかポイントの高いことをしてくれる。
「こちらのお菓子も、殿下から頂いたものですよ」
侍女がお茶と一緒にお菓子を出してくれたのを見て、ロンが教えてくれた。
どうした、ダリウス殿下。
なんか、行動が王子様っぽいぞ。
やはり、男子三日会わざれば刮目して見よというのは本当らしい。
違う意味でも……体つきがガッシリしてきてて一回り大きくなったように感じる。
背も伸びたのだろうけど、肩や背中回りの筋肉がしっかりとしてきたのが大きいのかな?
レベルでポテンシャルが上がるから、筋トレしなくても強くはなれるけど。
筋トレも合わせると、効果は絶大だもんね。
同じレベル同士だと、より鍛えた方かより賢い方が強いし。
顔や手に小さな傷がいくつかあるのは、わざとだな。
私に鍛錬も頑張ってますアピールをするための。
あの程度の小傷、初級の回復魔法で後傷なく消せるからね。
あざと可愛いところも、伸ばしているのかな?
「なんだ? ニマニマとこっちを見て来て」
「別にー。殿下も可愛いところがあるなと思って」
「なぜその方は時たま私を子ども扱いするような口調になるのだ? 私の方が年上だと言うのに」
おっと、無意識でこういった口調で話しかけてしまうことが、これまでも多々あったけど。
最初の頃は慌てていた周囲も、今となってはまたか程度にしか思わなくなったようだ。
ダリウスも嫌がっている様子はないし、気にしないようにしよう。
おっと、ダリウスが咳払いして真剣な顔つきに変わった。
何やら、他にも大事な話があるのかな?
「そろそろ本題に入ろうか。今日は入学祝いのついでにソフィーの件で、相談と報告に来させてもらった」
ほうほう……それは、どっちがついでなのかな?
そういうのは、日を分けないとダメだぞ?
祝い事のついでに用事を片付ける、それも婚約者相手にするなんて失礼じゃない?
その用事が、他の女性に対する相談と来た。
これはほっぺたを、思いっきりひっぱたかれても仕方ないぞ?
婚約者相手にこんな様子じゃ、きっとミレニア王妃殿下も頭を抱えていることだろう。
それとも、国王陛下と一緒に腹でも抱えているのかな?
成長しているようで、微妙にやらかすなぁ。
「お互いに忙しくて、会える日が少ないのだから仕方があるまい」
「ふーん」
どうやら、私の視線の意図を読み取ってくれたらしい。
慌てた様子で、言い訳を始めたけど。
男らしくない。
「その……すまぬ。気が利かない男で」
最初から素直に謝ればいいのに。
別に怒ってないし、気にもしてないけど。
「いえ、冗談ですよ。ソフィーは私にとっても大事な子ですから」
「そうか……そうなのだな。はぁ……私は、いつになったらその方の大事な人になれるのだろう」
「いまも、大事ですよ」
ダリウスの言葉に真顔で応えたのに、ジトっとした目で見られてしまった。
「その方の大事は、近い年齢や年下のお気に入りの友人に向けるそれではないか」
「あら、殿下も私のお気に入りに入っている自覚はおありなのですね。なら、良いじゃないですか」
「そのような態度でよくも先ほどの私の話の持っていき方に、非難めいた視線を送ってこられたものだな」
小さいことを気にしちゃだめですよ。
それよりもソフィアの話とは、いったいなんなのだろう。
「とりあえず、彼女を王都の学校に招聘することになったのは、エリーも知ってるな?」
「存じておりますよ。貴重な聖属性の適正者ですから」
「目の前に完全なる全属性持ちという稀有な存在がいるが、一般的には重宝される才能だ」
聖属性……色々と厄介なことの方が多いみたいだ。
王族にとっては。
教会関係者に渡ったりすると、それこそ神輿として担ぎ上げられて大仰なことになるらしいし。
特に聖女がいる期間というのは、寄進という名の集りも大胆になってくるとか。
あとは貴族の手に渡ると、政治にも悪用されたり。
ただ、国が治世のために利用することもあると。
なぜそのようなことになるかというと、聖属性は破邪と回復に超特化しているからだ。
上位回復系統には、欠損を治すものもあるとか。
それから、聖域結界を王都がすっぽり収まる規模で、展開したり。
他にも見る人の気持ちを落ち着かせる存在というのも。
いるだけで副交感神経を優位にさせる女の子とか、無敵すぎん?
是非、一家に一人は欲しいね。
あー……でも、確かに居たなぁ……居た居た!
居たわ!
前の世界の記憶でも居た!
笑っているだけで、周りが幸せな気持ちになれる子。
特別美人というわけでも、スタイルが良いわけでもない。
いや、確かに可愛いんだけど。
なんというか、その子が笑うとすべてが許せるような子。
笑ったところでアイドルのように整った可愛らしさもなく十人並みの容姿なのに、誰よりも可愛く感じられる子。
その笑顔を独り占めしたい男子が少なからずいたなぁ。
大人しいうえに無垢な笑みだから、陽キャどもでもチャラいのは手が出せないでいた。
密かに思っていても、自分みたいの付き合っちゃダメだって自ら予防線張らせる感じの子。
うん、あれは聖女と呼ばれてもしっくりくる。
「もう良いか?」
「えっ?」
「いや、また何か色々と考え込んでいたようだから」
ああ、回顧という名の妄想タイムの間、お茶を飲みながらゆっくりと待っていてくれたのか。
とりあえず聖属性を持つ美少女の利用価値が高いのは、聖属性の性質を考えただけでもよく分かる。
教会に属したら宗教的な意味合いでの聖女。
国に属したら、国が認定する職業的な役割での聖女。
面倒だなぁ……っと、ダリウスに返事をしないと。
「申し訳ありません。お話の最中によそ事を考えてしまいまして」
「いや、その方が考え込むと、表情がコロコロ変わっておもし……可愛らしいからな。見ていて、飽きないぞ。気にするな、表情豊かなのは好ましくもある」
おもしろいと言いかけたところで、従者の彼が咳ばらいをして軌道修正していたけど。
手遅れだよ。
そうか……妄想中は、表情にも出るのか。
気を付けないと。
「それで、ソフィを学園に入学させることは知ってますが、それが何か?」
「ああ、ギールラウ子爵の後妻の娘も入ってくるらしくてな」
おおう……
それはまた、なんというか。
「その学園行事で子爵とソフィアが鉢合わせるのもあまり宜しくないし、腹違いの姉妹に感づかれるのも拙いと思う」
「でももう、決まったことですし。どうにもできませんよね? 子爵家を取り潰しますか?」
「そしたら、ソフィアに返すものまで無くなるであろう。子爵家の失点ではあるが、他所からの入り婿がやらかしただけで、正統な血族が失態をおかしたわけではないからな」
へえ、存外にソフィアのことを真剣に考えてくれているようだ。
「その方が気に入っておる相手だからな。できれば貴族に戻してやった方が、その方も少しでも気安い仲になれるであろう?」
「あら、私のためでもあったのですか?」
「まあ……な」
意外にも私に真剣に向き合ってくれていたようだ。
惚れっぽくて、可愛い女の子ならすぐになびきそうだとか考えてて申し訳ありません。
てっきり、ソフィアに気移りし始めたかと思ってました。
「とりあえず、王立高等学院で貴族との顔つなぎをしたうえで、味方を増やす必要がある……学園長から、彼女が特別な存在であるということはアピールしてもらうが……」
「それでも、受け入れられないでしょうね。とくに、身分至上主義派閥がある今の状況では」
「そういうことだ……だから、それに対する対応と対策を相談に来たのだ」
なるほど。
学園内での彼女の立場を、どう守っていくかということか。
ひいては彼女自身をどう守ってあげるか。
王族としては取り込むとまではいかなくとも、他所の勢力には渡したくない存在のようだし。
視界の端でハルナが複雑そうな表情を浮かべているのが気になるけど。
「最初は私がこまめに声を掛けつつ、側近候補や学友等を紹介しようと思ったが……」
「女性陣からは、嫌われるでしょうね。平民が殿下やその周囲の高位貴族に囲まれて過ごすのは」
「だな……いや、予定では他に当てが無ければそのつもりだ。いくら嫌おうとも、私や侯爵家の子息が気に掛ける存在に、おいそれと危害を加えるような愚かな者はいないと信じたい」
「希望的観測が過ぎますね」
「辛辣だな。ただ、時には強引な手を取ることになるかもしれない」
ダリウス殿下……それは、悪手中の悪手です。
どう考えても、女性全員を敵に回すことになってソフィが可哀そうです。
何故かハルナが合点がいったような表情を浮かべている。
疑問が解消されて、スッキリしたような顔だ。
なんだろう?
本当に、たまにハルナはよく分からない子になる。
「そこで、その方も居合わせたのだから、そうならないように他の対策を考えるのを手伝ってもらおうと思ってな。女性の方が何か妙案を思い浮かぶのではと期待もしている」
あっ、ハルナがえっ? て表情でダリウスを二度見していた。
そんなに意外な提案じゃないと思うんだけど?
「対策を考えるのを手伝うんじゃなくて、私が対策になれば良いじゃないですか」
「はっ?」
「私……ソフィと個人的にお付き合いしてますので」
「はっ?」
ダリウスが混乱している。
ああ、そういえば殿下には言ってなかった。
王都からの帰りに、毎回彼女の村に寄って二泊してることを。
もちろん彼女の家じゃなくて、うちが出資して出した宿の客室でだけど。
ただそこを経営しているのは、ソフィアの今の両親だけどね。
すなわち、彼女の家でもあるわけで……あら不思議、宿に泊まったつもりが、何故か友達の家にお泊りに状態というか。
彼女を客室に呼んで、ガールズトークに華を咲かせたり。
一緒に食堂で食事をしたり。
ご両親には接客の範疇ということにしてもらって、一緒に過ごさせてもらってたのだ。
「ですので、学園では全面的に私がサポートしますわ!」
私の宣言に、なぜかハルナが口をポカンと開けてティーポットを落としそうになっていた。
「まさか、殿下じゃなくてお嬢様……これがいわゆる、裏ルートですか? ユ……いや、所詮夢は夢だったってことですか?」
それから意味の分からないことを小声で呟きながら、フラフラと消えていった。
いや、お世話係さん?
どこ行くの?
朝早くに起こされて何事かと思えば、ダリウスが来たらしい。
女性は準備に時間が掛かるんだから、アポくらいとって来きてもらいたい。
いまは、王都レオハート邸の執事長のロンが対応してくれているとのことだったので、しっかりと準備をしてから向かおう。
ハルナにお願いして、髪をセットしてもらって薄く化粧もしてもらう。
服は……普段着でいいよね。
そんなに気合を入れて会う相手でもないですし。
「普通なら、全力でおめかしをして会うべき方ですよ」
「私は普通じゃないから、別に良いってことね」
ハルナの小言を聞き流しながら、楽な格好で応接室に向かう。
そこにはダリウスと、彼の従者が一人待っていた。
従者の方も、ただの世話係じゃなくて護衛を兼ねているような身体つき。
目つきも鋭いけど、婚約者の家でそこまで警戒心を露わにするのは失礼じゃないかな?
それにしても、この従者……うちの、ロンと微妙に被ってる。
髪型が。
ロンは白髪だけど、肩まである髪を全て後ろに流して一本にまとめて括っている。
この従者は赤髪だけど、まったく同じ髪型だ。
おでこの位置は……どっちも、遺伝子に恵まれた毛髪量だね。
「久しいな、エリー。入学おめでとう」
「あら、ありがとうございます」
ダリウスが立ち上がって花束を渡してくれた。
その後、従者の男性から小さな箱を受け取って、それも渡してくれる。
純粋にお祝いに来てくれたのかな?
それにしても、手ぶらじゃないとか。
「花は私が選んだものを、侍女にうちの庭から摘んでもらったものだ。保存の魔法も掛けてもらっているから、花瓶でもひと月は持つと思う。こっちの小箱は、後で開けてくれ」
「分かりました。楽しみですわ」
なんだろう?
音がしないから、何かに包まれているみたいだ。
指輪っぽいけど、この箱で指輪だったら当たり前すぎて。
違うものだったらいいな。
「あまり、ハードルをあげないで見てもらえると助かるな。何やら、深読みしてそうで怖いよ」
「あらやだ。ホホホ、申し訳ありません」
しかし自分で選んでくれたのか。
最初の頃は、明らかに王妃殿下のセンスっぽい贈り物ばっかりだったからね。
手ぶらで来ようとして、慌てて渡されたのがよく分かるチョイスばっかりだった。
ダリウスの綺麗な緑色の目が不安げに揺れているので、笑顔で胡麻化しておこう。
なかなかポイントの高いことをしてくれる。
「こちらのお菓子も、殿下から頂いたものですよ」
侍女がお茶と一緒にお菓子を出してくれたのを見て、ロンが教えてくれた。
どうした、ダリウス殿下。
なんか、行動が王子様っぽいぞ。
やはり、男子三日会わざれば刮目して見よというのは本当らしい。
違う意味でも……体つきがガッシリしてきてて一回り大きくなったように感じる。
背も伸びたのだろうけど、肩や背中回りの筋肉がしっかりとしてきたのが大きいのかな?
レベルでポテンシャルが上がるから、筋トレしなくても強くはなれるけど。
筋トレも合わせると、効果は絶大だもんね。
同じレベル同士だと、より鍛えた方かより賢い方が強いし。
顔や手に小さな傷がいくつかあるのは、わざとだな。
私に鍛錬も頑張ってますアピールをするための。
あの程度の小傷、初級の回復魔法で後傷なく消せるからね。
あざと可愛いところも、伸ばしているのかな?
「なんだ? ニマニマとこっちを見て来て」
「別にー。殿下も可愛いところがあるなと思って」
「なぜその方は時たま私を子ども扱いするような口調になるのだ? 私の方が年上だと言うのに」
おっと、無意識でこういった口調で話しかけてしまうことが、これまでも多々あったけど。
最初の頃は慌てていた周囲も、今となってはまたか程度にしか思わなくなったようだ。
ダリウスも嫌がっている様子はないし、気にしないようにしよう。
おっと、ダリウスが咳払いして真剣な顔つきに変わった。
何やら、他にも大事な話があるのかな?
「そろそろ本題に入ろうか。今日は入学祝いのついでにソフィーの件で、相談と報告に来させてもらった」
ほうほう……それは、どっちがついでなのかな?
そういうのは、日を分けないとダメだぞ?
祝い事のついでに用事を片付ける、それも婚約者相手にするなんて失礼じゃない?
その用事が、他の女性に対する相談と来た。
これはほっぺたを、思いっきりひっぱたかれても仕方ないぞ?
婚約者相手にこんな様子じゃ、きっとミレニア王妃殿下も頭を抱えていることだろう。
それとも、国王陛下と一緒に腹でも抱えているのかな?
成長しているようで、微妙にやらかすなぁ。
「お互いに忙しくて、会える日が少ないのだから仕方があるまい」
「ふーん」
どうやら、私の視線の意図を読み取ってくれたらしい。
慌てた様子で、言い訳を始めたけど。
男らしくない。
「その……すまぬ。気が利かない男で」
最初から素直に謝ればいいのに。
別に怒ってないし、気にもしてないけど。
「いえ、冗談ですよ。ソフィーは私にとっても大事な子ですから」
「そうか……そうなのだな。はぁ……私は、いつになったらその方の大事な人になれるのだろう」
「いまも、大事ですよ」
ダリウスの言葉に真顔で応えたのに、ジトっとした目で見られてしまった。
「その方の大事は、近い年齢や年下のお気に入りの友人に向けるそれではないか」
「あら、殿下も私のお気に入りに入っている自覚はおありなのですね。なら、良いじゃないですか」
「そのような態度でよくも先ほどの私の話の持っていき方に、非難めいた視線を送ってこられたものだな」
小さいことを気にしちゃだめですよ。
それよりもソフィアの話とは、いったいなんなのだろう。
「とりあえず、彼女を王都の学校に招聘することになったのは、エリーも知ってるな?」
「存じておりますよ。貴重な聖属性の適正者ですから」
「目の前に完全なる全属性持ちという稀有な存在がいるが、一般的には重宝される才能だ」
聖属性……色々と厄介なことの方が多いみたいだ。
王族にとっては。
教会関係者に渡ったりすると、それこそ神輿として担ぎ上げられて大仰なことになるらしいし。
特に聖女がいる期間というのは、寄進という名の集りも大胆になってくるとか。
あとは貴族の手に渡ると、政治にも悪用されたり。
ただ、国が治世のために利用することもあると。
なぜそのようなことになるかというと、聖属性は破邪と回復に超特化しているからだ。
上位回復系統には、欠損を治すものもあるとか。
それから、聖域結界を王都がすっぽり収まる規模で、展開したり。
他にも見る人の気持ちを落ち着かせる存在というのも。
いるだけで副交感神経を優位にさせる女の子とか、無敵すぎん?
是非、一家に一人は欲しいね。
あー……でも、確かに居たなぁ……居た居た!
居たわ!
前の世界の記憶でも居た!
笑っているだけで、周りが幸せな気持ちになれる子。
特別美人というわけでも、スタイルが良いわけでもない。
いや、確かに可愛いんだけど。
なんというか、その子が笑うとすべてが許せるような子。
笑ったところでアイドルのように整った可愛らしさもなく十人並みの容姿なのに、誰よりも可愛く感じられる子。
その笑顔を独り占めしたい男子が少なからずいたなぁ。
大人しいうえに無垢な笑みだから、陽キャどもでもチャラいのは手が出せないでいた。
密かに思っていても、自分みたいの付き合っちゃダメだって自ら予防線張らせる感じの子。
うん、あれは聖女と呼ばれてもしっくりくる。
「もう良いか?」
「えっ?」
「いや、また何か色々と考え込んでいたようだから」
ああ、回顧という名の妄想タイムの間、お茶を飲みながらゆっくりと待っていてくれたのか。
とりあえず聖属性を持つ美少女の利用価値が高いのは、聖属性の性質を考えただけでもよく分かる。
教会に属したら宗教的な意味合いでの聖女。
国に属したら、国が認定する職業的な役割での聖女。
面倒だなぁ……っと、ダリウスに返事をしないと。
「申し訳ありません。お話の最中によそ事を考えてしまいまして」
「いや、その方が考え込むと、表情がコロコロ変わっておもし……可愛らしいからな。見ていて、飽きないぞ。気にするな、表情豊かなのは好ましくもある」
おもしろいと言いかけたところで、従者の彼が咳ばらいをして軌道修正していたけど。
手遅れだよ。
そうか……妄想中は、表情にも出るのか。
気を付けないと。
「それで、ソフィを学園に入学させることは知ってますが、それが何か?」
「ああ、ギールラウ子爵の後妻の娘も入ってくるらしくてな」
おおう……
それはまた、なんというか。
「その学園行事で子爵とソフィアが鉢合わせるのもあまり宜しくないし、腹違いの姉妹に感づかれるのも拙いと思う」
「でももう、決まったことですし。どうにもできませんよね? 子爵家を取り潰しますか?」
「そしたら、ソフィアに返すものまで無くなるであろう。子爵家の失点ではあるが、他所からの入り婿がやらかしただけで、正統な血族が失態をおかしたわけではないからな」
へえ、存外にソフィアのことを真剣に考えてくれているようだ。
「その方が気に入っておる相手だからな。できれば貴族に戻してやった方が、その方も少しでも気安い仲になれるであろう?」
「あら、私のためでもあったのですか?」
「まあ……な」
意外にも私に真剣に向き合ってくれていたようだ。
惚れっぽくて、可愛い女の子ならすぐになびきそうだとか考えてて申し訳ありません。
てっきり、ソフィアに気移りし始めたかと思ってました。
「とりあえず、王立高等学院で貴族との顔つなぎをしたうえで、味方を増やす必要がある……学園長から、彼女が特別な存在であるということはアピールしてもらうが……」
「それでも、受け入れられないでしょうね。とくに、身分至上主義派閥がある今の状況では」
「そういうことだ……だから、それに対する対応と対策を相談に来たのだ」
なるほど。
学園内での彼女の立場を、どう守っていくかということか。
ひいては彼女自身をどう守ってあげるか。
王族としては取り込むとまではいかなくとも、他所の勢力には渡したくない存在のようだし。
視界の端でハルナが複雑そうな表情を浮かべているのが気になるけど。
「最初は私がこまめに声を掛けつつ、側近候補や学友等を紹介しようと思ったが……」
「女性陣からは、嫌われるでしょうね。平民が殿下やその周囲の高位貴族に囲まれて過ごすのは」
「だな……いや、予定では他に当てが無ければそのつもりだ。いくら嫌おうとも、私や侯爵家の子息が気に掛ける存在に、おいそれと危害を加えるような愚かな者はいないと信じたい」
「希望的観測が過ぎますね」
「辛辣だな。ただ、時には強引な手を取ることになるかもしれない」
ダリウス殿下……それは、悪手中の悪手です。
どう考えても、女性全員を敵に回すことになってソフィが可哀そうです。
何故かハルナが合点がいったような表情を浮かべている。
疑問が解消されて、スッキリしたような顔だ。
なんだろう?
本当に、たまにハルナはよく分からない子になる。
「そこで、その方も居合わせたのだから、そうならないように他の対策を考えるのを手伝ってもらおうと思ってな。女性の方が何か妙案を思い浮かぶのではと期待もしている」
あっ、ハルナがえっ? て表情でダリウスを二度見していた。
そんなに意外な提案じゃないと思うんだけど?
「対策を考えるのを手伝うんじゃなくて、私が対策になれば良いじゃないですか」
「はっ?」
「私……ソフィと個人的にお付き合いしてますので」
「はっ?」
ダリウスが混乱している。
ああ、そういえば殿下には言ってなかった。
王都からの帰りに、毎回彼女の村に寄って二泊してることを。
もちろん彼女の家じゃなくて、うちが出資して出した宿の客室でだけど。
ただそこを経営しているのは、ソフィアの今の両親だけどね。
すなわち、彼女の家でもあるわけで……あら不思議、宿に泊まったつもりが、何故か友達の家にお泊りに状態というか。
彼女を客室に呼んで、ガールズトークに華を咲かせたり。
一緒に食堂で食事をしたり。
ご両親には接客の範疇ということにしてもらって、一緒に過ごさせてもらってたのだ。
「ですので、学園では全面的に私がサポートしますわ!」
私の宣言に、なぜかハルナが口をポカンと開けてティーポットを落としそうになっていた。
「まさか、殿下じゃなくてお嬢様……これがいわゆる、裏ルートですか? ユ……いや、所詮夢は夢だったってことですか?」
それから意味の分からないことを小声で呟きながら、フラフラと消えていった。
いや、お世話係さん?
どこ行くの?
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