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第2章:王都学園編
第19話:ジーマの森の精霊
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「その、先ほどの魔法は無詠唱とも違うような感じだったのですが」
「あー、もう普通に喋ってもらっていいですよ? ゴウエモンさんは私の剣の先生でもあるので」
「いや、しかし……魔法込みでいけば、某はルーク様に勝てる気がしませんが?」
そうじゃないんだよ。
アルトとの訓練もそうだけど、剣の勝負で魔法ってのはズルだと思うんだ。
ジャスパー相手には容赦なく使っても良い気がするけど。
今のところ、使ったことは無いけど。
使うまでもないといった方がいいかもしれないが。
「剣ではまず勝てないので、そんな細かいことはどうでも良いんです」
「ええ? まあ、はい」
ゴウエモンが納得のいっていない表情を浮かべているが、今は剣の先生だから良いんだって。
意外と気が小さいというか、思ったよりも小心者なのかもしれない。
「それで、話を戻しますが先ほどのアレは?」
「確かに無詠唱ではないかな? あれは、魔力の直接変換だから」
「直接変換?」
「本来詠唱というのは、魔法を起こす際に明確なイメージを作ることを手助けすることと、その属性を司る存在へ力を借りることへの承諾を得るすためにあるようなものです」
「なるほど……言葉自体に力が宿っているものだと思ってました」
前提条件からして、少し違うな。
確かに、この世界の常識では言葉の羅列とその言葉自体に言霊のように力が籠っていて、その言葉の持つ力と魔力が反応しあって魔法が発動すると考えられている。
まあ、精霊や神に働きかけるという意味では言葉自体に意味があるので、その認識でも間違いではないのだが。
呪文に反応して魔法の威力や効果が明確に現れるから、余計に言霊というものが信じられている。
だからかこの世界では、言葉というのはそれだけ重いものとされている。
口約束ですら、破ることを憚られるほどに。
だから、嘘がつきやすく、詐欺の行いやすい世界ともいえるが。
実際、嘘つきが得してることも多いし。
「概ねその認識でいいのですが、私の魔法は精霊や神に力を借りることなく独自で完結しているので」
「???」
理解できてないな。
いや、言葉の意味は分かっただろうが、意味が分からないんだろうな。
「その説明では、ルーク様自身がまるで精霊か神のように聞こえますが」
おいフォルス、嬉しそうにするな。
ゴウエモンの言葉にフォルスが満足したような表情で頷いているのを見て、思わずため息を吐く。
俺はまだ神じゃない。
たまたま、魔力を変化させることを最初に覚えただけだ。
「ちょっと違うかな?」
「ちょっとしか違わないんですか?」
いやまあ、そういうふうに取れなくもないけど。
少し、落ち着こうか?
「まず、魔法が発動するにあたって、魔力の流れや変化のメカニズムが……」
だめだ、メカニズムの時点で、目が泳いでいる。
たぶん、全然分かってない。
「魔法の理を理解して、魔力を直接その結果に変化させているというか……そうですね、例えば鉄の剣を作るのに、何度も熱した鉄を叩いて伸ばして、重ねてまた叩いてという工程を行いますよね?」
「なぜ急に剣の話になったのか分かりませんが、そうですね」
「私の魔法をそれに例えると、理想的な剣の形をした型に鉄を重ねて置くこと、超高温で溶かすこと、理想的な圧力で重ねること、そして冷気で冷やす工程を同時に行うイメージを持ちます」
「ふむ」
「で出来上がるであろう剣を思い描いて鉄鉱石に触れると剣になるような、そんな感じですね」
「いや、意味が分からない」
「卵焼きをイメージして卵を割ると、中から卵焼きが出てくるような」
「ますます、意味が分からない。まるで魔法ですね」
「うん、魔法だよ?」
なかなかに、説明が難しいな。
こればっかりは、そういうものと思ってもらうしかない。
「ということは、無詠唱よりも早いということですか?」
「まあ、使いたい魔法をノータイムで撃てるから」
「それは……」
ゴウエモンが眉間に深い皺を刻んで、凄く深刻な様子で悩み始めた。
「やはり、神では?」
「まだ、違うよ」
「まだ……ですか」
まだ、だな。
なかなか、人に説明するのは難しいな。
とりあえず、ゴウエモンが目的のミシアの樹がだいぶ近づいているとは言っているが。
そこまでに行く途中で、おかしな気配も感じる。
気配自体は大きくないのに、魔力量が半端ない。
「ルーク様……」
「うん、少し強そうなのがいるね」
森の奥とはいえ、中心部からは程遠い場所。
にもかかわらず、この森でもかなり上位に位置するであろう魔物の気配を感じる。
フォルスもいるし、問題はないと思うのだけれども。
「少し強そう……ですか」
「うん、気配としては精霊に似ているけど」
「精霊ですか」
精霊っぽいんだけどね。
うちの領地に加護持ちが増えたお陰で、俺も精霊を感じたりあったことはあるけど。
ただ、禍々しというか。
荒々しいというか……
「ただの精霊じゃないですね……この先にいるのは魔精霊。闇堕ちしてます」
「じゃあ、フォルスの管轄じゃないの?」
「属性としての闇ではなく、存在自体が負の方へと傾いている状態です」
ちょっとからかっただけなのに、真面目な回答が返ってきた。
しかし、闇落ちした精霊か。
「そしてこちらにも気づいてますよ? というか、目的はルーク様のようです」
「俺?」
おっと、思わず素の口調が出てしまった。
「私に何か用でもあるのかな?」
「ええ、おそらくはその魔力を狙っているのだと思います……あれらは、他の生物の魔力を奪う性質ももってますので」
「ここまできてあれだが、引き返した方が良いんじゃないですか?」
フォルスの言葉に、ゴウエモンが少し表情を厳しくしている。
精霊ともなると、その魔法は人間が太刀打ちできるものではないからな。
面倒だと思っているのかもしれない。
それか、純粋に彼自身では勝ち目がないと思っているのかも。
「いや、とりあえず葉が欲しいから、普通に進むよ? 邪魔なら、排除すればいいだけだし」
「ですね」
「ですよねー」
奇しくも、フォルスとゴウエモンが似たようなことを口にしていた。
意味合いは、全く違ってそうだが。
そして、しばらく進むとなるほど……
真っ黒なローブを纏った老人が、大きな石に腰掛けて俯いてる。
ただ、こちらをしっかりと見るような気配は感じる。
目ではなく、感覚で見ているのかな。
「あれが精霊?」
思わず、変な顔をしてしまった。
精霊っていうくらいだから、もう少し可愛いのを想像したんだけど。
「精霊には色々な形のものがいますからね。光の球だったり、蜥蜴だったり、勿論代表的なシルフとかは、妖精族に近い容姿をしてますが」
じゃあ、あれは何の精霊なのかな?
「闇の精霊ですね」
やっぱり、フォルスの管轄じゃんと思ったが。
あえて、突っ込まずに視線だけ向けておく。
少し、申し訳なさそうな表情をしたフォルスに、思わず笑いそうになってしまった。
「闇の精霊ってことは、やばいんじゃないですか?」
「私は大丈夫ですし、ルーク様も問題ないかと」
うん、闇の精霊は影も自在に操れるからね。
森の中とか、本当に彼のテリトリーといっても過言じゃない。
すでに、いま立っている場所が危険地帯ともいえる。
……普通の人にとっては。
「某は……流石に最初から全力でいかしてもらいますよ」
おお、ゴウエモンが上を向いて思いっきり力んだら、全身が膨らみ始めたよ。
服が破れないのが不思議だ。
まあ、そういう種族だから、そういう服も作れるように頑張ったのかもしれないが。
「ふぅ……この姿だと、どうも気持ちが荒ぶっていかん。いつもほど、優しくはなれんぞ?」
そういって、闇堕ちした闇精霊を睨みつけているが。
ゴウエモンのいつもの優しさを、知らないんだけどね。
「老人だからって、手加減「ストーップ!」」
そう言って、突っ込みかけたゴウエモンの服の襟をつかむ。
「グエッ!}
思いっきり首が絞まって、ありがちな悲鳴をあげている。
面白いけど、笑ったら怒られそうだ。
「何しやがる!」
あっ、笑ってないのに怒られた。
「ん? 止めないと、首と身体が離れてたけどいいのかな?」
「はあ?」
俺の言葉が理解できないのか、ゴウエモンが顔を顰めている。
怖いよ……狼のしかめっ面。
「ほら」
手ごろな枝を拾って思いっきり前方に投げると、途中で何かにぶつかったかのように弾んでクルクルと回転しながらすぐ先に落ちる。
「魔力糸が張ってある、かなり細いやつ」
「ちっ、すでに奴の術中ってことか……」
ゴウエモンが悔しそうな顔をしているが、まずは助けてもらったことに感謝してもらいたんだけど?
「他にも色々と仕掛けているみたいだけどさ……」
「小賢しい真似を」
その小狡い罠に、引っかかりそうになったくせに。
まあ、いいけどさ。
「さて「いや、さてってなに? 殺そうとしてない?」」
そんなやり取りをしていたら、フォルスが首をならしながら前に出たので、そっちも襟をつかんで止める。
「ちょっと、行って露払いを」
「なんていうか、露どころか露の付いた草を地面事吹き飛ばすようなやつだよね?」
「闇の力を全て奪って、精霊としての存在意義を消すだけですよ?」
「それって、存在そのものも消えちゃうよね?」
「ええ、まあ」
ええ、まあじゃないよ。
生き物に対して、そこまで思い入れがないのはまだいい。
でも、精霊は違うんじゃないかな?
と思ったけど、神からしたら一緒なのかもしれない。
「とりあえず、俺がやる」
「ルーク様が?」
「できないとでも?」
「いや、私と同じことしかできないかと思ってました」
その評価はどうなのだろうか?
フォルス並みという評価なら受け入れられるけど、俺がなんでもかんでも障害物を破壊するとか思われているなら断固抗議しないといけない。
ふと、闇精霊の方に視線を向けるとすでに姿がない。
「ほう? なかなか良い目をもっているじゃないかい」
「遅いよ?」
とりあえず、目の前に向かって軽く【光球】を放つ。
ただ照らすだけの魔法だけど。
それでも十分だ。
目の前に現れた闇精霊が、すぐに距離を取るのが面白い。
だって、転移で目の前に来たくせに、下がるのは普通に自分の足でって。
まあ、転移で目の前に現れて、すぐ転移で離れるのもダサいけど。
その手にはデスサイズというか、死神の大鎌のようなものを持っている。
実体があるのか、不明な雰囲気だな。
まあ、残念ながらその鎌を使わせるまでもなく、光の魔法を足に纏わせて蹴り飛ばしたけど。
いや、蹴り飛ばしたつもりだったけど、上半身と下半身に切り裂いてしまった。
下半身はすぐに掻き消えたけど、上半身だけの闇精霊は一瞬苦しそうな表情を浮かべていたな。
すぐに、離れた場所に完全な状態で現れたが、ダメージは入ってそうだ。
「馬鹿な!」
「遅いって!}
「くっ」
その場所も予測できていたので、すでに背後に回るようにコンマ秒差でこっちも転移する。
クイックを使えば、相手の転移の発動に合わせてこっちも転移を合わせられるからね。
凄いよ3倍速。
今度は上から剣をで切り付けてみるが、凄い焦った表情で躱してて滑稽だ。
必死だなとでも、言ってやりたい。
「たかが人間のくせに、精霊に「たかが、人間ですって?」」
「あっ」
すぐにまた、遠くに転移した闇精霊の背後に、今度は同じように転移したフォルスが立っていて彼を睨みつていた。
予想外の人物に先を越されたことで、思わず変な声が出てしまったが。
手を出してこないと、思ってたのに。
「たかが、精霊の分際で我が主に「フォルス」」
このままだと、フォルスが闇精霊を消しそうだったので、威圧を込めて名前を呼ぶ。
「はっ、出過ぎた真似をしました」
すぐに、フォルスが横に戻ってきた。
闇精霊があからさまにほっとした様子だけど……
いや俺いま、たかが人間なんだから。
人間扱いされたことで、そんなに腹立てなくても。
「どうどう」
「私は、落ち着いてますよ?」
「そうですね、お二方とも落ち着き過ぎでは?」
俺とフォルスのやり取りに、強面の狼男が溜息を吐いている。
気持ちの高ぶりはどこいった?
お前も、十分落ち着いているぞ?
「くそっ」
そして、この場に落ち着いてない奴が一人。
すぐに、その表情から余裕が消える。
残念だけど、その距離なら俺も転移が使えるんだよね。
「で、君の意味が分からないんだけど?」
「貴様、人間ではないな?」
「失礼な」
そういうことを言うと、すぐ怒る人がいるからやめなさいって。
「どうどう」
「わざわざ、戻ってこられなくても大丈夫です」
とりあえず、転移でフォルスのところに戻って宥めてみる。
凄く落ち着いているな。
あっ、こいつ!
「フォルス?」
「えっ?」
明らかに、ギクッてなってるけど。
神様って感情隠すのが下手なのかな?
普段は感情を感じさせないようなイメージなのに、あれは感情を隠しているんじゃなくて、本当に何も考えてないのか。
「失礼なことを、考えてませんか?」
「えっ?」
「ルーク様は、心が伝わりやすいので」
お前には、言われたくない。
「わしを、無視するな!」
「無視されてないから、注意しに戻っただけだよ?」
うん、明らかに闇精霊の持つオーラが小さくなっているのが、遠目に見るとよく分かる。
「某の存在意義が、すでに風前の灯」
「ピクニックだから」
ゴウエモンが、完全に戦意を無くしたのか、剣を鞘にしまってしまった。
まあ、俺一人の方がやりやすいというか。
どうにか、ならないかなと……
「あー、もう普通に喋ってもらっていいですよ? ゴウエモンさんは私の剣の先生でもあるので」
「いや、しかし……魔法込みでいけば、某はルーク様に勝てる気がしませんが?」
そうじゃないんだよ。
アルトとの訓練もそうだけど、剣の勝負で魔法ってのはズルだと思うんだ。
ジャスパー相手には容赦なく使っても良い気がするけど。
今のところ、使ったことは無いけど。
使うまでもないといった方がいいかもしれないが。
「剣ではまず勝てないので、そんな細かいことはどうでも良いんです」
「ええ? まあ、はい」
ゴウエモンが納得のいっていない表情を浮かべているが、今は剣の先生だから良いんだって。
意外と気が小さいというか、思ったよりも小心者なのかもしれない。
「それで、話を戻しますが先ほどのアレは?」
「確かに無詠唱ではないかな? あれは、魔力の直接変換だから」
「直接変換?」
「本来詠唱というのは、魔法を起こす際に明確なイメージを作ることを手助けすることと、その属性を司る存在へ力を借りることへの承諾を得るすためにあるようなものです」
「なるほど……言葉自体に力が宿っているものだと思ってました」
前提条件からして、少し違うな。
確かに、この世界の常識では言葉の羅列とその言葉自体に言霊のように力が籠っていて、その言葉の持つ力と魔力が反応しあって魔法が発動すると考えられている。
まあ、精霊や神に働きかけるという意味では言葉自体に意味があるので、その認識でも間違いではないのだが。
呪文に反応して魔法の威力や効果が明確に現れるから、余計に言霊というものが信じられている。
だからかこの世界では、言葉というのはそれだけ重いものとされている。
口約束ですら、破ることを憚られるほどに。
だから、嘘がつきやすく、詐欺の行いやすい世界ともいえるが。
実際、嘘つきが得してることも多いし。
「概ねその認識でいいのですが、私の魔法は精霊や神に力を借りることなく独自で完結しているので」
「???」
理解できてないな。
いや、言葉の意味は分かっただろうが、意味が分からないんだろうな。
「その説明では、ルーク様自身がまるで精霊か神のように聞こえますが」
おいフォルス、嬉しそうにするな。
ゴウエモンの言葉にフォルスが満足したような表情で頷いているのを見て、思わずため息を吐く。
俺はまだ神じゃない。
たまたま、魔力を変化させることを最初に覚えただけだ。
「ちょっと違うかな?」
「ちょっとしか違わないんですか?」
いやまあ、そういうふうに取れなくもないけど。
少し、落ち着こうか?
「まず、魔法が発動するにあたって、魔力の流れや変化のメカニズムが……」
だめだ、メカニズムの時点で、目が泳いでいる。
たぶん、全然分かってない。
「魔法の理を理解して、魔力を直接その結果に変化させているというか……そうですね、例えば鉄の剣を作るのに、何度も熱した鉄を叩いて伸ばして、重ねてまた叩いてという工程を行いますよね?」
「なぜ急に剣の話になったのか分かりませんが、そうですね」
「私の魔法をそれに例えると、理想的な剣の形をした型に鉄を重ねて置くこと、超高温で溶かすこと、理想的な圧力で重ねること、そして冷気で冷やす工程を同時に行うイメージを持ちます」
「ふむ」
「で出来上がるであろう剣を思い描いて鉄鉱石に触れると剣になるような、そんな感じですね」
「いや、意味が分からない」
「卵焼きをイメージして卵を割ると、中から卵焼きが出てくるような」
「ますます、意味が分からない。まるで魔法ですね」
「うん、魔法だよ?」
なかなかに、説明が難しいな。
こればっかりは、そういうものと思ってもらうしかない。
「ということは、無詠唱よりも早いということですか?」
「まあ、使いたい魔法をノータイムで撃てるから」
「それは……」
ゴウエモンが眉間に深い皺を刻んで、凄く深刻な様子で悩み始めた。
「やはり、神では?」
「まだ、違うよ」
「まだ……ですか」
まだ、だな。
なかなか、人に説明するのは難しいな。
とりあえず、ゴウエモンが目的のミシアの樹がだいぶ近づいているとは言っているが。
そこまでに行く途中で、おかしな気配も感じる。
気配自体は大きくないのに、魔力量が半端ない。
「ルーク様……」
「うん、少し強そうなのがいるね」
森の奥とはいえ、中心部からは程遠い場所。
にもかかわらず、この森でもかなり上位に位置するであろう魔物の気配を感じる。
フォルスもいるし、問題はないと思うのだけれども。
「少し強そう……ですか」
「うん、気配としては精霊に似ているけど」
「精霊ですか」
精霊っぽいんだけどね。
うちの領地に加護持ちが増えたお陰で、俺も精霊を感じたりあったことはあるけど。
ただ、禍々しというか。
荒々しいというか……
「ただの精霊じゃないですね……この先にいるのは魔精霊。闇堕ちしてます」
「じゃあ、フォルスの管轄じゃないの?」
「属性としての闇ではなく、存在自体が負の方へと傾いている状態です」
ちょっとからかっただけなのに、真面目な回答が返ってきた。
しかし、闇落ちした精霊か。
「そしてこちらにも気づいてますよ? というか、目的はルーク様のようです」
「俺?」
おっと、思わず素の口調が出てしまった。
「私に何か用でもあるのかな?」
「ええ、おそらくはその魔力を狙っているのだと思います……あれらは、他の生物の魔力を奪う性質ももってますので」
「ここまできてあれだが、引き返した方が良いんじゃないですか?」
フォルスの言葉に、ゴウエモンが少し表情を厳しくしている。
精霊ともなると、その魔法は人間が太刀打ちできるものではないからな。
面倒だと思っているのかもしれない。
それか、純粋に彼自身では勝ち目がないと思っているのかも。
「いや、とりあえず葉が欲しいから、普通に進むよ? 邪魔なら、排除すればいいだけだし」
「ですね」
「ですよねー」
奇しくも、フォルスとゴウエモンが似たようなことを口にしていた。
意味合いは、全く違ってそうだが。
そして、しばらく進むとなるほど……
真っ黒なローブを纏った老人が、大きな石に腰掛けて俯いてる。
ただ、こちらをしっかりと見るような気配は感じる。
目ではなく、感覚で見ているのかな。
「あれが精霊?」
思わず、変な顔をしてしまった。
精霊っていうくらいだから、もう少し可愛いのを想像したんだけど。
「精霊には色々な形のものがいますからね。光の球だったり、蜥蜴だったり、勿論代表的なシルフとかは、妖精族に近い容姿をしてますが」
じゃあ、あれは何の精霊なのかな?
「闇の精霊ですね」
やっぱり、フォルスの管轄じゃんと思ったが。
あえて、突っ込まずに視線だけ向けておく。
少し、申し訳なさそうな表情をしたフォルスに、思わず笑いそうになってしまった。
「闇の精霊ってことは、やばいんじゃないですか?」
「私は大丈夫ですし、ルーク様も問題ないかと」
うん、闇の精霊は影も自在に操れるからね。
森の中とか、本当に彼のテリトリーといっても過言じゃない。
すでに、いま立っている場所が危険地帯ともいえる。
……普通の人にとっては。
「某は……流石に最初から全力でいかしてもらいますよ」
おお、ゴウエモンが上を向いて思いっきり力んだら、全身が膨らみ始めたよ。
服が破れないのが不思議だ。
まあ、そういう種族だから、そういう服も作れるように頑張ったのかもしれないが。
「ふぅ……この姿だと、どうも気持ちが荒ぶっていかん。いつもほど、優しくはなれんぞ?」
そういって、闇堕ちした闇精霊を睨みつけているが。
ゴウエモンのいつもの優しさを、知らないんだけどね。
「老人だからって、手加減「ストーップ!」」
そう言って、突っ込みかけたゴウエモンの服の襟をつかむ。
「グエッ!}
思いっきり首が絞まって、ありがちな悲鳴をあげている。
面白いけど、笑ったら怒られそうだ。
「何しやがる!」
あっ、笑ってないのに怒られた。
「ん? 止めないと、首と身体が離れてたけどいいのかな?」
「はあ?」
俺の言葉が理解できないのか、ゴウエモンが顔を顰めている。
怖いよ……狼のしかめっ面。
「ほら」
手ごろな枝を拾って思いっきり前方に投げると、途中で何かにぶつかったかのように弾んでクルクルと回転しながらすぐ先に落ちる。
「魔力糸が張ってある、かなり細いやつ」
「ちっ、すでに奴の術中ってことか……」
ゴウエモンが悔しそうな顔をしているが、まずは助けてもらったことに感謝してもらいたんだけど?
「他にも色々と仕掛けているみたいだけどさ……」
「小賢しい真似を」
その小狡い罠に、引っかかりそうになったくせに。
まあ、いいけどさ。
「さて「いや、さてってなに? 殺そうとしてない?」」
そんなやり取りをしていたら、フォルスが首をならしながら前に出たので、そっちも襟をつかんで止める。
「ちょっと、行って露払いを」
「なんていうか、露どころか露の付いた草を地面事吹き飛ばすようなやつだよね?」
「闇の力を全て奪って、精霊としての存在意義を消すだけですよ?」
「それって、存在そのものも消えちゃうよね?」
「ええ、まあ」
ええ、まあじゃないよ。
生き物に対して、そこまで思い入れがないのはまだいい。
でも、精霊は違うんじゃないかな?
と思ったけど、神からしたら一緒なのかもしれない。
「とりあえず、俺がやる」
「ルーク様が?」
「できないとでも?」
「いや、私と同じことしかできないかと思ってました」
その評価はどうなのだろうか?
フォルス並みという評価なら受け入れられるけど、俺がなんでもかんでも障害物を破壊するとか思われているなら断固抗議しないといけない。
ふと、闇精霊の方に視線を向けるとすでに姿がない。
「ほう? なかなか良い目をもっているじゃないかい」
「遅いよ?」
とりあえず、目の前に向かって軽く【光球】を放つ。
ただ照らすだけの魔法だけど。
それでも十分だ。
目の前に現れた闇精霊が、すぐに距離を取るのが面白い。
だって、転移で目の前に来たくせに、下がるのは普通に自分の足でって。
まあ、転移で目の前に現れて、すぐ転移で離れるのもダサいけど。
その手にはデスサイズというか、死神の大鎌のようなものを持っている。
実体があるのか、不明な雰囲気だな。
まあ、残念ながらその鎌を使わせるまでもなく、光の魔法を足に纏わせて蹴り飛ばしたけど。
いや、蹴り飛ばしたつもりだったけど、上半身と下半身に切り裂いてしまった。
下半身はすぐに掻き消えたけど、上半身だけの闇精霊は一瞬苦しそうな表情を浮かべていたな。
すぐに、離れた場所に完全な状態で現れたが、ダメージは入ってそうだ。
「馬鹿な!」
「遅いって!}
「くっ」
その場所も予測できていたので、すでに背後に回るようにコンマ秒差でこっちも転移する。
クイックを使えば、相手の転移の発動に合わせてこっちも転移を合わせられるからね。
凄いよ3倍速。
今度は上から剣をで切り付けてみるが、凄い焦った表情で躱してて滑稽だ。
必死だなとでも、言ってやりたい。
「たかが人間のくせに、精霊に「たかが、人間ですって?」」
「あっ」
すぐにまた、遠くに転移した闇精霊の背後に、今度は同じように転移したフォルスが立っていて彼を睨みつていた。
予想外の人物に先を越されたことで、思わず変な声が出てしまったが。
手を出してこないと、思ってたのに。
「たかが、精霊の分際で我が主に「フォルス」」
このままだと、フォルスが闇精霊を消しそうだったので、威圧を込めて名前を呼ぶ。
「はっ、出過ぎた真似をしました」
すぐに、フォルスが横に戻ってきた。
闇精霊があからさまにほっとした様子だけど……
いや俺いま、たかが人間なんだから。
人間扱いされたことで、そんなに腹立てなくても。
「どうどう」
「私は、落ち着いてますよ?」
「そうですね、お二方とも落ち着き過ぎでは?」
俺とフォルスのやり取りに、強面の狼男が溜息を吐いている。
気持ちの高ぶりはどこいった?
お前も、十分落ち着いているぞ?
「くそっ」
そして、この場に落ち着いてない奴が一人。
すぐに、その表情から余裕が消える。
残念だけど、その距離なら俺も転移が使えるんだよね。
「で、君の意味が分からないんだけど?」
「貴様、人間ではないな?」
「失礼な」
そういうことを言うと、すぐ怒る人がいるからやめなさいって。
「どうどう」
「わざわざ、戻ってこられなくても大丈夫です」
とりあえず、転移でフォルスのところに戻って宥めてみる。
凄く落ち着いているな。
あっ、こいつ!
「フォルス?」
「えっ?」
明らかに、ギクッてなってるけど。
神様って感情隠すのが下手なのかな?
普段は感情を感じさせないようなイメージなのに、あれは感情を隠しているんじゃなくて、本当に何も考えてないのか。
「失礼なことを、考えてませんか?」
「えっ?」
「ルーク様は、心が伝わりやすいので」
お前には、言われたくない。
「わしを、無視するな!」
「無視されてないから、注意しに戻っただけだよ?」
うん、明らかに闇精霊の持つオーラが小さくなっているのが、遠目に見るとよく分かる。
「某の存在意義が、すでに風前の灯」
「ピクニックだから」
ゴウエモンが、完全に戦意を無くしたのか、剣を鞘にしまってしまった。
まあ、俺一人の方がやりやすいというか。
どうにか、ならないかなと……
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
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現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
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※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
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