魔王となった俺を殺した元親友の王子と初恋の相手と女神がクズすぎるので復讐しようと思ったけど人生やり直したら普通に楽しかった件

へたまろ

文字の大きさ
上 下
5 / 124
第1章:ジャストール編

第3・5話:閑話 <メイドのローラは見た>

しおりを挟む
 うちのお坊ちゃまは、おかしい。
 あっ、アルト様ではなくルーク様の方。
 いや、最近はアルト様もちょっとおかしいけど。
 
 どちらから話した方がいいかな……
 まずは自己紹介から。
 私はローラ。
 お嬢様……キャロライン様が嫁ぐときについてきた、侍女なのですが。
 熟練のお付メイドではなく、どちらかというと可愛がってもらってた新人です。
 べ……別に、キャロライン様以外の方が、私を受け入れなかったとかそういうわけではないですよ?
 
 で話を戻して、キャロライン様のご子息がおかしいという話ですが。
 まずは、軽い方でアルト様。
 最近ヤンチャぶりが増したと言いますか……有体にいえば、腕白になってます。
 いや、性格は落ち着いてらっしゃいますが、ルーク様にご両親を取られてちょっとすねてます。

 それはそれで可愛らしいのですが、最近のアルト様は主に力が有り余ってる感じで。
 力が可愛くないのです。

 4歳児が……18になる私より、腕力が上ってどうなのでしょう。
 自信をなくします。
 この間なんて、逃げ回るアルト様を捕まえるために後ろから抱き着いたら、そのまま引きずられてしまいました。
 貴族の御子息というものは、みなああいうものなのでしょうか?

 ルーク様がお生れになってからですので、兄としての自覚が芽生えたということ……ではないでしょう。
 まあ、男の子が力強いのはいいことです。
 世話する身としては、大変ですが。
 次期当主ですし、将来有望ですね。

 ……アルト様に輪をかけておかしいのが、ルーク様。
 まず、泣かない。
 子供は泣くのが仕事なんで言葉が巷にはありますが、ルーク様が泣いたところをみたことがありません。
 アルト様がお生れになったときは、屋敷に響き渡るほどの泣き声が日に何度もありましたので、これは貴族だからというわけではないですね。

 おしめを汚した時も、最寄りのメイドを手招きしてます。
 変えるときにちょっと恥ずかしそうなのは可愛いのですが、赤子がそんな感情を抱くものなのでしょうか?
 私は、そんな赤子を見たことがありません。

 次にお腹がすいた時も、最寄りのメイドを呼びます。
 奥様ではなく。
 別に、メイドから乳をもらうというわけではありません。
 ミルクを作れと催促してきます……
 お腹がすいたをジェスチャーで、的確に表現してきます。
 可愛いですけど、赤子ってそういうものでしたっけ?

 で一度、メイドの一人が悪ふざけで乳を出そうとしたら、溜息を吐いて首を横に振られました。
 ちょっとジトッとした目で見てきたのが、少し面白くて可愛らしかったです。
 はい、胸を出そうとしたのは私です。
 こう見えても、自信はあるのですよ?
 乳は出ませんが。
 誰かに見られたら、大変なことになるぞと釘をさされました。
 誰に?
 ルーク様ご自身に。
 かなり器用なジェスチャーで。
 赤子とは、こうも自己主張ができるものなのでしょうか?

 ルーク様の食事に関してですが、本人の希望で基本はミルクです。
 キャロ……奥様が授乳をされることもありますが、あまり好きではない様子。
 奥様が少し気にされてます。
 あまりミルクが続くと、奥様が悲しそうな表情を浮かべてルーク様を見つめます。
 そういう時は、素直に乳を吸っておりますが……基本は、ミルク派と。
 好みがあるのでしょうか?

 とにかく、手が掛かりません。
 そして、残念なことにこれは序の口です。

 これが序の口なのです……おかしすぎて笑っちゃいませんか?
 笑えませんよ。
 世話する身としては。

 最近一番衝撃的だったのは、いえいえ、誰もいない部屋でしゃべっていたことではありません。
 それは、いろんなメイドが目にしてますから。
 ただ、部屋に入る瞬間には静かに寝てます。
 狸寝入りですね。
 はっきりと、お声は聞こえてましたから。
 そして、そういうときのこのお部屋は、凄く神聖な気で満ち溢れているというか。
 教会以上に、厳かな雰囲気と空気を感じます。
 何か、祝福を受けていそうなくらいに。
 というか、神様がいたんじゃないかと思える程度に。

 それも十分おかしいですが、もっとおかしいのが魔力関連です。
 お生れになったときは、莫大な魔力を暴発寸前まで膨らませたとのことでしたが。
 その後、自然と小さくなっていたらしいのですが、一部噂ではルーク様が自分の意思で抑え込んだのではという話もあります。

 ですが、その後お坊ちゃまの魔力は、標準より少し多い程度で落ち着いたので、奥様の胎内で魔力溜まりが発生したのではと結論付けられてます。
 かなり、強引な理由ですが。
 他に、説明のしようがありません。

 ですが、私は断言します。
 お坊ちゃまが、自ら抑え込んだのだと。

 だって、この間ベッドで手遊びをしてらしたから。
 赤子なら手遊びくらい普通です。
 アルト様もよくやっておりました。
 ただ、普通と違うのは……その手と手の間に魔力が可視できる濃度で、操られていたからです。
 いろいろなものを形作ったり、火や水、氷や雷に形を変えたりと。

 私はどんな表情をしていたのでしょうか。
 こちらに気付いたルーク様がしまったぁって顔をしたあとで、クスリと笑ってました。
 よほど、変な顔をしていたのでしょう。
 そして、笑い方が赤子のそれじゃありませんよ、ルーク様?
 呆けていた私にルーク様が人差し指を突き付けると、心地よい風が通り抜けていきました。
 はっと、我に返ります。

 ルーク様はそのまま人差し指を唇に当てて、ナイショねと合図してきました。
 私はまたも変な顔をしていたのでしょう。
 ルーク様が困った表情に変わっていました。
 慌てて首を何度もうなずくと、フッと笑うと手を振って扉をしめてしまいました。

 無属性の物体操作でしょうか?
 いくつの属性を身につけられているのでしょう。
 というか……生まれて数カ月の赤子に、そのようなことが……

 いや、扉しめないで。
 あの、お坊ちゃまのミルクをお持ちしたのですが。
 なぜか言葉が通じるはずもない赤子に、声を掛けながら入ると笑顔で出迎えてくれました。
 本当に、赤子なのでしょうか?

 とりあえず、ナイショと言われたのでこれらの記録は私の日記に残しておきます。
 ルーク様が大きくなった時に、誰かに見せられるように。
 きっと、あのお方は偉大な方になられる方です。
 ですので、この日記はきっと歴史的資料として、きっと役に立つはずですの……
 
 一応、ルーク様に書を残す許可は得ました。
 いや、いきなりこの日記帳がひとりでに宙を舞ったときは驚きましたが。
 あとを追ったら、ルーク様の部屋にたどり着きました。
 ルーク様は一通り目を通した後で、頷いてくれました。
 ただし、人に見せるのは彼が年老いてからにしてくれと、魔力で動く絵をかいて教えてくれました。
 これが、たぶん一番おかしい出来事ですね。
 そんなことができる方に、お会いしたことないですから。
 魔力の専門職である、魔導士の方ですらおりませんよ。

 ただルーク様がご老人になられる頃には、たぶん私はこの世にいないと思うのですが……

<追記>
 これ笑うところじゃありませんよ。
 最後の一文を見たルーク様が、久しぶりに声をあげて笑ってました。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

処理中です...