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第一章:お嬢様爆誕

閑話1:第0話

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 私の名前は、ハルナ・フォン・クルマール。
 クルマール伯爵の娘です。
 といっても、妾の子ですけどね。
 母も子爵家の令嬢なので、正式な第二夫人としてクルマール邸に住んでおりました。
 ですが私が12歳の時に、家を出てレオハート家に入ることになりました。
 その、父はあまり貴族としてよろしくない部類といいますか。
 色々と、黒い噂が絶えない方でして。

 で、母方の実家というのがオランド子爵領にある、オランド子爵家なのですが。
 レオブラッド辺境伯領の隣の領地なので、当然派閥はレオブラッド辺境伯派閥です。
 そして、そのレオブラッド辺境伯ですが、レオハート公爵家の血縁者にもあたります。
 すなわち、寄親の後ろ盾がギース・フォン・レオハート公爵。
 そう、レオハート大公なのです。

 オランド子爵から相談を受けたレオブラッド辺境伯が手を回した結果、私たち親子は無事にきな臭いクルマール領を脱出できたわけです。

 そして私が13歳の時に、お嬢様が生まれました。
 エルザ・フォン・レオハート様。
 この名前に、思わずピンと来てしまいました。
 
 誰にも言っていないのですが、私はこの世界の限られた部分に限り色々と知っているのです。
 高熱に侵されて、数日間寝込んだときに夢で見たのです。
 四角い箱の中で、動く絵と文字による演劇のようなものを。
 その舞台がこの国で、この世界なのです。
 初めてレオハート邸を訪れたときに、愕然としました。
 夢で見た建物と一緒だったからです。

 箱の中の演劇で使われていたのは、見たことのない文字でしたが意味は分かりました。
 それに、時折言葉も発しておりましたし。
 熱に浮かされて、そういったおかしな夢を見たのだとばかり思ってましたが。
 目に入るいくつかの景色や風景が、初めてのものでも既視感を覚えることがありました。
 それが、あの夢の舞台だと気づくのに時間は掛かりませんでしたが。

 そしてこの、エルザお嬢様。
 有体に言って、性格が酷く悪いです。
 さらに、父親であるジェームス次期公爵も、娘には甘々です。
 少しお歳を召されてからの初の女の子ですから、分からなくもないですが。
 お嬢様の我がままをなんでもきく、駄目親父です。
  
 ……いまの雇用主は、ギース様だから良いんです。
 ちょっとくらいの本音は。

 将来、ダリウス第一王子をめぐって、一人の庶民出の娘と醜い争いを……一方的に、いじめ倒すのでした。
 ……なんの問題もありません。
 貴族が、庶民に気を遣う必要はありません。
 たとえ、その少女が実は、とある子爵家の落胤だとしてもです。
 子爵家では、公爵家に何かできるはずもありませんから。
 なんなら無礼打ちで殺しても、厳重注意で済まされるくらいの身分違いです。

 にもかかわらずダリウス王子がはっちゃけて、お嬢様に婚約破棄を言いつけます。
 陛下と大公が結んだ婚約なのにです。
 個人の感情など、捨ておかないといけない最たるものである王族がですよ?

 正直、その演劇は突っ込みどころが多すぎて。
 たしかに、いじめも稚拙なものが多かったですし。
 いやいや、公爵令嬢ならいくらでも方法はあるでしょう。
 というか、「あの子気に入らないわ」と一言漏らせば、学園長が動かざるを得ない立場でしょう。

 ギース大公は、軍人ではなく個人としての功績でも英雄級ですからね。
 国民の人気も高く、貴族にもファンは多いのです。

 軍人としても剣付双頭竜褒章という、軍属最高の褒章を授与された方ですよ?
 いわば、救国の英雄です。
 その孫娘より気を遣う庶民など、いないでしょう。
 たとえ、希少な属性適性があったとしてもです
 そもそもレオハート家は王の一族なのですが?
 そんな王族の血統を引くエルザ様が、学園生活で子爵令嬢にクラスアップする元庶民の聖女とかっていう嘘くさい女性のせいで、修道院送り?
 ないないない。
 全力で国をあげて、もみ消すでしょう。
 勿論……相手の女性は闇に消されるでしょうし。
 緘口令を敷いて、もしその話をしたものはたとえ貴族でも厳罰に処すくらいのことはしそうですね。

 まあ、なんというか……物語の根本からして貴族を舐めすぎですね。
 王族が気を遣う家なのに、王子が独断であれこれやるのも。
 そう、国王陛下が気を遣う相手が目に入れても痛くない程可愛がる孫娘に、王子が色々とやらかしたり。
 そもそも、その王子が婚約者のいる状態で、他の女性……いやあ、庶民は無いわぁ……
 将来貴族になるといっても、出自は子爵家の私生児。
 公にされてない子供。
 スキャンダルもいいところですね。
 王族の家系図の汚点もいいところです。

 せめてお嬢様が伯爵家の下の方で、相手の女性が伯爵家の上の方とかなら成り立つんでしょうけど。
 だったら、最初からお嬢様は殿下の婚約者になることは、ありえませんし。
 バランスが難しいですね。
 そもそも上の方の伯爵家の私生児なら、それなりの暮らしは出来る気はしますし。

 と、不満しかない内容だったので、もし夢の通りに未来が動くなら阻止せねばと一人やる気に燃えてました。

 だって、産まれたばかりのお嬢様……マジで、天使なんですよ。
 おっと、夢の中に出てきた女性のような言葉遣いになってしまいましたが。
 
 本当に、瞼を大きく開いてキラキラとしたつぶらな瞳で、辺りをキョロキョロと興味深そうに見る姿は……えっ? 見えてる? 赤ちゃんって、すぐ目が見えたっけ? 凄い! と感動したくらいです。
 流石に英雄の孫は目が見えるのも早いんだなと驚きつつも、その無邪気で穢れを知らないあどけない姿は天使のようでした。

「えっ? 転生キタコレ?」

 何か、意味のある言葉を呟いたような気がしますが。
 聞いたことのない言葉だったので、適当にむにゃむにゃ言っただけでしょう。
 そもそも、泣き声と長音以外の音が口から出せるのかが疑問でしたが。

 そんなお嬢様の専属に選ばれたときは、自分の強運に感謝しました。
 いやあ、くそ親父の魔の手から救ってもらったうえに、天使のお世話係なんて。
 レオブラッド辺境伯は神か! と、思わず祈りそうになったくらいです。

 ……お嬢様は、私の夢と違う人生を歩んでくれるかもしれません。
 私の夢の中のお嬢様は、レベル上げにいそしんだりしてませんでしたし。

 2歳にして、木の棒でスライムを叩き潰すとか……やんちゃが過ぎませんか?
 英雄の孫は生まれたときから、英雄の孫なのでしょうか?
 片っ端からスライムを指さして騎士に側に連れていかせて、えいっと潰してますが。
 若干狂気を感じますね。
 魔物とはいえ、生き物を喜々として叩き潰す姿は。

 まあ、子供はそういった一種の残酷な一面もありますし。
 虫とかも平気で触ったり、殺したり。
 
 その笑顔は、夢の中の悪役令嬢のお嬢様っぽいですね。
 レベルが上がったのでしょう。
 片方の口の端をあげて、ニヤリと笑っておりますが。
 確かに賢い子だとは思いますが、公爵家の血筋だとか王族の血筋だとかで片付けて良い問題でしょうか?
 
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