99 / 124
最終章:勇者と魔王
第16話:反撃の時
しおりを挟む
「ルーク!」
兄の声を聞いて、顔を向ける。
苦しそうな表情だ。
すでに闇の炎による火傷は綺麗に消えている。
だが、そうじゃない。
心が痛みを感じているのだろう。
「私は……お前の、本当にあんなことをしたのか?」
ああ、最初の世界でのことか。
だが、あの兄と今の兄は違うだろう。
そもそもが、最初の世界の人達はおかしかったのだ。
憎しみや、恨みもあるが。
それでも、それを抑え込めるだけの自制心もある。
ここで最初の世界のことを持ち出して詰ったところで、ただの八つ当たりだ。
「ああいう世界もあっただけということですよ。今のこの世界、目の前にいる兄上とは違う兄上のことです」
「そうか……だが、私はそれでも自分が許せない。いまだに、元に戻らないお前を見ていると……恨まれている自覚もある」
そうか……兄には、通じないか。
完全に、元もルークに戻っていないことは。
この世界で過ごした濃密な時間だけが、淡白で希薄なものになっている。
そうだな……魔王ルークの言葉を借りると、記憶ではなく知識といった感覚。
ゲームで見知っていた最初の世界のような感じだろう。
「それはおいおい……取り戻していくつもりです。まずは、フォルスを手伝わないと」
「今のお前は、どのルークなのだい?」
「この世界のルーク以外の全てですよ……だから、私は私を取り戻すために、あの女神を倒すのです」
俺はそれだけ言うと、地面を蹴って空に飛びあがる。
上空で激しい戦いを繰り広げている、フォルスと光の女神に向かって。
「フォルス!」
「ルーク様?」
「そうだが、今は違うと答えておこう」
光の女神の攻撃を必死に防ぎつつ、フォルスが俺に声を掛けてくる。
アマラの力を借りて、なお分が悪いか。
本当に、規格外の存在になったのだな。
この駄女神は。
「恰好が付かないな。颯爽と登場した割には、まだ手間取っていたのか」
「いえ、殺したり消滅させるのは簡単なのですが、それをした後のこの世界のことを考えると」
なるほど、アマラの特性は破壊と終焉か。
確かに、極端すぎて持て余してしまうのは頷ける。
「構わんだろう! この世界の光の女神は、あいつがどこかに閉じ込めているはずだ」
俺の言葉に、フォルスがはっとした表情になる。
神のくせに、抜けているというか。
別にこいつを殺したところで、この世界の光の女神を救い出して……それはそれで面白くない気がする。
だが、仕方ない。
光の無い世界は、色々と不便だろうし。
いや……
「最悪、火の神もいるわけだ。明るさ程度はどうにでもなるだろう」
「なるほど……」
フォルスの表情が悪い物に変わる。
俺とフォルスのやり取りを黙って見ていた駄女神が、手に持った扇子で口元を隠して笑いかけてくる。
「ふむ、妾をどうこうできること前提で話を進めるのは、実に面白くない。この程度で、妾の力を推し量れたと思われては詰まらんな」
そう言って女神が扇子を思いっ切る振ると、光の筋がいくつもこちらに向かってくる。
なるほど……それなりに威力のありそうな攻撃だな。
即座に闇の魔力を最大限放出して、光を飲み込む。
それだけで、彼女の放った魔法が消え去る。
「知らなかったのか? 本当の闇は、全ての光すら飲み込むってことを」
光は闇を照らす?
その光すら、飲み込む闇というのは存在する。
そもそもが身近なところに、光を吸収しているものがある。
それが黒色だ。
黒は光を吸収することで、色を発していない。
「何? 光は闇を照らすものだ! そんなはずがあるわけがない!」
現在進行形で闇に飲まれている存在が、何を言っているんだか。
光と闇の女神と言っているが、とどのつまり闇に光の部分が染まっているだけだろう。
本当に光が闇を照らすなら、お前はいまも光の女神だよ。
混ざりものの分際で。
「はぁ……闇は光を吸収するから闇なんだよ」
「詭弁だな! 闇にあっても光とは輝くものだ! 夜空の星のようにな!」
話にならない。
確かに発光している場所だけは、明るいかもしれない。
だが床も壁も天井も、全ての光を吸収する黒ならば……
その部屋の中は暗闇といっても過言ではないだろう。
というか、夜空の星って。
星だけ光ってて、周りは真っ暗じゃないか。
唯一、地上を照らしているのは太陽だ。
うん、火の神の管轄だな。
やっぱり、こいつも光の女神もいらない気がしてきた。
「もういいよ、お前はここで退場だ!」
随分と粘ったが、流石にもううんざりだ。
人々を救うはずの女神が、これほどまでに人に迷惑を掛けるのもどうかと思うが。
神にあまり、幻想を抱くべきではないな。
神だって、欲がある神もいる。
無私無欲で人を救う存在なんてのは、やっぱりまやかしだな。
「ぐぅ、たかが人間の分際で……」
闇の魔法を連発すると、徐々に女神の身体から光の部分だけが消えていくのが見てわかる。
闇の槍。
闇の波動。
闇の球体。
闇のオーラ。
思いつく限りの、闇属性の攻撃魔法を放ち続ける。
それにしても、たかが人間ねぇ。
「いや、お前のお陰で魔王になれたんだけどな」
フォルスですら手が出せないほどに、そこからさらに回転数を上げて魔法を放ち続けていたら徐々に女神の身体に異変が起こる。
だめ押しとばかりに、闇の竜を象った魔法を放つ。
竜が口を開いて、彼女を飲み込む。
流石に、もう終わっただろうと思ったんだけどな。
普通に浮いてら。
凄いわ。
そして全身から光が消えたと思ったら、闇をまき散らすかのようにどす黒いものが溢れ出始める。
フォルスが俺の横に並んで、彼女をジッと見つめている。
「あれが、魔王の核が彼女に与えたものですか」
うーん……フォルスが感心したように漏らしているが。
完全にキャラ被り。
流れるようなブロンドの髪も、青い瞳も真っ黒に染まっていってる。
「お前に似てないか?」
「いえ、似ても似つかないかと」
俺の言葉に、フォルスが少しムッとした様子で答えているが。
まあ、髪の色と瞳の色以外は似ていないか。
「ふ……ふははは! どうやら、ここまでのようだな! 完全に闇に染まってしまったことは不本意であるが、もはやその攻撃は効かなっ!」
闇は意味が無くなってしまったので、今度は光の魔法を放つ。
太く長い光の槍。
光の光線。
数十本の光の剣。
光輪の乱打。
巨大な光の剣。
光の奔流。
これも、思いつく限りの魔法を放ち続ける。
「ふぅ、痛痒程度のダメージは受けるけど、傷を負うほどでもないですわね。貴方が言ったように、光じゃ闇を照らせないのですね」
そして一周回って、最初の世界のような女神の話し方に戻っていた。
キャラもブレブレだな。
完全に、魔王の核の力が彼女にも馴染んでしまったのかな?
自我を取り戻したというか、我に返ったというか。
「さてと……ここまで妾をこけにしてくれた報い、受けてもらおうか」
どうした、本当に?
あれか?
こいつも、人格が複数生まれているのか?
言葉遣いがまた戻ってるし。
いや、もしかして光と闇の部分が完全に混ざったというのか?
そんなとこまで、核の持ち主に似なくても。
「しかし、本当に光とは無力なものだな」
いや、お前が司る力だったんじゃないのか?
自虐か?
急に語りだされても……
「なら、光など必要ない! 闇さえあれば、それでいい!」
「ちょっと待て、人の仕事を取るんじゃない!」
なんか、変なことを言い出した。
フォルスの目の前で、何を言い出してるんだこの馬鹿は。
次の瞬間、目の前の女神が両手を広げると世界を闇が覆いつくしていく。
ジェファードやリカルド、周囲の兵士たちも慌てた様子で逃げ出そうとしているが。
無駄だな。
そんなレベルじゃなく、星をまるごと覆うレベルで闇のヴェールを広げていっていた。
何もみえず、混乱した様子だけが分かる。
喧噪が広がり、剣戟の音が響き始める。
同士打ちか?
「人の心の闇の部分を、増幅してやっただけだ。少しでも憎しみや、嫌悪がある方向に攻撃が向くようにね」
この何も見えない状態で、自分の心に素直に攻撃を放っているわけか。
対象の方向だけは、よく分かるみたいだ。
現に俺もリカルドと女神の場所だけはよく分かる。
両方とも殺したくなってくるが、こいつは自分が恨まれてないとでも思ってるのかな?
あちらこちらから、闇属性の魔法やらが飛んできているぞ?
俺の方にも、いくつか攻撃が飛んできているが。
リカルドが、喜々として攻撃してきているな。
改心したんじゃなかったのか?
心の根底で、色々と根に持ってたんだろうな。
うるさいから、闇の魔法の重ね掛けで黙らせておく。
「ふむ、妾に攻撃を向ける愚か者もおるようだな」
「自分の放った魔法の結果で、自分にも攻撃が向くとかお粗末にもほどがあるだろう」
「なーに、それもまた一興よ」
急に強キャラ感出して来てるけど、実質には俺にはあまり影響が無いな。
女神に対する攻撃に容赦が一切なくなるくらいだから、ある意味ではバフだな。
「これは!」
試しに全力で魔法を放とうかと思ったら、巨大な炎の拳が女神に向かって放たれていた。
この闇の空間で全力で存在を主張し、周囲を眩く照らす一撃。
「流石に、それは洒落にならんな」
「あなただけは、謝っても許しませんよ」
勿論、放ったのは兄のアルトだ。
リミッターの外れた兄の攻撃の出鱈目さに何度目かの驚きを隠せずにいると、巨大な炎の腕が増える。
そして、連続で突きを放ち始めている。
女神が焦った様子で距離を取っているが、余波でこっちも身が焦げるような思いだ。
凄い熱量だな。
「あっ」
間抜けな声を出した、女神の腹に剣が生えていた。
気付かない間に叔父がゆっくりと近づいて行って、普通に正面から刺していた。
急展開過ぎて、こっちも何が起こったのか分からない。
女神も、まるで叔父が見えていないかのような動きだったし。
俺も、いつの間に叔父がここに来たのか、まったく分かってなかった。
気が付いた時には、刺されていたといった感じか。
「き……貴様は、誰だ」
女神が後退っている。
その腹に刺された剣は、眩い光を放ちながら魔力の渦を作っている。
見たことがあるな。
ジェファードが持っていた剣。
最初の世界でリカルドが持っていた剣。
魔王ルークを取り込んで思い出した。
うん、正真正銘、光の女神が勇者に下賜する光の剣だ。
勇者じゃなくても、使えるのか。
叔父は剣を抜くと、今度は袈裟懸けに女神を斬り付けた。
傷跡から、魔力がさらに漏れ出るのが分かる。
ただ、普通の人がその剣を使う反動は、やはり大きいようだ。
叔父の両手は焼けただれて、体液のようなものが柄を伝って地面に落ちている。
いや、すでに肘の部分までただれている。
しかし、表情からは一切何も読み取れない。
まるで、自分のすべき仕事だといわんばかりに、無表情で淡々と流れるように斬撃を放ったのだ。
分からない。
なぜ、彼がそこまでして俺を手助けするのかが。
最初の人生から、唯一ルークを安じ守ってきた彼だが。
その切欠が、分からないのだ。
父や兄ですら、疎んじてきたルークを。
なぜ、そこまで愛せるのかが。
兄の声を聞いて、顔を向ける。
苦しそうな表情だ。
すでに闇の炎による火傷は綺麗に消えている。
だが、そうじゃない。
心が痛みを感じているのだろう。
「私は……お前の、本当にあんなことをしたのか?」
ああ、最初の世界でのことか。
だが、あの兄と今の兄は違うだろう。
そもそもが、最初の世界の人達はおかしかったのだ。
憎しみや、恨みもあるが。
それでも、それを抑え込めるだけの自制心もある。
ここで最初の世界のことを持ち出して詰ったところで、ただの八つ当たりだ。
「ああいう世界もあっただけということですよ。今のこの世界、目の前にいる兄上とは違う兄上のことです」
「そうか……だが、私はそれでも自分が許せない。いまだに、元に戻らないお前を見ていると……恨まれている自覚もある」
そうか……兄には、通じないか。
完全に、元もルークに戻っていないことは。
この世界で過ごした濃密な時間だけが、淡白で希薄なものになっている。
そうだな……魔王ルークの言葉を借りると、記憶ではなく知識といった感覚。
ゲームで見知っていた最初の世界のような感じだろう。
「それはおいおい……取り戻していくつもりです。まずは、フォルスを手伝わないと」
「今のお前は、どのルークなのだい?」
「この世界のルーク以外の全てですよ……だから、私は私を取り戻すために、あの女神を倒すのです」
俺はそれだけ言うと、地面を蹴って空に飛びあがる。
上空で激しい戦いを繰り広げている、フォルスと光の女神に向かって。
「フォルス!」
「ルーク様?」
「そうだが、今は違うと答えておこう」
光の女神の攻撃を必死に防ぎつつ、フォルスが俺に声を掛けてくる。
アマラの力を借りて、なお分が悪いか。
本当に、規格外の存在になったのだな。
この駄女神は。
「恰好が付かないな。颯爽と登場した割には、まだ手間取っていたのか」
「いえ、殺したり消滅させるのは簡単なのですが、それをした後のこの世界のことを考えると」
なるほど、アマラの特性は破壊と終焉か。
確かに、極端すぎて持て余してしまうのは頷ける。
「構わんだろう! この世界の光の女神は、あいつがどこかに閉じ込めているはずだ」
俺の言葉に、フォルスがはっとした表情になる。
神のくせに、抜けているというか。
別にこいつを殺したところで、この世界の光の女神を救い出して……それはそれで面白くない気がする。
だが、仕方ない。
光の無い世界は、色々と不便だろうし。
いや……
「最悪、火の神もいるわけだ。明るさ程度はどうにでもなるだろう」
「なるほど……」
フォルスの表情が悪い物に変わる。
俺とフォルスのやり取りを黙って見ていた駄女神が、手に持った扇子で口元を隠して笑いかけてくる。
「ふむ、妾をどうこうできること前提で話を進めるのは、実に面白くない。この程度で、妾の力を推し量れたと思われては詰まらんな」
そう言って女神が扇子を思いっ切る振ると、光の筋がいくつもこちらに向かってくる。
なるほど……それなりに威力のありそうな攻撃だな。
即座に闇の魔力を最大限放出して、光を飲み込む。
それだけで、彼女の放った魔法が消え去る。
「知らなかったのか? 本当の闇は、全ての光すら飲み込むってことを」
光は闇を照らす?
その光すら、飲み込む闇というのは存在する。
そもそもが身近なところに、光を吸収しているものがある。
それが黒色だ。
黒は光を吸収することで、色を発していない。
「何? 光は闇を照らすものだ! そんなはずがあるわけがない!」
現在進行形で闇に飲まれている存在が、何を言っているんだか。
光と闇の女神と言っているが、とどのつまり闇に光の部分が染まっているだけだろう。
本当に光が闇を照らすなら、お前はいまも光の女神だよ。
混ざりものの分際で。
「はぁ……闇は光を吸収するから闇なんだよ」
「詭弁だな! 闇にあっても光とは輝くものだ! 夜空の星のようにな!」
話にならない。
確かに発光している場所だけは、明るいかもしれない。
だが床も壁も天井も、全ての光を吸収する黒ならば……
その部屋の中は暗闇といっても過言ではないだろう。
というか、夜空の星って。
星だけ光ってて、周りは真っ暗じゃないか。
唯一、地上を照らしているのは太陽だ。
うん、火の神の管轄だな。
やっぱり、こいつも光の女神もいらない気がしてきた。
「もういいよ、お前はここで退場だ!」
随分と粘ったが、流石にもううんざりだ。
人々を救うはずの女神が、これほどまでに人に迷惑を掛けるのもどうかと思うが。
神にあまり、幻想を抱くべきではないな。
神だって、欲がある神もいる。
無私無欲で人を救う存在なんてのは、やっぱりまやかしだな。
「ぐぅ、たかが人間の分際で……」
闇の魔法を連発すると、徐々に女神の身体から光の部分だけが消えていくのが見てわかる。
闇の槍。
闇の波動。
闇の球体。
闇のオーラ。
思いつく限りの、闇属性の攻撃魔法を放ち続ける。
それにしても、たかが人間ねぇ。
「いや、お前のお陰で魔王になれたんだけどな」
フォルスですら手が出せないほどに、そこからさらに回転数を上げて魔法を放ち続けていたら徐々に女神の身体に異変が起こる。
だめ押しとばかりに、闇の竜を象った魔法を放つ。
竜が口を開いて、彼女を飲み込む。
流石に、もう終わっただろうと思ったんだけどな。
普通に浮いてら。
凄いわ。
そして全身から光が消えたと思ったら、闇をまき散らすかのようにどす黒いものが溢れ出始める。
フォルスが俺の横に並んで、彼女をジッと見つめている。
「あれが、魔王の核が彼女に与えたものですか」
うーん……フォルスが感心したように漏らしているが。
完全にキャラ被り。
流れるようなブロンドの髪も、青い瞳も真っ黒に染まっていってる。
「お前に似てないか?」
「いえ、似ても似つかないかと」
俺の言葉に、フォルスが少しムッとした様子で答えているが。
まあ、髪の色と瞳の色以外は似ていないか。
「ふ……ふははは! どうやら、ここまでのようだな! 完全に闇に染まってしまったことは不本意であるが、もはやその攻撃は効かなっ!」
闇は意味が無くなってしまったので、今度は光の魔法を放つ。
太く長い光の槍。
光の光線。
数十本の光の剣。
光輪の乱打。
巨大な光の剣。
光の奔流。
これも、思いつく限りの魔法を放ち続ける。
「ふぅ、痛痒程度のダメージは受けるけど、傷を負うほどでもないですわね。貴方が言ったように、光じゃ闇を照らせないのですね」
そして一周回って、最初の世界のような女神の話し方に戻っていた。
キャラもブレブレだな。
完全に、魔王の核の力が彼女にも馴染んでしまったのかな?
自我を取り戻したというか、我に返ったというか。
「さてと……ここまで妾をこけにしてくれた報い、受けてもらおうか」
どうした、本当に?
あれか?
こいつも、人格が複数生まれているのか?
言葉遣いがまた戻ってるし。
いや、もしかして光と闇の部分が完全に混ざったというのか?
そんなとこまで、核の持ち主に似なくても。
「しかし、本当に光とは無力なものだな」
いや、お前が司る力だったんじゃないのか?
自虐か?
急に語りだされても……
「なら、光など必要ない! 闇さえあれば、それでいい!」
「ちょっと待て、人の仕事を取るんじゃない!」
なんか、変なことを言い出した。
フォルスの目の前で、何を言い出してるんだこの馬鹿は。
次の瞬間、目の前の女神が両手を広げると世界を闇が覆いつくしていく。
ジェファードやリカルド、周囲の兵士たちも慌てた様子で逃げ出そうとしているが。
無駄だな。
そんなレベルじゃなく、星をまるごと覆うレベルで闇のヴェールを広げていっていた。
何もみえず、混乱した様子だけが分かる。
喧噪が広がり、剣戟の音が響き始める。
同士打ちか?
「人の心の闇の部分を、増幅してやっただけだ。少しでも憎しみや、嫌悪がある方向に攻撃が向くようにね」
この何も見えない状態で、自分の心に素直に攻撃を放っているわけか。
対象の方向だけは、よく分かるみたいだ。
現に俺もリカルドと女神の場所だけはよく分かる。
両方とも殺したくなってくるが、こいつは自分が恨まれてないとでも思ってるのかな?
あちらこちらから、闇属性の魔法やらが飛んできているぞ?
俺の方にも、いくつか攻撃が飛んできているが。
リカルドが、喜々として攻撃してきているな。
改心したんじゃなかったのか?
心の根底で、色々と根に持ってたんだろうな。
うるさいから、闇の魔法の重ね掛けで黙らせておく。
「ふむ、妾に攻撃を向ける愚か者もおるようだな」
「自分の放った魔法の結果で、自分にも攻撃が向くとかお粗末にもほどがあるだろう」
「なーに、それもまた一興よ」
急に強キャラ感出して来てるけど、実質には俺にはあまり影響が無いな。
女神に対する攻撃に容赦が一切なくなるくらいだから、ある意味ではバフだな。
「これは!」
試しに全力で魔法を放とうかと思ったら、巨大な炎の拳が女神に向かって放たれていた。
この闇の空間で全力で存在を主張し、周囲を眩く照らす一撃。
「流石に、それは洒落にならんな」
「あなただけは、謝っても許しませんよ」
勿論、放ったのは兄のアルトだ。
リミッターの外れた兄の攻撃の出鱈目さに何度目かの驚きを隠せずにいると、巨大な炎の腕が増える。
そして、連続で突きを放ち始めている。
女神が焦った様子で距離を取っているが、余波でこっちも身が焦げるような思いだ。
凄い熱量だな。
「あっ」
間抜けな声を出した、女神の腹に剣が生えていた。
気付かない間に叔父がゆっくりと近づいて行って、普通に正面から刺していた。
急展開過ぎて、こっちも何が起こったのか分からない。
女神も、まるで叔父が見えていないかのような動きだったし。
俺も、いつの間に叔父がここに来たのか、まったく分かってなかった。
気が付いた時には、刺されていたといった感じか。
「き……貴様は、誰だ」
女神が後退っている。
その腹に刺された剣は、眩い光を放ちながら魔力の渦を作っている。
見たことがあるな。
ジェファードが持っていた剣。
最初の世界でリカルドが持っていた剣。
魔王ルークを取り込んで思い出した。
うん、正真正銘、光の女神が勇者に下賜する光の剣だ。
勇者じゃなくても、使えるのか。
叔父は剣を抜くと、今度は袈裟懸けに女神を斬り付けた。
傷跡から、魔力がさらに漏れ出るのが分かる。
ただ、普通の人がその剣を使う反動は、やはり大きいようだ。
叔父の両手は焼けただれて、体液のようなものが柄を伝って地面に落ちている。
いや、すでに肘の部分までただれている。
しかし、表情からは一切何も読み取れない。
まるで、自分のすべき仕事だといわんばかりに、無表情で淡々と流れるように斬撃を放ったのだ。
分からない。
なぜ、彼がそこまでして俺を手助けするのかが。
最初の人生から、唯一ルークを安じ守ってきた彼だが。
その切欠が、分からないのだ。
父や兄ですら、疎んじてきたルークを。
なぜ、そこまで愛せるのかが。
1
お気に入りに追加
1,538
あなたにおすすめの小説
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる