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第2章:風の調べとゴブリンとコボルトと
閑話1:風の調べとニコと鈴木
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僕の名前は、テッド。
風の調べっていう、同じ村出身の友達とパーティを組んで冒険者をやってるんだけど。
主な活動拠点はリンドの街。
といっても、まだまだ初級冒険者。
討伐依頼も簡単なものでも躊躇してしまうくらいの実力しかないけど。
パーティのリーダーはあそこにいるバンチョ。
剣が得意だから、剣士をしてるけど。
まあ……村の同じ年の子に比べたらってだけ。
才能を感じることは無かったけど、それは本人には内緒。
そして、サブリーダーがリサ。
バンチョに悪からず思いを寄せる、女の子だけど。
実は、剣の実力はバンチョよりも全然上。
本人の前では隠してるけど、才能ってああいうのをいうんだろうな。
それから、ミーナはいっつも僕と一緒にいた女の子。
ちょっと人見知りで大人しい子。
控えめだけど、僕には色々と話しかけてくれる。
ずっと幼い頃に、お嫁さんになりたいって言われてから僕も好きになったんだけど。
あっちはそのことを覚えてはいるみたいだけど、幼い頃の良い思い出になってるっぽい。
かといって、他に好きな人も居なさそうだし。
少し期待。
あっ、ちなみに本当に才能のある子だった。
魔法の。
初級の攻撃魔法が使えるだけでも、十分。
これから、成長すればもっと凄い魔法も使えるだろうし。
それに引き換え、僕ときたら。
守りと避けることが上手なだけで、そこまで戦闘が得意という訳じゃない。
その代わり、野草とか料理には詳しいけど。
だから、タンクっていうのかな?
パーティの防御の要を任せられている。
っていうか、そもそもバンチョとリサが強引に誘ってきたところはあるし。
ミーナが断り切れなかったから、仕方なく僕も参加したけど。
本当は畑をいじったり、狩りをする方が性に合ってるんだけどな。
そんな僕たちだけど、わりと凄い冒険もしたり。
というか、したというか。
九死に一生の事態。
冒険者の価値は、そこで生き残れたかどうかで決まるって、ゴートさんが言ってたけど。
僕たちは、生き残れた。
不思議な少年のお陰で。
リンドの街の近くにあるエスラの森に、薬草の採取依頼で来たときに出会った少年。
ニコさんっていうらしい。
僕たちと同じ初級冒険者で、E級らしいけど。
彼がE級なら、僕たちは見習いからやり直しだ。
エスラの森で採集活動をしていたら、つい道から大きく外れたみたいで。
急に茂みから音がしたと思ったら、大きな蟻が。
ジャイアントアントっていう、ふざけた名前の蟻。
一応、魔物扱いなんだけど。
目が合って、お互い硬直してしまった。
今考えても、間抜けな行動だった。
相手は1匹だったわけだし、睨みあえば逃げてくれる可能性もあったのに。
「うわぁ!」
出会い頭ということもあって、悲鳴をあげてしまった。
「【火球】」
直後、後ろから可愛らしい女の子の声で呪文が聞こえてきて。
横を火の球が飛んできて、ジャイアントアントの顔を直撃。
うーん……
継続的な燃焼効果のあるファイ―アウォールとか、ヒート系の魔法ならともかく。
単発で火の球を当てるだけの魔法って、昆虫系には効果が薄いんだよね。
だから……
「カチカチカチカチ!」
「まずい、アラートだ!」
「仲間を呼んでるわ!」
こうなる。
とどめを刺せなかったうえに、攻撃されたから相手も怒る訳で。
仲間を呼ばれ、全員で逃走。
足の速いバンチョとリサが、助けを求めながら先行。
僕がミーナをカバーしつつ、盾で近づいてきた蟻を吹き飛ばしつつも後を……
バンチョ達、あれ全力で逃げてないかな?
距離が徐々に離れて行ってるんだけど?
あんまり離れると、僕とミーナが追い付かれたら助けに来られないよね?
……
もしかして、見捨てられた?
「うわぁぁぁぁ!」
「テッド! だめ、追いつかれちゃう!」
「走って! 本気で走って! 追いつかれたら、その時考えたらいいから! 今は、全力で走って!」
ミーナに檄を飛ばしつつ、全力疾走。
追いついた蟻は強めに弾き飛ばして、後続の蟻にぶつけつつ。
おお!
バンチョが、人を見つけてくれた!
これで、少しは楽に……
駄目だ……
遠目でも分かる。
あの子はだめだ。
僕たちと、変わらないくらいの年齢の少年。
鎧も身に着けてない。
まるで。ピクニックにでも来たような恰好。
「テッド、最後まで一緒にいてくれてありがとうね……あなただけでも生きて」
「やだ、僕も一緒に食われてやる! 本当に最後まで一緒にいてやる!」
「だめだよ~」
ようやく見つけた希望が、同じような初級冒険者。
ミーナも心が折れてしまったようだ。
でも、僕はミーナを見捨てることはできない。
こうなったら……
「うん! 走れ! 僕が引き受ける!」
かっこいい……
そんな命がけのやり取りを知ってか知らずか、少年が大きな声を張り上げる。
「き……きみが?」
「無茶だよ!」
「いいから、早く来い!」
思わず確認すると、はっきりとした口調で怒鳴られた。
かっこいい。
「くそっ! ミーナ逃げろ! 僕も彼と一緒に戦う!」
彼だけにかっこつけさせるわけにはいかない。
それに、ミーナは僕が守る!
彼と2人なら、あるいは。
そう思ってた。
あの時の自分を思い出すと、恥ずかしくてあーとかうーって声にならないうめき声が出る。
ミーナに対してかっこつけたこともだし……ニコさんの実力を看破できなかった自分も。
相手との力量差が理解できないのは、冒険者として致命的な欠陥だ。
いや、それだけニコさんが実力を隠すのが上手かったんだ。
なんせ剣の柄に手を掛けて少ししたら……急に心がざわついた。
というか、なんか大きくて獰猛な爪のある手で、心臓を鷲掴みにされたような。
生殺……生殺……なんだっけ?
ああ、生殺与奪権を握られたような感覚。
目の前の蟻達に至っては一瞬硬直したあとで、吹き飛ばされた。
そのうえ満足に立ち上がることもできず、地面に伏せた状態でこっちを見てカチカチと顎を鳴らしている。
さっきのアラートとは違う、怯えによって顎がかみ合わない感じだ。
あの興奮したジャイアントアントがここまで怯えるのか。
しかも群れを形成しおわって、獲物を一方的に蹂躙するだけの状態で。
僕と変わらない少年が剣の柄を握っただけで。
その気持ちよく分かる。
ニコさんの背後にはっきりと、竜の姿を見た。
いや、竜を見たことないけど。
その大きな蜥蜴みたいなオーラが。
顔と上半身だけだけど。
顔だけで、僕の身体よりも大きかった。
びっくりしすぎて、蟻が吹き飛ぶと同時に僕はおならが出た。
誰にも聞かれてなくてほっとしたけど、直後にミーナが地面に倒れ込んでしまった。
僕のおならのせいじゃないと思いたい。
違った……
彼女もニコさんのオーラにやられたっぽい。
それからニコさんが威嚇するように木を剣で叩くと、蟻達が一度その場で飛び上がってから回れ右して逃げていった。
やばくない?
魔物が怯えて逃げるレベルって。
それからバンチョ達が、今度こそ熟練の冒険者の先輩方を連れてきてくれたけど。
もう遅い。
先輩たちは、僕とニコさんの話を聞いて蟻をおいかけていった。
「ヒャッハー!」
「これなら、すぐに見つかるぜぇ!」
「集まってくれるなら、ボーナスステージきたこれ!」
「うっひょー! 狩りつくせ―!」
奇声をあげながら。
元気な人たちだなー。
それから、ニコさんがミーナを担いで街まで戻る。
うん……ミーナ、荷物背負ったまんまなんだけど?
見た目ほど軽くないと思うんだけどなあ……
街についた時も、僕たちよりも元気だった。
やっぱり、凄い人なんだ。
僕と同じE級冒険者って聞いたときは、うん本当に降格でも良いかなと思った。
そんなニコさんと、なんと一緒に依頼を受けることが。
ゴブリンの間引き。
もうね……
やばかった。
一応、一緒に依頼を受けるのにかこつけて、食事会をしようと。
ニコさんに内緒でサプライズの。
バーベキュー。
こないだ、助けてもらったお礼もかねて。
だから、一生懸命下調べもして。
ニコさんの好きそうなものも調べて。
僕の鞄はパンパンだけど、彼が喜んでくれたという思いの方がパンパンだ。
その道中で、色々と規格外のことを見てしまうというか。
ニードルラビットを見て、可愛いねとかって言っちゃう人。
いや、あれ結構危険なんだよね。
好戦的というか。
こっちに向かって体当たりしてくるだけでも、それなりに。
単調な攻撃だから、盾とかあったら問題ないけど。
普通に街の人とかが私服で歩いてたら、大けがどころか場合によっては殺されることも。
雑食だから、人も食べられなくはない。
好んでは食べないだけで。
運悪く遭遇して殺されてしまったら、食べられることもある。
まあ、事故レベル。
大体が逃げかえるか、その場にあるもので対処して捕まえるけど。
大きな石とかをぶつけて狩るのが、主流。
逃げないから、狙いやすいし。
しかし、可愛いか……
そこまでは許容範囲。
次に出てきたのが、
「あっ、オオキバイノシシ!」
「うわぁ、大きい牙だね!」
「いや、そうじゃなくてですね……」
「逃げないと……」
そうオオキバイノシシ。
C級冒険者が複数で狩るような魔物。
その牙で年間、何人もの人が犠牲になっている。
こっちも雑食だけど、人はあまり食べない。
食べないけど、遭遇すると積極的に殺しに来る困ったやつ。
死体があまり酷いことにならないのが救いだけど。
すぐに遺体を発見すれば、まともな葬儀くらいは行えるという意味で。
きちんと遺族として、お別れが出来るからね。
……どっちにしろ、最悪だ。
と僕たちみんなが思ってるなか、一人だけ呑気。
そっか……
流石です!
ミーナに逃げられるか聞いて、難しいと言われた瞬間に小首をかしげてた。
なんで、逃げないとって言ったの? とでも思ってそう。
いや、まずは逃げないと。
「僕がやろうか?」
なんでもないように、そんなこと言われた。
あれ?
ニコさんってE級冒険者ですよね?
「えっと……C級冒険者推奨の魔物なのですが?」
「それも複数人であたるが好ましいって、うわっ!」
リサとバンチョが困惑してるところに、猪が準備運動を始めたのが見える。
「やばい、くる!」
思わず盾を持って、身構えるけど……
受け止められるわけがないことは、明白。
でも、一番力が強いのは僕だし。
「受け止められるかな?」
ニコさん?
「受け止めるつもりなんですか?」
びっくりしすぎて、こっちも素で聞き返してしまった。
そして、愚問だった。
牙が手に刺さりそうだからと、剣で額を突いて受け止めてた。
あの突進を……
太い木の幹も簡単にへし折る、突進。
木で作った家すらも、壁が簡単に突き破られるというのに。
剣を正面について、受け止めるとか。
しかも剣身を見たら、錆びついてたり。
そんな剣で……
受け止めるから、皆で攻撃してって言ってたけど。
リサもバンチョも固まってた。
ミーナは言わずもがな。
僕も……
そりゃ、困惑するよね?
あの細い身体のどこに、そんな膂力が……
ふふ……
何がなにやら……
ぼやっと見てるうちに、猪が傷だらけになって。
最終的にズシーンと音を立てて横倒しに。
そう、ズシーンと音がなるくらいに大きな猪を、錆びた剣一本で……
もう凄いを通り越して、ヤバイ人だった。
憧れる。
そのあと、猪運ぶの手伝ったらお駄賃も奮発してくれた。
大人の余裕?
いや、同じくらいの年だったから……
持ってる人の余裕?
「うーん、持ってるといえば、持ってるかな?(鈴木さんを)」
そう聞いたら、ちょっと困惑した感じで応えてくれた。
否定はしないってことは、少しは自覚あるのかな?
全然、無さそうだけど。
そのあとバーベキューはしたんだけど……
そこでも事件が。
ゴブリンと話が出来る?
言ってる意味が分からない。
コボルトキングが出たのか……
ちょっと、行ってくる?
言ってる意味が分かりません。
コボルトキングとロードと話をつけてきた?
キングだけじゃなかったの?
ロード?
しかも、話をつけてきた?
おっしゃってる意味が、分かりかねます。
コボルトキングとロードをテイムした?
それは何語でしょうか?
風の調べっていう、同じ村出身の友達とパーティを組んで冒険者をやってるんだけど。
主な活動拠点はリンドの街。
といっても、まだまだ初級冒険者。
討伐依頼も簡単なものでも躊躇してしまうくらいの実力しかないけど。
パーティのリーダーはあそこにいるバンチョ。
剣が得意だから、剣士をしてるけど。
まあ……村の同じ年の子に比べたらってだけ。
才能を感じることは無かったけど、それは本人には内緒。
そして、サブリーダーがリサ。
バンチョに悪からず思いを寄せる、女の子だけど。
実は、剣の実力はバンチョよりも全然上。
本人の前では隠してるけど、才能ってああいうのをいうんだろうな。
それから、ミーナはいっつも僕と一緒にいた女の子。
ちょっと人見知りで大人しい子。
控えめだけど、僕には色々と話しかけてくれる。
ずっと幼い頃に、お嫁さんになりたいって言われてから僕も好きになったんだけど。
あっちはそのことを覚えてはいるみたいだけど、幼い頃の良い思い出になってるっぽい。
かといって、他に好きな人も居なさそうだし。
少し期待。
あっ、ちなみに本当に才能のある子だった。
魔法の。
初級の攻撃魔法が使えるだけでも、十分。
これから、成長すればもっと凄い魔法も使えるだろうし。
それに引き換え、僕ときたら。
守りと避けることが上手なだけで、そこまで戦闘が得意という訳じゃない。
その代わり、野草とか料理には詳しいけど。
だから、タンクっていうのかな?
パーティの防御の要を任せられている。
っていうか、そもそもバンチョとリサが強引に誘ってきたところはあるし。
ミーナが断り切れなかったから、仕方なく僕も参加したけど。
本当は畑をいじったり、狩りをする方が性に合ってるんだけどな。
そんな僕たちだけど、わりと凄い冒険もしたり。
というか、したというか。
九死に一生の事態。
冒険者の価値は、そこで生き残れたかどうかで決まるって、ゴートさんが言ってたけど。
僕たちは、生き残れた。
不思議な少年のお陰で。
リンドの街の近くにあるエスラの森に、薬草の採取依頼で来たときに出会った少年。
ニコさんっていうらしい。
僕たちと同じ初級冒険者で、E級らしいけど。
彼がE級なら、僕たちは見習いからやり直しだ。
エスラの森で採集活動をしていたら、つい道から大きく外れたみたいで。
急に茂みから音がしたと思ったら、大きな蟻が。
ジャイアントアントっていう、ふざけた名前の蟻。
一応、魔物扱いなんだけど。
目が合って、お互い硬直してしまった。
今考えても、間抜けな行動だった。
相手は1匹だったわけだし、睨みあえば逃げてくれる可能性もあったのに。
「うわぁ!」
出会い頭ということもあって、悲鳴をあげてしまった。
「【火球】」
直後、後ろから可愛らしい女の子の声で呪文が聞こえてきて。
横を火の球が飛んできて、ジャイアントアントの顔を直撃。
うーん……
継続的な燃焼効果のあるファイ―アウォールとか、ヒート系の魔法ならともかく。
単発で火の球を当てるだけの魔法って、昆虫系には効果が薄いんだよね。
だから……
「カチカチカチカチ!」
「まずい、アラートだ!」
「仲間を呼んでるわ!」
こうなる。
とどめを刺せなかったうえに、攻撃されたから相手も怒る訳で。
仲間を呼ばれ、全員で逃走。
足の速いバンチョとリサが、助けを求めながら先行。
僕がミーナをカバーしつつ、盾で近づいてきた蟻を吹き飛ばしつつも後を……
バンチョ達、あれ全力で逃げてないかな?
距離が徐々に離れて行ってるんだけど?
あんまり離れると、僕とミーナが追い付かれたら助けに来られないよね?
……
もしかして、見捨てられた?
「うわぁぁぁぁ!」
「テッド! だめ、追いつかれちゃう!」
「走って! 本気で走って! 追いつかれたら、その時考えたらいいから! 今は、全力で走って!」
ミーナに檄を飛ばしつつ、全力疾走。
追いついた蟻は強めに弾き飛ばして、後続の蟻にぶつけつつ。
おお!
バンチョが、人を見つけてくれた!
これで、少しは楽に……
駄目だ……
遠目でも分かる。
あの子はだめだ。
僕たちと、変わらないくらいの年齢の少年。
鎧も身に着けてない。
まるで。ピクニックにでも来たような恰好。
「テッド、最後まで一緒にいてくれてありがとうね……あなただけでも生きて」
「やだ、僕も一緒に食われてやる! 本当に最後まで一緒にいてやる!」
「だめだよ~」
ようやく見つけた希望が、同じような初級冒険者。
ミーナも心が折れてしまったようだ。
でも、僕はミーナを見捨てることはできない。
こうなったら……
「うん! 走れ! 僕が引き受ける!」
かっこいい……
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「き……きみが?」
「無茶だよ!」
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かっこいい。
「くそっ! ミーナ逃げろ! 僕も彼と一緒に戦う!」
彼だけにかっこつけさせるわけにはいかない。
それに、ミーナは僕が守る!
彼と2人なら、あるいは。
そう思ってた。
あの時の自分を思い出すと、恥ずかしくてあーとかうーって声にならないうめき声が出る。
ミーナに対してかっこつけたこともだし……ニコさんの実力を看破できなかった自分も。
相手との力量差が理解できないのは、冒険者として致命的な欠陥だ。
いや、それだけニコさんが実力を隠すのが上手かったんだ。
なんせ剣の柄に手を掛けて少ししたら……急に心がざわついた。
というか、なんか大きくて獰猛な爪のある手で、心臓を鷲掴みにされたような。
生殺……生殺……なんだっけ?
ああ、生殺与奪権を握られたような感覚。
目の前の蟻達に至っては一瞬硬直したあとで、吹き飛ばされた。
そのうえ満足に立ち上がることもできず、地面に伏せた状態でこっちを見てカチカチと顎を鳴らしている。
さっきのアラートとは違う、怯えによって顎がかみ合わない感じだ。
あの興奮したジャイアントアントがここまで怯えるのか。
しかも群れを形成しおわって、獲物を一方的に蹂躙するだけの状態で。
僕と変わらない少年が剣の柄を握っただけで。
その気持ちよく分かる。
ニコさんの背後にはっきりと、竜の姿を見た。
いや、竜を見たことないけど。
その大きな蜥蜴みたいなオーラが。
顔と上半身だけだけど。
顔だけで、僕の身体よりも大きかった。
びっくりしすぎて、蟻が吹き飛ぶと同時に僕はおならが出た。
誰にも聞かれてなくてほっとしたけど、直後にミーナが地面に倒れ込んでしまった。
僕のおならのせいじゃないと思いたい。
違った……
彼女もニコさんのオーラにやられたっぽい。
それからニコさんが威嚇するように木を剣で叩くと、蟻達が一度その場で飛び上がってから回れ右して逃げていった。
やばくない?
魔物が怯えて逃げるレベルって。
それからバンチョ達が、今度こそ熟練の冒険者の先輩方を連れてきてくれたけど。
もう遅い。
先輩たちは、僕とニコさんの話を聞いて蟻をおいかけていった。
「ヒャッハー!」
「これなら、すぐに見つかるぜぇ!」
「集まってくれるなら、ボーナスステージきたこれ!」
「うっひょー! 狩りつくせ―!」
奇声をあげながら。
元気な人たちだなー。
それから、ニコさんがミーナを担いで街まで戻る。
うん……ミーナ、荷物背負ったまんまなんだけど?
見た目ほど軽くないと思うんだけどなあ……
街についた時も、僕たちよりも元気だった。
やっぱり、凄い人なんだ。
僕と同じE級冒険者って聞いたときは、うん本当に降格でも良いかなと思った。
そんなニコさんと、なんと一緒に依頼を受けることが。
ゴブリンの間引き。
もうね……
やばかった。
一応、一緒に依頼を受けるのにかこつけて、食事会をしようと。
ニコさんに内緒でサプライズの。
バーベキュー。
こないだ、助けてもらったお礼もかねて。
だから、一生懸命下調べもして。
ニコさんの好きそうなものも調べて。
僕の鞄はパンパンだけど、彼が喜んでくれたという思いの方がパンパンだ。
その道中で、色々と規格外のことを見てしまうというか。
ニードルラビットを見て、可愛いねとかって言っちゃう人。
いや、あれ結構危険なんだよね。
好戦的というか。
こっちに向かって体当たりしてくるだけでも、それなりに。
単調な攻撃だから、盾とかあったら問題ないけど。
普通に街の人とかが私服で歩いてたら、大けがどころか場合によっては殺されることも。
雑食だから、人も食べられなくはない。
好んでは食べないだけで。
運悪く遭遇して殺されてしまったら、食べられることもある。
まあ、事故レベル。
大体が逃げかえるか、その場にあるもので対処して捕まえるけど。
大きな石とかをぶつけて狩るのが、主流。
逃げないから、狙いやすいし。
しかし、可愛いか……
そこまでは許容範囲。
次に出てきたのが、
「あっ、オオキバイノシシ!」
「うわぁ、大きい牙だね!」
「いや、そうじゃなくてですね……」
「逃げないと……」
そうオオキバイノシシ。
C級冒険者が複数で狩るような魔物。
その牙で年間、何人もの人が犠牲になっている。
こっちも雑食だけど、人はあまり食べない。
食べないけど、遭遇すると積極的に殺しに来る困ったやつ。
死体があまり酷いことにならないのが救いだけど。
すぐに遺体を発見すれば、まともな葬儀くらいは行えるという意味で。
きちんと遺族として、お別れが出来るからね。
……どっちにしろ、最悪だ。
と僕たちみんなが思ってるなか、一人だけ呑気。
そっか……
流石です!
ミーナに逃げられるか聞いて、難しいと言われた瞬間に小首をかしげてた。
なんで、逃げないとって言ったの? とでも思ってそう。
いや、まずは逃げないと。
「僕がやろうか?」
なんでもないように、そんなこと言われた。
あれ?
ニコさんってE級冒険者ですよね?
「えっと……C級冒険者推奨の魔物なのですが?」
「それも複数人であたるが好ましいって、うわっ!」
リサとバンチョが困惑してるところに、猪が準備運動を始めたのが見える。
「やばい、くる!」
思わず盾を持って、身構えるけど……
受け止められるわけがないことは、明白。
でも、一番力が強いのは僕だし。
「受け止められるかな?」
ニコさん?
「受け止めるつもりなんですか?」
びっくりしすぎて、こっちも素で聞き返してしまった。
そして、愚問だった。
牙が手に刺さりそうだからと、剣で額を突いて受け止めてた。
あの突進を……
太い木の幹も簡単にへし折る、突進。
木で作った家すらも、壁が簡単に突き破られるというのに。
剣を正面について、受け止めるとか。
しかも剣身を見たら、錆びついてたり。
そんな剣で……
受け止めるから、皆で攻撃してって言ってたけど。
リサもバンチョも固まってた。
ミーナは言わずもがな。
僕も……
そりゃ、困惑するよね?
あの細い身体のどこに、そんな膂力が……
ふふ……
何がなにやら……
ぼやっと見てるうちに、猪が傷だらけになって。
最終的にズシーンと音を立てて横倒しに。
そう、ズシーンと音がなるくらいに大きな猪を、錆びた剣一本で……
もう凄いを通り越して、ヤバイ人だった。
憧れる。
そのあと、猪運ぶの手伝ったらお駄賃も奮発してくれた。
大人の余裕?
いや、同じくらいの年だったから……
持ってる人の余裕?
「うーん、持ってるといえば、持ってるかな?(鈴木さんを)」
そう聞いたら、ちょっと困惑した感じで応えてくれた。
否定はしないってことは、少しは自覚あるのかな?
全然、無さそうだけど。
そのあとバーベキューはしたんだけど……
そこでも事件が。
ゴブリンと話が出来る?
言ってる意味が分からない。
コボルトキングが出たのか……
ちょっと、行ってくる?
言ってる意味が分かりません。
コボルトキングとロードと話をつけてきた?
キングだけじゃなかったの?
ロード?
しかも、話をつけてきた?
おっしゃってる意味が、分かりかねます。
コボルトキングとロードをテイムした?
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取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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