魔王となった俺を殺した元親友の王子と初恋の相手と女神がクズすぎるので復讐しようと思ったけど人生やり直したら普通に楽しかった件

へたまろ

文字の大きさ
上 下
61 / 124
第3章:覚醒編(開き直り)

第8話:ジャストール領

しおりを挟む
「はぁ……」
「どうしたのですか?」

 実家に向かう馬車の中で深いため息を吐くと、フォルスが心配そうに声を掛けてきた。
 こいつは、俺が同調を切っても態度が変わらないな。
 ということは、元々俺の思ったイメージ通りの性格だったのだろう。
 最初は、少しオラついていたが。

「いや、リカルドがまさか隣国まで行ってると思わなくてさ」

 思い立って探し始めた当初はリカルドの消息が全く分からなくなり、手掛かりも無かった。
 ただ、モルダー神父を筆頭に、新しく立ち上げた神聖教会が手を尽くして調べた結果ベゼル帝国に身を潜めていることが分かった。
 恐らく光の女神の手引きだろうとは思うが、ベゼル帝国もベゼル帝国だ。
 ヒュマノ王国の第3王子を勝手に国内に引き入れ、帝都で預かるなんて。
 しかも、こちら側に連絡も寄越さずに。
 とりあえず、王城にはまだ情報は渡していないが。
 もしかしたら、叔父経由で伝わっているかもしれない。
 その叔父も、今回の帰郷に同行している。
 本人は、バレてないつもりだろうが。
 俺にはバレバレなんだよな。

 どうせ、父達には会う気はないのだろうが。
 俺から離れる気もないらしい。
 
「まあ、必要なら私が行って攫ってきてもいいのですが」
「それはそれで、問題だと思うよ」

 そうこうしているうちに夏休みになり、俺は実家に帰ることに。
 アルトは王都で用事があるらしく、それを終わらせてから帰るということだが。
 凄く恨みがましく、ぐちぐちと言われたな。
 リック殿下が、そのアルトを引きずっていったが。
 殿下絡みの要件……俺じゃなくて、兄というのが少し不安だ。

 途中、リーチェの町に寄ってから、ジャストールの町に戻る予定だったのだが。
 
「お帰り、ルーク」
「ふふ、やはりこっちに先に寄ったのね」
「お兄さま!」

 その町で俺を待ち受けていたのは、父であるゴートと、母キャロライン。
 そして、目に入れても痛くないほど可愛い双子の弟妹のヘンリーとサリアだった。
 行動が、まるっと読まれてる。
 そして、リーチェの町の発展具合がとんでもないことに。
 これ、ジャストールの町よりも発展してるんじゃないかな?

 職人通りは、煙突やらダクトが張り巡らされ、まるでスチームパンクの世界を彷彿させるような科学と中世の街並みが一体化したような混沌とした様相を呈している。
 飲食街にはテラス席なんかも用意され、ミラーニャの町で実施したターフテントを使った軒まで用意されていた。
 服飾関係のお店や、道具屋や家具などの販売店には大きな板ガラスが使われ、まさにウィンドウショッピングを楽しむ婦女子の方々が通りを往来している。

 そうだよな。
 俺のあやふやな記憶から様々なものを実行に移し、また結果も出してきた町だ。
 魔法のせいで、技術や科学なんかが蔑ろにされがちな世界で、結果が出るか分からない子供の戯言を試行錯誤しながら確実に成功させてきた村だったんだ。
 いまじゃ、町だけど。
 人口も増え、技術者が大量に流入した今なら、僅か数カ月でこの発展度合いも頷ける。
 わけがない!
 異常だ。
 異常すぎる。

 いくら資本があって、それらを使ってさらに色々なものを発展、開発して大きな利益をあげているとはいえ。
 速度が速すぎる。
 
 そして、その理由は言わずもがな、同調のスキルの力だろう。
 俺のイメージや、記憶を下手糞な絵や、拙い言葉、うろ覚えの知識で伝えてきたが。
 彼らは常にその情報を元に、俺が満足する物を作り出してきた。
 そりゃそうだ。
 その俺のイメージや記憶が、言葉以外にも直接脳内に伝わっていたんだ。
 俺の言葉や絵で彼らがイメージした完成形は、俺のイメージと一致してるんだ。
 抽象的に俺が作りたいものが、型紙のように彼らの中に最初に埋め込まれ。
 そこに俺が説明を行って、肉付けをする。
 間違っていても、彼らは完成形を具体的かつ正確にイメージできるのだから、俺が知らない技術だとか経験をもとに得た彼ら独自の知識で、足りない部分を穴埋めしながらの作業だ。
 捗るわけだな。

 エアボードにしても、重量有輪犂にしても物を知ってるような状態だったんだもんな。
 当時はなんの疑問も抱かなかったが、農具や工具、道具等の発展が著しいわけだ。
 科学が著しく発展した現代地球の知識を、彼らは無意識に俺から受け取っていたわけだから。
 しかも、紀元前から現代にいたるまでの、進歩の過程もある程度は頭に流れ込んでくるんだ。
 なんか、暮らしにくい古臭い世界に転生したわりには、イージーモードなわけだ。

 ミラーニャの都市開発の話にしても、祖父や町の人が簡単に受け入れたわけだ。
 ある程度の成功の確信はあっただろう。

 そう思うと、あって良かったとも思える能力だったな。

「ちょっと見ない間に、2人とも大きくなったね……そして、この村も」
「もう、村ではないけどな」
「でも、私にとっては初めて運営に携わった村ですからね」

 ヘンリーとサリアの頭を軽く撫でたあとで、リーチェの町を目を細めて眺めているとゴートが俺の頭の上に手を置いた。
 俺が幼い2人の弟妹にしたように父もまた俺の頭を優しく撫でたあと、目を細めて街並みを見ている。

「マルコスもよくやってくれているようですね」
「ああ、彼はお前のよき理解者のようだな。お前が王都から送ってきた手紙の内容だけで、これだけの町を作り上げたのだからな」

 本当に頭が下がるよ。
 上下水道もきっちりと作り上げているからか、町の中心には立派な噴水まで。
 さらには、通りの建物と建物の間には、日本にあるようなちょっと大きめの児童公園まで。
 アスレチックと遊具の中間のような、大きなゴテゴテとした滑り台を中心に、ブランコや鉄棒まである。
 年配の方がストレッチや軽い運動ができるような器具もおいてあり、少し懐かしい気持ちになる。

「こうえんであそんでもいいですか?」

 公園の方をじっくりと見ていたら、ヘンリーが母におねだりしていた。

「今日は、せっかくお兄ちゃんが返ってきたんだから、先に別邸でゆっくりしましょう?」

 母が、少し困った様子でたしなめているが。
 地球で暮らしていた時の子供たちの幼い頃や、孫達の小さな頃を思い出してつい笑顔になってしまう。

「私は構いませんよ。どうせ馬車で揺られていただけで、大して疲れてもいませんし。そうですね、あそこのベンチで飲み物でも頂きながら、町の人たちの様子を少し見てみたいですし」

 ヘンリーだけでなく、サリアも少し寂しそうな表情を浮かべたので助け船をだす。
 そんな俺の言葉を聞いた父と母が、顔を見合わせて困った表情を浮かべる。

「本当は、私たちがお前の話を、ゆっくりと聞きたかったのだがな」

 父が困ったようにぼやくと、ヘンリーとサリアに向かって大きく頷く。
 その動きを見て、2人が華やいだように笑顔を弾けさせる。
 時間はいっぱいあるし、少しくらい寄り道してもいいだろう。

「お話なら、ベンチでも十分できますよ。飲み物を買ってきましょう」
「ルーク様、私が行ってまいります」

 俺が目に付いたコーヒーショップで冷たいものでもと考えたら、護衛でついてきていたランスロットが首を横に振ってそちらに歩き出そうとして止まる。
 すでに店のカウンターの前にはフォルスがいて、コーヒーを3つとジュースを2つ買っていた。
 仕事が早い。

 夏とはいえやや涼しいのだが、父と私にはブラックのアイスコーヒーを、母にはキャラメルとミルクがたっぷり入ったアイスコーヒーを買っていた。
 優秀な執事だことで。

 しかし、コーヒーもよくもここまで流行らせたな。
 通りに、喫茶店を含めて、コーヒーを扱っている店が3店舗もあるなんて。

 うーん、フォルスよ……たぶん、父も母も気付かないが、もう少し普通に運べないかな?
 いや運ぶ姿は普通に歩いているように見えるんだけど、お盆に乗せた飲み物が波一つ立てずに普通は無理なんじゃないかな?
 そして渡されたコーヒーのクオリティーもなかなかのものだった。
 前世で飲んだものと、遜色ない程度には。
 
 コピ・ルアクっぽいパッケージの豆を売ってるお店もあったけど、敢えてスルーしておいた。
 こっちは、現物を飲んだことないからな。
 恐らく、本物に近いものになってるとは思うけど。

 うん、ジャコウネコの糞でできてる超高級コーヒーの話はしたけどさ。
 たぶん、同じような狸っぽい動物に、コーヒーの実を食べさせてるとは思うけど。
 試す度胸はない。
 そんなに売れているようにも見えないけど。
 一袋売れたら、だいぶ利益が出るような価格設定にしてあるから、問題ないんだろう。

 さてと、友達が来るまでに、色々と準備をしておかないと。
 どうせ、アルトがリック殿下を連れてくるだろうし。
 殿下が、うちのボードパークに、ものすごく興味をもたれてたからな。
 父と母とも、その辺りの打ち合わせをしておかないと。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!

ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生! せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい! 魔法アリなら色んなことが出来るよね。 無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。 第一巻 2022年9月発売 第二巻 2023年4月下旬発売 第三巻 2023年9月下旬発売 ※※※スピンオフ作品始めました※※※ おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...