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第3章:覚醒編(開き直り)
第2話:聖教会大司祭ドンファン
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「本日はようこそお越しいただきました、ジェニファ様」
目の前のでっぷりと太った男性の挨拶に、俺とジェニファの2人そろって顔を顰める。
寄付をしたのも、ここに目的があって来たのも俺なんだけどな。
ジェニファはただの付き添いだというのに。
「本日用事があって来たのも、寄付をしたのもこちらの方なのですが? 私は、ただの付き添いですよ」
ジェニファが改めて、俺のことを紹介する。
男性が、訝し気にしているが。
「初めまして、ルーカスと申します」
「なるほど、ルーカス様ですか」
男性が俺を、つま先から頭のてっぺんまで品定めするように、いやらしく視線を動かす。
まあ、それなりに良い物を身に着けているのだが。
「では、あちらの部屋で詳しい話をお伺いしましょう」
こちらの都合はお構いなしか?
普通に、寄付とお祈りだけしにきたとか、思わないのかな?
「従者の方はこちらでお待ちください」
教会の奥にある部屋に向かう途中、簡素なソファとテーブルだけの部屋にフォルスが通される。
あからさまにムッとした表情を浮かべていたが、俺が無言で頷くと静かに頷き返してきた。
『まあ、まず何かあるということもないだろうが。もし、おかしなことがあればすぐに報告を』
『はっ』
直接念話で話しかけると、簡単に答えが返ってきた。
まあ、フォルスなら何があってもうまくやるだろう。
「流石、ジェニファ様の付き人ともなると、なかなかに立派な方ですな」
男性が前を歩きながら、そんなことを言っている。
「いえ、彼はルー……カス様の、付き人ですよ」
「ほう? ということは、こちらの少年はかなりの身分の方ということですか?」
またも、こちらにもみ手をしながらいやらしい目を向けてくる。
あまり気分のいいものではないな。
商人じゃあるまいし、手の動きが目障りで仕方ない。
さらに、この男蛙みたいな顔しているから余計にだ。
どうしてこう、典型的な小物悪党面なんかしてるんだ。
性格が、やはり容姿ににじみ出るのか?
それにしても、かなりの身分か。
そうだろうな。
王様だからな。
お前ら曰く……頭に、魔がつくが。
「改めて自己紹介させていただきます。聖教会王都支部大司教を務めさせていただいております、ドンファンと申します」
改めても何も、最初から自己紹介なんかしてないだろう。
こっちを値踏みするのに一生懸命で、礼儀もくそもあったもんじゃなかったぞ?
とりあえず通された部屋で、ソファにどっかりと座ると目の前の男をジッと見る。
高そうな法衣だな。
華美に飾られた室内にあって、なかなかに座りがいいともいえるが。
部屋の調度品も、それなりの値がしそうだ。
割と上位の相手を通す部屋なのかもしれない。
「失礼します」
「うむ」
すぐに、シスターがお茶を持ってきたが。
紅茶か……これも、なかなか良い茶葉を使っているようだ。
モルトの香りが、凄くよくたっている。
室内を柔らかな紅茶の香りが包み込むと、少しだけ心が落ち着くのを感じる。
横ではジェニファも同じように、紅茶の香りを満喫している。
まあ、ここまではおもてなしとして及第点だな。
ただ教会としては、落第もいいところだ。
こんな無駄に贅沢にあつらえた部屋で、高価なティーカップで紅茶を頂く。
目の前のおっさんが法衣を来てなかったら、ここが教会だということを忘れてしまいそうだ。
「これらは全て信者の方の寄付で揃えております。高価なものとはいえ、道具ですから使ってこそというものですよ」
俺の視線から、考えていることを読み取ったか。
それとも、こういった贅を凝らした物を持つことに対して、過去に言及されたことでもあったか?
言い訳がましいとも思ったが、あえて突っ込まない。
「立派な部屋だと思いましてね」
「それなりの名工の品も、少なくないですわね」
「ふふ、信者の中には、物作りを生業にしているものも、少なからずいますし。それなりに名の通った、技師の方もおりますれば」
言い訳としては、何もおかしな点はないが。
そこまで聞いてもないのに、ペラペラとよくしゃべる。
言葉数が増えるってことは、誤魔化そうとしているってことだぞ?
「まあ、道具は使ってこそというのは、私も同意見ですが」
「なるほど、お若いのになかなかに分かっておられる」
何が楽しいのか、ドンファンが膝を叩いて笑っているが。
その目は笑っていない。
何か、こちらを伺うような視線。
部屋にあるものや装いは一級品でも、お前の演技は三流だな。
「ちなみに、聖教会というのは何をもって、信者を救うのですか?」
まずは、教会の教義を問うところからだ。
探りだな。
「我らの信仰する光の女神さまは、誰よりも人を愛しております」
「誰よりも?」
「他の、神々よりもという意味です」
そうなのか?
俺には、自分を信仰する者だけが可愛いと思っているように感じるが。
なんというか、チープなアイドル思考の持ち主というか。
自分を推してくれる信者を集めるのに、一生懸命にしか見えない。
「なるほど、なぜ他の神々よりもと思われるのかな?」
「それは、他の神と比べて、圧倒的に神託や加護を与えてくださり、人を救い導いてくれる方ですから」
目が笑っているが、あまり良い笑顔には見えないな。
信者ってのは銭の種だからな。
俺をどうにか信者として、引き込みたいのだろう。
いまなら、もれなくジェニファもついてくるとか考えているのかもしれない。
「なるほど……であれば、人であれば無条件で救ってくれるのかな?」
「まあ、他の人にとって害とならなければという、ある種正義を司っているとも言えますな」
思わずため息が出そうになるのを、ぐっと堪える。
正義と愛か……なんか、あれだな。
彼女の目指している姿が、なんとなく見えてきたが。
いや、模範としているというよりも、その姿に効果があるとみて利用しているようにも感じるが。
なんだろう。
光の女神……俗っぽいにもほどがある。
「最近も、何やら御神託がなされたとか?」
俺の言葉に、ドンファンが一瞬固まる。
それから、笑みを浮かべて頷く。
今までで、一番いい笑顔だな。
「なるほど、殿下のお知り合いでしたか」
「ああ、親しくさせてもらっている」
嘘は吐いてない。
リック殿下とは、懇意にさせてもらっている。
むしろ、家族ぐるみの付き合いだな。
彼の弟とは、反りが合わないが。
「では、殿下が光の勇者ということも?」
「いや、それは本人からは直接は伺ってませんが」
「知っていると……」
ああ、自称光の勇者ということで、周囲の身内が迷惑しているって話をしっかりと聞いている。
ジェニファが、横で少し顔を顰めていたが。
いま、ドンファンは俺にターゲットロックオンしているからな。
そっちは、視界に入らなかったらしい。
「なるほど、なるほど」
何が、なるほどなんだ?
俺が魔王で、ここに敵情視察に来たことに気付いたなら流石だと思うが。
その顔は、見当違いなことを考えているな。
「それで、殿下のお役に立ちたいとお考えで?」
「まあ、受けた恩は返さないとな……といっても貸しもあるから、いやむしろ、相殺して余りあるかな? ただ今後も、良い関係を続けたいとは思っている」
リック殿下とはな。
「であれば、この教会に興味を持たれたのは正しいことですよ」
「ほう?」
「来るべき魔王の復活に備え、いま多くの地方で信者を増やしているところです。いかに、勇者様といえどもその力の根底にある光の女神さまの加護を多く集めるには、あの御方への信仰を多く集め力を送ることが重要となります」
「魔王ねえ……その魔王の噂も聞いているのだけれども、なかなかに見込みのある人物だと思うんだけどな」
この教会よりは、よほどに。
孤児救済に力を入れ、領地の発展のために寝る間も惜しんで、色々な開発研究を重ねる働き者だ。
そして何も実績をもたず、ただ勇者と呼ばれ調子にのっているどこぞのボンボンよりもよほどにだ。
「騙されておられますね。それは、魔王が自身の存在を隠すために、カモフラージュとして行っている活動の一つですよ。結局、光の女神の神眼の力で暴かれましたが、善人のふりをして埋伏していただけにすぎません」
「とはいえ、悪い噂の一つも聞かないのだが?」
「それこそが、魔王が魔王たる所以ですよ」
言ってる意味が分からないな。
良いことをしているのに、魔王たる所以て……
だめだ、脳みそが腐る。
リカルドもそうだが、なぜこうも光の女神の関係者というのは思考能力が……有体に言って馬鹿なのだろうか?
いや、馬鹿だから騙されると言われたら、それまでなのだが。
「私は自分の見たもの、聞いたものを基準に物事を判断するようにしているからね。いかに、殿下がそのものを魔王だと認めたとしても、私自身で確認しないことには鵜呑みにはできないんですよ」
「なるほど……神のお言葉を疑いになると?」
俺の言葉に、ドンファンの目つきが険しいものになる。
「ゴホン」
彼が睨みつけるようにこちらを見てきた瞬間に、横から可愛らしい咳払いが。
「私の大事な人に、そのような目を向けて……覚悟はおありなのかしら?」
「あっ、いえ……そういうわけでは」
ジェニファの言葉に、ドンファンが慌てて目を逸らして汗を拭いている。
なるほど……役に立つって、こういう意味だったの?
俺の身分を保証してくれる程度だと思っていたけど、思った以上に物理で手伝いにきた。
「神の言葉を信じていないんじゃなくて、神の言葉を聞いていないから判断材料に入れてないだけですよ。私の元に神託があれば……まあ、まずはそれが本当に神かという確認から入りますが」
「不敬な……」
「何がどう不敬なのですか? 聖職者ともあろうお方が、感情で動かれるのですか? その目は憎悪ですか? 軽蔑ですか? おおよそ、司教がされるようなお顔ではありませんよ」
ジェニファさん、少し黙ってもらえないかな。
「ジェニファ、少し」
「ああ、すみません。つい、私の大事な人に無礼な目を向けるものがいらして……」
つい、呼び捨てで注意してしまったが、なぜか頬を染めてはにかんだような笑みを浮かべて俯いてしまった。
いや、勘違いというか、そこまで鈍くないからそうなのだろうと思うけど。
たぶん、下級貴族に呼び捨てにされた怒りで朱に染まったわけじゃないことくらいは……うん、分かるよ?
「彼女のいうことも、ごもっともですけどね。司教様というわりには、いささか狭量で短慮に過ぎる言動が目に着きますね……もう少し、慎重に動くべきだと理解できました」
「どういうことでしょうか?」
「ふ……ふふ、胡散臭いんですよね? 正直に言って……聖教会……」
「なっ!」
やっぱり、我慢すべきではないな。
なぜか、まともな人を期待してしまったが。
いや、ジェニファーが先にキレッキレで、落ち着いてしまってゆっくりになった感はある。
一人だったら受付の時点で名前をルークと書いて、職業魔王とでも書いていたかもしれない。
ちょっと落ち着いた感じで、論理的にどうこうしてと……ジェニファーに見栄を張ろうとしてしまったところも、僅かながらにあったり。
無駄だったけど。
最初から、直球で勝負すべきだった。
「そもそも、不敬なのはお前たちが信仰する光の女神だろう? ただの光属性という聖属性の紛い物の分際で聖なる教会だ? あげくに、ただの人を捕まえて魔王に仕立て上げて、何を企んでいるんだ?」
「神を侮辱するのか! この罰当たりめ!」
「罰当たり? いつどこで、罰が当たった? 教えてくれないか? 神が見ているなら、いまこの瞬間に罰が当たるんじゃないのか?」
たぶん、見てるんだろうけど。
手が出せるなら、出してみるがいい光の女神よ。
いま、すぐそばにいるのはフォルスだからな?
闇の神が傍にいる状態で、俺に喧嘩が売れるならどうぞ?
「詭弁を」
「それは、こちらのセリフだな。じゃあ、聖教会の司祭や司教様は聖属性を扱えるので?」
「ふん、光の女神様がくださった、奇跡の御力を聖属性と呼ばずになんとよぶ!」
「だから、ただの光属性だって……聖属性とはまるで違うものだぞ?」
目の前のでっぷりと太った男性の挨拶に、俺とジェニファの2人そろって顔を顰める。
寄付をしたのも、ここに目的があって来たのも俺なんだけどな。
ジェニファはただの付き添いだというのに。
「本日用事があって来たのも、寄付をしたのもこちらの方なのですが? 私は、ただの付き添いですよ」
ジェニファが改めて、俺のことを紹介する。
男性が、訝し気にしているが。
「初めまして、ルーカスと申します」
「なるほど、ルーカス様ですか」
男性が俺を、つま先から頭のてっぺんまで品定めするように、いやらしく視線を動かす。
まあ、それなりに良い物を身に着けているのだが。
「では、あちらの部屋で詳しい話をお伺いしましょう」
こちらの都合はお構いなしか?
普通に、寄付とお祈りだけしにきたとか、思わないのかな?
「従者の方はこちらでお待ちください」
教会の奥にある部屋に向かう途中、簡素なソファとテーブルだけの部屋にフォルスが通される。
あからさまにムッとした表情を浮かべていたが、俺が無言で頷くと静かに頷き返してきた。
『まあ、まず何かあるということもないだろうが。もし、おかしなことがあればすぐに報告を』
『はっ』
直接念話で話しかけると、簡単に答えが返ってきた。
まあ、フォルスなら何があってもうまくやるだろう。
「流石、ジェニファ様の付き人ともなると、なかなかに立派な方ですな」
男性が前を歩きながら、そんなことを言っている。
「いえ、彼はルー……カス様の、付き人ですよ」
「ほう? ということは、こちらの少年はかなりの身分の方ということですか?」
またも、こちらにもみ手をしながらいやらしい目を向けてくる。
あまり気分のいいものではないな。
商人じゃあるまいし、手の動きが目障りで仕方ない。
さらに、この男蛙みたいな顔しているから余計にだ。
どうしてこう、典型的な小物悪党面なんかしてるんだ。
性格が、やはり容姿ににじみ出るのか?
それにしても、かなりの身分か。
そうだろうな。
王様だからな。
お前ら曰く……頭に、魔がつくが。
「改めて自己紹介させていただきます。聖教会王都支部大司教を務めさせていただいております、ドンファンと申します」
改めても何も、最初から自己紹介なんかしてないだろう。
こっちを値踏みするのに一生懸命で、礼儀もくそもあったもんじゃなかったぞ?
とりあえず通された部屋で、ソファにどっかりと座ると目の前の男をジッと見る。
高そうな法衣だな。
華美に飾られた室内にあって、なかなかに座りがいいともいえるが。
部屋の調度品も、それなりの値がしそうだ。
割と上位の相手を通す部屋なのかもしれない。
「失礼します」
「うむ」
すぐに、シスターがお茶を持ってきたが。
紅茶か……これも、なかなか良い茶葉を使っているようだ。
モルトの香りが、凄くよくたっている。
室内を柔らかな紅茶の香りが包み込むと、少しだけ心が落ち着くのを感じる。
横ではジェニファも同じように、紅茶の香りを満喫している。
まあ、ここまではおもてなしとして及第点だな。
ただ教会としては、落第もいいところだ。
こんな無駄に贅沢にあつらえた部屋で、高価なティーカップで紅茶を頂く。
目の前のおっさんが法衣を来てなかったら、ここが教会だということを忘れてしまいそうだ。
「これらは全て信者の方の寄付で揃えております。高価なものとはいえ、道具ですから使ってこそというものですよ」
俺の視線から、考えていることを読み取ったか。
それとも、こういった贅を凝らした物を持つことに対して、過去に言及されたことでもあったか?
言い訳がましいとも思ったが、あえて突っ込まない。
「立派な部屋だと思いましてね」
「それなりの名工の品も、少なくないですわね」
「ふふ、信者の中には、物作りを生業にしているものも、少なからずいますし。それなりに名の通った、技師の方もおりますれば」
言い訳としては、何もおかしな点はないが。
そこまで聞いてもないのに、ペラペラとよくしゃべる。
言葉数が増えるってことは、誤魔化そうとしているってことだぞ?
「まあ、道具は使ってこそというのは、私も同意見ですが」
「なるほど、お若いのになかなかに分かっておられる」
何が楽しいのか、ドンファンが膝を叩いて笑っているが。
その目は笑っていない。
何か、こちらを伺うような視線。
部屋にあるものや装いは一級品でも、お前の演技は三流だな。
「ちなみに、聖教会というのは何をもって、信者を救うのですか?」
まずは、教会の教義を問うところからだ。
探りだな。
「我らの信仰する光の女神さまは、誰よりも人を愛しております」
「誰よりも?」
「他の、神々よりもという意味です」
そうなのか?
俺には、自分を信仰する者だけが可愛いと思っているように感じるが。
なんというか、チープなアイドル思考の持ち主というか。
自分を推してくれる信者を集めるのに、一生懸命にしか見えない。
「なるほど、なぜ他の神々よりもと思われるのかな?」
「それは、他の神と比べて、圧倒的に神託や加護を与えてくださり、人を救い導いてくれる方ですから」
目が笑っているが、あまり良い笑顔には見えないな。
信者ってのは銭の種だからな。
俺をどうにか信者として、引き込みたいのだろう。
いまなら、もれなくジェニファもついてくるとか考えているのかもしれない。
「なるほど……であれば、人であれば無条件で救ってくれるのかな?」
「まあ、他の人にとって害とならなければという、ある種正義を司っているとも言えますな」
思わずため息が出そうになるのを、ぐっと堪える。
正義と愛か……なんか、あれだな。
彼女の目指している姿が、なんとなく見えてきたが。
いや、模範としているというよりも、その姿に効果があるとみて利用しているようにも感じるが。
なんだろう。
光の女神……俗っぽいにもほどがある。
「最近も、何やら御神託がなされたとか?」
俺の言葉に、ドンファンが一瞬固まる。
それから、笑みを浮かべて頷く。
今までで、一番いい笑顔だな。
「なるほど、殿下のお知り合いでしたか」
「ああ、親しくさせてもらっている」
嘘は吐いてない。
リック殿下とは、懇意にさせてもらっている。
むしろ、家族ぐるみの付き合いだな。
彼の弟とは、反りが合わないが。
「では、殿下が光の勇者ということも?」
「いや、それは本人からは直接は伺ってませんが」
「知っていると……」
ああ、自称光の勇者ということで、周囲の身内が迷惑しているって話をしっかりと聞いている。
ジェニファが、横で少し顔を顰めていたが。
いま、ドンファンは俺にターゲットロックオンしているからな。
そっちは、視界に入らなかったらしい。
「なるほど、なるほど」
何が、なるほどなんだ?
俺が魔王で、ここに敵情視察に来たことに気付いたなら流石だと思うが。
その顔は、見当違いなことを考えているな。
「それで、殿下のお役に立ちたいとお考えで?」
「まあ、受けた恩は返さないとな……といっても貸しもあるから、いやむしろ、相殺して余りあるかな? ただ今後も、良い関係を続けたいとは思っている」
リック殿下とはな。
「であれば、この教会に興味を持たれたのは正しいことですよ」
「ほう?」
「来るべき魔王の復活に備え、いま多くの地方で信者を増やしているところです。いかに、勇者様といえどもその力の根底にある光の女神さまの加護を多く集めるには、あの御方への信仰を多く集め力を送ることが重要となります」
「魔王ねえ……その魔王の噂も聞いているのだけれども、なかなかに見込みのある人物だと思うんだけどな」
この教会よりは、よほどに。
孤児救済に力を入れ、領地の発展のために寝る間も惜しんで、色々な開発研究を重ねる働き者だ。
そして何も実績をもたず、ただ勇者と呼ばれ調子にのっているどこぞのボンボンよりもよほどにだ。
「騙されておられますね。それは、魔王が自身の存在を隠すために、カモフラージュとして行っている活動の一つですよ。結局、光の女神の神眼の力で暴かれましたが、善人のふりをして埋伏していただけにすぎません」
「とはいえ、悪い噂の一つも聞かないのだが?」
「それこそが、魔王が魔王たる所以ですよ」
言ってる意味が分からないな。
良いことをしているのに、魔王たる所以て……
だめだ、脳みそが腐る。
リカルドもそうだが、なぜこうも光の女神の関係者というのは思考能力が……有体に言って馬鹿なのだろうか?
いや、馬鹿だから騙されると言われたら、それまでなのだが。
「私は自分の見たもの、聞いたものを基準に物事を判断するようにしているからね。いかに、殿下がそのものを魔王だと認めたとしても、私自身で確認しないことには鵜呑みにはできないんですよ」
「なるほど……神のお言葉を疑いになると?」
俺の言葉に、ドンファンの目つきが険しいものになる。
「ゴホン」
彼が睨みつけるようにこちらを見てきた瞬間に、横から可愛らしい咳払いが。
「私の大事な人に、そのような目を向けて……覚悟はおありなのかしら?」
「あっ、いえ……そういうわけでは」
ジェニファの言葉に、ドンファンが慌てて目を逸らして汗を拭いている。
なるほど……役に立つって、こういう意味だったの?
俺の身分を保証してくれる程度だと思っていたけど、思った以上に物理で手伝いにきた。
「神の言葉を信じていないんじゃなくて、神の言葉を聞いていないから判断材料に入れてないだけですよ。私の元に神託があれば……まあ、まずはそれが本当に神かという確認から入りますが」
「不敬な……」
「何がどう不敬なのですか? 聖職者ともあろうお方が、感情で動かれるのですか? その目は憎悪ですか? 軽蔑ですか? おおよそ、司教がされるようなお顔ではありませんよ」
ジェニファさん、少し黙ってもらえないかな。
「ジェニファ、少し」
「ああ、すみません。つい、私の大事な人に無礼な目を向けるものがいらして……」
つい、呼び捨てで注意してしまったが、なぜか頬を染めてはにかんだような笑みを浮かべて俯いてしまった。
いや、勘違いというか、そこまで鈍くないからそうなのだろうと思うけど。
たぶん、下級貴族に呼び捨てにされた怒りで朱に染まったわけじゃないことくらいは……うん、分かるよ?
「彼女のいうことも、ごもっともですけどね。司教様というわりには、いささか狭量で短慮に過ぎる言動が目に着きますね……もう少し、慎重に動くべきだと理解できました」
「どういうことでしょうか?」
「ふ……ふふ、胡散臭いんですよね? 正直に言って……聖教会……」
「なっ!」
やっぱり、我慢すべきではないな。
なぜか、まともな人を期待してしまったが。
いや、ジェニファーが先にキレッキレで、落ち着いてしまってゆっくりになった感はある。
一人だったら受付の時点で名前をルークと書いて、職業魔王とでも書いていたかもしれない。
ちょっと落ち着いた感じで、論理的にどうこうしてと……ジェニファーに見栄を張ろうとしてしまったところも、僅かながらにあったり。
無駄だったけど。
最初から、直球で勝負すべきだった。
「そもそも、不敬なのはお前たちが信仰する光の女神だろう? ただの光属性という聖属性の紛い物の分際で聖なる教会だ? あげくに、ただの人を捕まえて魔王に仕立て上げて、何を企んでいるんだ?」
「神を侮辱するのか! この罰当たりめ!」
「罰当たり? いつどこで、罰が当たった? 教えてくれないか? 神が見ているなら、いまこの瞬間に罰が当たるんじゃないのか?」
たぶん、見てるんだろうけど。
手が出せるなら、出してみるがいい光の女神よ。
いま、すぐそばにいるのはフォルスだからな?
闇の神が傍にいる状態で、俺に喧嘩が売れるならどうぞ?
「詭弁を」
「それは、こちらのセリフだな。じゃあ、聖教会の司祭や司教様は聖属性を扱えるので?」
「ふん、光の女神様がくださった、奇跡の御力を聖属性と呼ばずになんとよぶ!」
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