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第3章:奴隷と豚
第1話:ミルウェイへ向かおう
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後ろから見たらカバンが歩いていると思えるような、巨大な背負い袋。
その袋がパンパンに膨れ上がるほどの荷物を持った、可愛らしい少女。
そして、背中よりも少し大きなカバンを背負った少年。
ニコとフィーナが歩くのを、俯瞰の視点で見つつも少しもやっとした気持ちに。
まあ、地力の差があるから仕方ないといえば仕方ないが。
リンドの街から北に延びる街道をひたすすむ2人だが、馬車などではなく徒歩での移動だ。
特に理由はない。
ここから北に向かって最初にある村までなら、徒歩でも問題ない距離だからだ。
馬車にしろ徒歩にしろ、そこで1泊する必要がある。
だったら経費の削減と、景色を楽しみつつのんびりと移動しようということになった。
まあ、俺が歩くわけじゃないから良いけど。
街道には他にも歩いている人がチラホラと。
一定間隔で宿舎も兼ねた、警備の兵用の建物もある。
物流の兼ね合いである程度の治安維持と害獣となる魔物の駆除に、リンドの街の領主が派遣した兵が常駐している。
またその建物の傍にはテントが張ってあり、食料品や小物を売っているお店も。
うーん、なかなかに珍しい光景かな?
街道自体は平原にあるので、とくにこれといって目を見張るものは無いが。
それでも、日本とは違った風景が俺にとっては新鮮で、なんとなく気分がウキウキとしてくる。
歩いている人の服装も様々で、共通していえるのはファンタジーな世界の服装ということかな?
普通の人以外にも獣人や小柄な人、エルフっぽい人も歩いている。
時折、馬車が通るのを止まってやり過ごすけど。
ただその通行人たちが、ニコを見る目が少し痛い。
可愛らしい女の子に抱えきれないほどの荷物を持たせて、本人は小さめのカバンを背負っているだけ。
はたから見たら、ろくでもない男だろう。
とはいえ、荷物の大半はフィーナが望んだものだし。
リンドの街を出る時にフィーナにって、他の冒険者や町の人達がプレゼントしたものも少なくない。
家に置いていくという選択肢もあったけど、いつ戻れるか分からないこともあり仕方なく。
家賃自体は1年分払っているし出先の冒険者ギルドを介して、お金を届けることも出来るから問題ない。
少しもったいない気もするけど、帰れる場所があるってのはそれだけも価値が……
「帰る場所なら、2つもあるじゃないですか」
「あれは流石に……」
実際のところ、家を2軒持っているといえば聞こえがいいが。
家というか、城だもんな。
ゴブパレスとコボゴブパレスってとこかな?
マンスリーが有名な某不動産屋の物件と違って、こっちは本物の宮殿。
というか城だから、キャッスルか?
立地がなぁ。
森の奥だし、ご近所さんはもれなく魔物だ。
資産価値は……無いだろうし、ちょっと実家とよぶには何か違う気がする。
ちなみに、不動産の方のパレスの名前の由来は、獅子のマンションを目標にしたからだとか。
そして獅子より速い豹のレオパードを冠に……なんでこんな話に?
まあ、どうでも良いか。
とにかく、帰る場所にするには微妙な持ち家が2軒。
フィーナにとっては、実家で間違いないだろうな。
「あっ、美味しそう」
フィーナの声に、意識をそちらに向ける。
俺の見る景色は上空から地上を眺めるような景色だから、気になるものは意識を向けて視点を移動しないといけない。
普段なら上空からのそれでいいけど、低い位置のものは視点自体を移動させないといけないのは、ちょっと面倒。
そのフィーナの興味の先は、果物の絵の描かれた看板のあるお店。
三角錐のテントが立てられていて、その前にゴザが敷かれている。
そこに箱が置いてあるが、その中に冷やした果汁が入った瓶が入れられているようだ。
小さな氷魔石と、あらかじめ作っておいた氷が入っている。
なるほど、これなら時間が経っても冷えていそうだ。
「買ってく?」
「うーん、ここで飲まないといけないのかな?」
「おっ、お客さんかい? 瓶は返してもらわないとこまるけど、水筒があるなら移し替えてあげるよ?」
店先で足を止めたフィーナとニコに、店主の男性が声をかけてくる。
首にマフラーのようなものをしているが、着ている服はノンスリーブ。
寒いんだか、暑いんだかといった格好だが。
獣人と人のハーフかな?
腕や顔の周りには、割と毛がフサフサと生えている。
毛深い人どころじゃない量の。
心なしか、顔も動物っぽい顔だ。
「このイチグラの実の果汁は?」
「大銅貨5枚だよ!」
「うわぁ、割と良いお値段」
イチグラって何かな?
気になってさらに視点を寄せたが、絵を見るに苺だな。
じゃあ、あっちのミカンっぽいのは、なんていうんだろう。
固有名詞はものによっては、日本語に変換されないから。
「こっちの、カラカラは?」
ニコが聞いてくれていた。
全然、なじみのない言葉……
カラカラ?
いや、あれは……
「ああ、それは大銅貨4枚だよ。とってもジューシーなネーブルから絞った、混じりっけなしの100%果汁ジュース! おすすめだよ」
ネーブルでカラカラか……
分かりやすい商品名だと、ピンキーオレンジのあれかな?
そしてカラカラ・ネーブルと呼ばれているあれ。
でも、カラカラの名前の由来って、農園の名前だったような……
時折、こういった微妙に判断に困る名前も出てくる。
結局散々悩んだあげく、2人ともスイカっぽい絵の描かれたジュースを選んでいた。
でも英語とかが多いから、ウォーターメロンとかかな?
少しもじって、ウォーターメロニアとか?
「毎度あり!」
「このスイカジュース美味しい!」
「うん、爽やかで清涼感があっていいよね」
普通に、スイカだった……
この世界、俺のこと嫌いなのかな?
まあ、俺は味合うこと出来ないから、なんでもいいけどさ。
別に、拗ねてるわけじゃないよ?
ちなみにジュース以外にも干し肉から木彫りの人形まで、割と落ち着きのない品ぞろえだった。
……いや、正直に言おう。
全く関連性のない商品がいっぱいゴザに置かれて、見ていて少しうるさい印象。
その後も、街道を歩いていると色々なものが目に入ってくる。
「くっ! こいつ、噛みついてきやがった!」
「そっち行ったぞ!」
「道に近づけるな!」
街道の脇で、小さな兎の群れに翻弄される兵士さんたち。
「手伝いましょうか?」
「いえ、おかまいなく!」
あまりにもすばしっこい兎に苦戦するのを見て、ニコが声を掛けていたが。
爽やかな笑顔で、こっちに手を振ってこたえてくれた。
なかなか良い人だ。
そして、普通に人に話しかけられるようになっているニコの成長に、ちょっとほっこり。
でも、思いっきり頬に噛みつかれている状態で、よくもまああんな爽やかな笑顔が出来るものだ。
流石は、街道警備隊。
……関係ないかな?
あの人が、特殊なだけかもしれない。
途中の街道警備隊の人の詰所の横に、花と食べ物が供えてあってちょっとブルーに……
【ポッポの墓】
いや、これペットかなんかの墓だ。
てっきり殉職した人のかなと思ったけど。
紛らわしい。
たまにセクシーな女性とかも街道を歩いていてびっくりした。
聞けば、花を売ってるらしい。
「坊やには、まだちょっと早いかもね」
そっちの花か……
ニコがキョトンとしてたけど、反応を見ただけでニコには早いというのがよく分かる。
それにその人から買ったら、きっとフィーナが荒れるから興味を持つな。
主に買ってくれるのは、街道警備隊の人と。
警備の人、楽しんでるなー。
「うぉー! お前ら、逃げろ逃げろ!」
「みんな、避難しろ! あれは、ヤバイ!」
「なんで、こんなところに!」
途中で、周囲が大きな影に包まれたと思ったら、警備の人達がわらわらと集まってくる。
「くそっ、ここからじゃ応援要請出しても間に合わんぞ!」
「死んだわ……俺達、死んだわ」
悲壮感漂う表情で上空を見上げているけど、気にしなくていいと思う。
ニコなんか、そっちに向かって手を振ってるし。
「呑気か! 少年、早くこっちに来るんだ!」
「俺たちが、なんとしても守って……あれ? 逃げてった?」
「逃げるとは言わんだろう。普通に去っていっただけだろう」
その影の持ち主は、ニコを発見して満足そうに大きく旋回して南に飛んでいった。
「俺、ここの皆に自慢しよ! 生ドラゴン見たって」
「ここの皆なら、ほぼ全員一緒に見てたが?」
「あっ」
混乱してるなー……
そしてランドールはいまだに、自然なサイズの人間に変化できないのか。
たまに姿を見るだけで、満足するみたいだから良いけどさ。
てか、寂しんだろうな。
ミルウェイに向かう前に、一度テトの森に戻るべきだったかな?
時折、ゴブリンの気配も感じるし。
ゴブリン王国の。
見つかったら大騒ぎになるから、大人しくしといて欲しい。
と思ったら、ランドールが慌てて戻ってきた。
「うわぁ、戻ってきた!」
「やばい!」
警備兵たちが慌てている。
そして、ランドールも少し慌ててた。
それもそのはず。
別方向から、大きな翼を持った生物がこっちに向かってきてたから。
「やばい、ワイバーンまで!」
「これ、まずくないか?」
へえ、あれがワイバーンか。
ランドールとちがって、口が嘴のようにとがっている。
それ以外の顔の部分は、竜っぽいけど。
ただ身体の方は、全体が灰色っぽくて翼竜のような形と。
地面を歩くのは苦手そうだな。
「グギャァァァァァァ! グギャッ?」
ワイバーンは、喋ることが出来ないのかな?
なんともいえない鳴き声。
あんな、鳴き声の生き物は……出会った当初のゴブリンくらいかな?
同じような鳴き方だけど、ゴブリン語とは違うのか。
『すまん、ちょっと刺激したみたいだ』
そのワイバーンの喉元に食らいついて、首の骨を一思いに折ったランドールの口から申し訳なさそうな……
口からじゃないか。
思念で俺に直接、謝罪が。
いや、いま目の前で処理……
バサバサという羽音が、聞こえてくる。
それも1羽とかじゃない。
たくさん……
「キャー!」
「ヤバイ、いっぱい変なのきた!」
「あれは、ワイバーンですね」
「あんなのに、襲われたらひとたまりもないじゃない!」
他の通行人が、ワイワイ騒ぎ始める。
阿鼻叫喚。
やや、冷静な人もいるみたいだけど。
「うわぁ、ワイバーンの群れが!」
「てか、竜がワイバーン食ってる!」
「どうしよう!」
「取り合えす、通行人を連れて詰所に避難するぞ!」
そして街道警備隊の人達が避難を呼びかけようとするが、それより先にフィーナが動いた。
スキルをワイバーンの群れに向かって放つと、意識を手放したかのように地面に落ちてくる。
そのまま落ち方が悪く、首を折ったりして絶命したのもいるけど。
「ワイバーンが降ってきた」
「なんで?」
「何が起こってるんだ!」
パニック。
「キャー!」
「なんなのあれ!」
「うそだろ!」
皆、パニック。
無事な個体もいたみたいで、地面に叩きつけられて目を覚ましたワイバーンが飛んでいく。
残されたのは数体の死体と、飛べないくらいのダメージを受けている個体。
とはいえ、生きているだけで脅威らしく。
警備の人達も迂闊に近づけない。
「何あれ?」
「ワイバーンが、どっかに運ばれてく」
「緑色のイケメン?」
緑色のイケメンて……
テトの森のゴブリン達が、ワイバーンを担いで平原の向こうに消えていった。
上空では、ランドールが俺に申し訳なさそうに手を合わせてから飛び去ったが。
ちょっと待て。
血が欲しかったんだけど?
スキル美味しそうだし。
「あっ、緑色のイケメンが戻ってきた」
通行人のセクシーな女性の言葉に、意識を向ける。
ゴブリンの一匹が、血を入れた瓶をニコに手渡して来た道を戻っていった。
分かってるじゃないか。
その袋がパンパンに膨れ上がるほどの荷物を持った、可愛らしい少女。
そして、背中よりも少し大きなカバンを背負った少年。
ニコとフィーナが歩くのを、俯瞰の視点で見つつも少しもやっとした気持ちに。
まあ、地力の差があるから仕方ないといえば仕方ないが。
リンドの街から北に延びる街道をひたすすむ2人だが、馬車などではなく徒歩での移動だ。
特に理由はない。
ここから北に向かって最初にある村までなら、徒歩でも問題ない距離だからだ。
馬車にしろ徒歩にしろ、そこで1泊する必要がある。
だったら経費の削減と、景色を楽しみつつのんびりと移動しようということになった。
まあ、俺が歩くわけじゃないから良いけど。
街道には他にも歩いている人がチラホラと。
一定間隔で宿舎も兼ねた、警備の兵用の建物もある。
物流の兼ね合いである程度の治安維持と害獣となる魔物の駆除に、リンドの街の領主が派遣した兵が常駐している。
またその建物の傍にはテントが張ってあり、食料品や小物を売っているお店も。
うーん、なかなかに珍しい光景かな?
街道自体は平原にあるので、とくにこれといって目を見張るものは無いが。
それでも、日本とは違った風景が俺にとっては新鮮で、なんとなく気分がウキウキとしてくる。
歩いている人の服装も様々で、共通していえるのはファンタジーな世界の服装ということかな?
普通の人以外にも獣人や小柄な人、エルフっぽい人も歩いている。
時折、馬車が通るのを止まってやり過ごすけど。
ただその通行人たちが、ニコを見る目が少し痛い。
可愛らしい女の子に抱えきれないほどの荷物を持たせて、本人は小さめのカバンを背負っているだけ。
はたから見たら、ろくでもない男だろう。
とはいえ、荷物の大半はフィーナが望んだものだし。
リンドの街を出る時にフィーナにって、他の冒険者や町の人達がプレゼントしたものも少なくない。
家に置いていくという選択肢もあったけど、いつ戻れるか分からないこともあり仕方なく。
家賃自体は1年分払っているし出先の冒険者ギルドを介して、お金を届けることも出来るから問題ない。
少しもったいない気もするけど、帰れる場所があるってのはそれだけも価値が……
「帰る場所なら、2つもあるじゃないですか」
「あれは流石に……」
実際のところ、家を2軒持っているといえば聞こえがいいが。
家というか、城だもんな。
ゴブパレスとコボゴブパレスってとこかな?
マンスリーが有名な某不動産屋の物件と違って、こっちは本物の宮殿。
というか城だから、キャッスルか?
立地がなぁ。
森の奥だし、ご近所さんはもれなく魔物だ。
資産価値は……無いだろうし、ちょっと実家とよぶには何か違う気がする。
ちなみに、不動産の方のパレスの名前の由来は、獅子のマンションを目標にしたからだとか。
そして獅子より速い豹のレオパードを冠に……なんでこんな話に?
まあ、どうでも良いか。
とにかく、帰る場所にするには微妙な持ち家が2軒。
フィーナにとっては、実家で間違いないだろうな。
「あっ、美味しそう」
フィーナの声に、意識をそちらに向ける。
俺の見る景色は上空から地上を眺めるような景色だから、気になるものは意識を向けて視点を移動しないといけない。
普段なら上空からのそれでいいけど、低い位置のものは視点自体を移動させないといけないのは、ちょっと面倒。
そのフィーナの興味の先は、果物の絵の描かれた看板のあるお店。
三角錐のテントが立てられていて、その前にゴザが敷かれている。
そこに箱が置いてあるが、その中に冷やした果汁が入った瓶が入れられているようだ。
小さな氷魔石と、あらかじめ作っておいた氷が入っている。
なるほど、これなら時間が経っても冷えていそうだ。
「買ってく?」
「うーん、ここで飲まないといけないのかな?」
「おっ、お客さんかい? 瓶は返してもらわないとこまるけど、水筒があるなら移し替えてあげるよ?」
店先で足を止めたフィーナとニコに、店主の男性が声をかけてくる。
首にマフラーのようなものをしているが、着ている服はノンスリーブ。
寒いんだか、暑いんだかといった格好だが。
獣人と人のハーフかな?
腕や顔の周りには、割と毛がフサフサと生えている。
毛深い人どころじゃない量の。
心なしか、顔も動物っぽい顔だ。
「このイチグラの実の果汁は?」
「大銅貨5枚だよ!」
「うわぁ、割と良いお値段」
イチグラって何かな?
気になってさらに視点を寄せたが、絵を見るに苺だな。
じゃあ、あっちのミカンっぽいのは、なんていうんだろう。
固有名詞はものによっては、日本語に変換されないから。
「こっちの、カラカラは?」
ニコが聞いてくれていた。
全然、なじみのない言葉……
カラカラ?
いや、あれは……
「ああ、それは大銅貨4枚だよ。とってもジューシーなネーブルから絞った、混じりっけなしの100%果汁ジュース! おすすめだよ」
ネーブルでカラカラか……
分かりやすい商品名だと、ピンキーオレンジのあれかな?
そしてカラカラ・ネーブルと呼ばれているあれ。
でも、カラカラの名前の由来って、農園の名前だったような……
時折、こういった微妙に判断に困る名前も出てくる。
結局散々悩んだあげく、2人ともスイカっぽい絵の描かれたジュースを選んでいた。
でも英語とかが多いから、ウォーターメロンとかかな?
少しもじって、ウォーターメロニアとか?
「毎度あり!」
「このスイカジュース美味しい!」
「うん、爽やかで清涼感があっていいよね」
普通に、スイカだった……
この世界、俺のこと嫌いなのかな?
まあ、俺は味合うこと出来ないから、なんでもいいけどさ。
別に、拗ねてるわけじゃないよ?
ちなみにジュース以外にも干し肉から木彫りの人形まで、割と落ち着きのない品ぞろえだった。
……いや、正直に言おう。
全く関連性のない商品がいっぱいゴザに置かれて、見ていて少しうるさい印象。
その後も、街道を歩いていると色々なものが目に入ってくる。
「くっ! こいつ、噛みついてきやがった!」
「そっち行ったぞ!」
「道に近づけるな!」
街道の脇で、小さな兎の群れに翻弄される兵士さんたち。
「手伝いましょうか?」
「いえ、おかまいなく!」
あまりにもすばしっこい兎に苦戦するのを見て、ニコが声を掛けていたが。
爽やかな笑顔で、こっちに手を振ってこたえてくれた。
なかなか良い人だ。
そして、普通に人に話しかけられるようになっているニコの成長に、ちょっとほっこり。
でも、思いっきり頬に噛みつかれている状態で、よくもまああんな爽やかな笑顔が出来るものだ。
流石は、街道警備隊。
……関係ないかな?
あの人が、特殊なだけかもしれない。
途中の街道警備隊の人の詰所の横に、花と食べ物が供えてあってちょっとブルーに……
【ポッポの墓】
いや、これペットかなんかの墓だ。
てっきり殉職した人のかなと思ったけど。
紛らわしい。
たまにセクシーな女性とかも街道を歩いていてびっくりした。
聞けば、花を売ってるらしい。
「坊やには、まだちょっと早いかもね」
そっちの花か……
ニコがキョトンとしてたけど、反応を見ただけでニコには早いというのがよく分かる。
それにその人から買ったら、きっとフィーナが荒れるから興味を持つな。
主に買ってくれるのは、街道警備隊の人と。
警備の人、楽しんでるなー。
「うぉー! お前ら、逃げろ逃げろ!」
「みんな、避難しろ! あれは、ヤバイ!」
「なんで、こんなところに!」
途中で、周囲が大きな影に包まれたと思ったら、警備の人達がわらわらと集まってくる。
「くそっ、ここからじゃ応援要請出しても間に合わんぞ!」
「死んだわ……俺達、死んだわ」
悲壮感漂う表情で上空を見上げているけど、気にしなくていいと思う。
ニコなんか、そっちに向かって手を振ってるし。
「呑気か! 少年、早くこっちに来るんだ!」
「俺たちが、なんとしても守って……あれ? 逃げてった?」
「逃げるとは言わんだろう。普通に去っていっただけだろう」
その影の持ち主は、ニコを発見して満足そうに大きく旋回して南に飛んでいった。
「俺、ここの皆に自慢しよ! 生ドラゴン見たって」
「ここの皆なら、ほぼ全員一緒に見てたが?」
「あっ」
混乱してるなー……
そしてランドールはいまだに、自然なサイズの人間に変化できないのか。
たまに姿を見るだけで、満足するみたいだから良いけどさ。
てか、寂しんだろうな。
ミルウェイに向かう前に、一度テトの森に戻るべきだったかな?
時折、ゴブリンの気配も感じるし。
ゴブリン王国の。
見つかったら大騒ぎになるから、大人しくしといて欲しい。
と思ったら、ランドールが慌てて戻ってきた。
「うわぁ、戻ってきた!」
「やばい!」
警備兵たちが慌てている。
そして、ランドールも少し慌ててた。
それもそのはず。
別方向から、大きな翼を持った生物がこっちに向かってきてたから。
「やばい、ワイバーンまで!」
「これ、まずくないか?」
へえ、あれがワイバーンか。
ランドールとちがって、口が嘴のようにとがっている。
それ以外の顔の部分は、竜っぽいけど。
ただ身体の方は、全体が灰色っぽくて翼竜のような形と。
地面を歩くのは苦手そうだな。
「グギャァァァァァァ! グギャッ?」
ワイバーンは、喋ることが出来ないのかな?
なんともいえない鳴き声。
あんな、鳴き声の生き物は……出会った当初のゴブリンくらいかな?
同じような鳴き方だけど、ゴブリン語とは違うのか。
『すまん、ちょっと刺激したみたいだ』
そのワイバーンの喉元に食らいついて、首の骨を一思いに折ったランドールの口から申し訳なさそうな……
口からじゃないか。
思念で俺に直接、謝罪が。
いや、いま目の前で処理……
バサバサという羽音が、聞こえてくる。
それも1羽とかじゃない。
たくさん……
「キャー!」
「ヤバイ、いっぱい変なのきた!」
「あれは、ワイバーンですね」
「あんなのに、襲われたらひとたまりもないじゃない!」
他の通行人が、ワイワイ騒ぎ始める。
阿鼻叫喚。
やや、冷静な人もいるみたいだけど。
「うわぁ、ワイバーンの群れが!」
「てか、竜がワイバーン食ってる!」
「どうしよう!」
「取り合えす、通行人を連れて詰所に避難するぞ!」
そして街道警備隊の人達が避難を呼びかけようとするが、それより先にフィーナが動いた。
スキルをワイバーンの群れに向かって放つと、意識を手放したかのように地面に落ちてくる。
そのまま落ち方が悪く、首を折ったりして絶命したのもいるけど。
「ワイバーンが降ってきた」
「なんで?」
「何が起こってるんだ!」
パニック。
「キャー!」
「なんなのあれ!」
「うそだろ!」
皆、パニック。
無事な個体もいたみたいで、地面に叩きつけられて目を覚ましたワイバーンが飛んでいく。
残されたのは数体の死体と、飛べないくらいのダメージを受けている個体。
とはいえ、生きているだけで脅威らしく。
警備の人達も迂闊に近づけない。
「何あれ?」
「ワイバーンが、どっかに運ばれてく」
「緑色のイケメン?」
緑色のイケメンて……
テトの森のゴブリン達が、ワイバーンを担いで平原の向こうに消えていった。
上空では、ランドールが俺に申し訳なさそうに手を合わせてから飛び去ったが。
ちょっと待て。
血が欲しかったんだけど?
スキル美味しそうだし。
「あっ、緑色のイケメンが戻ってきた」
通行人のセクシーな女性の言葉に、意識を向ける。
ゴブリンの一匹が、血を入れた瓶をニコに手渡して来た道を戻っていった。
分かってるじゃないか。
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生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
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