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第3章:奴隷と豚

第13話:新たな道筋

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「みんな、未熟だとはいわん。ここに相応しいだけの知識は蓄えてきたつもりだ……足りないのは経験のみだ! 3年! 3年は黙ってついてきてくれ! 3年でレオウルフを……ふむ、父上はすでに超えているな。我が祖父、ライガーを超えて見せる!」
「よく言った!」
「期待してるぞ!」

 壇上でのキオリナのスピーチに、領民に紛れ込ませたサクラ達が歓声をあげる。
 そして、パチパチと手を叩けば、徐々にその拍手はサクラを仲介して周りの人たちに広がり。
 われんばかりの喝采となる。

「まず最初に、オークを20名ほど雇いいれた」
「えっ?」
「はっ?」
「安心してほしい。オークロードもいる」
「それは安心だー!」
「いやいや、どこに安心して良い要素が?」

 サクラが頑張って盛り立てているが、残念なことに民衆に疑念が。

「まあ、3年だな……」
「いやオークロードとか……3日で町が滅びるわ」
「そんなにかからんぞ?」

 ざわざわとし始めた。
 そして、町が滅びるまで3日といった誰かの言葉を否定しながら、壇上にウォルフが。

「あー、私がオークのボス。オークロードのウォルフだ」
「えっ? ウォルフってあの?」
「ウォルフさんが、まさかオーク」
「つけ払いのウォルフが、オークロードだって?」
「冷やかしの、ウォルフがオークロード?」
「あー、お菓子のおじちゃんだ!」
「万年小遣い稼ぎ、遅咲きのE級冒険者ウォルフが?」

 まさか、あのウォルフがといった展開を期待していたのかもしれない。
 だが、二つ名があまりにも残念というか。
 民衆のウォルフに対するイメージが、残念というか。

「でも、フォレストウルフの群れの襲われたとき、一緒に逃げましたよね?」

 なんか、みるからに初々しい若い冒険者が首を傾げているが。

「はっはっは、本気の命の取り合いになったら、やりすぎちゃうからな」
「本当ですかぁ?」

 信用ないなー。

「へたれのウォルフ! あんたが、本当にオークロードなら、私は受け入れに賛成してやるよ!」
「エルザ!」

 へたれのウォルフ?
 さらにざわつき始めた民衆の中から、若い女性の声が。
 そちらに目を……目無いわ。
 そちらに意識を向けると、茶髪のロングヘア―の綺麗な女性が口に手を添えて叫んでいた。
 誰だ? 
 ウォルフと、どういった関係だ?
 首をかしげ……首ないわ。
 でも俺の疑問を感じ取ったのか、ゴタロウが横に来る。

「以前、あのエルザと懇意にしてたみたいですが、彼女の家でようやく結ばれる段階でどうも逃げ出したようで」

 はっ?

「真意は分かりませんがエルザが服をはだけさせて近づいて行ったら、顔を真っ赤にして急用を思い出したって言って逃げ出したらしいですよ? そこから、彼女を避けていたとか」

 なんだ、あいつ童貞か?

「その可能性が、高いかと……」
「誰が童貞だ!」
「えっ? ウォルフ童貞なのか?」
「なんだ、だからいっつも声掛けてくるけど店には入らなかったのね」
「冷やかしのウォルフじゃなくて、へたれのウォルフね」

 あー、冷やかしって……
 夜のお店に冷やかしに行ってたのか。
 冷やかしといか、入ろうとして踏ん切りがつかなくって見るだけ見て、逃げ出してたのかな?
 ははは……

 大丈夫か、あいつがリーダーで?

「くっそー! 本当にオークロードなんだからな! 見てろよ!」

 そう言って、人化をとくウォルフ。
 無駄にイケメン豚が。

「本当だったの……てか、良いじゃんその姿も」
「オークなのはわかったけど、ロードかどうかまでは……」
「……」

 結局なんだかんだでお試し期間ということで、1年間オーク20頭が町に住むことを許可されていた。
 オークかどうかは分かったけど、ロードかどうか分からないしということで。

 ただ、一部住人からは……

「私は、ゴブリンの方が良かったな」
「ゴブテルさんとか、ゴブナガさんなら嬉しいかも」
「優しいし、かっこいいし……」
「頼りがいもあるし」

 といった声も。
 おもに、若い女性から。

「師匠は滞在されないので?」
「その、未熟な私達を是非指導していただきたいのですが」

 それと、兵士たちと手合わせをしていたゴブリンも、地味に人気を獲得していた。

「お兄さんたち、行っちゃうの?」
「もっと、遊びたかったのに」
「私たちが、町を出るまで一緒にいようよ!」

 これは宿で預かった、奴隷にされかけた子供達。

 ゴブリンの周りに人が集まるのをみて、ウォルフがグヌヌと歯ぎしりをしている。

「お兄様」
「うむ……陛下にばれたら……騎士団を送り込まれるだろうな」
「笑い事じゃないですよ」
「まあ、本当にウォルフがロードなら、騎士団など相手にならんだろうし。それにだ……あっちは、抵抗すらする気がおきん」
「ええ、でも良かったので?」
「仕方なかろう。3日どころか、3分もあれば町が灰燼に化すような戦力を見せられてしまったら」
「はぁ……」
「なぁに、がっつり恩恵には預からせてもらうさ」

 ちなみにメノウの町は、ゴブリン王国に従属することとなった。
 表向きはビスマルク王国の領地のままだが、ゴブリンと人との橋渡しに……無理か。
 物資の交易地点として、便宜を図ってもらうことになった。
 といっても、テトの森の奥地の素材とかなので相手も喜んでくれている。
 まあ、ゴブリン王国の特産品はオーバーテクノロジー的な部分もあるから、こっちの提供はもう少し様子見だな。
 遺跡から出たことにして、小出しで相手の出方を窺おう。

 で、お前は何をそんなに拗ねているんだ?

 街頭演説もおわり、ニコ達が町を出る段階。
 子供達の捜索はゴブリン達が引き続き行っていくのだが、そこまでニコが付き合うこともないと。
 町の出口に向かうニコとフィーナのあとを、頭の後ろで腕を組んで面白くなさそうに歩く仮面の男。
 怒ってるアピールが面倒くさくて、仕方なく水を向けてやる。

「なぜ、わしに沈黙の魔法をかけた! それも、竜言語で」

 怒っているのはランドール。
 いや、だって俺に任せろって言ってたから。

 不安で。

「だからって、あまりの仕打ちだろう! 俺が竜だとばらせば、人間など喜んで尻尾を振って腹を見せてくるわ」

 人は犬じゃないからな。

「物の例えだ!」

 知ってる。
 揶揄っただけだ。

「なんでお主は、わしに対してとたんに性悪になるのだ!」

 えぇ?
 いや、なんていうか……
 調子に乗らせたら、面倒くさいから。
 こうやってときおり釘を刺して、勢いを殺しとかないと……ね?

「ねじゃないぞ! わしだって、少しは威張りたいぞ!」
 
 本音が出たけど。
 ちっさ……
 図体は馬鹿みたいにでかいくせに、ちっさ!
 
 まあ良いや。

 そろそろ、次の町に向かうから、城に戻れよ。

「ぬぅ……ついていったらダメか?」

 身長相応の顔になれるか、顔相応の身長になれるようになったらな。

「ぐぬぬ」

 定期的にメノウの町の情報は仕入れるとして、とりあえず次はゆっくりと観光が出来たらいいな。
 いくぞ、ニコ。
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