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第1章:ジャストール編
第18話:悪徳商会とルーク
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「ということがありまして」
「そうか、よくやったぞルーク、フォルス殿」
町で起きたことのあらましを、祖父グリッドに伝えると少し頭を痛そうにこめかみを抑えたあと、微笑んで誉めてくれた。
しかし、ミラーニャの町は確かにいまや、領内どころか国内でも目覚ましい発展をしている町だからな。
ジャストールの町にあるビレッジ商会が出張所を出して、いま支店を作り始めている。
ビレッジ商会が増えるのはいいことだ。
ある意味で、俺にとっては銀行の役割をしてくれるような商会だからな。
いろいろと、前の人生で得た知識を使って商品を開発しているからな。
そのうちの一部の販売の窓口をやらせているのだが、ビレッジ商会には経費を全て抜いた利益の3割を支払っている。
そして、その残りを俺がもらっている。
年々利益が増えていくだろうことはわかるし、すでに年齢からして分不相応な収入があるのでビレッジ商会に預けているという状態だ。
必要があれば、他の町でも引き出せるようになっている。
脱線したが、ビレッジ商会もそうだが他の有象無象の商店なんかも増えていってる。
なかには、へんな商売を始めるやつらも。
無論、観光客に損失を与えるような連中は淘汰していってるが。
それでも、次から次へと入ってくる。
ただ、ここまで組織化されていそうな、悪徳商会が生き残っていたのが不思議だ。
誰かの手引きか、とんでもない資本をもって乗り込んできたか。
まあ、どっちにしろ今日明日中には、一度潰すけど。
「だが、あまり危ないことをするでない。心配するではないか」
うん、母上がいなくてよかった。
母上は母上でヘンリーとサリアを連れて、祖母と町に出かけたらしい。
俺とは入れ違いになったようだ。
「そうだぞ、兄もついていってやったのに」
祖父とボードゲームを楽しんでいたアルトはいたが。
まあ、アルトもアルトで規格外の強さになっているから。
頼もしいと言えば頼もしいが……やりすぎるかもしれないし。
「で、お主も一緒に行ってくれるのだろう?」
「はい?」
祖父が、首を横にふったあとで、俺に話を振ってくる。
一緒に?
行くわけがない。
「いえ、私が行ったら向こうも気を遣うかと。ご遠慮させていただきます」
「そうか? そんな連れないことをいうな。聞けば、同じ年ごろの娘さんもいらっしゃるのだろう?」
「まあ、その方に迷惑をかけたので、顔を合わせづらいというのが本音です」
取り繕ったような俺の回答に、祖父が疑惑の視線を向けてくる。
全然、信用がないな。
「……はあ。掃除もありますし」
「ならん、いや、信用しておらぬわけではないが、孫にそんな危険な真似はさせられん」
正直に言ったら、やっぱり止められた。
「フォルスがいて、危険な目になんか合うはずがない。むしろ、相手の心配をして差し上げてください」
「私も行くぞ?」
「そうですね……おじいさま、4人ほど警備の方を借りてもいいですか?」
俺の横まで移動して、肩に手を乗せたアルトがいい笑顔でこっちを見る。
やりにくいな。
ちょっと、手荒い感じでいこうと思ってたから、身内にはあまり見られたくないのだが。
ただ、絶対にひかない強い意志を感じたので、別の役割を持たせることにしよう。
「だめだといっておろう。アルトもわしの大事な孫じゃからな? お主がついていくといったところで、わしに対してのなんの解決にもなっとらんぞ?」
「私なら大丈夫ですよ? 探った感じ、この町で現在私より腕が立つものは、いないと思います」
アルトの言葉に、祖父が額を抑える。
調子に乗った子供の発言に聞こえたのだろう。
普通、物語とかなら噛ませ犬のフラグ的発言なのだろうが、神の加護がある以上、加護のない人間では逆立ちしても勝てない。
仮に加護があったとしても、精霊程度の加護ではどうにもならないだろう。
せいぜい、中級神の加護あってどうにか持ちこたえられるかってところか?
「おじいさま? ブライト家に急がれた方がいいのでは?」
「厄介払いみたいなことをいうな。おぬしらがわしを安心させんといかれんだろう」
「では、吉報をお待ちください。今日中には片を付けてゆっくり眠れるようにしますので」
「そういう意味ではない! ならず者どもをどうにかして安心させてくるよりも、危険なことをしないで安心させるという選択肢はないのか?」
なかなかに頑固だな。
まあ、12歳と16歳の子供に海千山千のアウトロー集団を相手にさせるのは、祖父として看過できないことはよくわかるが。
「私も怒っているのですよ? 大好きなおじいさまの町で、こんなくだらないことをした連中に」
少しだけ、本気で気合を入れて低い声を出してみる。
「怖い顔でいっても駄目じゃ」
祖父には全く効果がなかった。
おかしいな……使用人やランスロット達、領軍の兵たちにはきくのに。
「わかった、4人ではなく15人連れていけ! アルトとルークそれぞれ5人ずつ、あとは臨機応変に対応するものを5人だ」
本当に時間が差し迫ったところで、ようやく祖父が折れた。
護衛をこれでもかと増やされたが、まあいいだろう。
祖父がブライト家に向けて馬車で出るのを待って、俺とアルトも兵たち引き連れて屋敷を……
「どちらかにまた出るのですか? 遊んでばかりではだめですよ?」
「あー……えっと、町の見回りの見学についてくだけです」
出口で母と祖母とすれ違った。
ヘンリーとサリアは彼女たちの護衛の兵に抱かれて、眠っている。
途中で力尽きたのかな?
「本当ですか?」
兄上は、どうも嘘が苦手なようだ。
母が訝し気な表情を浮かべている。
「15人も引き連れて出るとは、穏やかではないですね。何か隠していませんか?」
祖母は祖母で、人生経験が長いからか鋭い。
しかし、素直に言えばまたさきほど祖父と繰り返した問答を、行わないといけなくなる予感が。
「すいません、急いでおりますのでまた後程」
「あっ、こら待ちなさい」
秘儀、急いで逃げるを発動させて、兵たちを連れて屋敷から逃げ出す。
こっからは素直に行けるといいが。
***
問題なくお目当ての店についた。
さきほどの、リーナを襲った連中が経営している店の一つだ。
まあ、女性が横についておしゃべりをする、飲み屋ということだが。
まあ、いろいろと酷い内容だ。
普通に飲んだだけなら、かなり割高の料金を請求される。
万が一、女性をお持ち帰りしたら……美人局だな。
それをネタに脅されて、一生搾取され続けることになる。
ちなみに潰すことで確定した。
詳しく聞けば、こいつらが直接殺すこともあれば、こいつらのやったことが原因で自殺したものもいるとか。
まったく町の役に立っていない連中に、情けをかける意味なんてないからな。
だから、きつめにやろうと思ってたから、フォルスと2人がよかったんだ。
「おっ、お兄さんたち飲むところ探してるの?」
フォルスの幻術で俺も大人の姿にしてもらったが、すぐに若い女性が声をかけてきた。
フワリといい匂いがしたが、完全にアウトだな。
軽めの麻痺毒が混じっている。
主に思考に働きかけるような効果があるのかな?
残念ながら、俺にもフォルスにもきかないけど。
「うーん、俺は飲めないからな……連れは結構飲むが」
正直に言っておく。
店に入って酒を注がれたら、たまったもんじゃない。
アルコールを吸収しないようにはできるが、俺が我慢できる気がしない。
「だったら、この先にいいお店があるんだ。5,000エンラで飲み放題のお店」
「へえ、そんなのがあるんだ」
銀貨5枚か。
妥当なのか、そうじゃないのか。
まあ、安いといえば安いか。
「男2人で飲むのって寂しくない? 私もご一緒させてよ」
「そういって、おごらせる気だろう?」
「ふふふ、正解! でも楽しかったら、そのあともっといいことあるかもよ?」
そう言って、女性がしなを作って俺にしなだれかかってくる。
匂いで不快な気持ちになったが、フォルスも顔を顰めている。
そして、遠くで様子を見ているだろうアルトも不機嫌だ。
フォルスの幻術のことは伝えてあるので問題ないが、当初はアルトがやりたがっていたからな。
危険だからといって
「お兄さんにも、楽しんでもらうかもね」
女性は今度はフォルスの方に身体を向けて、彼の胸板を指でツツツとなぞった。
フォルスの機嫌が最高に悪い。
まあ、人間が神様にやることかと考えたら、気持ちは分からなくもないが。
もう少し取り繕うか?
***
「お代は180,000エンラになります」
もう、まんまボッタクリバーで、笑いが出た。
「おいおい、おかしいだろ? 飲み放題で5、000エンラだろ? なんで、そんな額になるんだ?」
渡された伝票を黒シャツの男に投げて、机の上に足を置く。
「おい、リサとかいったっけ? お前もそう言ってたよな? あれ、リサは?」
「さあ? お連れの方なら、さきほど帰られましたが?」
俺の言葉に、黒シャツの男がにやりと笑みを浮かべて、首を振る。
フォルスの方に目をやる。
やはり、出入り口からは出ていないか。
「お前ら、グルか……」
「何をいいがかりを……お客様のお連れでしょう?」
睨みつけるも、男はニヤニヤと笑みを浮かべて首をかしげてとぼけるだけだ。
こちらを、小ばかにしたような目つきで、腹立たしい。
いつまで、笑ってられるかな?
「それよりもお支払いいただけるのですか? いただけないのですか?」
「払わんって言ったら?」
「……そしたら、まあ少し手荒いことさせていただくことになりますね」
裏口や窓なんかは、俺についてきた5人の兵に見張らせてるからな。
とりあえず、出入り口から出ていない以上、こいつらがグルなのは確定っと。
分かりやすいが、ばれても問題ないんだろうな。
暴力で黙らせるから。
暴力が通じる相手ならな……
「ふ……ふふふ」
「何が、おかしいので?」
あー、まじで腹が立つなこいつら。
これまで、何人の被害者が出たかわからんが、祖父の町でつまらんことをしてくれたもんだ。
やっぱり、徹底的にすりつぶそう。
で、こいつらの口から、この町でオイタをしたらどうなるか語らせるか。
「ほらよっ」
俺は財布から金貨を片手でつかんで、ばらまく。
「えっと……」
「拾えよ! 6~700,000エンラはあるぞ?」
男が困惑した様子だ。
「金払えつったのお前だろ? ほら、四つん這いになってはいつくばって拾えよ」
「……」
悔しそうな表情でこっちを見る男に、本気で腹が立ってくる。
「申し訳ありませんお客様。うちのものが失礼をしたようで」
騒ぎを聞きつけたのか、奥から少し偉そうで強そうなやつが出てきた。
こんなやつが、いっぱいいるんだろうな。
「おお、そうだな。つまらん店だわ。代金なら、そこに置いてあるから、拾っといて。釣りはいらんから」
後からきた男が、俺の言葉に少しムッとしつつも笑顔でうなずいて床の金貨を見る。
少し眉をあげたが、同時に唇の端も持ち上がる。
「すいません、どうもお代が足りないようですよ?」
……ため息しかでんな。
金を持ってるとわかったら、もっと吹っ掛けてきたか。
「はあ……もうよい。お前たちのリーダーのところにつれていってくれないか? 直接話をするから」
「ちょっと、おっしゃってる意味がわかりませんね」
「……もう少し、勉強をした方がいい。こういう商売をするならな」
俺の言葉に、とぼけたことを抜かす男に対して、少し馬鹿にした口調で笑ってみせる。
顔が赤くなっているが、笑顔だけは張り付けている。
「フォルス」
「はい」
俺が合図をすると、フォルスが魔法を発動させる。
次の瞬間、男が2人とも地面に倒れ伏す。
声も出せないだろう?
重力魔法で、相当の圧を上からかけているからな。
奥に大勢いるのだろうが、とりあえず合図を送るか。
フォルスが外に向かって、黒い球状の魔力を飛ばす。
これが、合図だ。
気にしないと気付かないような黒い球は、そのままアルトの方へと向かっていく。
「なっ、なんだ!」
「なんで、領主の兵がここに」
「誰が、チクった!」
5秒もしないうちに、あちこちから人がなだれ込んできた。
そして喧騒が聞こえてきたが、すぐにそれも静かになる。
数分後奥から人相の悪い連中が、追い立てられてフロアへと押し込まれていく。
アルトがすごくスッキリした顔をしているが、まさか、一番前で頑張ってたりしないよね?
そして、ついてきた祖父の兵たちの顔色が悪いのも気になる。
「キャッ!」
さらにその後ろから、リサも突き出される。
「裏口からコソコソと出ようとしてたからな、ついでに捕まえておいた」
アルトの指示だろうが、連れてきた兵士もキビキビと動いている。
アルトは兵を指揮する能力が高いのかな?
統率力があるのだろう。
「いったーい、なんなのよもう」
「黙れ」
目の前で喚く女を、上から睨みつける。
周りの温度が少し下がったような気がするな。
アルトの方に目を向けると、張り付いた笑みを浮かべている。
気のせいか。
周りの兵たちが、やけに気を遣っているように感じられるが。
もしかして、俺が幻術で大人の姿だからちょっと不気味なのかな?
俺の能力ではなく、召喚獣であり従魔であるフォルスのスキルだとは伝えてあるのだが。
「さてと……フォルス、重圧と幻術を解いてくれ」
「はい」
フォルスが一度目を閉じると、俺の身体から影が取り払われていく。
手を閉じたり開いたりして、感触を確かめる。
うん、視界が低くなった。
実態を伴う幻術というのは、慣れないな。
変身といってもいいクオリティーだが、微妙に違うらしい。
どっちもメリットデメリットがあるみたいだが、フォルスクラスの幻術になるとそのデメリットはほとんどないと。
簡単なとこでいうと、変身で大きくなった場合は嵩が増えた場所を斬られたらしっかりと傷を負う。
幻術の場合は、感覚はあるが嵩を増やすために纏っている闇の部分は傷を負わないとかか?
さて、重力から解放された黒シャツの男が、顔だけあげてこちらを見上げてくる。
背中の上には兵士が乗って、押さえつけているから精一杯の行動だな。
「こ……子供?」
俺の姿を確認して目を見開いたあとで、呟くように漏らす。
その姿を見て、鼻で笑ってやる。
「ジャストール家が次男、ルークだ……この町を含めここら一帯を統治する領主の息子だよ。そして、こちらが私の兄で、ジャストール家の嫡男のアルトだ」
さてと、楽しくない時間の始まりだ。
思わず顔がにやけそうになるのを、ぐっとこらえる。
「そうか、よくやったぞルーク、フォルス殿」
町で起きたことのあらましを、祖父グリッドに伝えると少し頭を痛そうにこめかみを抑えたあと、微笑んで誉めてくれた。
しかし、ミラーニャの町は確かにいまや、領内どころか国内でも目覚ましい発展をしている町だからな。
ジャストールの町にあるビレッジ商会が出張所を出して、いま支店を作り始めている。
ビレッジ商会が増えるのはいいことだ。
ある意味で、俺にとっては銀行の役割をしてくれるような商会だからな。
いろいろと、前の人生で得た知識を使って商品を開発しているからな。
そのうちの一部の販売の窓口をやらせているのだが、ビレッジ商会には経費を全て抜いた利益の3割を支払っている。
そして、その残りを俺がもらっている。
年々利益が増えていくだろうことはわかるし、すでに年齢からして分不相応な収入があるのでビレッジ商会に預けているという状態だ。
必要があれば、他の町でも引き出せるようになっている。
脱線したが、ビレッジ商会もそうだが他の有象無象の商店なんかも増えていってる。
なかには、へんな商売を始めるやつらも。
無論、観光客に損失を与えるような連中は淘汰していってるが。
それでも、次から次へと入ってくる。
ただ、ここまで組織化されていそうな、悪徳商会が生き残っていたのが不思議だ。
誰かの手引きか、とんでもない資本をもって乗り込んできたか。
まあ、どっちにしろ今日明日中には、一度潰すけど。
「だが、あまり危ないことをするでない。心配するではないか」
うん、母上がいなくてよかった。
母上は母上でヘンリーとサリアを連れて、祖母と町に出かけたらしい。
俺とは入れ違いになったようだ。
「そうだぞ、兄もついていってやったのに」
祖父とボードゲームを楽しんでいたアルトはいたが。
まあ、アルトもアルトで規格外の強さになっているから。
頼もしいと言えば頼もしいが……やりすぎるかもしれないし。
「で、お主も一緒に行ってくれるのだろう?」
「はい?」
祖父が、首を横にふったあとで、俺に話を振ってくる。
一緒に?
行くわけがない。
「いえ、私が行ったら向こうも気を遣うかと。ご遠慮させていただきます」
「そうか? そんな連れないことをいうな。聞けば、同じ年ごろの娘さんもいらっしゃるのだろう?」
「まあ、その方に迷惑をかけたので、顔を合わせづらいというのが本音です」
取り繕ったような俺の回答に、祖父が疑惑の視線を向けてくる。
全然、信用がないな。
「……はあ。掃除もありますし」
「ならん、いや、信用しておらぬわけではないが、孫にそんな危険な真似はさせられん」
正直に言ったら、やっぱり止められた。
「フォルスがいて、危険な目になんか合うはずがない。むしろ、相手の心配をして差し上げてください」
「私も行くぞ?」
「そうですね……おじいさま、4人ほど警備の方を借りてもいいですか?」
俺の横まで移動して、肩に手を乗せたアルトがいい笑顔でこっちを見る。
やりにくいな。
ちょっと、手荒い感じでいこうと思ってたから、身内にはあまり見られたくないのだが。
ただ、絶対にひかない強い意志を感じたので、別の役割を持たせることにしよう。
「だめだといっておろう。アルトもわしの大事な孫じゃからな? お主がついていくといったところで、わしに対してのなんの解決にもなっとらんぞ?」
「私なら大丈夫ですよ? 探った感じ、この町で現在私より腕が立つものは、いないと思います」
アルトの言葉に、祖父が額を抑える。
調子に乗った子供の発言に聞こえたのだろう。
普通、物語とかなら噛ませ犬のフラグ的発言なのだろうが、神の加護がある以上、加護のない人間では逆立ちしても勝てない。
仮に加護があったとしても、精霊程度の加護ではどうにもならないだろう。
せいぜい、中級神の加護あってどうにか持ちこたえられるかってところか?
「おじいさま? ブライト家に急がれた方がいいのでは?」
「厄介払いみたいなことをいうな。おぬしらがわしを安心させんといかれんだろう」
「では、吉報をお待ちください。今日中には片を付けてゆっくり眠れるようにしますので」
「そういう意味ではない! ならず者どもをどうにかして安心させてくるよりも、危険なことをしないで安心させるという選択肢はないのか?」
なかなかに頑固だな。
まあ、12歳と16歳の子供に海千山千のアウトロー集団を相手にさせるのは、祖父として看過できないことはよくわかるが。
「私も怒っているのですよ? 大好きなおじいさまの町で、こんなくだらないことをした連中に」
少しだけ、本気で気合を入れて低い声を出してみる。
「怖い顔でいっても駄目じゃ」
祖父には全く効果がなかった。
おかしいな……使用人やランスロット達、領軍の兵たちにはきくのに。
「わかった、4人ではなく15人連れていけ! アルトとルークそれぞれ5人ずつ、あとは臨機応変に対応するものを5人だ」
本当に時間が差し迫ったところで、ようやく祖父が折れた。
護衛をこれでもかと増やされたが、まあいいだろう。
祖父がブライト家に向けて馬車で出るのを待って、俺とアルトも兵たち引き連れて屋敷を……
「どちらかにまた出るのですか? 遊んでばかりではだめですよ?」
「あー……えっと、町の見回りの見学についてくだけです」
出口で母と祖母とすれ違った。
ヘンリーとサリアは彼女たちの護衛の兵に抱かれて、眠っている。
途中で力尽きたのかな?
「本当ですか?」
兄上は、どうも嘘が苦手なようだ。
母が訝し気な表情を浮かべている。
「15人も引き連れて出るとは、穏やかではないですね。何か隠していませんか?」
祖母は祖母で、人生経験が長いからか鋭い。
しかし、素直に言えばまたさきほど祖父と繰り返した問答を、行わないといけなくなる予感が。
「すいません、急いでおりますのでまた後程」
「あっ、こら待ちなさい」
秘儀、急いで逃げるを発動させて、兵たちを連れて屋敷から逃げ出す。
こっからは素直に行けるといいが。
***
問題なくお目当ての店についた。
さきほどの、リーナを襲った連中が経営している店の一つだ。
まあ、女性が横についておしゃべりをする、飲み屋ということだが。
まあ、いろいろと酷い内容だ。
普通に飲んだだけなら、かなり割高の料金を請求される。
万が一、女性をお持ち帰りしたら……美人局だな。
それをネタに脅されて、一生搾取され続けることになる。
ちなみに潰すことで確定した。
詳しく聞けば、こいつらが直接殺すこともあれば、こいつらのやったことが原因で自殺したものもいるとか。
まったく町の役に立っていない連中に、情けをかける意味なんてないからな。
だから、きつめにやろうと思ってたから、フォルスと2人がよかったんだ。
「おっ、お兄さんたち飲むところ探してるの?」
フォルスの幻術で俺も大人の姿にしてもらったが、すぐに若い女性が声をかけてきた。
フワリといい匂いがしたが、完全にアウトだな。
軽めの麻痺毒が混じっている。
主に思考に働きかけるような効果があるのかな?
残念ながら、俺にもフォルスにもきかないけど。
「うーん、俺は飲めないからな……連れは結構飲むが」
正直に言っておく。
店に入って酒を注がれたら、たまったもんじゃない。
アルコールを吸収しないようにはできるが、俺が我慢できる気がしない。
「だったら、この先にいいお店があるんだ。5,000エンラで飲み放題のお店」
「へえ、そんなのがあるんだ」
銀貨5枚か。
妥当なのか、そうじゃないのか。
まあ、安いといえば安いか。
「男2人で飲むのって寂しくない? 私もご一緒させてよ」
「そういって、おごらせる気だろう?」
「ふふふ、正解! でも楽しかったら、そのあともっといいことあるかもよ?」
そう言って、女性がしなを作って俺にしなだれかかってくる。
匂いで不快な気持ちになったが、フォルスも顔を顰めている。
そして、遠くで様子を見ているだろうアルトも不機嫌だ。
フォルスの幻術のことは伝えてあるので問題ないが、当初はアルトがやりたがっていたからな。
危険だからといって
「お兄さんにも、楽しんでもらうかもね」
女性は今度はフォルスの方に身体を向けて、彼の胸板を指でツツツとなぞった。
フォルスの機嫌が最高に悪い。
まあ、人間が神様にやることかと考えたら、気持ちは分からなくもないが。
もう少し取り繕うか?
***
「お代は180,000エンラになります」
もう、まんまボッタクリバーで、笑いが出た。
「おいおい、おかしいだろ? 飲み放題で5、000エンラだろ? なんで、そんな額になるんだ?」
渡された伝票を黒シャツの男に投げて、机の上に足を置く。
「おい、リサとかいったっけ? お前もそう言ってたよな? あれ、リサは?」
「さあ? お連れの方なら、さきほど帰られましたが?」
俺の言葉に、黒シャツの男がにやりと笑みを浮かべて、首を振る。
フォルスの方に目をやる。
やはり、出入り口からは出ていないか。
「お前ら、グルか……」
「何をいいがかりを……お客様のお連れでしょう?」
睨みつけるも、男はニヤニヤと笑みを浮かべて首をかしげてとぼけるだけだ。
こちらを、小ばかにしたような目つきで、腹立たしい。
いつまで、笑ってられるかな?
「それよりもお支払いいただけるのですか? いただけないのですか?」
「払わんって言ったら?」
「……そしたら、まあ少し手荒いことさせていただくことになりますね」
裏口や窓なんかは、俺についてきた5人の兵に見張らせてるからな。
とりあえず、出入り口から出ていない以上、こいつらがグルなのは確定っと。
分かりやすいが、ばれても問題ないんだろうな。
暴力で黙らせるから。
暴力が通じる相手ならな……
「ふ……ふふふ」
「何が、おかしいので?」
あー、まじで腹が立つなこいつら。
これまで、何人の被害者が出たかわからんが、祖父の町でつまらんことをしてくれたもんだ。
やっぱり、徹底的にすりつぶそう。
で、こいつらの口から、この町でオイタをしたらどうなるか語らせるか。
「ほらよっ」
俺は財布から金貨を片手でつかんで、ばらまく。
「えっと……」
「拾えよ! 6~700,000エンラはあるぞ?」
男が困惑した様子だ。
「金払えつったのお前だろ? ほら、四つん這いになってはいつくばって拾えよ」
「……」
悔しそうな表情でこっちを見る男に、本気で腹が立ってくる。
「申し訳ありませんお客様。うちのものが失礼をしたようで」
騒ぎを聞きつけたのか、奥から少し偉そうで強そうなやつが出てきた。
こんなやつが、いっぱいいるんだろうな。
「おお、そうだな。つまらん店だわ。代金なら、そこに置いてあるから、拾っといて。釣りはいらんから」
後からきた男が、俺の言葉に少しムッとしつつも笑顔でうなずいて床の金貨を見る。
少し眉をあげたが、同時に唇の端も持ち上がる。
「すいません、どうもお代が足りないようですよ?」
……ため息しかでんな。
金を持ってるとわかったら、もっと吹っ掛けてきたか。
「はあ……もうよい。お前たちのリーダーのところにつれていってくれないか? 直接話をするから」
「ちょっと、おっしゃってる意味がわかりませんね」
「……もう少し、勉強をした方がいい。こういう商売をするならな」
俺の言葉に、とぼけたことを抜かす男に対して、少し馬鹿にした口調で笑ってみせる。
顔が赤くなっているが、笑顔だけは張り付けている。
「フォルス」
「はい」
俺が合図をすると、フォルスが魔法を発動させる。
次の瞬間、男が2人とも地面に倒れ伏す。
声も出せないだろう?
重力魔法で、相当の圧を上からかけているからな。
奥に大勢いるのだろうが、とりあえず合図を送るか。
フォルスが外に向かって、黒い球状の魔力を飛ばす。
これが、合図だ。
気にしないと気付かないような黒い球は、そのままアルトの方へと向かっていく。
「なっ、なんだ!」
「なんで、領主の兵がここに」
「誰が、チクった!」
5秒もしないうちに、あちこちから人がなだれ込んできた。
そして喧騒が聞こえてきたが、すぐにそれも静かになる。
数分後奥から人相の悪い連中が、追い立てられてフロアへと押し込まれていく。
アルトがすごくスッキリした顔をしているが、まさか、一番前で頑張ってたりしないよね?
そして、ついてきた祖父の兵たちの顔色が悪いのも気になる。
「キャッ!」
さらにその後ろから、リサも突き出される。
「裏口からコソコソと出ようとしてたからな、ついでに捕まえておいた」
アルトの指示だろうが、連れてきた兵士もキビキビと動いている。
アルトは兵を指揮する能力が高いのかな?
統率力があるのだろう。
「いったーい、なんなのよもう」
「黙れ」
目の前で喚く女を、上から睨みつける。
周りの温度が少し下がったような気がするな。
アルトの方に目を向けると、張り付いた笑みを浮かべている。
気のせいか。
周りの兵たちが、やけに気を遣っているように感じられるが。
もしかして、俺が幻術で大人の姿だからちょっと不気味なのかな?
俺の能力ではなく、召喚獣であり従魔であるフォルスのスキルだとは伝えてあるのだが。
「さてと……フォルス、重圧と幻術を解いてくれ」
「はい」
フォルスが一度目を閉じると、俺の身体から影が取り払われていく。
手を閉じたり開いたりして、感触を確かめる。
うん、視界が低くなった。
実態を伴う幻術というのは、慣れないな。
変身といってもいいクオリティーだが、微妙に違うらしい。
どっちもメリットデメリットがあるみたいだが、フォルスクラスの幻術になるとそのデメリットはほとんどないと。
簡単なとこでいうと、変身で大きくなった場合は嵩が増えた場所を斬られたらしっかりと傷を負う。
幻術の場合は、感覚はあるが嵩を増やすために纏っている闇の部分は傷を負わないとかか?
さて、重力から解放された黒シャツの男が、顔だけあげてこちらを見上げてくる。
背中の上には兵士が乗って、押さえつけているから精一杯の行動だな。
「こ……子供?」
俺の姿を確認して目を見開いたあとで、呟くように漏らす。
その姿を見て、鼻で笑ってやる。
「ジャストール家が次男、ルークだ……この町を含めここら一帯を統治する領主の息子だよ。そして、こちらが私の兄で、ジャストール家の嫡男のアルトだ」
さてと、楽しくない時間の始まりだ。
思わず顔がにやけそうになるのを、ぐっとこらえる。
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俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
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現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
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僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
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初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
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仲間を強くして無双していく話です。
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