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第5章:巨人と魔王

第8話:バルウッド

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 結局、武器屋に行ったよ。
 例の無精ひげ男は、ジェラルドというらしい。
 この町のB級冒険者とのことだが、なるほどと思わせるくらいには立ち振る舞いに実力が感じられた。
 そのB級冒険者が贔屓にしてるだけあって、なかなかの品ぞろえ。
 長柄の武器や、バトルアックス、ハンマーなどの重量級の武器が多いのは、この周辺の魔物の生態のせいかな?
 毛足が長く、また皮の厚い魔物が多いらしく、そこそこの威力の出る武器が好まれるらしい。

「このあたりの、剣とかはどうだ?」
「うーん、剣は今あるので十分だけど」
「マジか?」

 やたらと壁に掛けられている剣を進めてくるジェラルドに、ニコが微妙な返事。
 バルバロッサのような湾曲していて、剣先の太い海賊の使うサーベルのようなものが多いが。
 ツヴァイハンダーやクレイモアのような重量級の剣は、おすすめしてこない。
 まあ、ニコの体形を見ての判断なのだろう。
 俺がバフをかけたら、片手で振り回せるとは思うが。

 他にはフランシスカのような、投げてよし、近接ありの軽い斧も持ってきてたりした。
 いや、剣が十分なら斧でとかって、そうじゃない。
 武器は俺で十分だろう。

 ただ、武器とうのは、どうも少年心をくすぐるというか。
 まあ、魅力的に映るのは、仕方ないか。
 壁に掛けられているゴテゴテとした装飾の剣や、変わった形の武器にニコが目を輝かせている。
 
 流石にバグナグやナックルのような拳闘用の武器は無かったが。
 パタやジャマダハルのようなものは、置いてあった。
 パタはガントレットの先に剣がついた、剣手甲と呼ばれる武器で。
 その前身がハルという、横になっている柄を握りこんで使う刺突武器。 
 このジャマダハルは、刺突の威力はそんじょそこらの短剣じゃ太刀打ちできない。
 
 いずれにせよ、店内には威力重視の武器が多いな。
 壁に掛けられているもの、台座に乗っているもの、箱や樽に投げ入れられているものと多くの武器があるが。
 俺からすれば、特に気になる武器は無い。

「おいおい坊ちゃん、そこは儀式用の武器だぞ? 武器としての性能は、ほとんどないからな?」
「うん、ただ綺麗だなと思って」

 せっかくジェラルドが武器を色々と見繕ってくれているのに、上の空でそんな武器ばかり眺めていたからかニコが注意されていた。
 とはいえ、そこのところは流石のニコも分かっていたらしい。
 少し安心。

 ちなみにフィーナは、隣のお店で服を見ている。
 いくら寒さを感じないとはいえ、あまり薄着だと浮いてしまうのが分かったのだろう。
 ゴタロウは一度店をでて、少しして戻ってきていた。
 彼も興味津々で武器を眺めているが、あれは形を憶えているな。
 ゴブリン王国の鍛冶師にでも再現させるつもりなのだろう。

 外に出たときにシノビゴブリンがゴタロウに話しかけていたけど、特に表情を変えることなく戻ってきたから定時報告だったのかな?
 まあ、良いか。
 特に目立つつもりもないらしい。

 ニコは、武器よりも耐寒装備や靴を買った方が良いんじゃないか?

「そうだね」
「ん?」

 武器に集中してるニコに話しかけたら、普通に返事が返ってきた。
 ジェラルドが怪訝そうな顔をしていたが、言葉までは聞き取れなかったのかさほど気にせず店内の物色の続きに入る。
 こいつもめげないな。
 ニコが、いらないつってるのに。
 店主にリベートでももらってるのだろうか?

 あんまり積極的な店員じゃなさそうだし。
 というか店員さんはよぼよぼのおじいちゃんと、おばあちゃんだし。
 ニコニコとニコを見つめているその姿は、はしゃぐ子供を微笑ましく見ているただの老人か。
 はたまた、鴨がネギしょってきたと皮算用している、狸ジジイか……

 前者であると思いたい。

「えっと、武器は間に合ってるから防具が欲しいかな? 寒さがやわらぐようなのと、雪でも歩きやすい靴とか?」

 俺のアドバイス通りにジェラルドに提案したら、2つ返事で見繕ってくれた。

「寒さがやわらぐというか、鎧の下に着るインナーにこれがもってこいだ。麻の表面に氷兎の皮をはりつけただけだけど暖かいぞ?朝起きてキンキンに冷えた鎧を着ても、全然平気だ」
「へえ、凄いね!」
「あとは、こっちのブーツは靴底が広いから雪に沈みにくく、お前さんがはいてるのよりは歩きやすいだろう」

 ぱっぱと選んだわりには、なかなか良いものを持ってきてくれた。
 変な着ぶくれするような装備じゃないのも、ポイントが高い。
 ということは当然、お値段もお高いんでしょう?

「合わせて大銀貨2枚」

 安いんだか、高いんだか。
 ニコがゴタロウの方を見上げると、ゴタロウが頷いてお金を払っているところを見ると妥当なのだろう。

「まいど」
「また来ておくれ」

 ニコニコの老夫婦が、しわがれているがそれでいて柔らかい口調でお礼をいってくる。
 うん、普通に良い人達っぽくて良かった。

 ちなみに、フィーナは結構買い込んでいた。
 お金とか、大丈夫なのかな?

「ニコ様とゴタロウのもあります、私のだけじゃないですよ! それに、これでもお金はしっかりもってますから」

 フィーナの言葉を受けて、ゴタロウに意識を向ける。

「まあ、労働対価的なものとして、ゴブリン王国から援助はあります……それと、町でちょっとした小遣い稼ぎもしてますし」
 
 小遣い稼ぎ?

「腕相撲で勝ったらみたいな勝負で、参加料をせしめたり」

 うーん、グレイゾーンギリギリの稼ぎ方だな。
 見た目は華奢な女の子だけど、正体はゴブリンロードとかってある意味詐欺だと思うが。
 まあ、こっちに迷惑を掛けないなら良いか。

 それよりも、俺には何かないのかな?
 いや、ランドール特性の魔石を込めた鞘だから、、特に必要ないが。
 普通だったら、刀身がキンキンに冷えて触ったら指がくっついたりしそうだし。
 まあ、魔法で溶かせば済む話だけど。
 いや、刀身を溶かすんじゃなくて、くっついた指の氷をね。

『言わなくても、分かります……そして、主に差し上げられるようなものはないですよ! その鞘だって、出すとこに出せば城が買えそうな代物ですからね』

 ゴタロウに呆れられてしまった。
 それから、氷で出来た建物を見せてもらったりしつつ、町の中を歩く。
 3人でお揃いのモコモコのロシアの人がかぶってそうな帽子をつけている。
 耳あてのあるロシア帽、そうウシャンカと呼ばれるあれだ。

 ちなみに、ロシア帽子の中でウシャンカと呼ばれる条件は、耳当てがあること。
 コサックの帽子とか、アストラカン帽、所謂いわゆるパパーハはウシャンカにはあてはまらにらしい。
 どうでも良いか。
 なんでこんな話を、知ってるんだ?
 確か、じいちゃんの知り合いのロシア帰りのじいちゃんが自慢げに教えてくれたんだっけ?
 今となっちゃ、そのじいちゃんも頭が色々と怪しくなってたから、本当の意味で怪しい知識だが。
 
 それとファーのついた手袋に、マフラーまで巻いて完全防備。

 氷で出来た建物は中に入ることも出来たけど、なかなかに素晴らしい光景だった。
 氷の壁と壁の間に魔法で水を流して、さらに光を裏から当ててみたり。
 逆に氷の中に、魔法で火を作り出していたりと。
 地球じゃお目にかかれないような、超技術を駆使した芸術品だった。

 氷の彫像も、いまにも動き出しそうなほど精巧だったけど。
 あれは厳密には彫像と呼んでいいのだろうか?
 魔法で削ったり凍らせたりして作ってたみたいだいし。
 勿論、鑿と金槌で作ったものもあったけど。

 竜の彫像や、オーガの彫像から、海豹やクージラの彫像まで。
 はたは、裸婦や天使ぽいのから剣や盾のようなものまで。
 ただ、あまりに寒すぎて会場には人がまばらというか。
 子供たちがはしゃいで駆けまわってる割には、大人の数が少なかった。

「夜になったらライトアップされて、カップルが集まったりもするんですけどね……寒すぎて、みんなすぐに帰っちゃうんですよ」

 そうか……
 だったら、彫像の間の道に管通してお湯を流し続けたらどうだろうか?
 もしくは、ところどころに焚火を用意するとか。
 どうせ、少々溶けてもすぐに凍るだろうし。
 というか、本当に寒いんだろうな。

 あれだけの完全防備にも関わらず、ニコの唇が真っ青だ。
 顔までは完全に防げないし。

「ニコ様、マフラーをちゃんと巻いてください」

 みたら、マフラーを首からぶらさげてるだけだった。
 フィーナが巻きなおそうとするが。

「冷たい」

 といって、ニコがマフラーを振りほどいてしまった。
 まあ、表面にだいぶ雪と氷の粒がついていたからな。
 もらってすぐに口まで巻いておけばよかったのに、店の中で身体がポカポカしたからって調子に乗るからだぞ。

「もう、私のと変えましょう」
「ええ、悪いよ」
「いいえ、私は寒くありませんので」
「そっか!」

 そんなやり取りをして、フィーナとマフラーを交換していたが。
 おい、フィーナ!
 ニコのマフラーの匂いをかがない!
 
「なあ、兄さん……坊ちゃん殴っていいか?」
「お主は、何をいきなり」
「そうか……兄さんには俺の気持ちは分からんか。いっつも、目の前で見せられたら麻痺もするか」

 どうやら、ジェラルドはもてないらしい。
 2人に嫉妬しているのだろう。

「うちのかかあも、あんな時があったんだけどな……今じゃ、トドかセイウチか」

 と思ったら、嫁がいたのか。
 俺からしたら、それだけでも十分羨ましいがな。

 それから、ようやく予定していた食事所へ。
 バルウッドというお店らしい。

『バルはお酒が飲める食事所です、店の名前はウッドですよ』

 そうか……
 店名が木っていうのも、微妙だが。
 樹だとしたら、なんか場末のスナックみたいに見えるし。
 うーん……

 まあ、いいか。

 店内はまだ日があるというのに、人で賑わっていた。
 木というだけあって、木で出来た机に、木でできたカウンター、木のジョッキに、木の器と、木だらけのお店。
 ん?
 普通だよな?

 さっき、さんざん氷の彫像がある場所で、氷のカウンターのお店とかを見てきたからか、変なところで感動してしまったが。
 宿も、ギルドも木造で、家具も調度品も木製のものばかりだったわ。

 寒くて、俺の思考も鈍ったのかも。

 でもと誤魔化すわけではないが、店内の雰囲気は確かに良い。
 大きな暖炉が2か所あり、薪がしっかりとくべられていてとても暖かい。
 厨房も火が立ち上がっていて、熱気がこもっている。
 料理をしている人達も、汗をぬぐうくらいには暑いらしい。

 ステージのようなものがあって、そこではチェロのような大きな弦楽器を操る人と、アコーディオンのようなものを鳴らす男性がいて、女性が躍っている。
 歌っているのはおっさんだが、なかなかにいい声をしていて店全体が良い意味で、にぎやかだ。
 女性の衣装もいやらしいものではなく、村娘みたいな長い丈のスカートにフリルのついた白いエプロン。
 ブラウスっぽいベージュのシャツはパフスリープっていうのか肩が膨らんでいて、袖口はフレア状に広がっている。
 でもって、頭巾をかぶって踊っているから、民謡感がたっぷりだ。

 元気よく躍る女性に少しほっこりしつつ、店内に再度目を向ける。

 壁にはヘラジカや針葉樹があしらわれたタペストリーが飾られていたりと、本当に昔のバーって感じだな。
 西部劇とかでありそうな感じというか、どちらかというとファンタジーな洋画に出てきそうなお店だ。

 木の樽に、木のジョッキを直接突っ込んでくみ上げたりと、衛生的にどうなのかと思わなくもないが。
 これだけ寒いうえに、アルコールでしっかりと消毒されていると思おう。
 幸い綺麗だけど、ちょっと恰幅のいい気の強そうな女性が、手を洗ってから掬ってるから仮に手が入っても悪い気はしないけど。
 
「いらっしゃい、とりあえず向こうのテーブルが空いてるからそっちに座って」
「あいあい」

 店内でも一際目立つ大きな女性が、こっちに気付いて声を張り上げた。
 近くに来て案内してくれるんじゃないのか。
 しかも、両手に料理を乗せてるから顎でしゃくって場所を伝えてきたが。
 日本だったら、クレーム……つかないか。
 なんか、豪快だけど許せてしまえる女性だし。

 一番動いているけど、一番恰幅が良いその女性が料理をおいて厨房に行くと、若い他の女性店員に指示を飛ばす。
 そして、手にメモ帳をもってニコ達が座ったテーブルに向かってくる。
 大股でズカズカと歩いてくる姿は、若干逃げ出したくなりそうだな。

 ニコは……
 楽しそうに女性を見ているだけ。
 フィーナもか。
 ゴタロウは、特に気にした様子も無し。

 ジェラルドは……なれたもんだな。
 普通に手拭きで顔を拭きながら、女性を待ってた。

「とりあえずきついので良いか?」
「えっ? いやいや、なんか話があるんじゃなかったの? それと、僕お酒飲めないし」

 ジェラルドのやついきなり、アルコールの高い酒を頼もうとしてるし。
 まあ、フィーナとゴタロウはアルコールも、レジストしようと思えばできるから問題ないけど。
 たぶん、ニコは駄目だろうな。

 というか、これから重要な話でもあるんじゃないのか?
 
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