錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ

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第5章:巨人と魔王

第2話:ミルウェイの町に向かう道中は治安悪すぎ

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「本当に行かれてしまうので?」
「ええ、今は旅の途中ですので」
「その、オーガの件は……」
「はは……」

 ジェジェの町の入り口にある門で、リャーマさんが悲しそうな表情でお見送りをしてくれている。
 その後ろには、ビルビングさんも。
 冒険者ギルドの面々には挨拶を済ませていたので、こっそりと出るつもりだった。
 一応、領主であるビルビングにも報告はしたが。
 そしたら、なんと領主直々にお見送りに来てくれた。
 
「いつか、この町の悪徳領主を倒しに来てくださいよ」
「お前は本当に……」

 最後まで、ぶれないリャーマさんにビルビングさんが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
 ちなみに、最後ということで朝食にも招待されて、その後でのお見送りだ。
 結局、この町の大半の食事を領主邸で取っていた気がする。

「いつか、父親と和解出来たら、今度は2人で来るといい」
「えっ?」
「あいつは、私の王都の学生時代の後輩でな。君のことは、手紙で知っていたのだよ」
「どうりで……」
「まあ、出自はどうであれ、あいつはお前を愛しているのは本当だ……本妻とその子供以上にな」
「……」
「だから、またこの町にきたときは、是非気兼ねなく声を掛けたまえ」
「ありがとうございます」

 どうやら、ビルビングはニコの父親のことを知っていたらしい。
 どうりで、やたらと気さくに誘ってくると思った。
 どうも、この町で厄介ごとに巻き込まれないように、敢えて目立つように声を掛けていたらしい。
 領主と懇意にしていると分かれば、町の人も無下には扱えないだろう。

 なんとなくリャーマとの関係的にも、よく出来た領主なのだろうと思ってしまう。

「さて、これから忙しくなるぞ? お前の部屋も屋敷に用意したからな」
「執務用の部屋なら、ありますが?」
「なーに、ベッドも用意しておいた」
「あー……」
「これで、泊まり込みで働けるな? 通勤時間を仕事にあてられて、良かったじゃないか」
「その部屋は、どうやら無駄になると思いますよ?」
「ほう?」
「この退職願いを「ふんっ!」

 ビルビングの言葉に対して、勝ち誇った笑みを浮かべたリャーマが封筒を取り出す。
 それを、有無を言わさず奪って破り捨てて、逆にドヤ顔を見せつけるビルビング。
 最後まで、何をやってるんだこの2人は。

「そんなこともあろうかと、2通用意「ふんっ!」
「まだ、ありますよ?「ふんっ!」
「どんどん、破ってもらって結構!」
「貴様!」

 いや、どんだけ退職願い書いてるんだ。
 途中から、退職届けに変わってたし。
 そして、次から次へと破っていたビルビングが、鼻息荒くリャーマに殴りかかっていた。
 いやいや、その時間こそ執務にあてたらいいのに。

「はは、本当にお世話になりました」
「うむ、達者でな! ここを第二の故郷と思って、いつでも戻ってくるがいい」
「その時に、貴方が領主の椅子に座っているとは限りませんけどね。ニコさん、フィーナさん、ランドールさん、ゴタロウさん、お達者で」

 かなりバタバタとしていたが、門を守る衛兵にも見送られ無事に町を出ることが出来た。
 そこから、馬車に乗って一行はミルウェイを目指して北上。
 途中で、馬たちの機嫌を取りながら、特に大きな問題も無く……

「おおい! 誰かー」

 特に大きな問題も無く……

「助けてくれー!」

 大きな問題も……

「ねえ、誰か助けを求めてるよ!」

 放っておけ。

「えっ?」

 助けを求めているのは盗賊の一味だ。
 困っているふりをして、お前らが近付いたら襲い掛かってくるつもりだ。
 特に助けを求めている男に近づいたら、不意打ちするつもりだから。
 周りの森に、仲間が隠れてるから。

「なんで、そんなことが……」

 俯瞰の視点で、常に警戒しながら歩いているからな。
 ゴタロウの配下も、様子を見に向かわせた。
 さらにいえば、俺は奴らが最後の打ち合わせをしているのを、盗み聞きしたから。
 間違いない。

「そっか、じゃあ放っておいても良いか」

 それにしても、物騒だな。
 普通に、盗賊が街道沿いにいるとか。

「殺しますか?」

 ……うちの、配下も物騒だった。
 いや、まあ殺してもいい存在ではあるのだろうが。
 どうも、こうやむを得ない場面じゃないのに、殺しに行くのは……

 よし、せいぜい懲らしめてやりなさい。

「はいっ、腕の2本くらいは貰ってきます」

 やめてあげなさい……
 それ、懲らしめるどころじゃないから。
 俺に指示を仰ぎにきたシノビゴブリンに、ため息を吐いて手を振る。
 
「手を切り落とす程度で宜しいので?」
 
 そうじゃない! 
 あー……よし、全身を縛り上げて、おでこに盗賊って書いてジェジェの町に放り込んでくればいいから。

「それだけで、良いので?」

 良いんです。

 ……まあ、判断基準が魔物と人のそれじゃ違うのかな?
 いや、この世界の人はどうなんだろう?

 ニコなら、どうする?
 盗賊に襲われたら。

「うーん、僕はびびって何もできないかもしれないけど……たぶん、強い人なら、普通にその場に切り捨てて置いてくんじゃないかな?」

 あー、出来るなら殺すのが普通なのか。

「首も1つか、2つあれば、あとは最寄りの町の衛兵さんに確認してもらえば、報奨金は貰えるし」

 しかも、首をもって街まで行くのか。
 小銭稼ぎに。
 うーん……まあ、文明度的に犯罪に対する罰が、厳しそうなイメージだしな。

 どんな感じなのだろうか?

「軽微な罪なら、100叩きとか? 本当に、しょうもない犯罪なら牢屋で一晩とかだけど」

 100叩きってあれだよな?
 先の裂けた竹かなんかで、ビシバシやる感じかな?
 それとも鞭かな?

「鞭は鞭で、鞭打ちって刑があるよ? 他にも棒打ちとか。100叩きは文字通り、掌で100回背中を叩くの」

 おおう……思ったよりは、優しい……のかな?
 でも、背中を掌って、あのプールの時間とかにやる、モミジだよな?
 大人の力であれやったら、呼吸が一瞬止まるんじゃないかな?
 それを100回?
 心臓の裏側からとはいえ、止まらないのかな?

「放火は火あぶりとか、詐欺は全財産没収の上、顔に刺青だったかな? 貴族に対する暴言は、色々な罰があるけど、国王陛下に対する暴言は打ち首」
 
 うん、やっぱり犯罪者に厳しい世界だった。
 で、盗賊は?

「まあ、大体が棒叩き100回のうえ、終生労役だよ? 粗食らしいけど、食事付きだし」

 うーん、生活の面倒を見てもらえるなら、最悪盗賊もありなのかな?
 盗賊に身をやつすほど追い込まれた生活で、最悪きつい肉体労働はあれど食事が出来るなら。
 それを、生きているからと甘受できれば、盗賊も一つの選択肢なのだろう。
 もうちょっと、他に選択肢ありそうだけど。

「何かにつけて、恩赦がもらえるから、若ければ途中で出られるし」
 
 へぇ……
 
「助けて―」

 そんなことを思っていたら、今度は若い女性の声が。
 うん、あれは普通に助けを求めている声だ。

「いや、そんな冷静に言ってないで助けに行かないと」

 ちょっと離れたところで、盗賊に馬車が襲われている。
 かなり、良さそうな馬車。

「今度は助けに行くのか?」

 ちゃっかりと御者台にのって、ご機嫌のランドールが後ろを振り返ってニヤリと笑う。
 てっきり、普通に馬車に乗るのかと思いきや、手綱を握るゴタロウにキラキラとした目を向けていたから聞いてみた。
 どうも御者台に乗るのに、憧れていたらしい。
 馬を操って、馬車の先頭に乗るのだから、一番強いリーダーの役目だろうとかって言ってたけど。
 いつからランドールがリーダーになったのか知らないけど、説明するのも面倒くさいからゴタロウに譲らせといた。
 でもってゴタロウが、キャビンに乗るのかと思いきや何故か屋根の上に。
 まさか、そこに? 
 と思ったら降りてきて、やっぱりキャビンに乗ってた。
 どうも、配下の位置関係を確認して、指示を出していたらしい。

 ちょっと、びっくりしたけど。

「女の子だから、助けに行くのですか?」
「いやいや、さっきのは罠だから。今回は、本当の悲鳴だから」
「本当ですか?」
「いや、鈴木さんが……」

 本当だから、手伝ってあげなさい。

「はい、分かりました」

 フィーナがちょっと不機嫌そうだったけど、俺の言葉を聞いて素直にうなずいてくれた。

「お嬢様、逃げてください!」
「私一人じゃ、逃げられないよ」
「くっ、次から次へと」
「へっへっへ、お前ら頑張って生き延びろよ! こいつを攫ったら、きっと一生遊んで暮らせるぜ!」
「それじゃあ、大事に扱わないとですね」

 老年の男性の声と、少女の声、そして若い男性声が聞こえてくる。
 続いて下卑た、笑い声が。
 うん……分かりやすい。
 お嬢様と執事と騎士かな?
 でもって、盗賊と。

「さあっ……」
「おかし……」
「なん……」
「ちょ……」

 頭領っぽいのが、掛け声を掛けようとした出だしで沈黙。
 意識を刈り取られたらしい。
 それに気付いて声を掛けようとした部下Aが、すぐに沈黙。
 続くB、Cも声を出した瞬間に沈黙。
 他にいた、30人近くの盗賊は声すら出せずに沈黙。

「何が?」
「なんで、こいつら急に……」
「何者だ!」

 そして、代わりに佇む7人の黒装束を身に纏った、シノビゴブリン達。
 うん、優秀過ぎてどうしよう。
 俺はこの状況を、説明するすべをもっていない。
 それは、おそらくランドールもニコもフィーナもだろう。

 3人とも、急に盗賊が倒れ、代わりに怪しい男たちが現れたことで、警戒を強めている。 
 さらにいえば、若干の絶望に近い表情。

「もしや、お嬢様を狙った刺客か!」
「違います。通りがかりの主があなた方を助けようとしていたので、わざわざ手間を取らせることもないと思いまして」
「通りがかりの主? おぬしらが、仕える……いや、おぬしらは誰かの家来なのか?」
「そろそろ主が参りますので」

 おいいいいっ!
 ちゃんと、質問に答えて行けよ!
 若干、丸投げされた感が否めないが……

「あれほどの手練れを配下に持っている御仁となると……」
「セバス、向こうから馬車が向かってきます」
「あれが、さきの連中の主を乗せた馬車でしょうか?」
 
 3人が困惑した様子で、こっちを見ているのが分かるが。
 すでに盗賊が倒されているのを見て、ランドールが馬車を止める。
 いや、まだ結構遠いんだけど?

「どうやら、助かったみたいだぞ? 戻るか?」

 戻るの?
 この状況で?

「助かったんだったら、良くないかな?」

 ニコも、それでいいのか?
 俺は、良くないと思うが……

「最初から、ゴタロウに言えばわざわざ、来なくても良かったんじゃないですか?」

 フィーナ、それ俺に言ってる?

「そうですね……まあ、目的は達成されたので、私の役目はもうありませんし」

 ゴタロウが、仕事は終わったとばかりに目を閉じる。

「じゃあ、満場一致だな?」

 ゴルア! ランドール!
 俺にも聞け!

「ん? 鈴木はあやつらに、助ける以外に何か用でもあるのか?」

 いや、無いけど。

「なら、いいではないか」

 なら、いいか……
 いいのかな?
 まあ、いいか。

「あっ、帰ってしまわれる」
「ええ……」
「まあ、助けるという目的は果たされてますけど……普通、この状況で立ち去りますかね?」

 訳の分からない俺達の行動に、3人があっけにとられているのがよく分かる。
 よく分かるけど、俺もよく分からんけど立ち去って良い気がするし。
  
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