上 下
84 / 91
第5章:巨人と魔王

第11話:ランドールと鈴木

しおりを挟む
「で、お前が会いにいったドラゴンはどうだったんだ? 仲良くなれたか?」
「おーい、酒もってこい!」
「おいっ!」

 ランドールの今回の別行動の目的である、他のドラゴンについて聞いたら露骨に無視しやがった。

「おまえ、もしかして……」
「その顔をやめろ、鬱陶しい」

 ニヤニヤとした視線を向けてやると、ランドールが手を顔の前でシッシと振ってきた。
 こいつ……仲良くなれなかったな。
 というか、もしかして揉めたりとか。

「あんな話の通じんやつとはな。フリザットって雌竜だったが、話しかけても無視しやがって」
「フリザット? 氷竜か?」
「うむ、わしがせっかく声を掛けてやったというのに、鼻で息を吹きかけられたわ! お陰で鼻の頭が凍ってしばらく真っ赤になってしまった」
「ははは、なんだ美人だったのか?」
「う……うむ。まあ、いくら美人とはいえあんな性格ではな。で、我がフリザリオン様と知り合いだというと、いきなり怒りだして。とんだお転婆だったわ」
「お前の言い方が悪かったんじゃんないのか? フリザリオンの知り合いだからって、上から目線で声をかけたり」
「普段通りの話し方だ。それと、フリザリオン様な? いくらお主でも、世界竜の一柱であるフリザリオン様を呼び捨てするのは、見過ごせん」
「まあ、俺は種族が違うから。お前だって、人間の王に様付けなんてしないだろう」
「そういうもんではない! 人の王と世界竜では格が違いすぎる。世界竜は神に等しい、世界創造の一端を担った凄い竜なのだぞ」
「ははは、なら大丈夫。俺、この世界の住人じゃないから」
「ぬぅ……自身の世界の神と同等と思え」
「あー、俺無神論者だから」
「どうなっとるのだ、お主の世界は」
「俺の国の話な」

 うまい具合に、肝心な部分を話を逸らして躱された気がしないでもないが。
 そこまで突っ込んでも、話が広がるとは思えんし。

「巨人どもに敬われておるからと、調子にのって。我だって、ゴブリンにコボルト、オークにオーガと多くの配下を持つというのに」
「いつから、お前の配下にオークやオーガが加わったんだ。そもそも、ゴブリン達は俺のだ」
「ケチケチするな」

 ランドールが女性が持ってきた酒をひったくって、一気に飲み干す。

「おお、いい飲みっぷり! それにしてもあんたら、冗談にしても大きな声でとんでもないこと言ってるね。気でもくるってるのかい?」

 どうやら、俺達の話を聞いて声を掛けるタイミングを逃したらしい。
 というか、盗み聞きしてたのかよ。
 なかなか、いい性格で。

「冗談ではない! 我は由緒正しき竜の末裔である」
「はいはい、なかなかいい男だけど、空想癖はいただけないかな?」
 
 ランドールの言葉を受けて、女性が両手の平を上に向けて首を振ると笑いながら離れていく。

「あー、もう1杯頼む」
「あいよ!」

 その女性の後姿におかわりを要求するランドールに対して、振り返りもせず手をヒラヒラと振って応える女性。
 なんて店員だ。
 まあ、場の雰囲気とは相まってるが。

「それよりも巨人族に敬われているって、もしかしてスタンピードと何か関りでもあるのか?」
「ああ? そんなことは知らん。ただ、一緒にいた魔族の男に、なにやら肩入れしているような感じだったな。我とお主みたいな関係かのう」
「いや、お前って俺に肩入れしてくれてんの? ただの友達くらいと思ってたんだけど」
「友達……そうか、お主は我のことそんな風に思ってくれてたのか」
「ニヤニヤするな気持ち悪い。まあ、こうやって差しで飲みあって、しょっちゅう一緒に居るんだ。友達でなければ、なんだろうな?」
「うむ、友だな」
「強敵って当て字になりそうだから、普通に言え。お前はそもそも敵ではないし」
「酷いな……」
 
 それにしても、魔族か。
 魔族はあったことないな。
 というか、ドワーフとかホビットとかもいるのかな?
 精霊はどうだろう。
 色々なファンタジーな種族がいそうで、旅のしがいがある。

「で、その魔族は何者なんだ?」
「知らんな。竜同士の会話に口をはさむような、愚か者では無かったのは確かだ」
「本当か?」
「……本当だ」

 嘘っぽいな。
 こいつ、嘘吐くの下手だな。

「ただ、フリザットの竜の加護以外にも何か秘密がありそうな雰囲気はあった。かなりの魔力を持っているのは確かだったな」
「いくつぐらいの魔族だったんだ?」
「100歳はいってないだろうな。人でいうところの20歳前後くらいか」

 100歳で人の20歳前後って、魔族も長生きなのか?
 そもそも、魔族って。

「魔族も獣人と変わらんよ。色んな種族がいる……悪魔系から獣魔族系、はては魔人まで。寿命もピンキリだな。あの男は、魔人だから500歳から2000歳くらいは生きるだろう」
「それでも、幅が広いんだな」
「うむ、獣魔族系は50歳から800歳くらいが多いか? 悪魔系は500歳から永遠に生きる者もいる」

 魔族でひとくくりにしても、そんなに種族が枝分かれしてるのか。
 
「ダークホビットや、ダークエルフも魔族の一種だな」

 なんていうか、人と魔族って似たり寄ったりなんだろう。
 で、肝心なスタンピードに関することは。

「で、そいつら巨人族を使って、何かしようとしてなかったか?」
「ん? ああ、なんか探し物があると言ってたな。剣か槍か斧か杖か……たぶん武器だとは思うが、それがなんなのかは分かっていないようだったぞ? 詳しくは知らん。まともに会話も成り立たんかったからな。思い出しても腹の立つ女だった」

 ポンコツだな。
 シノビゴブリンに頑張ってもらいたいところだが、竜が相手だとちょっと厳しいか?
 もしかしたら、すでに調べに行ってるかもしれんが。
 あんまり危険なようだったら、無理はしないで欲しいな。

「まーた、お客さん方が夢物語みたいなことを言ってら。冒険者なのかもしれないが、そんな伝説のおとぎ話みたいなことばかり話して楽しいのかね? 楽しいんだろうね」

 はは。
 本当に豪快なお姉さんだ。
 こっちが答える前に、自身で完結させてるし。
 まあ、嫌いじゃないけど。

「女、先ほどから無礼ではないか」
「おい、酔いすぎだぞ? 普通に考えて、知らん人が聞いたら荒唐無稽な話だ。しょうがないだろう」
「おっ、坊やも含みをもたせた言い方するね。若いうちからそんなんじゃ、親御さんも将来が不安じゃないかい?」
「あー、親はいないから、心配ご無用」
「じゃあ、なおさら心配だね」

 親無し子に親の話題振って、申し訳ないとも思わずにこの言いっぷり。
 本当にカラカラとした性格なのだろう。
 
「大丈夫、これでもそこそこやるからさ」
「へぇ、見かけによらないもんだね。言ってることが、本当なら」
「おい、こやつは我よりも強いぞ?」
「ははは、あんたがどれほどのもんか分かんないから、それじゃ何とも言えないよ。いいから、飲んで食べる」
「待て女! 話は終わって……行ってしまった」
「今日は、女難だなランドール」
「ふん、人の女なんぞ物の数にも入らんわ」

 ランドールがそっぽむいて、酒をあおっている。
 なんだかんだで、メンタルに来てるな。

「~~~~~」
「ご機嫌だな」

 ランドールが理解できない言葉で歌いながら歩いているのを、横目で見る。
 何がほろ酔い程度にしか、アルコールを入れないだ。
 途中何度かお姉さんに突っかかられて、休憩のお姉さんがテーブルに割ってきて盛り上がって。
 しかもアホみたいに、おだてられてガバガバ酒を飲んで。
 途中から他のテーブルの客まで混じって、酒をご馳走してくれたし。

 それで千鳥足で歌いながらヨタヨタ帰ってたら、世話ないな。
 見事にお姉さんの思惑通りに、凄い金額を請求されたが。
 それでも、かなり割り引いてもらってたのは分かる。

「大将があんたの飲みっぷりに気をよくして、だいぶ色付けてくれたからね」
 
 って言ってたけど、あれだけ飲んでこれは確かに安いか。
 軽くなった財布を振りつつも、ニコに内緒のゴブリン王国の献上金だから旅費には手を付けてないし。
 他の客も結構、払わされてたし。
 大将の顔見たら、かなり儲かったんだろうな。

 帰るときに、他の客がザワザワしてたのは面白かったな。
 
「樽2つ分くらいの酒飲んでるのに、腹が出てない……だと?」
 
 って、これは俺も不思議だったな。
 トイレにいったわけでもないし。
 
「ターラリラっと」
「さっきから、なんの歌を歌ってるんだ?」

 上機嫌に踊りながら歌って歩くランドールに、聞いてみた。
 不思議なメロディで、それでいて元気が出る気がする。

「知らん……母上が、我が眠るときにいつも歌ってくれていた歌だ」

 子守歌か?
 にしては、眠気を誘うようなゆったりとしたメロディとは程遠い気がしないでもないが。
 取り合えずご機嫌なこいつは放っておいて、帰ったらゴタロウに相談だな。
 もしかしたら、今回のスタンピードが人為的なものだとしたら、そのフリザットてのと魔族が怪しいからな。
 ただ、虎の尾を踏まないように、慎重に対応しないといけないかもしれない。

 ポンコツのランドールでもそこそこ強いんだ。
 普通の竜なら、どれほどのものかはやってみんと分からんからな。

「フンフンフーン」
「近所迷惑だから、もう少し静かに歌えない?」
「フォーンフォーン」
 
 聞いちゃいない。
 次の日、頭を押さえて呻く姿を見て、竜って大したことないなと思ったのは秘密だ。

「酒臭いです! 近づかないでください!」
「耳元で騒ぐな、頭に響く」

 フィーナにキンキン声で注意されて、眉を寄せて情けない顔してるランドールにため息しかでない。
 ゴタロウの表情も、心なしか呆れの色を含んでる。
 ニコだけが心配して、水とか運んでいた。

「お主だけだ! 我に優しいのは」
「痛いし、臭いよ」
「ニコ、困ったことがあったら我に言うのだぞ! 我はお主の味方だ」

 まだ、酔ってるのかな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

処理中です...