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第5章:巨人と魔王

第13話:隣国

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 作戦会議から3日が過ぎた。
 こっちは色々と準備を進めていたが、町の冒険者ギルドの方も着々と防衛準備は進んでいるらしい。
 主に冒険者の囲い込みと、周辺の町への協力要請。
 残念ながら、ゴルゴン帝国からの救援要請はこの時もまだ来ていないらしい。

 件のスタンピードは速度を緩めながらも、こっちに近づいてきているのは間違いない。
 しかも、その規模をさらに大きくしながら。
 壁の向こうでは進路上の町や村の住人は避難を終えているらしく、打ち捨てられた建物が無作為に破壊される運命を待つだけとのこと。
 おそらく魔物の群れが国境を越えて、ビスマルク王国を目指していることが分かったからだろう。
 ならば向こうは一時をやり過ごせば、問題をこちらに押し付けることが出来る。
 あとはビスマルク王国側から救援要請がゴルゴン帝国側に来るのを、手ぐすねを引いて待つだけのつもりなのだろう。
 なんとも身勝手なと思わなくもない。

 建物の被害など、人の命に比べるべくもないということか。
 
「気に食わないですね」
「ふふ、ある意味では合理的ともいえるな」

 ゴタロウとランドールが、宿でそんなやり取りをしている。
 正直俺としては町の安否や、国同士の駆け引きなんて特に気にするほどのことじゃないと思ってるんだけどな。
 そもそも、この町に肩入れするほど情があるわけでもないし。

 今までだって手助けできるから、楽しそうだからと色々と手を出していたわけで。
 とはいえ、目の前で人が死ぬのを呆然と見過ごすほど、人間やめてるつもりもないが。
 もはや、人ですらないが。

「吹雪の影響で、周辺の町からの応援はそこまで期待できないみたいですね」

 まあ、そいつらにとっても、ミルウェイの町の次は自分たちの番だとでも思っているのだろう。
 ここに全力を集めて食い止められたなら良いが、もし無理だったら自分たちの町が無防備に晒されるわけだし。

「だからといって、戦力を分散させるのはもっと悪手だと思いますけどね。戦力を集中させても食い止められないなら、町単体でしのげるはずもなし」
「ここである程度の勢いを削げればとでも思ってるのだろう」
「だとしても、自分たちの町が戦場となることを考えれば、少しでも離れた場所で食い止める方が良いと思うのですが」

 ランドールがゴタロウと、まともに会話できてることに少し驚いてしまった。
 もっと、脳筋な発想の持ち主だと思っていたのだが。

「お主は、また我に対して無礼なことを考えていただろう?」

 よく分かったな。
 その通りだ。
 だって、ランドールってそういう奴じゃん?

「どういうやつだと思われてるのか知らぬが、少しはいたわってもらいたいものだな……誰がゴブリンとコボルトを周辺に配置したと思っておるのだ」

 そうそう、本当に2日前に吹雪がきて、移動手段が断たれたのでランドールに空輸である程度の人員を運んでもらったんだよな。
 それに関しては感謝しているが、それとこれとは別問題だと思うぞ? 
 普段の言動を省みてから、偉そうにしてもらいたい。
 そういうところが、素直に頼れない要因なのだから。

「竜として精神的に成熟するには、あと数百年は掛かると思うが……それでも、人と比べればはるかに優れた知性をもっておると自負しておる」

 生きてきた年数の割には、足りない部分も多いと思うぞ?

「もうよい。そうやって色眼鏡で見ておると、いつか足元を掬われることになるだろうな……我に。その時に吠え面をかかないように、今のうちに少しは認めておけ」

 偉そうに。
 だったら普段からそう思えるように、威厳ある行動を取ってくれ。

「友の前で虚勢を張っても仕方あるまい」

 ちょっ……
 ここで、そんなこと言うのは反則だろう。

「でしたら、私たちにも思慮あるお姿をもう少し見せて頂けたらと」
「おいっ!」

 俺に対してはそれで通用するかもしれんが、ゴタロウにとってはそうじゃなかったらしい。
 後ろから鉄砲を撃たれて、ランドールが慌てている。

 そういうとこだぞ?

「まあ、その親しみやすいところは、ランドール様の美点でもありますが」
「むぅ……相変わらず、ゴタロウはずるい奴だな。いやらしいところばかり、ゴブスチャンに似てきおってから」
「誉め言葉として、受け取っておきます」

 おお、やっぱりゴタロウにとってもゴブスチャンは、尊敬に値する人物なのか。
 人物? ゴブリン物? どうでも良いか。

「実質、主を除いて知力、戦闘力ともに2番手ですからね」

 人の良さそうな老齢の見た目からは想像もつかないくらいに、強いらしいんだよねゴブスチャン。 
 国の運営能力も他のゴブリンよりも頭一つ抜きんでてるみたいだし。

 というか、ヘッドや頭領とつく職持ちのゴブリンって、本当に優れてるんだろうな。

「それは違いますよ……」
 
 何故か、ゴタロウにため息を吐かれてしまった。

「もはや、我らはゴブリンという括りに含まれないといいますが……便宜上ゴブリンということにしてますが、ほぼほぼ鈴木様の使徒として規格外の力を得ているにすぎません」

 ほう……なかなかの、リップサービスだなゴタロウ。
 
「本当に分かってないのが、なんともいえないですね」
「ふふ、なんだかんだで鈴木もまだまだなのだ。お主の配下のゴブリンが特殊なのは、普通に考えれば分かりそうなものなのだがな」

 うん、普通のゴブリンを知らない世界から来たんだけど?
 この世界の常識を俺に求められてもな……

「我の加護を得たゴブリン共を、稚児を相手するようにあしらうゴブリンを育てておいて分からぬとはな」

 ごめん、俺はランドールが大したことないと思った要因の一つなんだけど?
 
「ランドール様は竜ですから、大したことないってことはまずあり得ないですよ。この世界で最強の生物であるドラゴンの加護よりも、主の加護の方が上ということです」

 いやいや、ランドールが大したことないだけだろ?
 すまん、その大したことないというのは、この世界でというわけじゃなく竜の中での話だぞ?
 そこを、勘違いしてるんじゃないか?
 だから、俺が残念なやつに見えるんだろう。

「本当に残念なやつだな……竜の中では大したことないことは認めるが、それでも世界竜の本流を組む血筋だぞ? お主が大したことないと感じる年若い我でも竜の中で見れば中の下から中くらいの実力はもっておるわ」

 おお、微妙な評価。
 凄いかどうかは別として、驕ってるような感じには聞こえないな。

「こういうところは鈍い奴だな」

 うーん、鈍いとはちょっと違うんだよな。
 
「どう違うというのだ? 自身の力を正確に把握してないくせに」
「主はもっと自分の力を、誇っていいのですよ?」

 2人して俺を持ち上げるが。
 こればっかりは、俺の生まれた国のせいというか。
 謙遜は美徳という考えがだな、そのある程度は身体にしみついていてだな。

「過ぎた謙遜は嫌味ですよ」

 そんなことは分かっている。
 分かっているが、周りの評価がいかに高かろうがそれよりも1段階から2段階は下に見てしまうんだよ。
 俺の国には驕れる者は久しからずという言葉がある。
 俺の国で最強を誇った勢力を指しての言葉だ。

「どういう意味だ?」

 調子に乗ったら没落するってことだ。
 自戒の意味合いで、語られることが多い。

「だからといって、自信を過小評価するのは違うと思うのだが」

 良いんだよ……
 見立てを誤って失敗するよりは、自分の力をある程度低く見積もってる方が万事うまくいく。
 お前みたいなお調子者は、自身を過剰評価して失敗するんだ。
 俺にちょっかい出した時みたいに。

「いやいや、あれはお主が規格外なだけだ! 普通なら、竜族にそれ以外の種族が抵抗できるなど……」

 自分て実体験しておいて、分からんとは。
 だから、お前は……もう良いか。

「何が良いのだ?」
「私は、主のおっしゃることが分かりました。驕れる者は久しからず……念頭に置いて行動するようにしましょう。この言葉、ゴブスチャン殿にも主の言葉として伝えてもよろしいですか?」
「なんだ、我を置き去りにして話を進めるな!」

 お前が竜だということに胡坐をかいて、俺や俺の配下のゴブリンを鼻っから下に見てたから、痛い目見ただろうが。
 とはいえ、お前のその能天気な性格には、色々と良い点も多いからこれからも調子に乗って失敗してくれ。

「嫌味か?」

 嫌味のように聞こえるかもしれんが、事実だ。
 お前が自由に生きてるのは、不自由しかない俺からすれば羨ましい限りだ。 
 そしてそんな自由奔放なお前を見てると、楽しいのもまた事実。
 だから、お前にはありのままに生きて欲しい。
 
 お前にどうしようもできないことがあったら、俺も力の限り手助けするつもりはある。
 だから、嫌味じゃなくて本音だ。

「その、最後の失敗してくれってのが、どうも引っかかる」

 はは、失敗した方が楽しいじゃないか。
 失敗は若いうちにたくさんするべきことだ。
 失敗が許されるうちにたくさん失敗して、そして失敗から学ぶことでそれに見合った成長が出来ると思うぞ?
 失敗から逃げるなよ?
 そして、失敗したことを放置するなよ?
 なあに、俺がいくらでも手伝ってやるから。

「ぬぅ……確かに竜の寿命からすれば子供ではあるが、少し子供扱いが過ぎぬか?」

 良いんだよ。
 俺くらいしか、そういう扱いできるやつ居ないだろ?
 他の竜には、居ないと思うし。
 そう考えれば、これもお前の成長のための天の配剤と思って受け入れろい!

「ふふ、そうだな。本当にお主を話しておると、竜などただの種族の一つに過ぎぬことをよく分からせてくれる。お主が、他の種族と我を分け隔てなく接してくれるからな」
「竜は、全ての種族から畏怖、尊敬される存在ですからね。まあ、主配下のゴブリン族は竜族に引けを取るとは、もはや思いませんけども。それでも畏敬の念は常に持っておりますよ」
「お主も言うよな。まあ、そのこと自体には否定はせぬ。知っておる者達からすれば、お主らはもはやゴブリンとは呼べぬ存在になっておるからな? 見れば、人と同じ肌色をしたゴブリンも国にだいぶ増えておったしの」

 そうなのか。
 しばらく、ゴブリン王国にいってなかったからな。
 今度、ランドールに連れて行ってもらおう。

 でだ、だいぶ脱線したが……どうする?

「何をだ?」
「スタンピードのことですよ」
「おお、そうだったな」

 そういうとこだぞ、ランドール。
 
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