錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ

文字の大きさ
上 下
39 / 91
第3章:奴隷と豚

第3話:頬っぺたプクプクフィーナたん

しおりを挟む
「そうか……」

 結局その日は、野宿することとなった。
 ニコが寝静まったあとで、黒装束に身を包んだゴブリンが報告にくる。
 オルジャナへの制裁が終わったとのこと。
 といっても現地のゴブリン達による襲撃。
 そこに混じって、報告に来たゴブリンが手伝ったと。

 シノビゴブリンのフウマゴタロウ。
 こういのって、ゴブリンアサシンとか、ゴブリンストーカーかなって思ったけど。
 シノビゴブリンというユニーク種。
 例に漏らさず、ゴブリンロードだ。
 その配下のシノビゴブリン達も、ハイゴブリンやゴブリンネオがメイン。
 それらが、普通のゴブリンに混じって護衛の男たちに、適度にダメージを。
 ついでに武器や物資も奪ってきたと。
 さらにいえば、身分証としての冒険者証も。

 まあこいつらの場合は冒険者としてオルジャナの護衛になったのか、オルジャナの護衛のごろつき共が冒険者資格を取ったのかは分からないが。
 ゴタロウ調べで、やっぱり真っ当な手段で商売をしているわけではなさそうとのこと。

 それから、ニコを蹴った街道警備隊の隊長にはそれ相応の報いを与えたとのこと。
 きっちりと消しましたと言われ、思わず笑みが……
 いや、それは違うな。
 ここは、悲痛な面持ちで。

「結果、俺が手を出さなかったことで可哀そうなことになったか……まあ、自業自得か……それにしても、哀れ」
「失礼な。警備の仕事が出来なくしただけで、殺してはいませんよ」

 うーん、どっちにしても可哀そうだけど。
 俺もあの時は、殺そうかと思ったし。
 別に良いか。

 すぐに暴れゴブリンの情報が街道を駆け抜けたらしい。
 とはいえ、そのゴブリンの群れには集落に戻ってもらったから、今後出ることは無いかな?

 次の日の朝から街道を北上し、メノウの町の近くに辿り着くことが出来たが。
 
 うーん。
 これは、失敗したんじゃないか?
 ゴタロウ君。

 明らかに検問っぽいのを、張ってるんだけど?

 今からでも迂回した方が、良いと思うぞ。
 次の村まで野営が確定してしまったけど。

「あれって、もしかして僕たちを探してるってこと?」
「たぶん、そうだと思います」

 ニコが不安そうに独り言ちたのに対して、フィーナが感情を殺した言葉で返す。
 十中八九そうだろう。

 まあ、まだ向こうから補足はされてないだろうし。

 いや、物見櫓っぽいところから、こっちを見ているやつがいるな。
 これは、見つかったと思って良いか?

 流石に、そこまで広範囲で警戒してなかったのは俺の落ち度だ。
 まさか昨日の今日でこんなことになるとは思わなかったし。

 となると身分証は出せないし、詰んだな。
 全力で逃げるか?

「逃げてどうにかなるの?」

 たぶん、フィーナがニコを担いで走れば、なんとかなる。
 いや、ならない。
 向こうから馬に乗った兵士が、こっちに向かってる。

「そこの少年、お前がニコだな?」
「はい、そうですが……」

 おいっ!
 俺が、違いますって言えって言ったのに!
 なんで、正直に答えちゃうんだよ!
 
 いや、これはニコの性格を知ってて、無茶ぶりだとは思ったけど。
 少しは……

 ため息が漏れる。

「だったら、この先で検問を張っている理由も分かるな?」
「いえ、心当たりはあるんですけど、それに関して言えば僕たちも被害者というか」
「認めるんだな?」

 正直なのは美徳だが、こいつらに言い訳は通用しないぞ?
 フィーナに指示を出そうにも、フィーナとニコの間に別の騎馬が差し込まれ分断されてしまった。

 取り合えず、ニコに強化をマシマシでしかも竜言語で掛けておく。
 念のための保険だ。
 それから、竜鱗も発動させておこう。
 剛毛は流石にまずいけど、身体の隠れる場所なら大丈夫だろう。
 問題は、俺がニコから離れたところで竜鱗のスキルが持続するのかが、実証実験してなかったので博打になってしまったこと。
 強化系は問題ないと思うけど。

「とりあえず詳しい話は、あっちで聞かせてもらう。武器は預からせてもらうよ」
「え?」

 ニコ!
 俺を、フィーナに向かって投げろ。

「ええ?」

 いや、確かにニコにとって不利になるかもしれないけど、たぶんだけどあいつらの狙いはフィーナだ。
 
「何をしておる? 早く、武器を渡せ」

 しまったなぁ……
 ゴタロウの報告を受けて、あいつらより先にメノウの町に入れると思ったし。
 そのまま通過すればいけると思ったのに。

 この世界ならではの連絡手段があったのだろう。

 ニコ! 
 俺がお前のためにならない助言をしたことあったか?

「たまに……」

 いや、あれは冗談だろう! 
 今回は、マジなやつだから! 
 早く!

「そう言って、大変な目にあったことが2回」

 日頃の自分の行いに反省。

 ニコを誘導して、雌の人に近いゴブリンの沐浴場に突っ込ませたことや、アリアの地雷を踏みぬかせたことがここに来て仇になるとは。
 いや、いまそんなことを嘆いていても仕方ない。
 一番困るのは、俺がこの町のどっかの物置にでも放置されることだ。
 そうなったら、ニコを助けるのにかなりの遠回りに……

『我の出番かな? テトの森に戻ったゆえ、数時間はかかるが』

 ランドールからメッセージが。
 うーん……
 悩む。

「あっ!」

 と思ったら黒い影、ニコと騎士の間をすりぬけ俺を掠め取っていった。
 ゴタロウだ。

「ランドール様から指示を受けました」

 あいつも意地が悪い。
 離れたゴブリンにも指示が出せたのか。
 なるほど……

 この報いはしっかりと受けさせよう。
 血で贖ってもらうしかないな?
 念話のスキルが奪えるまで、俺自ら斬りつけてやる。

『あまり脅すな。別に故意に、スキルを渡さなかったわけじゃ……』

 おっと?
 もしかして、俺が得るスキルの取捨選択も出来たのか?
 ますます許せんな。

『オウ……ドツボ』

 急に外人臭いイントネーションになったランドールは放っておいて、そのままゴタロウにフィーナの元まで俺を運ばせる。

 フィーナ、とりあえず逃げろ! 
 このままニコと一緒に逃げても、たぶん今度は国内で指名手配になる。
 だったら、この町でしっかりと解決しておいた方が良い。

「そうですね。この町程度なら里の者からロードを4名……いや、ランドール様と他に1名補助をつけてくだされば半刻ほどで、灰燼と化して見せましょう」

 いやいや、根本的解決過ぎるから。
 そして、それは色々と問題が。
 もっと、平和的解決を……

「この町以外からすれば、最良の平和的解決かと。町一つで国の平穏が買えるわけですから」

 ちょっと、フィーナがニコ以外に対して、あまりにも冷血すぎて引く。
 
「ふわぁ……」
「良いから、こっちに来い! というか、武器はどこにやった!」
「えっと……その……」

 あぁ、ニコが全力で人見知り発動してる。
 俺が、手元を離れたからか?

「フィーナ、これ以上主を困らせるな」
「黙れゴジロウ! 私は、主よりニコ様が大事」

 おい!
 いや、別に構わないけどさ。

「なんだこの威圧」
「急に悪寒が」

 ゴジロウを睨みつけるフィーナの殺気に、騎士達が当てられた怯えている。
 結局、俺とゴジロウで頑張ってフィーナをなだめすかしてその場から離れさせる。

「くそっ! 女が逃げたぞ!」
「追え!」

 すぐにニコに対応していた騎士が指示を飛ばす。
 それに従って、慌てた様子で馬を飛ばす他の騎士達。

「フィーナに何をする気?」
「なっ!」

 と思ったら、ニコが騎士の肩を掴んでいる。

「無礼なっ! なにぃ! 鎧が……くそっ、痛い! いたたたた」

 あー、強化マシマシのニコが本気で騎士の肩を掴んだから、鉄製の肩当がぐにゃりと歪んでいる。
 といっても、解除したら大変なことになりそうだし。
 取り合えず、あっちは放置で。

 いったん、警戒の範囲の外に出て作戦会議を。

「では、町を滅ぼす方向で……市民はどうしますか? 見せしめに半分くらい? それとも、証拠を消すために全員?」
「いや、落ち着け! 俺の配下のものが、現在町の状況を調査している」

 目を真っ赤に充血させて殺気を隠そうともしないフィーナに、ゴタロウが呆れた様子でため息を吐く。
 ゴタロウの配下って…… 
 まあ、人間に近い姿はしてるけど、お前ら緑色だろう……

「色くらい、どうにでもできますよ」

 そう言ってゴタロウが印を汲むと、彼の肌が緑から肌色に。
 何度口にしても馬鹿っぽい字面だが、そう肌が肌色に変化していた。
 
「生意気な……」

 フィーナの怒りポイントがよく分からないけど。
 個人的には、凄いって褒めてあげたいんだけど?
 伝えてくれないかな?
 いま、俺を持ってるのフィーナだから、お前しか伝言頼めないんだけど?

「嫌です」

 嫌ですって……
 俺、お前の主だよな?

「ニコ様を見捨てるような主は、信用できません」

 見捨ててないし。
 面倒くさい。
 恋する乙女面倒くさい。

 こんなことなら、ゴタロウに持っててもらったほうが良かったかも。

「渡しませんよ?」

 ……
 俺、怒ってもいいよね?
 反抗的な部下に対して、こうガツンと。

「私の方が、すでに怒ってます」

 ごめんなさい。
 いや、そう短気を起こすな。
 ここでの立ち回りが、今後につながるんだから。
 
 そしてどうしようもならなかったら、一緒にこの町を滅ぼそう。
 それほもう、跡形もなく更地に。

「話を聞きましょう」

 こえーなこいつ……
 ヤンデレどころじゃない。
 
 ゴブリンロードのユニークが規格外にヤバイってのは、理解し始めたが。
 せめてもの救いは、そのフィーナクラスのゴブリンがゴロゴロと配下にいる。
 だから、最悪はそっちに、フィーナを抑えてもらえる。
 さらにいえば、その上のゴブリンもいるからこいつが暴走したところで……

「里の者が辿りつくより先に、この命と引き換えに町の住人全て殺せますよ?」

 そっか……
 だんだんと、俺の方が落ち着いてきた。

 まずは、町から離れた場所に野営を。
 その準備は……ああ、ゴタロウの配下のゴブリン達がしてくれるのね。
 野営地と呼ぶには立派な拠点を……

 黒鍬組を呼んでいると……
 なにそれ?
 そんなの知らないんだけど……いや、知ってるけど。
 そんなグループ作ってたのね。

 ランドールが手伝ったら、ガチの一夜城を造ってみせましょう?
 いや、造らなくていいから。
 そんなの造って見つかったら、言い訳のしようがないし。

 下手したら、戦争……

 望むところです?
 いや、望まなくても良いから。
 俺もニコも人間よりだから……いや、よく知りもしない人間よ俺はお前らの方が大事だけどさ。

 フィーナは相変わらず頬を膨らませて、だんまり。
 代わりにランドールが伝えてくれたのか、皆が照れてた。 
 その素直な反応に、俺も思わずちょっと照れてしまった。

 いや、そんなことはどうでもいい。
 取り合えず、その簡易拠点に。

 簡易拠点とはなんぞや?

 流石に城とまではいかないものの、簡単な屋敷みたいなのが街道から外れた森にあった。
 森と言っても、小規模なものだけど。
 どう見ても、不釣り合いな武家屋敷っぽい建物。
 そんなに大きくはないけど、十分に立派だ。

 マヨヒガかな?
 これ、凄く目立ってるよ?

 魔法で、隠蔽工作もばっちりです?
 そうなの?
 俺にはばっちり、見えてるけど。
 
 もう、ゴブリン達が優秀過ぎて、俺の知ってるゴブリンとは違う生き物だと。
 いや、俺の知ってるゴブリンも、ゲームや物語の世界だけの話だし。

 じゃあ、作戦会議といこうか……といっても、まずはゴタロウの配下待ちだけどな
 
「……」

 あの、フィーナさん?
 何か喋ってくれないかな?
 喋らなくてもいいけど、俺の言葉を伝えてくれないとゴタロウとコミュニケーション取れないんだけど?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転移したよ!

八田若忠
ファンタジー
日々鉄工所で働く中年男が地球の神様が企てた事故であっけなく死亡する。 主人公の死の真相は「軟弱者が嫌いだから」と神様が明かすが、地球の神様はパンチパーマで恐ろしい顔つきだったので、あっさりと了承する主人公。 「軟弱者」と罵られた原因である魔法を自由に行使する事が出来る世界にリストラされた主人公が、ここぞとばかりに魔法を使いまくるかと思えば、そこそこ平和でお人好しばかりが住むエンガルの町に流れ着いたばかりに、温泉を掘る程度でしか活躍出来ないばかりか、腕力に物を言わせる事に長けたドワーフの三姉妹が押しかけ女房になってしまったので、益々活躍の場が無くなりさあ大変。 基本三人の奥さんが荒事を片付けている間、後ろから主人公が応援する御近所大冒険物語。 この度アルファポリス様主催の第8回ファンタジー小説大賞にて特別賞を頂き、アルファポリス様から書籍化しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

実験施設から抜け出した俺が伝説を超えるまでの革命記! 〜Light Fallen Angels〜

朝日 翔龍
ファンタジー
 それはある世界の、今よりずっと未来のこと。いくつもの分岐点が存在し、それによって分岐された世界線、いわゆるパラレルワールド。これは、そ無限と存在するパラレルワールドの中のひとつの物語。  その宇宙に危機を及ぼす脅威や魔族と呼ばれる存在が、何度も世界を消滅させようと襲撃した。そのたびに、最強無血と謳われるレジェンド世代と称されたデ・ロアーの8人集が全てを解決していった。やがては脅威や魔族を封印し、これ以上は世界の危機もないだろうと誰もが信じていた。  しかし、そんな彼らの伝説の幕を閉ざす事件が起き、封印されていたはずの脅威が蘇った。瞬く間に不安が見え隠れする世界。そこは、異世界線へと繋がるゲートが一般的に存在し、異世界人を流れ込ませたり、例の脅威をも出してしまう。  そんな世界の日本で、実験体としてとある施設にいた主人公ドンボ。ある日、施設から神の力を人工的に得られる薬を盗んだ上で脱走に成功し、外の世界へと飛び出した。  そして街中に出た彼は恐怖と寂しさを覆い隠すために不良となり、その日凌ぎの生き方をしていた。  そんな日々を過ごしていたら、世界から脅威を封印したファイター企業、“デ・ロアー”に属すると自称する男、フラットの強引な手段で険しい旅をすることに。  狭い視野となんの知識もないドンボは、道中でフラットに教えられた生きる意味を活かし、この世界から再び脅威を取り除くことができるのであろうか。

旅人アルマは動かない

洞貝 渉
ファンタジー
引きこもりのアルマは保護者ルドベキアと共にヤドカリに乗って旅をする。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...