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第2章:王都学園編
第8話:学食
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「なかなか、美味しそうですね」
「最近ますます、美味しくなったようですわ」
食堂で学食を仲の良い連中で、集まって食べる。
普通の光景だ。
それなのに、何故か周囲の視線が痛い。
ラードーン伯爵家の子女であるエルサと一緒に、昼食を取る約束をした。
社交辞令かとも思ったけど、まあ一応は昼に声を掛けられたので行動を一緒にしたが。
エルサにも申し訳ない。
そして、何故か俺の右隣にはアルトが座っている。
さらに俺の言葉に反応したのはエルサではなく……ジェニファ。
さきほど食堂に向かう廊下で、こっちに向かってきているアルトを見つけた。
俺を食事に誘うために、下級生の教室に向かう廊下を歩けば見つかるだろうと思ってのことと。
そこまではいい。
横に、リック殿下がいた。
その取り巻きの方も、2名ほど。
一応、エルサと彼女の友達のことを紹介して、辞退しようとしたのだけれども。
彼女たちがキラキラとした目を兄と、リック殿下に向けているのを見たら……
「兄がせっかく誘ってくださったので申し訳ないけど……」
そういって、振り返った時にすごく悲しそうな表情を浮かべた。
全員が。
最後まで聞け。
「先輩方との相席でもいいかな?」
「もちろんですわ! ルーク様のお兄さまからも、是非お話をお伺いしたいですし」
現金だ。
まあ、最初からそのつもりだったけど。
貴族の子供……子供だけどさ、もう少し感情を抑えた方がいいと思うぞ?
色々と、不安だ。
全員に対して。
「弟がお世話になるね。何かあったら、助けてやってくれると有難いな」
「はい!」
兄も兄で、偉そうだな。
その子、伯爵家の子女なんだけど?
俺の入ってるクラス知ってるよね?
クラスメートの大半が、うちの実家より家格が上なんだけど?
力が上とはいわないが。
「アルトの弟は、私にとっても大事な友人だからね。彼が困っていることがあったら教えてくれたら、私も力になるよ」
リック殿下の言葉に、女性陣から黄色い悲鳴が。
「ルーク様は、殿下とも仲が宜しいのかしら?」
「リック殿下は、アルト様といつも一緒にいらっしゃるとのことですし。お二方が仲が良いのは、疑いようはありませんから」
「アルト様はルーク様を、とても大事にされているという話を聞いたことありますよ」
微妙にヒソヒソ話になってないけど?
丸聞こえだけど?
あと違う。
アルトは俺を大事にしているというか、弟妹全員を平等に大事に愛してくれている。
そして、俺もだ。
兄弟全員が大事だけど、ヘンリーとサリアは特に大事だ。
「あら、皆様お揃いでこんなところに立たれたら、他の方がお困りになりますわよ? さ、一緒に中に入りましょう」
そこに、流れるように参加してきた巻き髪集団。
ジェニファ御一考だ。
さも自然な流れで、トンビのように主導権をかっさらっていったジェニファにマリア嬢が苦笑いしている。
ちなみにマリアは、キャスパル侯爵家の長女でキーファの姉でもある。
ただ、ジェニファ様が主導権を握っていいのかな?
リック殿下もいるんだけど?
その殿下に挨拶もせずに、皆を食堂に押し込もうとしているが。
殿下の方を見る。
おかしそうに笑っているだけだから、問題ないのだろう。
まあ、従兄同士だからそれなりに良好な人間関係を築けているだろう。
「自己紹介が遅くなりましたわね。新入生の皆さん、私はジェニファ。この学園長の孫ですよ」
みんなが、知ってるって顔してる。
もう少し、ましな自己紹介できないのかな?
しかも歩きながらだし。
そして、皆が一瞬動きを止めたすきに俺の横にスッと入ってきた。
良い匂い。
うん、個々人なら良い匂いなのだ。
ただ、囲まれると混ざって臭いだけで。
相変わらず、奇麗な人だ。
そして、今に至る。
リック殿下とアルトと殿下の取り巻き2名。
そのうちの一人はジャスパーの兄である、ガーラント。
ブレード侯爵家の嫡男だ。
「ビンセント様もお久しぶりですね」
「ああ、せっかく王都に来たのに顔を合わせる機会がなかなかなくてな、申し訳なかったな。本来なら、うちへすぐにでも一度招待するべきだったのだが」
もう一人はビンセント。
アイゼン辺境伯の息子だ。
そして、アルトの同級生でもある。
「うぅ……凄いことになってしまいました」
「ちょっと、エルサどうするのよ? 私、緊張で食欲が……」
「というか、ルークって男爵家のしかも次男よね? なんなの、この人脈は」
「おかしいでしょ! 確かに、有能で是非お近づきになりなさいと、お爺様に言われたけど……すでに、こんな貴族の代表みたいな人に囲まれるなんて」
ごめん、エルサ。
俺もこんなはずじゃなかったんだ。
そして、少し離れた場所でキーファとジャスパー、オラリオがこっちを見ている。
キーファは楽しそうな表情だが、あとの2人の顔が怖い。
というか、お前らの兄姉がいるんだから遠慮せずにこっちに来ればいいのにと思わなくはない。
そういえば、最初の世界でもジャスパーには常に睨まれていたな。
まるで、目の敵にでもするかのように、何かと突っかかられた。
ただ、剣で決着を付けたがる無駄に熱い性格のせいで、他の意地の悪い連中よりはよほどマシだった。
最初の世界でも剣術だけは、それなり以上の実力だったからな。
身体能力がずば抜けていたというのもある。
だから、ジャスパーに剣で負けることもなければ、痛い思いすることもなかった。
それが、余計に彼のプライドを傷つけていた気がするが。
「お兄さま、エルサ嬢はジャストール領のことに興味があるようですよ?」
「そうなのかい? ふふ、確かに今や観光地としては、それなりに有名になってきたからね」
仕方がないから、エルサ達にも水を向ける。
エルサが困った顔をしている。
あれ? 余計なことをしたかこれ。
「たしかエルサ嬢の祖父が、ミラーニャに別荘を持っていたね。夏季休暇を利用して来ると良い。弟の同級生なら大歓迎だ。私も町を案内しよう」
「本当ですか!」
「あー、エルサだけズルい!」
「ふふ、クリスタ嬢の伯父上殿も、別荘地を買われていたと記憶しているよ? たぶん、来月には別荘の方も竣工を迎えるはずだよ」
「ええ、私何も聞いてませんよ!」
「おや? 本家には内緒にでもするおつもりだったのかな? これは、余計なことを言ったかもしれないね」
「今度、伯父様にあったら、問い詰めます」
アルト、凄いな。
俺よりも、詳しいんじゃないか?
てか、生徒の名前を全部覚えているわけじゃないと思うけど。
「ふふ、ルーク様と関わりあいになりそうな子息令嬢は、具に調べていたようですよ」
反対側に座っているジェニファが、耳打ちしてくれた。
準備万端って……怖いよ。
「それよりも、週末のボード会、ルークも来るんだろ? 楽しみだ」
「はい、私までお誘いいただきありがとうございます。お邪魔させていただきます」
「邪魔だなんて、ルークには色々とボードのことを教わったからな。私の特訓の成果を見てもらいたい」
「恐れ多いことですが、そうですね……新しい技も開発したので宜しければ」
「うむ、それは是非、ご教授願いたいね」
アルトと同級生の女の子たちが盛り上がり始めたタイミングで、ビンセントが声を掛けてきてくれた。
一応、彼の親がうちの寄親にあたるわけだから、こうやって気を遣ってくれている。
リック殿下を放置していいのかな?
あっちはあっちで、マリア達と盛り上がっているからいいか。
「へえ、ジェニファは本気っぽいね」
「やっぱり、殿下もそう思われますか? 大丈夫でしょうか?」
「大丈夫……とは?」
「あんなジェニファ見たことなかったので。うまくいってもらいたい気持ちはあるのですが、歳のことを考えると、ルーク様には少し早いかなと」
「ふーむ、まあそこは本人たち次第ではないかな?」
……聞かなかったことにしよう。
いや、ちょっと頬が緩んでしまっているが。
うむ、俺は嬉しく思っているようだ。
「何やら楽しそうだな?」
「ええ、入学早々、分不相応なクラスに入ってしまったので、もう少し寂しいことになるかと思ってましたが……こうやって、多くの人に囲まれて食事を取れるなんて望外の喜びを噛み締めているところです」
「ルークは、本当に12歳か? アルトも最初は小生意気な言葉を遣うと思っていたが、それ以上にしっかりと喋るのだな」
「恐れ入ります」
「いや、悪い意味で言ったんじゃない。ジャストールの教育がよほど良いのだろう」
黙々と食事をとっていたガーラントが話しかけてきたが、あまり表情を動かさないから機嫌が悪いのかと思ってしまった。
どうやら、そうでもないらしい。
最後には笑みを浮かべてくれたし。
「それに、ルークには感謝している」
「えっと……私には、心当たりがないのですが?」
「ここでの食事だ。ジャストールの調味料が多く使われている。アルトが学園に寄付したものだな……準備したのはお前だと聞いたが」
「そういえば、兄に学園に持っていくから、調味料を用意してくれと言われて……リーチェの町にお願いしましたね」
「ふむ……おかげで、食事の質が上がってね。昼が楽しみになった」
てっきり、友達に配ったり、ちょい足し程度に考えていたが。
まさか、学園の食堂に寄贈していたとは。
「ジェニファも全く脈がないって様子ではなさそうだね」
「ええ、たぶん声は聞こえていたでしょうし……微笑んでいたところを見ると、嫌な気はしてないかと」
いま、嫌な気持ちになった。
さっきのリック殿下達の会話を盗み聞きしてるのがバレてたのも恥ずかしいし、悪からず思っている様子を見られたのも恥ずかしい。
放っておいてほしい。
「あっ、露骨にムッとしてますよ」
「表情は全く変わってないですが、雰囲気が伝わるというか……」
これだから、人の感情の機微を読むことにたけた上位貴族の連中は。
全く……
それよりも、ガーラント様?
あなたの弟と、友達をなんとかしてくれないですかね?
さっきから、凄く視線が痛いのですが。
「おお、なんだジャスパー、そんなところに居たのか? 兄に声を掛ければよかったのに」
「キーファもいたのですね。どうせなら、こちらに加わればよかったのに」
あっ、こっちを睨み過ぎて兄姉に気付かれてら。
いや、キーファは別に睨んでは無かったな。
ニヤニヤと、何かを楽しんでいる様子だった。
オラリオは……アルトを睨みつけているな。
うん、エルサ達がめっちゃ嬉しそうに、アルトとの会話に花を咲かせている。
だから、オラリオも誘ってやったのに。
意地なんか張らなきゃいいんだ。
損をするだけだぞ?
「いえ、兄上もご学友の方と楽しんでおられる様子でしたので、わざわざ割って入るのも悪いかなと」
「兄弟で遠慮してどうする。見てみろアルトを! 容赦なく弟を攫ってきたぞ」
そういって、豪快に笑うガーラントを見て、ジャスパーが困ったような表情を浮かべていた。
若干歯切れ悪く、答えを返しているが。
まあ、お前は俺をずっと睨んでいたからな。
気まずいのか、居心地悪そうだな。
「私は別に、ここで皆さんが楽しそうにしているのを見ているだけで、十分でしたので」
「相変わらず、貴方は悪い趣味を持ってますね。まず相手のことをよく見るのは大事かもしれませんが、同級生ですよ? 一歩踏み込んでもいいのではないかしら?」
「はい、ご忠告痛み入ります。以後気を付けるようにいたしましょう」
「はあ……なんで、そんな……まあ、良いでしょう。家では、まだ可愛げがありますし」
「ふふ、ありがとうございます」
キーファがマリアに答えを返しているが、他人行儀というかなんだろう。
気のせいかも知れないが、慇懃無礼な印象受ける。
そうだな……この姉弟は姉弟で、どこか変な感じだ。
仲は良いのだろうけど。
家じゃ可愛いってくらいだから、外では照れているのかもしれないし。
「で、お前らの友達はなんで、そんなつまらなさそうな顔をしてるんだ? えっと、オリリアだったか?」
ガーランドが、オラリオをチラリと見て首を傾げている。
首もなかなかに太いな、この人は。
まんま、欧州の標準的なマッチョマンだ。
「兄上、オラリオですよ」
「そうか? ふむ……どうした少年? 何を悩んでいるんだ?」
ガーラントもガーラントで暑苦しい男だった。
流石、ジャスパーの兄だ。
オラリオも困った表情を浮かべている。
どうなるのかな?
悪いけど、楽しみでしょうがない。
「最近ますます、美味しくなったようですわ」
食堂で学食を仲の良い連中で、集まって食べる。
普通の光景だ。
それなのに、何故か周囲の視線が痛い。
ラードーン伯爵家の子女であるエルサと一緒に、昼食を取る約束をした。
社交辞令かとも思ったけど、まあ一応は昼に声を掛けられたので行動を一緒にしたが。
エルサにも申し訳ない。
そして、何故か俺の右隣にはアルトが座っている。
さらに俺の言葉に反応したのはエルサではなく……ジェニファ。
さきほど食堂に向かう廊下で、こっちに向かってきているアルトを見つけた。
俺を食事に誘うために、下級生の教室に向かう廊下を歩けば見つかるだろうと思ってのことと。
そこまではいい。
横に、リック殿下がいた。
その取り巻きの方も、2名ほど。
一応、エルサと彼女の友達のことを紹介して、辞退しようとしたのだけれども。
彼女たちがキラキラとした目を兄と、リック殿下に向けているのを見たら……
「兄がせっかく誘ってくださったので申し訳ないけど……」
そういって、振り返った時にすごく悲しそうな表情を浮かべた。
全員が。
最後まで聞け。
「先輩方との相席でもいいかな?」
「もちろんですわ! ルーク様のお兄さまからも、是非お話をお伺いしたいですし」
現金だ。
まあ、最初からそのつもりだったけど。
貴族の子供……子供だけどさ、もう少し感情を抑えた方がいいと思うぞ?
色々と、不安だ。
全員に対して。
「弟がお世話になるね。何かあったら、助けてやってくれると有難いな」
「はい!」
兄も兄で、偉そうだな。
その子、伯爵家の子女なんだけど?
俺の入ってるクラス知ってるよね?
クラスメートの大半が、うちの実家より家格が上なんだけど?
力が上とはいわないが。
「アルトの弟は、私にとっても大事な友人だからね。彼が困っていることがあったら教えてくれたら、私も力になるよ」
リック殿下の言葉に、女性陣から黄色い悲鳴が。
「ルーク様は、殿下とも仲が宜しいのかしら?」
「リック殿下は、アルト様といつも一緒にいらっしゃるとのことですし。お二方が仲が良いのは、疑いようはありませんから」
「アルト様はルーク様を、とても大事にされているという話を聞いたことありますよ」
微妙にヒソヒソ話になってないけど?
丸聞こえだけど?
あと違う。
アルトは俺を大事にしているというか、弟妹全員を平等に大事に愛してくれている。
そして、俺もだ。
兄弟全員が大事だけど、ヘンリーとサリアは特に大事だ。
「あら、皆様お揃いでこんなところに立たれたら、他の方がお困りになりますわよ? さ、一緒に中に入りましょう」
そこに、流れるように参加してきた巻き髪集団。
ジェニファ御一考だ。
さも自然な流れで、トンビのように主導権をかっさらっていったジェニファにマリア嬢が苦笑いしている。
ちなみにマリアは、キャスパル侯爵家の長女でキーファの姉でもある。
ただ、ジェニファ様が主導権を握っていいのかな?
リック殿下もいるんだけど?
その殿下に挨拶もせずに、皆を食堂に押し込もうとしているが。
殿下の方を見る。
おかしそうに笑っているだけだから、問題ないのだろう。
まあ、従兄同士だからそれなりに良好な人間関係を築けているだろう。
「自己紹介が遅くなりましたわね。新入生の皆さん、私はジェニファ。この学園長の孫ですよ」
みんなが、知ってるって顔してる。
もう少し、ましな自己紹介できないのかな?
しかも歩きながらだし。
そして、皆が一瞬動きを止めたすきに俺の横にスッと入ってきた。
良い匂い。
うん、個々人なら良い匂いなのだ。
ただ、囲まれると混ざって臭いだけで。
相変わらず、奇麗な人だ。
そして、今に至る。
リック殿下とアルトと殿下の取り巻き2名。
そのうちの一人はジャスパーの兄である、ガーラント。
ブレード侯爵家の嫡男だ。
「ビンセント様もお久しぶりですね」
「ああ、せっかく王都に来たのに顔を合わせる機会がなかなかなくてな、申し訳なかったな。本来なら、うちへすぐにでも一度招待するべきだったのだが」
もう一人はビンセント。
アイゼン辺境伯の息子だ。
そして、アルトの同級生でもある。
「うぅ……凄いことになってしまいました」
「ちょっと、エルサどうするのよ? 私、緊張で食欲が……」
「というか、ルークって男爵家のしかも次男よね? なんなの、この人脈は」
「おかしいでしょ! 確かに、有能で是非お近づきになりなさいと、お爺様に言われたけど……すでに、こんな貴族の代表みたいな人に囲まれるなんて」
ごめん、エルサ。
俺もこんなはずじゃなかったんだ。
そして、少し離れた場所でキーファとジャスパー、オラリオがこっちを見ている。
キーファは楽しそうな表情だが、あとの2人の顔が怖い。
というか、お前らの兄姉がいるんだから遠慮せずにこっちに来ればいいのにと思わなくはない。
そういえば、最初の世界でもジャスパーには常に睨まれていたな。
まるで、目の敵にでもするかのように、何かと突っかかられた。
ただ、剣で決着を付けたがる無駄に熱い性格のせいで、他の意地の悪い連中よりはよほどマシだった。
最初の世界でも剣術だけは、それなり以上の実力だったからな。
身体能力がずば抜けていたというのもある。
だから、ジャスパーに剣で負けることもなければ、痛い思いすることもなかった。
それが、余計に彼のプライドを傷つけていた気がするが。
「お兄さま、エルサ嬢はジャストール領のことに興味があるようですよ?」
「そうなのかい? ふふ、確かに今や観光地としては、それなりに有名になってきたからね」
仕方がないから、エルサ達にも水を向ける。
エルサが困った顔をしている。
あれ? 余計なことをしたかこれ。
「たしかエルサ嬢の祖父が、ミラーニャに別荘を持っていたね。夏季休暇を利用して来ると良い。弟の同級生なら大歓迎だ。私も町を案内しよう」
「本当ですか!」
「あー、エルサだけズルい!」
「ふふ、クリスタ嬢の伯父上殿も、別荘地を買われていたと記憶しているよ? たぶん、来月には別荘の方も竣工を迎えるはずだよ」
「ええ、私何も聞いてませんよ!」
「おや? 本家には内緒にでもするおつもりだったのかな? これは、余計なことを言ったかもしれないね」
「今度、伯父様にあったら、問い詰めます」
アルト、凄いな。
俺よりも、詳しいんじゃないか?
てか、生徒の名前を全部覚えているわけじゃないと思うけど。
「ふふ、ルーク様と関わりあいになりそうな子息令嬢は、具に調べていたようですよ」
反対側に座っているジェニファが、耳打ちしてくれた。
準備万端って……怖いよ。
「それよりも、週末のボード会、ルークも来るんだろ? 楽しみだ」
「はい、私までお誘いいただきありがとうございます。お邪魔させていただきます」
「邪魔だなんて、ルークには色々とボードのことを教わったからな。私の特訓の成果を見てもらいたい」
「恐れ多いことですが、そうですね……新しい技も開発したので宜しければ」
「うむ、それは是非、ご教授願いたいね」
アルトと同級生の女の子たちが盛り上がり始めたタイミングで、ビンセントが声を掛けてきてくれた。
一応、彼の親がうちの寄親にあたるわけだから、こうやって気を遣ってくれている。
リック殿下を放置していいのかな?
あっちはあっちで、マリア達と盛り上がっているからいいか。
「へえ、ジェニファは本気っぽいね」
「やっぱり、殿下もそう思われますか? 大丈夫でしょうか?」
「大丈夫……とは?」
「あんなジェニファ見たことなかったので。うまくいってもらいたい気持ちはあるのですが、歳のことを考えると、ルーク様には少し早いかなと」
「ふーむ、まあそこは本人たち次第ではないかな?」
……聞かなかったことにしよう。
いや、ちょっと頬が緩んでしまっているが。
うむ、俺は嬉しく思っているようだ。
「何やら楽しそうだな?」
「ええ、入学早々、分不相応なクラスに入ってしまったので、もう少し寂しいことになるかと思ってましたが……こうやって、多くの人に囲まれて食事を取れるなんて望外の喜びを噛み締めているところです」
「ルークは、本当に12歳か? アルトも最初は小生意気な言葉を遣うと思っていたが、それ以上にしっかりと喋るのだな」
「恐れ入ります」
「いや、悪い意味で言ったんじゃない。ジャストールの教育がよほど良いのだろう」
黙々と食事をとっていたガーラントが話しかけてきたが、あまり表情を動かさないから機嫌が悪いのかと思ってしまった。
どうやら、そうでもないらしい。
最後には笑みを浮かべてくれたし。
「それに、ルークには感謝している」
「えっと……私には、心当たりがないのですが?」
「ここでの食事だ。ジャストールの調味料が多く使われている。アルトが学園に寄付したものだな……準備したのはお前だと聞いたが」
「そういえば、兄に学園に持っていくから、調味料を用意してくれと言われて……リーチェの町にお願いしましたね」
「ふむ……おかげで、食事の質が上がってね。昼が楽しみになった」
てっきり、友達に配ったり、ちょい足し程度に考えていたが。
まさか、学園の食堂に寄贈していたとは。
「ジェニファも全く脈がないって様子ではなさそうだね」
「ええ、たぶん声は聞こえていたでしょうし……微笑んでいたところを見ると、嫌な気はしてないかと」
いま、嫌な気持ちになった。
さっきのリック殿下達の会話を盗み聞きしてるのがバレてたのも恥ずかしいし、悪からず思っている様子を見られたのも恥ずかしい。
放っておいてほしい。
「あっ、露骨にムッとしてますよ」
「表情は全く変わってないですが、雰囲気が伝わるというか……」
これだから、人の感情の機微を読むことにたけた上位貴族の連中は。
全く……
それよりも、ガーラント様?
あなたの弟と、友達をなんとかしてくれないですかね?
さっきから、凄く視線が痛いのですが。
「おお、なんだジャスパー、そんなところに居たのか? 兄に声を掛ければよかったのに」
「キーファもいたのですね。どうせなら、こちらに加わればよかったのに」
あっ、こっちを睨み過ぎて兄姉に気付かれてら。
いや、キーファは別に睨んでは無かったな。
ニヤニヤと、何かを楽しんでいる様子だった。
オラリオは……アルトを睨みつけているな。
うん、エルサ達がめっちゃ嬉しそうに、アルトとの会話に花を咲かせている。
だから、オラリオも誘ってやったのに。
意地なんか張らなきゃいいんだ。
損をするだけだぞ?
「いえ、兄上もご学友の方と楽しんでおられる様子でしたので、わざわざ割って入るのも悪いかなと」
「兄弟で遠慮してどうする。見てみろアルトを! 容赦なく弟を攫ってきたぞ」
そういって、豪快に笑うガーラントを見て、ジャスパーが困ったような表情を浮かべていた。
若干歯切れ悪く、答えを返しているが。
まあ、お前は俺をずっと睨んでいたからな。
気まずいのか、居心地悪そうだな。
「私は別に、ここで皆さんが楽しそうにしているのを見ているだけで、十分でしたので」
「相変わらず、貴方は悪い趣味を持ってますね。まず相手のことをよく見るのは大事かもしれませんが、同級生ですよ? 一歩踏み込んでもいいのではないかしら?」
「はい、ご忠告痛み入ります。以後気を付けるようにいたしましょう」
「はあ……なんで、そんな……まあ、良いでしょう。家では、まだ可愛げがありますし」
「ふふ、ありがとうございます」
キーファがマリアに答えを返しているが、他人行儀というかなんだろう。
気のせいかも知れないが、慇懃無礼な印象受ける。
そうだな……この姉弟は姉弟で、どこか変な感じだ。
仲は良いのだろうけど。
家じゃ可愛いってくらいだから、外では照れているのかもしれないし。
「で、お前らの友達はなんで、そんなつまらなさそうな顔をしてるんだ? えっと、オリリアだったか?」
ガーランドが、オラリオをチラリと見て首を傾げている。
首もなかなかに太いな、この人は。
まんま、欧州の標準的なマッチョマンだ。
「兄上、オラリオですよ」
「そうか? ふむ……どうした少年? 何を悩んでいるんだ?」
ガーラントもガーラントで暑苦しい男だった。
流石、ジャスパーの兄だ。
オラリオも困った表情を浮かべている。
どうなるのかな?
悪いけど、楽しみでしょうがない。
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弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
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