魔王となった俺を殺した元親友の王子と初恋の相手と女神がクズすぎるので復讐しようと思ったけど人生やり直したら普通に楽しかった件

へたまろ

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EX章1:学園編

第5話:エルサのおうち

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「今日はよく来たな。私がエルサの祖父のキューエルだ」
「この度は、お招きいただきありがとうございます」

 気難しい顔をした、目の前の美丈夫。
 エルサにどこか似た面影がある彼が、ラードーン伯爵か。
 なるほど……伯爵っぽい。
 髭も込みで。
 
 しかし、若いな。
 50代前半といったところかな?

 濃い茶色の髪を後ろで一つに括っているところとか、まさに歴戦の戦士といったイメージを受ける。

「おじいさまは、宮廷魔術師の副団長を務めてたんですよ」

 いや、どう考えても肉体派だよね?
 騎士団副団長とか、第二騎士団や第三騎士団団長だったって言われた方が、まだ納得できるんだけど?

「ルーク君は魔法の方は相当にやるらしいね? 何か秘訣のようなものでもあるのかな?」

 厳しい目つきでそんなことを問われたけども、いやいや種族特性のお陰ですとは言えない。
 しかし、何も言わないわけにもいかない。
 そんな期待の籠った眼差しを向けられてしまったら。

「えっと、魔力の直接操作による属性変化が得意ですので」
「ということは、無詠唱での魔法が使えるということか。私もその域に達しているが、変換効率が落ちるのではないか? それ以上のメリットはあるが」
「イメージの問題ですね。過程と結果をワンセットで思い浮かべられたら、効果はさほど変わりません。物事の事象の理を知れば、容易になりますよ」
「事象の理?」
「ええ、火は空気が無いと燃えませんので、より多くの空気を送り込むイメージを作り出すとか」
「ほう……なるほど」

 俺のアドバイスを聞いたラードーン伯爵が掌の上に炎を作り出す。

「ふむ……ということは、魔法以外にも勉強しないといかぬことが多くあるわけじゃな」
「そ……そうですね」
 
 火種と呼ぶにはでかすぎるそれを見せられて、少しびっくりしてしまった。

「逆に空気を無くしてしまえば、消えてしまうわけか」
「そ……その通りです」

 呑み込みが早い。
 さきほど掌に現れた火の玉が一瞬で消えてなくなる。

「ルークは若いが、良い師になりそうだな。有意義であった。それでは、孫を祝ってやってくれ」

 ラードーン伯爵はそれだけ言うと、他の客の方に向かって行った。
 なんだろう、結構な危険人物の匂いがする。
 
 取り残されたエルサと2人で、ラードーン伯爵の背中を見送る。

 ちなみにジェファードは置いてきた。
 どう考えても同じ歳の高貴な従者は、この場には不釣り合いだろうし。
 かといって、エルサたちとも親しいわけじゃないからね。
 だいぶゴネられたけど。

 とりあえず、エルサの方を見て首を横に振っておく。
 エルサも苦笑いだ。

「気にしないでね。ルークの話を聞いてから、おじいさまったら年甲斐もなく張り切っちゃって」
「なんで?」
「その……魔王の話を聞いて、魔王というなら魔法を極めておるはずじゃ。きっと、凄いことを知ってるはずだー! って」

 なんだろう。
 エルサはそれを俺に言うことに、躊躇しなかったのかな?
 いや、少しだけ躊躇してた様子はあったけど。
 この子も、ラードーン伯爵もあまり気にしてないのかな?

「あっ、あれが事実かどうか分からないけれども、おじいさまは魔王だったルークに挑んで完敗だったらしいの。それもあって、憧れに似た感情を抱いたみたい」

 そういう人もいるのか。
 この話題、触れたがらない人が多いけど。
 エルサはこういうところが美点というか、なんというか。
 変なところで大胆なんだよね。
 
 しばらくの間、ほとんどの人が気を遣って腫物に触れるような対応してたのに。
 戦勝パーティでも、エルサはガンガンに突っ込んできてたし。
 クリスタが涙目で、エルサを連れ去ってくくらいに。
 その後で、クリスタだけが戻ってきてエルサのことを謝ってくれたけど。

 彼女も、僕のイメージは殆どなかったらしい。
 接点のない相手なんて、実際はそんなものかもしれない。

 ああ、いじめに積極的に加担しなかっただけで、傍観者だった子も多い。
 中には、直接謝りに来たこともいたけど。

 本当に俺のせいというか。
 今世では特に関りが無かったのに、殿下達の嫌がらせから庇うことも止めることもせず申し訳ないと言われても。
 そういう心根の子たちだったということが知れただけでも、収穫なんだけどね。

「またエルサはもう……ルークが大人だから良いけど、普通なら嫌われてもおかしくなわよ」

 あっ、クリスタがエルサと俺が一緒にいるのを見て、慌てて割って入ってきた。
 クリスタは、エルサの良い保護者だと思う。

 それよりも俺の味方は……
 うん、無理だな。
 ジャスパーとキーファが、遠くの方でエルサたちの友達に囲まれているのが見える。
 当然、女子ばかりだ。
 モテモテで羨ましい……こともない。
 現状ではジェニファの対応だけで、精一杯だからね。

 負け惜しみじゃない。
 本気でそう思ってる。キリッ!

「どうしたの? 急に決め顔とかして? あっ、ジャスパーとキーファがモテてるから、対抗しようとしてる?」
「はは、それは無理でしょ? だってルークはジェニファ様が、婚約の打診をしてるって噂が流れてるからね」

 うん、それはジェニファが流してるんだよね?
 着実に外堀を埋められているけど、そこまでしなくてもと思わなくもない。
 
「流石に公爵令嬢が秋波を送ってる相手を、どうこうしようなんてね」
「エルサ、言い方」

 うん、色目を使われてるとは思わないかな?
 力技で来られてる感は、半端ないけど。

「そんなことより、料理食べよう! ルークには申し訳ないけど、本当に楽しみで」
「うん、今日はコルセットはゆるゆるにしてきたから」

 それ、コルセット付ける意味って、あるのかな?
 あっ、2人とも綺麗に着飾ってるのに、全然褒めてないな。
 それよりも、エルサのおじいちゃんの印象が強すぎて。
 というか、まともに最初の挨拶を2人とも出来てない気がする。
 いや、そのうえで今回の主役を2人ともここに引き留めてたらまずいよな。

「ああ、じゃあ料理を楽しんできたらいいよ。僕は、適当に知り合いでも探してみようかな? うん、2人とも誕生日おめでとう! 凄く綺麗だよ」
「ふふ、取って付けたような挨拶ね」
「ありがとう! 頼んでみた甲斐があったよ!」

 クリスタには思い出したかのように挨拶したことを突っ込まれたけど、エルサはそれどころじゃないな。
 そこまで気に入ってもらえるとは、本当に嬉しい限りで。

 早速不人気のお米コーナーに突撃していった2人の背中を見送りながら、思わず吹き出してしまった。
 だいぶ、ジャストールに影響されているみたいで、良い事だと思おう。

「カレーってドレスに着いたら、落ちないんじゃない?」
「そんなこともあろうかと、大きめのエプロンを用意したの」
「えっ、エルサだけずるい」
「クリスタのもあるよ! カレーは私がリクエストしたんだ」

 良いのかな?
 あんなの着けて。


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