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第3章:奴隷と豚
第3話:頬っぺたプクプクフィーナたん
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「そうか……」
結局その日は、野宿することとなった。
ニコが寝静まったあとで、黒装束に身を包んだゴブリンが報告にくる。
オルジャナへの制裁が終わったとのこと。
といっても現地のゴブリン達による襲撃。
そこに混じって、報告に来たゴブリンが手伝ったと。
シノビゴブリンのフウマゴタロウ。
こういのって、ゴブリンアサシンとか、ゴブリンストーカーかなって思ったけど。
シノビゴブリンというユニーク種。
例に漏らさず、ゴブリンロードだ。
その配下のシノビゴブリン達も、ハイゴブリンやゴブリンネオがメイン。
それらが、普通のゴブリンに混じって護衛の男たちに、適度にダメージを。
ついでに武器や物資も奪ってきたと。
さらにいえば、身分証としての冒険者証も。
まあこいつらの場合は冒険者としてオルジャナの護衛になったのか、オルジャナの護衛のごろつき共が冒険者資格を取ったのかは分からないが。
ゴタロウ調べで、やっぱり真っ当な手段で商売をしているわけではなさそうとのこと。
それから、ニコを蹴った街道警備隊の隊長にはそれ相応の報いを与えたとのこと。
きっちりと消しましたと言われ、思わず笑みが……
いや、それは違うな。
ここは、悲痛な面持ちで。
「結果、俺が手を出さなかったことで可哀そうなことになったか……まあ、自業自得か……それにしても、哀れ」
「失礼な。警備の仕事が出来なくしただけで、殺してはいませんよ」
うーん、どっちにしても可哀そうだけど。
俺もあの時は、殺そうかと思ったし。
別に良いか。
すぐに暴れゴブリンの情報が街道を駆け抜けたらしい。
とはいえ、そのゴブリンの群れには集落に戻ってもらったから、今後出ることは無いかな?
次の日の朝から街道を北上し、メノウの町の近くに辿り着くことが出来たが。
うーん。
これは、失敗したんじゃないか?
ゴタロウ君。
明らかに検問っぽいのを、張ってるんだけど?
今からでも迂回した方が、良いと思うぞ。
次の村まで野営が確定してしまったけど。
「あれって、もしかして僕たちを探してるってこと?」
「たぶん、そうだと思います」
ニコが不安そうに独り言ちたのに対して、フィーナが感情を殺した言葉で返す。
十中八九そうだろう。
まあ、まだ向こうから補足はされてないだろうし。
いや、物見櫓っぽいところから、こっちを見ているやつがいるな。
これは、見つかったと思って良いか?
流石に、そこまで広範囲で警戒してなかったのは俺の落ち度だ。
まさか昨日の今日でこんなことになるとは思わなかったし。
となると身分証は出せないし、詰んだな。
全力で逃げるか?
「逃げてどうにかなるの?」
たぶん、フィーナがニコを担いで走れば、なんとかなる。
いや、ならない。
向こうから馬に乗った兵士が、こっちに向かってる。
「そこの少年、お前がニコだな?」
「はい、そうですが……」
おいっ!
俺が、違いますって言えって言ったのに!
なんで、正直に答えちゃうんだよ!
いや、これはニコの性格を知ってて、無茶ぶりだとは思ったけど。
少しは……
ため息が漏れる。
「だったら、この先で検問を張っている理由も分かるな?」
「いえ、心当たりはあるんですけど、それに関して言えば僕たちも被害者というか」
「認めるんだな?」
正直なのは美徳だが、こいつらに言い訳は通用しないぞ?
フィーナに指示を出そうにも、フィーナとニコの間に別の騎馬が差し込まれ分断されてしまった。
取り合えず、ニコに強化をマシマシでしかも竜言語で掛けておく。
念のための保険だ。
それから、竜鱗も発動させておこう。
剛毛は流石にまずいけど、身体の隠れる場所なら大丈夫だろう。
問題は、俺がニコから離れたところで竜鱗のスキルが持続するのかが、実証実験してなかったので博打になってしまったこと。
強化系は問題ないと思うけど。
「とりあえず詳しい話は、あっちで聞かせてもらう。武器は預からせてもらうよ」
「え?」
ニコ!
俺を、フィーナに向かって投げろ。
「ええ?」
いや、確かにニコにとって不利になるかもしれないけど、たぶんだけどあいつらの狙いはフィーナだ。
「何をしておる? 早く、武器を渡せ」
しまったなぁ……
ゴタロウの報告を受けて、あいつらより先にメノウの町に入れると思ったし。
そのまま通過すればいけると思ったのに。
この世界ならではの連絡手段があったのだろう。
ニコ!
俺がお前のためにならない助言をしたことあったか?
「たまに……」
いや、あれは冗談だろう!
今回は、マジなやつだから!
早く!
「そう言って、大変な目にあったことが2回」
日頃の自分の行いに反省。
ニコを誘導して、雌の人に近いゴブリンの沐浴場に突っ込ませたことや、アリアの地雷を踏みぬかせたことがここに来て仇になるとは。
いや、いまそんなことを嘆いていても仕方ない。
一番困るのは、俺がこの町のどっかの物置にでも放置されることだ。
そうなったら、ニコを助けるのにかなりの遠回りに……
『我の出番かな? テトの森に戻ったゆえ、数時間はかかるが』
ランドールからメッセージが。
うーん……
悩む。
「あっ!」
と思ったら黒い影、ニコと騎士の間をすりぬけ俺を掠め取っていった。
ゴタロウだ。
「ランドール様から指示を受けました」
あいつも意地が悪い。
離れたゴブリンにも指示が出せたのか。
なるほど……
この報いはしっかりと受けさせよう。
血で贖ってもらうしかないな?
念話のスキルが奪えるまで、俺自ら斬りつけてやる。
『あまり脅すな。別に故意に、スキルを渡さなかったわけじゃ……』
おっと?
もしかして、俺が得るスキルの取捨選択も出来たのか?
ますます許せんな。
『オウ……ドツボ』
急に外人臭いイントネーションになったランドールは放っておいて、そのままゴタロウにフィーナの元まで俺を運ばせる。
フィーナ、とりあえず逃げろ!
このままニコと一緒に逃げても、たぶん今度は国内で指名手配になる。
だったら、この町でしっかりと解決しておいた方が良い。
「そうですね。この町程度なら里の者からロードを4名……いや、ランドール様と他に1名補助をつけてくだされば半刻ほどで、灰燼と化して見せましょう」
いやいや、根本的解決過ぎるから。
そして、それは色々と問題が。
もっと、平和的解決を……
「この町以外からすれば、最良の平和的解決かと。町一つで国の平穏が買えるわけですから」
ちょっと、フィーナがニコ以外に対して、あまりにも冷血すぎて引く。
「ふわぁ……」
「良いから、こっちに来い! というか、武器はどこにやった!」
「えっと……その……」
あぁ、ニコが全力で人見知り発動してる。
俺が、手元を離れたからか?
「フィーナ、これ以上主を困らせるな」
「黙れゴジロウ! 私は、主よりニコ様が大事」
おい!
いや、別に構わないけどさ。
「なんだこの威圧」
「急に悪寒が」
ゴジロウを睨みつけるフィーナの殺気に、騎士達が当てられた怯えている。
結局、俺とゴジロウで頑張ってフィーナをなだめすかしてその場から離れさせる。
「くそっ! 女が逃げたぞ!」
「追え!」
すぐにニコに対応していた騎士が指示を飛ばす。
それに従って、慌てた様子で馬を飛ばす他の騎士達。
「フィーナに何をする気?」
「なっ!」
と思ったら、ニコが騎士の肩を掴んでいる。
「無礼なっ! なにぃ! 鎧が……くそっ、痛い! いたたたた」
あー、強化マシマシのニコが本気で騎士の肩を掴んだから、鉄製の肩当がぐにゃりと歪んでいる。
といっても、解除したら大変なことになりそうだし。
取り合えず、あっちは放置で。
いったん、警戒の範囲の外に出て作戦会議を。
「では、町を滅ぼす方向で……市民はどうしますか? 見せしめに半分くらい? それとも、証拠を消すために全員?」
「いや、落ち着け! 俺の配下のものが、現在町の状況を調査している」
目を真っ赤に充血させて殺気を隠そうともしないフィーナに、ゴタロウが呆れた様子でため息を吐く。
ゴタロウの配下って……
まあ、人間に近い姿はしてるけど、お前ら緑色だろう……
「色くらい、どうにでもできますよ」
そう言ってゴタロウが印を汲むと、彼の肌が緑から肌色に。
何度口にしても馬鹿っぽい字面だが、そう肌が肌色に変化していた。
「生意気な……」
フィーナの怒りポイントがよく分からないけど。
個人的には、凄いって褒めてあげたいんだけど?
伝えてくれないかな?
いま、俺を持ってるのフィーナだから、お前しか伝言頼めないんだけど?
「嫌です」
嫌ですって……
俺、お前の主だよな?
「ニコ様を見捨てるような主は、信用できません」
見捨ててないし。
面倒くさい。
恋する乙女面倒くさい。
こんなことなら、ゴタロウに持っててもらったほうが良かったかも。
「渡しませんよ?」
……
俺、怒ってもいいよね?
反抗的な部下に対して、こうガツンと。
「私の方が、すでに怒ってます」
ごめんなさい。
いや、そう短気を起こすな。
ここでの立ち回りが、今後につながるんだから。
そしてどうしようもならなかったら、一緒にこの町を滅ぼそう。
それほもう、跡形もなく更地に。
「話を聞きましょう」
こえーなこいつ……
ヤンデレどころじゃない。
ゴブリンロードのユニークが規格外にヤバイってのは、理解し始めたが。
せめてもの救いは、そのフィーナクラスのゴブリンがゴロゴロと配下にいる。
だから、最悪はそっちに、フィーナを抑えてもらえる。
さらにいえば、その上のゴブリンもいるからこいつが暴走したところで……
「里の者が辿りつくより先に、この命と引き換えに町の住人全て殺せますよ?」
そっか……
だんだんと、俺の方が落ち着いてきた。
まずは、町から離れた場所に野営を。
その準備は……ああ、ゴタロウの配下のゴブリン達がしてくれるのね。
野営地と呼ぶには立派な拠点を……
黒鍬組を呼んでいると……
なにそれ?
そんなの知らないんだけど……いや、知ってるけど。
そんなグループ作ってたのね。
ランドールが手伝ったら、ガチの一夜城を造ってみせましょう?
いや、造らなくていいから。
そんなの造って見つかったら、言い訳のしようがないし。
下手したら、戦争……
望むところです?
いや、望まなくても良いから。
俺もニコも人間よりだから……いや、よく知りもしない人間よ俺はお前らの方が大事だけどさ。
フィーナは相変わらず頬を膨らませて、だんまり。
代わりにランドールが伝えてくれたのか、皆が照れてた。
その素直な反応に、俺も思わずちょっと照れてしまった。
いや、そんなことはどうでもいい。
取り合えず、その簡易拠点に。
簡易拠点とはなんぞや?
流石に城とまではいかないものの、簡単な屋敷みたいなのが街道から外れた森にあった。
森と言っても、小規模なものだけど。
どう見ても、不釣り合いな武家屋敷っぽい建物。
そんなに大きくはないけど、十分に立派だ。
マヨヒガかな?
これ、凄く目立ってるよ?
魔法で、隠蔽工作もばっちりです?
そうなの?
俺にはばっちり、見えてるけど。
もう、ゴブリン達が優秀過ぎて、俺の知ってるゴブリンとは違う生き物だと。
いや、俺の知ってるゴブリンも、ゲームや物語の世界だけの話だし。
じゃあ、作戦会議といこうか……といっても、まずはゴタロウの配下待ちだけどな
「……」
あの、フィーナさん?
何か喋ってくれないかな?
喋らなくてもいいけど、俺の言葉を伝えてくれないとゴタロウとコミュニケーション取れないんだけど?
結局その日は、野宿することとなった。
ニコが寝静まったあとで、黒装束に身を包んだゴブリンが報告にくる。
オルジャナへの制裁が終わったとのこと。
といっても現地のゴブリン達による襲撃。
そこに混じって、報告に来たゴブリンが手伝ったと。
シノビゴブリンのフウマゴタロウ。
こういのって、ゴブリンアサシンとか、ゴブリンストーカーかなって思ったけど。
シノビゴブリンというユニーク種。
例に漏らさず、ゴブリンロードだ。
その配下のシノビゴブリン達も、ハイゴブリンやゴブリンネオがメイン。
それらが、普通のゴブリンに混じって護衛の男たちに、適度にダメージを。
ついでに武器や物資も奪ってきたと。
さらにいえば、身分証としての冒険者証も。
まあこいつらの場合は冒険者としてオルジャナの護衛になったのか、オルジャナの護衛のごろつき共が冒険者資格を取ったのかは分からないが。
ゴタロウ調べで、やっぱり真っ当な手段で商売をしているわけではなさそうとのこと。
それから、ニコを蹴った街道警備隊の隊長にはそれ相応の報いを与えたとのこと。
きっちりと消しましたと言われ、思わず笑みが……
いや、それは違うな。
ここは、悲痛な面持ちで。
「結果、俺が手を出さなかったことで可哀そうなことになったか……まあ、自業自得か……それにしても、哀れ」
「失礼な。警備の仕事が出来なくしただけで、殺してはいませんよ」
うーん、どっちにしても可哀そうだけど。
俺もあの時は、殺そうかと思ったし。
別に良いか。
すぐに暴れゴブリンの情報が街道を駆け抜けたらしい。
とはいえ、そのゴブリンの群れには集落に戻ってもらったから、今後出ることは無いかな?
次の日の朝から街道を北上し、メノウの町の近くに辿り着くことが出来たが。
うーん。
これは、失敗したんじゃないか?
ゴタロウ君。
明らかに検問っぽいのを、張ってるんだけど?
今からでも迂回した方が、良いと思うぞ。
次の村まで野営が確定してしまったけど。
「あれって、もしかして僕たちを探してるってこと?」
「たぶん、そうだと思います」
ニコが不安そうに独り言ちたのに対して、フィーナが感情を殺した言葉で返す。
十中八九そうだろう。
まあ、まだ向こうから補足はされてないだろうし。
いや、物見櫓っぽいところから、こっちを見ているやつがいるな。
これは、見つかったと思って良いか?
流石に、そこまで広範囲で警戒してなかったのは俺の落ち度だ。
まさか昨日の今日でこんなことになるとは思わなかったし。
となると身分証は出せないし、詰んだな。
全力で逃げるか?
「逃げてどうにかなるの?」
たぶん、フィーナがニコを担いで走れば、なんとかなる。
いや、ならない。
向こうから馬に乗った兵士が、こっちに向かってる。
「そこの少年、お前がニコだな?」
「はい、そうですが……」
おいっ!
俺が、違いますって言えって言ったのに!
なんで、正直に答えちゃうんだよ!
いや、これはニコの性格を知ってて、無茶ぶりだとは思ったけど。
少しは……
ため息が漏れる。
「だったら、この先で検問を張っている理由も分かるな?」
「いえ、心当たりはあるんですけど、それに関して言えば僕たちも被害者というか」
「認めるんだな?」
正直なのは美徳だが、こいつらに言い訳は通用しないぞ?
フィーナに指示を出そうにも、フィーナとニコの間に別の騎馬が差し込まれ分断されてしまった。
取り合えず、ニコに強化をマシマシでしかも竜言語で掛けておく。
念のための保険だ。
それから、竜鱗も発動させておこう。
剛毛は流石にまずいけど、身体の隠れる場所なら大丈夫だろう。
問題は、俺がニコから離れたところで竜鱗のスキルが持続するのかが、実証実験してなかったので博打になってしまったこと。
強化系は問題ないと思うけど。
「とりあえず詳しい話は、あっちで聞かせてもらう。武器は預からせてもらうよ」
「え?」
ニコ!
俺を、フィーナに向かって投げろ。
「ええ?」
いや、確かにニコにとって不利になるかもしれないけど、たぶんだけどあいつらの狙いはフィーナだ。
「何をしておる? 早く、武器を渡せ」
しまったなぁ……
ゴタロウの報告を受けて、あいつらより先にメノウの町に入れると思ったし。
そのまま通過すればいけると思ったのに。
この世界ならではの連絡手段があったのだろう。
ニコ!
俺がお前のためにならない助言をしたことあったか?
「たまに……」
いや、あれは冗談だろう!
今回は、マジなやつだから!
早く!
「そう言って、大変な目にあったことが2回」
日頃の自分の行いに反省。
ニコを誘導して、雌の人に近いゴブリンの沐浴場に突っ込ませたことや、アリアの地雷を踏みぬかせたことがここに来て仇になるとは。
いや、いまそんなことを嘆いていても仕方ない。
一番困るのは、俺がこの町のどっかの物置にでも放置されることだ。
そうなったら、ニコを助けるのにかなりの遠回りに……
『我の出番かな? テトの森に戻ったゆえ、数時間はかかるが』
ランドールからメッセージが。
うーん……
悩む。
「あっ!」
と思ったら黒い影、ニコと騎士の間をすりぬけ俺を掠め取っていった。
ゴタロウだ。
「ランドール様から指示を受けました」
あいつも意地が悪い。
離れたゴブリンにも指示が出せたのか。
なるほど……
この報いはしっかりと受けさせよう。
血で贖ってもらうしかないな?
念話のスキルが奪えるまで、俺自ら斬りつけてやる。
『あまり脅すな。別に故意に、スキルを渡さなかったわけじゃ……』
おっと?
もしかして、俺が得るスキルの取捨選択も出来たのか?
ますます許せんな。
『オウ……ドツボ』
急に外人臭いイントネーションになったランドールは放っておいて、そのままゴタロウにフィーナの元まで俺を運ばせる。
フィーナ、とりあえず逃げろ!
このままニコと一緒に逃げても、たぶん今度は国内で指名手配になる。
だったら、この町でしっかりと解決しておいた方が良い。
「そうですね。この町程度なら里の者からロードを4名……いや、ランドール様と他に1名補助をつけてくだされば半刻ほどで、灰燼と化して見せましょう」
いやいや、根本的解決過ぎるから。
そして、それは色々と問題が。
もっと、平和的解決を……
「この町以外からすれば、最良の平和的解決かと。町一つで国の平穏が買えるわけですから」
ちょっと、フィーナがニコ以外に対して、あまりにも冷血すぎて引く。
「ふわぁ……」
「良いから、こっちに来い! というか、武器はどこにやった!」
「えっと……その……」
あぁ、ニコが全力で人見知り発動してる。
俺が、手元を離れたからか?
「フィーナ、これ以上主を困らせるな」
「黙れゴジロウ! 私は、主よりニコ様が大事」
おい!
いや、別に構わないけどさ。
「なんだこの威圧」
「急に悪寒が」
ゴジロウを睨みつけるフィーナの殺気に、騎士達が当てられた怯えている。
結局、俺とゴジロウで頑張ってフィーナをなだめすかしてその場から離れさせる。
「くそっ! 女が逃げたぞ!」
「追え!」
すぐにニコに対応していた騎士が指示を飛ばす。
それに従って、慌てた様子で馬を飛ばす他の騎士達。
「フィーナに何をする気?」
「なっ!」
と思ったら、ニコが騎士の肩を掴んでいる。
「無礼なっ! なにぃ! 鎧が……くそっ、痛い! いたたたた」
あー、強化マシマシのニコが本気で騎士の肩を掴んだから、鉄製の肩当がぐにゃりと歪んでいる。
といっても、解除したら大変なことになりそうだし。
取り合えず、あっちは放置で。
いったん、警戒の範囲の外に出て作戦会議を。
「では、町を滅ぼす方向で……市民はどうしますか? 見せしめに半分くらい? それとも、証拠を消すために全員?」
「いや、落ち着け! 俺の配下のものが、現在町の状況を調査している」
目を真っ赤に充血させて殺気を隠そうともしないフィーナに、ゴタロウが呆れた様子でため息を吐く。
ゴタロウの配下って……
まあ、人間に近い姿はしてるけど、お前ら緑色だろう……
「色くらい、どうにでもできますよ」
そう言ってゴタロウが印を汲むと、彼の肌が緑から肌色に。
何度口にしても馬鹿っぽい字面だが、そう肌が肌色に変化していた。
「生意気な……」
フィーナの怒りポイントがよく分からないけど。
個人的には、凄いって褒めてあげたいんだけど?
伝えてくれないかな?
いま、俺を持ってるのフィーナだから、お前しか伝言頼めないんだけど?
「嫌です」
嫌ですって……
俺、お前の主だよな?
「ニコ様を見捨てるような主は、信用できません」
見捨ててないし。
面倒くさい。
恋する乙女面倒くさい。
こんなことなら、ゴタロウに持っててもらったほうが良かったかも。
「渡しませんよ?」
……
俺、怒ってもいいよね?
反抗的な部下に対して、こうガツンと。
「私の方が、すでに怒ってます」
ごめんなさい。
いや、そう短気を起こすな。
ここでの立ち回りが、今後につながるんだから。
そしてどうしようもならなかったら、一緒にこの町を滅ぼそう。
それほもう、跡形もなく更地に。
「話を聞きましょう」
こえーなこいつ……
ヤンデレどころじゃない。
ゴブリンロードのユニークが規格外にヤバイってのは、理解し始めたが。
せめてもの救いは、そのフィーナクラスのゴブリンがゴロゴロと配下にいる。
だから、最悪はそっちに、フィーナを抑えてもらえる。
さらにいえば、その上のゴブリンもいるからこいつが暴走したところで……
「里の者が辿りつくより先に、この命と引き換えに町の住人全て殺せますよ?」
そっか……
だんだんと、俺の方が落ち着いてきた。
まずは、町から離れた場所に野営を。
その準備は……ああ、ゴタロウの配下のゴブリン達がしてくれるのね。
野営地と呼ぶには立派な拠点を……
黒鍬組を呼んでいると……
なにそれ?
そんなの知らないんだけど……いや、知ってるけど。
そんなグループ作ってたのね。
ランドールが手伝ったら、ガチの一夜城を造ってみせましょう?
いや、造らなくていいから。
そんなの造って見つかったら、言い訳のしようがないし。
下手したら、戦争……
望むところです?
いや、望まなくても良いから。
俺もニコも人間よりだから……いや、よく知りもしない人間よ俺はお前らの方が大事だけどさ。
フィーナは相変わらず頬を膨らませて、だんまり。
代わりにランドールが伝えてくれたのか、皆が照れてた。
その素直な反応に、俺も思わずちょっと照れてしまった。
いや、そんなことはどうでもいい。
取り合えず、その簡易拠点に。
簡易拠点とはなんぞや?
流石に城とまではいかないものの、簡単な屋敷みたいなのが街道から外れた森にあった。
森と言っても、小規模なものだけど。
どう見ても、不釣り合いな武家屋敷っぽい建物。
そんなに大きくはないけど、十分に立派だ。
マヨヒガかな?
これ、凄く目立ってるよ?
魔法で、隠蔽工作もばっちりです?
そうなの?
俺にはばっちり、見えてるけど。
もう、ゴブリン達が優秀過ぎて、俺の知ってるゴブリンとは違う生き物だと。
いや、俺の知ってるゴブリンも、ゲームや物語の世界だけの話だし。
じゃあ、作戦会議といこうか……といっても、まずはゴタロウの配下待ちだけどな
「……」
あの、フィーナさん?
何か喋ってくれないかな?
喋らなくてもいいけど、俺の言葉を伝えてくれないとゴタロウとコミュニケーション取れないんだけど?
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『皇帝になれない無能皇子』
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だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
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異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
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