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第4章:鬼

閑話1:鬼の里滞在 ゴウキ実家編

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 なんだかんだで鬼の里といっても、普通の村と大して変わらんな。

「そうだね。凄くのんびりとした雰囲気だね」
「穏やかな気持ちになれますね」

 ヨウキさんとリュウキは、ヨウキさんの実家に戻ったようだけど。
 ニコとフィーナとランドールは、ゴウキの父母であるヒャッキさんとキョウキさんの家に泊まることに。
 リュウキが少し寂しそうだったが、流石にこのような状況でヨウキさんがゴウキの実家に泊まるわけにもいかず。
 せっかくだし、リュウキの顔を母方の祖父母にも見せたかったようで別々に泊まることに。

 そのヒャッキさんの家だが、まあ割と大きな家だった。
 ゴウキの他にも兄弟がいるらしく、皆家を出て家庭を築いているので部屋は割と余ってるとのこと。

「夕飯は、私の作った料理だけどお口に合いますかね」

 そう言ってキョウキさん、リュウキのおばあちゃんがテーブルに料理を並べ始める。
 運ぶのを手伝うフィーナを、優しい眼差しで追っている。
 ちなみにランドールは、普通に出てきた。
 ずっと後ろをついて歩いていて、周囲の鬼たちが二度見していたのだが。
 流石に竜のオーラを感じたのか、特に絡んでくるものもおらず。 
 昼食の間も、少し離れたテーブルで食事を取っていた。

 お金も払わずに出ようとして、店主に止められていたが。
 ランドールが不機嫌そうに睨んだら、店主が口をもごもごとさせていたのは見ていて思わずため息が出そうだった。
 別に俺は呼吸などしていないが、それでもため息が出そうなくらいに呆れた。
 まあ、ゴタロウが払っていたが。

 これは、後で説教だな。

 それからヨウキさんと別れた辺りで、ヒャッキさんがランドールの方に話を振ってくれたんだよな。

「あの、後ろからついてこられている御仁は、保護者か何かかな?」

 と言われて、ニコとフィーナがようやくランドールを紹介出来たんだっけ。
 俺が、ろくなこと言わないからもめ事の最中は出てくるなと言ったのを律義に守っていたのだが。
 もめ事が終わった後も呼ばれなくて、あれっと思ってついてきたと。
 で、ずっと無視されてふてくされて、こうなったら意地でも後ろに張り付いてやろうと思ったとか。
 いや、とっとと里の外の、シノビゴブリンが作った急ごしらえの、キャンプに行けばいいのに。
 と思ったのは、俺とフィーナだけだったようだ。

「えっと、うん僕の兄のような人かな」
「ふむ」
「そうかい、なかなかに頼りがいのありそうな、たくましい方じゃのう」

 ニコが、ちょっと申し訳なさそうにランドールを2人に紹介してそれからヒャッキさんの家に。
 人に紹介するときは、兄のような人と紹介しないと不機嫌になるんだよな。
 本当に面倒くさい駄竜だ。

 で、それからヒャッキさんの家で夕方までゲームをしたり、話をしたりして暇をつぶしていた。
 ゲームといっても、将棋によく似た陣取りゲームのようなものだった。
 彼の祖先にあたる、人間の男性が持ち込んだらしい。
 割と、この里でもたしなんでいる人は多いとか。

 ちなみにニコ達は誰もルールを知らなかったので、ヒャッキさんに教えてもらいながらだ。

「ほっほ、そこに歩兵の駒を進めると攻める場所が限定されるから、その先の展開が広がらず押し込まれてしまったのう。もう少し先を読んで、そこは新たにこっちに歩兵の駒を投入して進路を開拓すべきじゃったの」
「そっか、どんどん守りが堅くなっていくから、早く攻め込まないとと焦っちゃった」
「神速を尊ぶなら、哨戒に出した工作兵をそのまま攻め込ませても良かったのではないかのう」
「そしたら、その駒が取られちゃう」
「しかし、それを取ろうと思ったら3手はいるからのう。その間に、後詰で歩兵の駒を1つ追加できるでのう」
「ふわぁ……考えることが多すぎて、頭がこんがらがってきちゃった」

 いまいちルールがよく分からない。
 裏返しの駒とかもあるし、騎馬や砲兵、弓兵に魔法兵とか……
 この世界ならではの駒も多い。
 初心者向けのハンデで聖女の駒とか。
 1度きりだけど、倒された駒を全て手持ちに復活とか、割と酷いハンデだと思う。
 あとは勇者とかっていう、倒されても自陣の一番深い場所に復活する駒とか。
 その代わり、駒の動きは歩兵と一緒だけど。

 しかも地方ルールとかもあるらしい。
 しきりにランドールが、竜の駒はないのかと聞いていたが。
 鬱陶しい。
 仮にあったとして、どんな動きをするんだ?
 上空からブレスで一掃とか、もはやハンデどころじゃないだろうに。

「あっ、この芋の煮物美味しい」
「この芋は、畑で出来るの?」
「うんにゃね、森で採ってくるのじゃよ」
「このお浸し、パンにつけて食べると水分が多くて、良い感じにしっとりして食べやすい」

 この里のパンは小麦粉を練ったものを、平べったく伸ばして丸くして焼いたものだ。
 よくこういった世界で耳にするカッチカチの黒パンとは、また違ったものらしい。
 お焼きに近いもののようだ。
 そうか……お焼きの文化は、この世界にもあるのか。
 だったら明太子はないけど、ジャガイモとチーズのお焼きとか流行りそうだな。
 モチモチのいももちなんか良いよな。
 あれって、片栗粉とじゃがいもだったっけ。
 片栗粉か……

 じゃがいもがあるからな。 
 カタクリを見ても分からないし、似たような違う花かもしれないからじゃがいもから作るのが一番か。
 片栗粉って早い話がデンプンだからな。
 
 じゃがいもをすりおろして布にくるんで、水でもんだり振ったりしてデンプンを取り出したものなんだよな。
 そこに白い沈殿物が溜まったら、上澄みの水を全てすててまた水を入れてかき混ぜる。
 で、また沈殿したら水をすててを2回やったあとの沈殿物を乾燥させて粉にしたのが片栗粉。
  
 じゃがいもで片栗粉を作って、じゃがいもを使っていももちを作る。
 じゃがいものある世界なら、簡単に出来てきっと人気も……いや、どうだろう。
 平べったいおやきがあるなら、そこまでは驚かれないか。
 それよりも片栗粉の方が、料理の幅が広がって流行るかもしれない。
 片栗粉……これは、金の匂いがする。

 といっても、すぐすぐどうこう出来るわけじゃないが。

「インゲンも美味しい、全部美味しいです」
「やだよ、おばあちゃんの作った年寄り料理で不安だったけど、こんなに喜んでもらえると恥ずかしいね」
「ふふ、ばあさんの料理は里で一番じゃよ」
「おじいさんまで。お客さんの前でやめとくれよ」

 皆が手放しで褒めたら、おばあさんが嬉しそうに照れ笑いを浮かべている。

「若い子だから、本当はお肉をメインにした方が良いんだろうけど」
「いやいや、こんなに色んな種類の料理が出てくるなんて、凄いです」
 
 フィーナが目を輝かせているが、俺もこれには正直に凄いと思った。
 大体このご時世の家庭料理なら、スープとパンだけとかってのが普通だろう。 
 肉が出たら、万々歳とも思えるが。

「全部、お姑さんに教えてもらったんだよ。おじいさんの、お母さんさね! ご先祖さんの味を引き継いで、美味しい料理を作り人だったねぇ」
「ああ、死んだお袋も料理が美味かった。うちに来た人間のひいじいさんが、色々と料理を教えてくれたみたいでのう」
「そっか、先祖代々受け継がれてる味なんだね」

 なんだろう……
 その人間って、異世界人という名の地球人とかじゃないよな?
 確かに里の若い雌の鬼を見たけど、仙台弁をしゃべる鬼の女の子に似た雰囲気を感じるものはあったし。
 語尾に、だっちゃ! ってつくあの某ヒロインみたいな。

 実際にでも角のある女の子か……ただ、服は虎柄のビキニじゃないんだよな。
 普通の服だし。
 当たり前か。 
 でも、可愛い子は普通に可愛くて、角がチャームポイントのように思えなくもない。
 
 と、またまた脱線したが、ついでに言うとアフロの鬼はいませんでした。

「母さん、子供達連れてきたぞ」
「じいちゃん、ばあちゃん来たぞ!」
「おばあちゃん、お腹空いた!」

 とそこに、普通にゴウキがタツキとミキを連れてきた。
 うん、普通に普通だ。
 昼の出来事がうそのように、悪びれた様子もない。
 3人とも。
 
「何しに来たね? 今日は客人が来とるから、急に来てもなんもないよ」

 そして、おばあさんに塩対応されてる。

「いや、ご飯……」
「ごはん? 食事だったら、嫁さんに……ああ、あんた嫁さんに逃げられたんだったね? で?」
「でって……いや、子供達も腹空かせてるし」

 というか、凄いなゴウキ。
 昼間にあれだけ、おじいさんとおばあさんに叱られてて普通に、実家に飯をたかりにくるとか。
 あっさりと毒吐かれて一瞬ひるんだけど、それでも引かないあたりが特に。

「可愛い孫に飯を食わせてやりたい気持ちはあるが、その様子だと3人とも反省してないようだし……」
「ばあさん……」
「あんたは、黙っとり」

 おじいちゃんもタツキとミキには甘いのか、おばあさんの迫力に怯みつつも助け船を出そうとしてピシャリと黙らされてる。
 ここは、かかあ天下のようだ。

「あんたらがちゃんと反省するまで、ばあちゃんはなんもせんよ! ヨウキさんがあんたらを許したら、ばあちゃんも許してやるから……というかじゃ……ここで油売っとる暇があったら、とっととヨウキさんとこに謝りにいかんかい、このバカ息子共が!」
「おふくろぉ~」
「情けない声出しても知らんよ? 大体普段はちっとも顔見せんくせに、困った時だけ来てからに。ヨウキさんに呆れられて、ちったあその性根が伸びるかと思ったに、曲がったまんまかい! 本当に、あたしゃ情けないよ」
「……」
「分かったら、とっとと行く!」
「はい……」

 凄いなばあちゃん。
 自分の息子や孫に対して、凄く厳しいぜ……
 まあ、間違っちゃいないが。
 なぜ、このばあちゃんから、どうやったらこの息子が育ったんだろう。

「ばあさんがこうなったら、わしも何も言えん……お前たち、すまんな。これで「じいさん? こんなろくでなしにやるような小遣いなら、来月からいらんのう?」
「……タツキ、ミキ、すまんのう不甲斐ないじいで」

 そうか、おじいちゃんが甘いのか。
 出しかけた財布をしまうヒャッキさんを見て、微妙な気持ちになったが。
 仕方あるまい。
 自身の身から出たさびだ。
 ゴウキ、とっととヨウキさんに謝りにいけ。
 許してもらえると思えんが。

 そして事情をしってる、義実家に頭を下げにいくとか。 
 ハードルたけーな……
 ヨウキさんのお父さんとお母さんがどんな鬼か知らないけど、ヨウキさんの家に謝りに行けと言われたゴウキのあの真っ青な表情を見るに。察するに余りある。
 怖いんだろうな……

 すごすごと退散していく3人がいるだろう玄関を、申し訳なさそうに見つめるニコ。
 玄関のやり取りなので、居間にいるニコ達からその姿は見えないが。
 息子を差し置いて、外から来た自分たちが我が物顔で接待を受けるのが心苦しんだろうな。
 そこはゴウキざまあで飯が美味いくらいの、図太い神経になってもらいたいものだ。
 フィーナを見てみろ。
 嬉しそうに、玄関の方をニコニコと見ているぞ?
 ちょっとヒャッキさんに対して、視線が一瞬厳しいものになってたが。

 さらにいえばランドールなんか、我関せずで凄い勢いでずっと芋の煮物を食べてるぞ?
 いや、他にも鳥を焼いたのと、猪を焼いたのもあるんだけどな。
 肉より芋か。
 それだけ、芋が美味かったんだろうな。
 俺も食べたい……

「すまんのう、重ね重ね身内の恥を晒してしもうて」
「いいえ、何も気にしてませんよ」

 おばあさんが申し訳なさそうに戻ってきたが、フィーナがニコニコと答えている。

「良かったんですか? 僕たちのことは気になされずに」
「ははは、ニコさんはお優しいのう。ほれ、ニコさんも言ってるし「じいさんや?」
「うむ、ニコさんたちこそ気になされるな。今日はお三方を招いての食事会じゃからのう」
「そうですよ。せっかく人にオーガのことを知ってもらう、いい機会なんですから」

 おじいさんがニコの言葉に喜色を表すが、おばあさんのドスの利いた声にすぐに鎮火した。
 そして、話題を逸らす。

「とはいえ、人はそこなニコさんだけのようですがのう」
「あら、もう聞かれるのですか?」
 
 そしておじいさんが、ついでとばかりに爆弾発言。
 おばあさんも、知ってたような口ぶりだ。
 
「わしの血筋は、曾祖父のお陰か人の魔力の色が見えるんじゃ。そこなお嬢さんは凄い力をお持ちのゴブリンさんのようじゃのう」
「バレてたんですね」
「うむ、でそちらの御仁は……竜ですな」
「うむ、やはり溢れ出るオーラは隠し切れぬか」

 うむ、うむって、微妙に口調がかぶってるな。
 ランドールとおじいさん。
 まあ、ランドールは威厳ある喋り方を心がけてのエセ老人口調だからな。
 重みもなければ、すぐにボロも出る張子の虎だな。

『ゴホン! 鈴木?』

 大丈夫、心の声だから2人には聞こえてないよ。

「そして……ニコさんの剣は。竜の魔力……それも、エンシェントドラゴンの魔力を纏っている。並外れた魔力ですな……それこそ、そこの竜の御仁よりも」

 ふふん。
 よく、分かってるじゃんじいさん。
 
『鈴木も、我と大差ないではないか』

 その魔力に大差があるって、じいさんが言ってるぞ?

『そういう意味ではないのだがのう』

 取り合えず、そういったこともあってあまりゴウキを同席させたくなかったらしい。
 ランドールや俺の気分を損ねたら、物理的にゴウキがまずいことになるかもという気遣いもあったらしい。
 おじいさんの方には。

「お二方に性根を叩き直してもらったら、早そうですね」

 おばあさんは、最終的にはランドールによる武力制裁も辞さないつもりらしい。
 本当に、厳しい。

 その後は、フィーナが色々と料理のことを質問したり、その曾祖父にあたる人の話を聞いたりと楽しい夕飯だった。
 寝室には寝藁の上にゴザが敷かれてて、掛布団は大きな布だった。
 そこまで寒さが厳しいわけでもないので、それで事足るようだったが。
 まあ俺はこの世界で寝たことないから分からないけど、町でも固い木のベッドに薄い布を重ねて置いてるだけのようなので大差ない。
 というか、むしろこっちの方が下手な安宿よりは柔らかくて寝やすいようだ。

 さて……ニコが寝たら、里を少し歩こうかとも思ったが。
 明日は、おじいさんが里を案内してくれるみたいなので、あまり足に負担を掛けない方がいいかな?
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