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第4章:鬼
第11話:甘い見立て
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「なるほど、おっしゃることは分かりました……」
「じゃあ」
「ですが……その子を、ここにおくことはできませんな」
「えっ」
ニコが今回の騒動の原因であるリュウキを、村長に紹介して村の一員にしてもらえるよう頼んだのだが。
村長からの反応は、あまりいいものではない。
眉を寄せて、顔をしかめている。
「いくら半分人の血が流れているとはいえ、鬼を飼うのは危険がのう」
「飼うって、そんな動物みたいに」
「魔物じゃろ?」
リュウキはニコの横でちっちゃくなりながらも、事の成り行きを見守っている。
その表情は、不安に歪んでいる。
「いまは子供で大人しくとも、大きくなって力を得たらどうなることやら」
「でも、話が通じるし」
「言葉を解す魔物が人に優しいか? 逆に人はそのような魔物に優しく接するのか?」
「お願いします……僕を置いてください。できることなら、なんでもします」
ここにきて初めてリュウキが口を開いたが、それでも村長の表情は変わらない。
「盗人猛々しいとはこのことよな。散々、食料を盗っておきながら、見つかったら働くからここにおいてくれ? だったら、なぜ最初から交渉せん」
「それは……」
「そんなの、子供に分かるわけないじゃん」
「ニコ殿……受け入れるかどうかは、わしらが決めることじゃ! お主のような子供が、ましてや当事者でもないくせに口を出すことじゃない」
「でも……」
「でも? じゃあ、ニコ殿もこの村に住んで、その子鬼の首に縄でもつけて見張ってくれるのか? どうせ、この村から去る身じゃから……そこな小鬼よりも強いからそんな無責任なことが言えるんじゃ。わしらは、弱い……それこそ、そこな鬼よりもな」
村長の言葉に、ぐうの音もでないくらいに打ちひしがれている。
いやまあ、村長の言うことが分かりすぎて俺も助け船を出すこともできんが。
ゴタロウは目を閉じてなにやら考え込んでいる。
そして、フィーナはお留守番だ。
ゴタロウの判断で。
おそらく、ゴタロウもこの展開を予想していたのかもしれない。
そして、そうなったときにフィーナが暴れて余計にこじれることも。
うん、それは俺でも容易く想像できる未来だな。
「わしはな……この村の代表だ。この村を守らねばならん。分かるかな?」
「だったら、この子も村の一員にしてくれたら、守ってくれるんだよね?」
「そうじゃな……もし、この村で生まれたのであればな。じゃが、その子は鬼の里で疎まれた存在。そんなものが、この村にいることが知れたら……鬼どもがきっと、襲ってくるじゃろう」
「そんな」
「この者が仮に善なる者であれば、村の者は匿うであろう。そして、甚大な被害が及ぼされることとなるじゃろうな」
「だったら、どうしたら……」
どうあっても意思を変えそうにない村長に、ニコが途方に暮れた様子で呟く。
そんなニコを見て、リュウキも肩を落としている。
せっかく見てくれをよくしたのに、こんなに重苦しい雰囲気を纏っていたら台無しだな。
仕方ないことだが。
「酷な言い方もしたし、わしを冷たいと思うかもしれん。じゃがな……魔物と暮らすというのはそういうことじゃ。こ奴らは、いとも容易く人の身体を引きちぎれる。そんなものを隣人とする覚悟、それがどれほど重いものか分からぬか?」
「僕はそんなことしません」
「今はな……だが、そんなもん信用ならんだろう。大きくなって、村の者と喧嘩したときにちょっと力の加減を間違えただけでわしらは死んでしまうのじゃ。そうなってからでは、遅い」
「どうしても、だめですか?」
「くどい……解決したことは感謝しておるが、厄介ごとを持ち込めとまでは依頼しておらん。魔物に情をかけて、自身の冒険者としての評価まで落とすつもりかな?」
こればっかりは、無理だろう。
ニコ、諦めろ。
村長の言ってることが正しい。
「でも……」
それはお前が鬼よりも強いから、出来ることだ。
猫を飼うのと、虎を飼うのを同列に考えるな。
「分かりました……」
「すまんの」
ニコはそれだけ言うと、立ち上がってリュウキの手を引く。
そして、彼を引き起こすと一緒にトボトボと外に向かって歩き始める。
「ごめんね……期待させること言っておいて。何もできなかった」
「いいんです。ニコさんの気持ちだけでも、とても嬉しかったです」
「これから、どうするの? ゴブリンの里でなら、受け入れられるけど……そうなったら、もうお母さんには会えないかもしれない」
「それは……でも、仕方ないかもしれないです」
ニコの言葉に、リュウキが元気なく答える。
やっぱり、里から離れすぎるのは彼にとっても不安なのだろう。
結局のところ、結論が出ないまま村の宿に戻る。
「あの……流石に、うちも魔物は止められないよ」
「えっ?」
そのままリュウキも部屋に連れて行こうとしたところで、宿のおかみさんに止められる。
それもそうだろう。
すでに、リュウキのことは村の人達に広まっている。
当然の反応だろうな。
ゴブリンロードを2人も泊めてるんだがな。
知らないだけで。
そんなことを思っても、なんにもならない。
不毛なだけだな。
「分かりました……」
仕方なく村の外で、野営をすることに。
かなり離れた場所に、凄い早さでシノビゴブリン達が小屋を建てていく。
あっという間に、立派な家が。
これを野営と呼んでいいのか、いささか疑問が生まれるが。
「鈴木さんも、難しいって分かってたの?」
いや、何も考えてなかったが。
よくよく考えると、村にとってはかなり無理な相談だったな。
「そっか……」
「ごめんなさい、僕のせいで宿まで追い出されることになって」
「良いよ。別に、この小屋の方が宿の部屋より立派だし」
これは負け惜しみでもなんでもなく、事実だが。
「本当に?」
「うん、広さも快適さも比べるまでもなく」
それから、ゴタロウが食事を用意する。
ちょっと、遅い朝食だ。
テーブルに並べられた料理は、それなりに凝ったものだが。
その料理を前にしても、ニコとリュウキの間に流れる空気はまるでお通夜みたいだな。
「食べよっか」
「はい」
そして、のそのそとゆっくりした動きで、食事を取り始める。
それとは対照的に、軽やかな足音が。
凄い勢いで近づいてくる。
そして、バーンと開け放たれる扉。
「酷いですよ! 私を置いてくなんて」
「あ……うん、ごめん」
飛び込んできたのはフィーナだった。
「宿のおかみさんに、ニコ様が鬼を連れて出て行ったよって教えてもらって、慌てて追いかけてきたんですからね」
そう言えば、フィーナには何も伝えてなかったな。
宿に入ったところで、追い出されてしまったわけだし。
というか、飛び出した形になるのかな?
荷物も置きっぱなしだったから、それもフィーナが持ってきてくれていた。
「それで、どうするんですか? あっ、このサラダ美味しい」
「うーん、どうしよう」
「僕、やっぱり森で一人で過ごします」
フィーナだけはいつも通りのテンションだ。
ゴタロウの出してくれたサラダを口いっぱいに頬張って、2人に普通に笑顔で問いかけていたが。
2人とも暗い暗い。
少しくらいは、フィーナを見習ったらいいのに。
「里に帰るという選択肢はないの?」
「あそこに居たら、辛い思いするばっかりだし……」
「でも、殺されることはないんじゃないの?」
「いつか、お父さんに殺されそうだけどね……」
なかなかに、里の環境はこっちが思った以上に劣悪なのかもしれない。
交渉の余地すらなさそうだな。
交渉するのか?
何を?
リュウキに手を出すなと?
家族の問題なのに。
そこに口を出すのか?
ニコが?
もしかしたら、里では問題にすらなってないかもしれない。
そうなると、何言ってんだこいつって思われないかな?
最悪家族のことに、口を出すなと言われて終わりだな。
下手したら、人間を引き込んだってことで余計にリュウキの立場が悪くなったり。
やるなら、徹底的に叩き込まないとダメか。
あとは、リュウキ自身に成長してもらうか。
「あんた、鬼のくせにウジウジしてて情けない。見てて、イライラするわ」
「酷いよフィーナ」
「ごめんなさい……出来損ないだから」
「リュウキも何言ってるんだよ! 何が出来損ないなんだよ!」
「鬼でも人でもない、半端な生き物だから」
うーん、本当にリュウキはそういった存在だと、心の奥底まで刷り込まれているみたいだ。
どうにかして、自信をもたせてやりたいが。
「逆だよ! 人でも鬼でもある、凄い子だって思ったらいいじゃん!」
「それは、普通の鬼と同じくらいの素質と、普通の人と同じくらいの素質があって初めて成り立つんじゃないのでしょうか?」
「フィーナ!」
こと、今回の問題に関してはニコの味方が全然いない。
自然ニコの表情まで暗くなっていく。
そして、決意を込めた表情に、
「分かった! だったら、僕がリュウキの親のところに行く!」
「ええ、ニコさん?」
「ニコ様?」
「僕が、リュウキのお父さんに文句を言ってやる!」
ちょっと待て。
お前、その前に人見知りはどうするんだ?
いきなり、鬼にあって文句言えるのか?
「うっ……」
せっかく燃え上がった炎は、一瞬で鎮火した。
「いざとなったら、きっと鈴木さんが」
違う意味で復活したけど。
それは、ちょっと……
「手伝ってくれないの、皆も?」
ニコの言葉に、ゴブリン達が一斉に顔を背けたが。
すぐに、ため息があちこちから洩れる。
「お優しいところと、自分に足りないところを知ってらっしゃるのはニコ様の美点ですね」
「そして、周りに素直に頼ることが出来るところも……」
ゴタロウとシノビゴブリンが、苦笑いで漏らす。
「その言い方は、ずるいです」
そして、すぐ横ではフィーナが頬を膨らませている。
「ニコ様に頼まれたら、嫌とはいえないです」
が、それもすぐに苦笑いに変わった。
うんうん……
ダメに決まってるだろう!
「鈴木さん?」
もっとよく考えて行動しろ。
というか、とりあえず自分で出来ることをまず考えろ!
リュウキを助けたいのはお前なんだから、まずはお前が率先して行動すべきだろう。
「鈴木さん……分かるけど。僕に何が出来るの?」
「あの、ニコさん……鈴木さんって誰ですか? どなたと喋ってるんですか?」
そういえば、リュウキに俺のこと紹介してなかったな。
ふふふ……
そういうことは、忘れるのに。
俺に頼ろうとしてたのか……
「いや、その……ほら、鈴木さんと僕って一緒みたいな」
お前と一緒にするな!
というかだ……はぁ……
もはや、怒る気力も無くなった。
俺としては、ニコの我がままにゴブリン達を付き合わせるのもなんか違う気がするし。
ニコが主体的にやって、一人で頑張ってどうにもならなかった結果、手伝うという形ならともかく。
最初から他人をあてにするのはなと、どうしても思ってしまう。
いや、今まで一人で生きてきて、人を頼るということを覚えた結果だということは分かる。
誰かに甘えられるということに、多幸感を憶えることも。
お願いをきいてもらえることで、安心感を憶えることも。
ニコの境遇を考えたら、至極まっとうな拗らせ方だと思うが……
こういったことは、早いうちに対処して矯正しないとな。
「じゃあ」
「ですが……その子を、ここにおくことはできませんな」
「えっ」
ニコが今回の騒動の原因であるリュウキを、村長に紹介して村の一員にしてもらえるよう頼んだのだが。
村長からの反応は、あまりいいものではない。
眉を寄せて、顔をしかめている。
「いくら半分人の血が流れているとはいえ、鬼を飼うのは危険がのう」
「飼うって、そんな動物みたいに」
「魔物じゃろ?」
リュウキはニコの横でちっちゃくなりながらも、事の成り行きを見守っている。
その表情は、不安に歪んでいる。
「いまは子供で大人しくとも、大きくなって力を得たらどうなることやら」
「でも、話が通じるし」
「言葉を解す魔物が人に優しいか? 逆に人はそのような魔物に優しく接するのか?」
「お願いします……僕を置いてください。できることなら、なんでもします」
ここにきて初めてリュウキが口を開いたが、それでも村長の表情は変わらない。
「盗人猛々しいとはこのことよな。散々、食料を盗っておきながら、見つかったら働くからここにおいてくれ? だったら、なぜ最初から交渉せん」
「それは……」
「そんなの、子供に分かるわけないじゃん」
「ニコ殿……受け入れるかどうかは、わしらが決めることじゃ! お主のような子供が、ましてや当事者でもないくせに口を出すことじゃない」
「でも……」
「でも? じゃあ、ニコ殿もこの村に住んで、その子鬼の首に縄でもつけて見張ってくれるのか? どうせ、この村から去る身じゃから……そこな小鬼よりも強いからそんな無責任なことが言えるんじゃ。わしらは、弱い……それこそ、そこな鬼よりもな」
村長の言葉に、ぐうの音もでないくらいに打ちひしがれている。
いやまあ、村長の言うことが分かりすぎて俺も助け船を出すこともできんが。
ゴタロウは目を閉じてなにやら考え込んでいる。
そして、フィーナはお留守番だ。
ゴタロウの判断で。
おそらく、ゴタロウもこの展開を予想していたのかもしれない。
そして、そうなったときにフィーナが暴れて余計にこじれることも。
うん、それは俺でも容易く想像できる未来だな。
「わしはな……この村の代表だ。この村を守らねばならん。分かるかな?」
「だったら、この子も村の一員にしてくれたら、守ってくれるんだよね?」
「そうじゃな……もし、この村で生まれたのであればな。じゃが、その子は鬼の里で疎まれた存在。そんなものが、この村にいることが知れたら……鬼どもがきっと、襲ってくるじゃろう」
「そんな」
「この者が仮に善なる者であれば、村の者は匿うであろう。そして、甚大な被害が及ぼされることとなるじゃろうな」
「だったら、どうしたら……」
どうあっても意思を変えそうにない村長に、ニコが途方に暮れた様子で呟く。
そんなニコを見て、リュウキも肩を落としている。
せっかく見てくれをよくしたのに、こんなに重苦しい雰囲気を纏っていたら台無しだな。
仕方ないことだが。
「酷な言い方もしたし、わしを冷たいと思うかもしれん。じゃがな……魔物と暮らすというのはそういうことじゃ。こ奴らは、いとも容易く人の身体を引きちぎれる。そんなものを隣人とする覚悟、それがどれほど重いものか分からぬか?」
「僕はそんなことしません」
「今はな……だが、そんなもん信用ならんだろう。大きくなって、村の者と喧嘩したときにちょっと力の加減を間違えただけでわしらは死んでしまうのじゃ。そうなってからでは、遅い」
「どうしても、だめですか?」
「くどい……解決したことは感謝しておるが、厄介ごとを持ち込めとまでは依頼しておらん。魔物に情をかけて、自身の冒険者としての評価まで落とすつもりかな?」
こればっかりは、無理だろう。
ニコ、諦めろ。
村長の言ってることが正しい。
「でも……」
それはお前が鬼よりも強いから、出来ることだ。
猫を飼うのと、虎を飼うのを同列に考えるな。
「分かりました……」
「すまんの」
ニコはそれだけ言うと、立ち上がってリュウキの手を引く。
そして、彼を引き起こすと一緒にトボトボと外に向かって歩き始める。
「ごめんね……期待させること言っておいて。何もできなかった」
「いいんです。ニコさんの気持ちだけでも、とても嬉しかったです」
「これから、どうするの? ゴブリンの里でなら、受け入れられるけど……そうなったら、もうお母さんには会えないかもしれない」
「それは……でも、仕方ないかもしれないです」
ニコの言葉に、リュウキが元気なく答える。
やっぱり、里から離れすぎるのは彼にとっても不安なのだろう。
結局のところ、結論が出ないまま村の宿に戻る。
「あの……流石に、うちも魔物は止められないよ」
「えっ?」
そのままリュウキも部屋に連れて行こうとしたところで、宿のおかみさんに止められる。
それもそうだろう。
すでに、リュウキのことは村の人達に広まっている。
当然の反応だろうな。
ゴブリンロードを2人も泊めてるんだがな。
知らないだけで。
そんなことを思っても、なんにもならない。
不毛なだけだな。
「分かりました……」
仕方なく村の外で、野営をすることに。
かなり離れた場所に、凄い早さでシノビゴブリン達が小屋を建てていく。
あっという間に、立派な家が。
これを野営と呼んでいいのか、いささか疑問が生まれるが。
「鈴木さんも、難しいって分かってたの?」
いや、何も考えてなかったが。
よくよく考えると、村にとってはかなり無理な相談だったな。
「そっか……」
「ごめんなさい、僕のせいで宿まで追い出されることになって」
「良いよ。別に、この小屋の方が宿の部屋より立派だし」
これは負け惜しみでもなんでもなく、事実だが。
「本当に?」
「うん、広さも快適さも比べるまでもなく」
それから、ゴタロウが食事を用意する。
ちょっと、遅い朝食だ。
テーブルに並べられた料理は、それなりに凝ったものだが。
その料理を前にしても、ニコとリュウキの間に流れる空気はまるでお通夜みたいだな。
「食べよっか」
「はい」
そして、のそのそとゆっくりした動きで、食事を取り始める。
それとは対照的に、軽やかな足音が。
凄い勢いで近づいてくる。
そして、バーンと開け放たれる扉。
「酷いですよ! 私を置いてくなんて」
「あ……うん、ごめん」
飛び込んできたのはフィーナだった。
「宿のおかみさんに、ニコ様が鬼を連れて出て行ったよって教えてもらって、慌てて追いかけてきたんですからね」
そう言えば、フィーナには何も伝えてなかったな。
宿に入ったところで、追い出されてしまったわけだし。
というか、飛び出した形になるのかな?
荷物も置きっぱなしだったから、それもフィーナが持ってきてくれていた。
「それで、どうするんですか? あっ、このサラダ美味しい」
「うーん、どうしよう」
「僕、やっぱり森で一人で過ごします」
フィーナだけはいつも通りのテンションだ。
ゴタロウの出してくれたサラダを口いっぱいに頬張って、2人に普通に笑顔で問いかけていたが。
2人とも暗い暗い。
少しくらいは、フィーナを見習ったらいいのに。
「里に帰るという選択肢はないの?」
「あそこに居たら、辛い思いするばっかりだし……」
「でも、殺されることはないんじゃないの?」
「いつか、お父さんに殺されそうだけどね……」
なかなかに、里の環境はこっちが思った以上に劣悪なのかもしれない。
交渉の余地すらなさそうだな。
交渉するのか?
何を?
リュウキに手を出すなと?
家族の問題なのに。
そこに口を出すのか?
ニコが?
もしかしたら、里では問題にすらなってないかもしれない。
そうなると、何言ってんだこいつって思われないかな?
最悪家族のことに、口を出すなと言われて終わりだな。
下手したら、人間を引き込んだってことで余計にリュウキの立場が悪くなったり。
やるなら、徹底的に叩き込まないとダメか。
あとは、リュウキ自身に成長してもらうか。
「あんた、鬼のくせにウジウジしてて情けない。見てて、イライラするわ」
「酷いよフィーナ」
「ごめんなさい……出来損ないだから」
「リュウキも何言ってるんだよ! 何が出来損ないなんだよ!」
「鬼でも人でもない、半端な生き物だから」
うーん、本当にリュウキはそういった存在だと、心の奥底まで刷り込まれているみたいだ。
どうにかして、自信をもたせてやりたいが。
「逆だよ! 人でも鬼でもある、凄い子だって思ったらいいじゃん!」
「それは、普通の鬼と同じくらいの素質と、普通の人と同じくらいの素質があって初めて成り立つんじゃないのでしょうか?」
「フィーナ!」
こと、今回の問題に関してはニコの味方が全然いない。
自然ニコの表情まで暗くなっていく。
そして、決意を込めた表情に、
「分かった! だったら、僕がリュウキの親のところに行く!」
「ええ、ニコさん?」
「ニコ様?」
「僕が、リュウキのお父さんに文句を言ってやる!」
ちょっと待て。
お前、その前に人見知りはどうするんだ?
いきなり、鬼にあって文句言えるのか?
「うっ……」
せっかく燃え上がった炎は、一瞬で鎮火した。
「いざとなったら、きっと鈴木さんが」
違う意味で復活したけど。
それは、ちょっと……
「手伝ってくれないの、皆も?」
ニコの言葉に、ゴブリン達が一斉に顔を背けたが。
すぐに、ため息があちこちから洩れる。
「お優しいところと、自分に足りないところを知ってらっしゃるのはニコ様の美点ですね」
「そして、周りに素直に頼ることが出来るところも……」
ゴタロウとシノビゴブリンが、苦笑いで漏らす。
「その言い方は、ずるいです」
そして、すぐ横ではフィーナが頬を膨らませている。
「ニコ様に頼まれたら、嫌とはいえないです」
が、それもすぐに苦笑いに変わった。
うんうん……
ダメに決まってるだろう!
「鈴木さん?」
もっとよく考えて行動しろ。
というか、とりあえず自分で出来ることをまず考えろ!
リュウキを助けたいのはお前なんだから、まずはお前が率先して行動すべきだろう。
「鈴木さん……分かるけど。僕に何が出来るの?」
「あの、ニコさん……鈴木さんって誰ですか? どなたと喋ってるんですか?」
そういえば、リュウキに俺のこと紹介してなかったな。
ふふふ……
そういうことは、忘れるのに。
俺に頼ろうとしてたのか……
「いや、その……ほら、鈴木さんと僕って一緒みたいな」
お前と一緒にするな!
というかだ……はぁ……
もはや、怒る気力も無くなった。
俺としては、ニコの我がままにゴブリン達を付き合わせるのもなんか違う気がするし。
ニコが主体的にやって、一人で頑張ってどうにもならなかった結果、手伝うという形ならともかく。
最初から他人をあてにするのはなと、どうしても思ってしまう。
いや、今まで一人で生きてきて、人を頼るということを覚えた結果だということは分かる。
誰かに甘えられるということに、多幸感を憶えることも。
お願いをきいてもらえることで、安心感を憶えることも。
ニコの境遇を考えたら、至極まっとうな拗らせ方だと思うが……
こういったことは、早いうちに対処して矯正しないとな。
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