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第2章:風の調べとゴブリンとコボルトと
第11話:眠れる獅子
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「なんだ!」
ニコの意識を奪って、身体の主導権を得たのが嬉しくて思わず笑みがこぼれる。
コボルトキングがかなり警戒を強めているようだが、そんなに怯えないで欲しい。
自然体で、全力で相手をしてもらいたいから。
その後は、コボルトロードだろう白いコボルトとの手合わせも待っているわけだし。
「力が湧き出てきます!」
……フィーナがやる気満々なのが気になる。
確かに、ゴブリンキングとゴブリンロードの固有スキルも使える。
パッシブで発動しているのかな?
全幅の信頼を寄せる配下のゴブリンの知性と統率力が1段階上がる、キングのスキル。
配下のゴブリン全ステータスが1段階上がる、ロードのスキル。
勿論、俺も使える。
そしてその対象にフィーナを含め、テトの森のゴブリン全てが該当するわけで……
ちなみに配下のコボルトの知性と統率力が1段階上がるスキルも奪ってるけど、配下にコボルトがいないから無意味だ。
「さっきはよくもやってくれたわね」
うーん……
フィーナにロードを取られそう。
さっさとキングを始末しないと。
「何をした! 何故、全員倒れたのだ?」
あー、そっちに驚いたのか。
「あれは、そこのフィーナのスキルだよ? 強制的に睡眠状態にいざなう、ゴブリンドリーマーの固有スキルかな?」
「……何故最初から、それを使わなかった」
「使うまでもないと思ってたからだよ」
俺の言葉にキングが侮られたと感じたのか、歯を剥いて威嚇してくる。
それに対して、思わず苦笑いで応えてしまったが。
「そもそも貴様だ! さっきまでとは別人のようではないか! その余裕といい、身に纏うオーラといい……そこのゴブリンロードに匹敵するのではないか?」
「その程度にしか見られてないのか」
おっと、こっちにも警戒していたみたいだが、フィーナと同じ程度にしか思われてないのは心外だ。
いや、ゴブリンロードの正しい評価ってのが分からないけど。
「どちらにせよ、貴様をロードの下に向かわせるわけにはいかん! とっとと死なっ!」
「うーん、直情的だねぇ……少しは頭を冷やそうか?」
言葉と同時に手に持ったハルバードを振るってきたので、手の甲で向きを変えつつ手首を返して掴むと身体を半身にして思いっきり引っ張る。
そのまま身体を流されたキングの足を引っかけて転ばせると、一旦距離を空けてやる。
良いな、この身体。
実に使いやすい。
「馬鹿な……くそっ!」
「そんな頭に血が上った状態じゃ、実力が発揮できないんじゃないかな?」
「なめるな!」
ダメだ。
怒り任せだから、攻撃が単調になってる。
躱すのも、いなすのも、捌くのも簡単すぎて手ごたえがない。
ハルバートを突いてきたが、穂先をやりすごせばただの丸い棒だ。
すぐにその手を引いたのは評価するが。
穂先の横についた三日月状の刃は引き戻すときに引っ掛けて、相手に傷を負わせたり引き倒すことも出来るんだろうが。
俺はそのハルバートの柄に手を掛けて、地面を蹴る。
奴が引っ張ったことで、柄を掴んでいる俺も引っ張られる。
加えて地面を蹴ったことで、さらに勢いを増してコボルトキングに肉薄する。
しかも俺の攻撃を防ぐための武器は、真正面に突き出されているため使用できないときた。
「グッ!」
「ダメだ! ダメだ! そんなんじゃ、話にならない」
自分でも驚く勢いでキングの目の前に迫ることができたので、そのまま左の腕で喉元を押さえて右の掌をやつの鳩尾に添える。
そのまま斜め下から心臓マッサージの要領で思いっきり衝撃を与えてやる。
それだけで、口から苦しそうに息を吐いて前のめりになる。
うーん……弱くないかな?
両手で頭を掴んで、顎に膝をぶち込んでみたけど。
狼だから口が長いというか、下顎の面積が広くて綺麗にクリーンヒット。
ゴキャリという嫌な音がして、首が真後ろに折れ曲がっている。
首の骨が逝ったかも……
「クフゥ……」
すげーな。
思ったより頑丈。
すぐに顔を前に向けて、首を左右に振っている。
首からコキ、コキっと骨のなる音がしてるが。
いや首の後ろが不自然に膨らんでいるから、これ首の骨折れてるよね?
それでも死なないのか。
コボルトキング、生物やめてんな。
「クソが!」
「怖いよ!」
目が真っ赤に充血してるけど、たぶん怒りで血圧がというより物理的に頭部の血管があちこち切れたっぽい。
「絶対に殺す」
そして、キング自身もキレたっぽい。
その後、2度3度と地面に転がしてやったが、諦める気は無さそう。
というかだ……徐々に焦りの表情が。
いやあ、柔よく剛を制すっていうけどさ。
規格外の膂力があると、柔剛よく剛を制すって感じというか。
相手の動きと力を利用して捌きつつ、こっちの力を乗せてやると面白いように吹き飛ぶんだよな。
なんか、鈴木流古武術がかなり凄い武術に思えるくらいに。
マジ、合気の達人の胡散臭い動画を遥かに超える現象が起こる。
腕を掴んで引き寄せたうえで相手の胸元に潜り込み、鉄山靠を放つとポーンと吹き飛んで行ったり。
鉄山靠……簡単にいうと、背中を使った体当たりだけど。
小手返しで、あの巨躯が綺麗に半円を描いて地面に叩きつけられた時はスカッとした。
相手はある意味素人だから受け身もとれずに、思いっきり肩から落ちて涙目。
「クソー……クソー……」
いや、本当に泣きが入ってた。
それでも諦めないキング君には脱帽だけど、俺は諦め気味。
だって……
「なんでたかがゴブリンに、そんな力が……」
「たかがゴブリン? 酷い言いざまね」
ちょっと離れたところで、コボルトロードが涙目になってるから。
フィーナに良いようにやられて。
それもそうか。
フィーナ自身、俺のスキルでパワーアップしてるわけで。
コボルトロードとの地力の差はないというか。
そもそもの地力が違ったんだろうな。
なんせ俺の眷属であると同時に、地竜のランドールの眷属でもあるわけで。
それでいて、ユニーク種でもあったら……
普通のコボルトロードが、太刀打ちできるわけもないか。
「悔しいけど、僕たちの野望はここまでみたいだね」
「ロード!」
満身創痍といった様子で大の字に地面に倒れこんだコボルトロードの言葉に、キングが強い語気でありながら不安げな声を掛けていた。
そのキングも全身泥だらけ。
たぶんその長い毛足の下はあざだらけだろう。
ハルバードはとっくの前に俺に奪われて、地面深くに突き刺されているし。
鎧もはぎとられている。
鎧によるバフの効果もあったみたいだから、鎧を剥がせば諦めるかなという思惑もあったんだけど。
それでも向かってきたのには、びっくり。
敵ながらあっぱれだ。
とはいえ、正直言うとゴブリンに肩入れしてるわけでもないんだよなー。
先に知り合ったうえに、歓迎してもらったから手伝ったわけで。
俺からすれば、どうでもいい争いなのは事実。
「何が目的だったんだ?」
「この森を支配して、いずれは人どもも追い出して群れの拡大を……」
目的自体も特に、世界征服みたいなおかしな目的でもないし。
聞けばロードはなかなかに不憫な犬生だったというか。
オスなのに、他のオスの性処理の道具にされてたらしく。
うーん……ここらへん、野生動物っぽいというか。
野蛮……いや、そうともいえないか。
人もそれなりの立場に人には、少年偏愛を抱く人もいたらしいし……
リアルに身近なところで聞くと、うげーってなるけど。
生産数を気にせずに、自由恋愛ができる群れを作りたかったと。
ちなみにキングはもともと、それなりに力があったらしく。
ロードに対しても、群れの長として気を掛けていたと。
他の雄からの扱いも知っており、その辺りで申し訳なさを感じ逆に目を掛けていた部分もあったらしい。
虚勢こそされたものの他の生きた雄のコボルト達も、ロードに対してそういった行為をしてこなかった雄ばかり。
そもそもがだ……
「僕は自分が雄に生まれたのが何よりも辛かった……」
ロードの吐露した思いもどこか、ズレているというか。
なんというか、無理やりは嫌だけど雄が相手でもみたいな……
それを聞いたときに、俺は思わずアーッ! と叫びたくなった。
そして困った事態が……
「主の意に沿って我らは、鈴木様に忠誠を誓いたいと……」
「この身も心も鈴木様に捧げたいな」
ロードが俺の下に付きたいと言い出して、キングも恭順の意を示した。
その後、目を覚ましたコボルト達も。
それどころか、その場にいたゴブリン達まで。
ただ、ロードのこの身も心も俺に捧げたいという言葉。
それを聞いたときに、背筋に悪寒が走ったのは気のせいだろうか?
背筋無いけど。
ニコは、まだまだお眠だからもう少し、こいつらと今後について話し合えるが。
まずは、住処を。
ロード種とキング種なら、森の奥深くでも生きていけるはず。
ただ、それ以外の個体が生きるには、かなり厳しい環境らしい。
食人植物相手に、あっさりと食い殺されるくらいには。
……うーん。
「放っておいても良いと思います!」
フィーナのこの言葉に、コボルト達が悲しそうにクゥーンと情けない声を出す。
残念だったな。
俺は猫派だ!
とはいってはみたものの。
犬だって十分に可愛い。
はてさて、どうしたものか……
「困っているようだな!」
どうしたものか……
「我の出番のようだな?」
何か解決策は無いかなぁ……
「いまこそ、我の出番だろう!」
……うーん。
いっそのこと、こいつらまとめてテトの森に送るか?
「あの……無視はやめてくれんか?」
「はあ? ずっと上空を飛び回ってたくせに、このタイミングで出てきて何を言ってやがる」
「いや、やはり真打には見せ場に相応しいタイミングというものがだな……」
ニコ達が森に入ったあたりから、ずっと近くで様子を見ていたランドールが乱入してきたが。
ここで、何やら美味しいところを持っていこうとしたので、ちょっとイラっとした。
「ド! ドラゴン!」
「ひいっ!」
コボルトとゴブリンが仲良く抱き合ったりして、怯えているけど。
そうか……
ドラゴンって、ロードどころじゃない脅威なんだっけ?
こいつはちょっと残念なドラゴンだけど。
「フィーナ! 樽もってこーい!」
「えっ?」
「この駄竜が手伝ってくれるらしいから、とりあえず血をもらってやろう」
「あの、我の血ってかなり貴重……」
「大丈夫、お前の身体のサイズからしたらちょっとだけだから」
「……鈴木、怒ってる?」
「少しな」
ちなみに俺の方が年上だからか、ランドールはニコには偉そうだが俺にはあまり強く出ない。
だからといって、俺もあまりぞんざいな扱いをすることは無かったが。
ここまであからさまにタイミングを見計らって登場するなら、それなりの扱いをさせてもらおう。
結果として、この地のコボルトとゴブリンも良い感じに……
「僕も付いて行っていいですか?」
「ダメにきまってるでしょ!」
なんと、進化の過程で性転換に成功した白いコボルトが、ニコ達についていきたいと。
しかもかなり可愛らしい感じのケモミミ娘に。
「後ろは汚れちゃいましたが、一応処女ですよ?」
「そういう問題じゃないでしょう! あなた男の子でしょ!」
「今は、女の子です!」
フィーナが全力で阻止しようとしてるが……
うん、俺は剣だから、そういったことは無理だと思うよ?
取り合えずワーワーとうるさいフィーナとコボルトのせいで、ニコが目を覚ましそう。
いや別に、敢えて俺の方から意識を手放して、ニコの目覚めを手伝おうとしてるわけじゃないよ?
気付けの威圧を飛ばしてるけど、別に勝手に漏れ出てるだけだから?
急にパッシブスキルになったっぽいだけだから。
ゴートは……物凄く幸せそうに眠ってるから、とりあえず放っておこう。
というか、マジでこいつ何しに来たんだろう……
ニコの意識を奪って、身体の主導権を得たのが嬉しくて思わず笑みがこぼれる。
コボルトキングがかなり警戒を強めているようだが、そんなに怯えないで欲しい。
自然体で、全力で相手をしてもらいたいから。
その後は、コボルトロードだろう白いコボルトとの手合わせも待っているわけだし。
「力が湧き出てきます!」
……フィーナがやる気満々なのが気になる。
確かに、ゴブリンキングとゴブリンロードの固有スキルも使える。
パッシブで発動しているのかな?
全幅の信頼を寄せる配下のゴブリンの知性と統率力が1段階上がる、キングのスキル。
配下のゴブリン全ステータスが1段階上がる、ロードのスキル。
勿論、俺も使える。
そしてその対象にフィーナを含め、テトの森のゴブリン全てが該当するわけで……
ちなみに配下のコボルトの知性と統率力が1段階上がるスキルも奪ってるけど、配下にコボルトがいないから無意味だ。
「さっきはよくもやってくれたわね」
うーん……
フィーナにロードを取られそう。
さっさとキングを始末しないと。
「何をした! 何故、全員倒れたのだ?」
あー、そっちに驚いたのか。
「あれは、そこのフィーナのスキルだよ? 強制的に睡眠状態にいざなう、ゴブリンドリーマーの固有スキルかな?」
「……何故最初から、それを使わなかった」
「使うまでもないと思ってたからだよ」
俺の言葉にキングが侮られたと感じたのか、歯を剥いて威嚇してくる。
それに対して、思わず苦笑いで応えてしまったが。
「そもそも貴様だ! さっきまでとは別人のようではないか! その余裕といい、身に纏うオーラといい……そこのゴブリンロードに匹敵するのではないか?」
「その程度にしか見られてないのか」
おっと、こっちにも警戒していたみたいだが、フィーナと同じ程度にしか思われてないのは心外だ。
いや、ゴブリンロードの正しい評価ってのが分からないけど。
「どちらにせよ、貴様をロードの下に向かわせるわけにはいかん! とっとと死なっ!」
「うーん、直情的だねぇ……少しは頭を冷やそうか?」
言葉と同時に手に持ったハルバードを振るってきたので、手の甲で向きを変えつつ手首を返して掴むと身体を半身にして思いっきり引っ張る。
そのまま身体を流されたキングの足を引っかけて転ばせると、一旦距離を空けてやる。
良いな、この身体。
実に使いやすい。
「馬鹿な……くそっ!」
「そんな頭に血が上った状態じゃ、実力が発揮できないんじゃないかな?」
「なめるな!」
ダメだ。
怒り任せだから、攻撃が単調になってる。
躱すのも、いなすのも、捌くのも簡単すぎて手ごたえがない。
ハルバートを突いてきたが、穂先をやりすごせばただの丸い棒だ。
すぐにその手を引いたのは評価するが。
穂先の横についた三日月状の刃は引き戻すときに引っ掛けて、相手に傷を負わせたり引き倒すことも出来るんだろうが。
俺はそのハルバートの柄に手を掛けて、地面を蹴る。
奴が引っ張ったことで、柄を掴んでいる俺も引っ張られる。
加えて地面を蹴ったことで、さらに勢いを増してコボルトキングに肉薄する。
しかも俺の攻撃を防ぐための武器は、真正面に突き出されているため使用できないときた。
「グッ!」
「ダメだ! ダメだ! そんなんじゃ、話にならない」
自分でも驚く勢いでキングの目の前に迫ることができたので、そのまま左の腕で喉元を押さえて右の掌をやつの鳩尾に添える。
そのまま斜め下から心臓マッサージの要領で思いっきり衝撃を与えてやる。
それだけで、口から苦しそうに息を吐いて前のめりになる。
うーん……弱くないかな?
両手で頭を掴んで、顎に膝をぶち込んでみたけど。
狼だから口が長いというか、下顎の面積が広くて綺麗にクリーンヒット。
ゴキャリという嫌な音がして、首が真後ろに折れ曲がっている。
首の骨が逝ったかも……
「クフゥ……」
すげーな。
思ったより頑丈。
すぐに顔を前に向けて、首を左右に振っている。
首からコキ、コキっと骨のなる音がしてるが。
いや首の後ろが不自然に膨らんでいるから、これ首の骨折れてるよね?
それでも死なないのか。
コボルトキング、生物やめてんな。
「クソが!」
「怖いよ!」
目が真っ赤に充血してるけど、たぶん怒りで血圧がというより物理的に頭部の血管があちこち切れたっぽい。
「絶対に殺す」
そして、キング自身もキレたっぽい。
その後、2度3度と地面に転がしてやったが、諦める気は無さそう。
というかだ……徐々に焦りの表情が。
いやあ、柔よく剛を制すっていうけどさ。
規格外の膂力があると、柔剛よく剛を制すって感じというか。
相手の動きと力を利用して捌きつつ、こっちの力を乗せてやると面白いように吹き飛ぶんだよな。
なんか、鈴木流古武術がかなり凄い武術に思えるくらいに。
マジ、合気の達人の胡散臭い動画を遥かに超える現象が起こる。
腕を掴んで引き寄せたうえで相手の胸元に潜り込み、鉄山靠を放つとポーンと吹き飛んで行ったり。
鉄山靠……簡単にいうと、背中を使った体当たりだけど。
小手返しで、あの巨躯が綺麗に半円を描いて地面に叩きつけられた時はスカッとした。
相手はある意味素人だから受け身もとれずに、思いっきり肩から落ちて涙目。
「クソー……クソー……」
いや、本当に泣きが入ってた。
それでも諦めないキング君には脱帽だけど、俺は諦め気味。
だって……
「なんでたかがゴブリンに、そんな力が……」
「たかがゴブリン? 酷い言いざまね」
ちょっと離れたところで、コボルトロードが涙目になってるから。
フィーナに良いようにやられて。
それもそうか。
フィーナ自身、俺のスキルでパワーアップしてるわけで。
コボルトロードとの地力の差はないというか。
そもそもの地力が違ったんだろうな。
なんせ俺の眷属であると同時に、地竜のランドールの眷属でもあるわけで。
それでいて、ユニーク種でもあったら……
普通のコボルトロードが、太刀打ちできるわけもないか。
「悔しいけど、僕たちの野望はここまでみたいだね」
「ロード!」
満身創痍といった様子で大の字に地面に倒れこんだコボルトロードの言葉に、キングが強い語気でありながら不安げな声を掛けていた。
そのキングも全身泥だらけ。
たぶんその長い毛足の下はあざだらけだろう。
ハルバードはとっくの前に俺に奪われて、地面深くに突き刺されているし。
鎧もはぎとられている。
鎧によるバフの効果もあったみたいだから、鎧を剥がせば諦めるかなという思惑もあったんだけど。
それでも向かってきたのには、びっくり。
敵ながらあっぱれだ。
とはいえ、正直言うとゴブリンに肩入れしてるわけでもないんだよなー。
先に知り合ったうえに、歓迎してもらったから手伝ったわけで。
俺からすれば、どうでもいい争いなのは事実。
「何が目的だったんだ?」
「この森を支配して、いずれは人どもも追い出して群れの拡大を……」
目的自体も特に、世界征服みたいなおかしな目的でもないし。
聞けばロードはなかなかに不憫な犬生だったというか。
オスなのに、他のオスの性処理の道具にされてたらしく。
うーん……ここらへん、野生動物っぽいというか。
野蛮……いや、そうともいえないか。
人もそれなりの立場に人には、少年偏愛を抱く人もいたらしいし……
リアルに身近なところで聞くと、うげーってなるけど。
生産数を気にせずに、自由恋愛ができる群れを作りたかったと。
ちなみにキングはもともと、それなりに力があったらしく。
ロードに対しても、群れの長として気を掛けていたと。
他の雄からの扱いも知っており、その辺りで申し訳なさを感じ逆に目を掛けていた部分もあったらしい。
虚勢こそされたものの他の生きた雄のコボルト達も、ロードに対してそういった行為をしてこなかった雄ばかり。
そもそもがだ……
「僕は自分が雄に生まれたのが何よりも辛かった……」
ロードの吐露した思いもどこか、ズレているというか。
なんというか、無理やりは嫌だけど雄が相手でもみたいな……
それを聞いたときに、俺は思わずアーッ! と叫びたくなった。
そして困った事態が……
「主の意に沿って我らは、鈴木様に忠誠を誓いたいと……」
「この身も心も鈴木様に捧げたいな」
ロードが俺の下に付きたいと言い出して、キングも恭順の意を示した。
その後、目を覚ましたコボルト達も。
それどころか、その場にいたゴブリン達まで。
ただ、ロードのこの身も心も俺に捧げたいという言葉。
それを聞いたときに、背筋に悪寒が走ったのは気のせいだろうか?
背筋無いけど。
ニコは、まだまだお眠だからもう少し、こいつらと今後について話し合えるが。
まずは、住処を。
ロード種とキング種なら、森の奥深くでも生きていけるはず。
ただ、それ以外の個体が生きるには、かなり厳しい環境らしい。
食人植物相手に、あっさりと食い殺されるくらいには。
……うーん。
「放っておいても良いと思います!」
フィーナのこの言葉に、コボルト達が悲しそうにクゥーンと情けない声を出す。
残念だったな。
俺は猫派だ!
とはいってはみたものの。
犬だって十分に可愛い。
はてさて、どうしたものか……
「困っているようだな!」
どうしたものか……
「我の出番のようだな?」
何か解決策は無いかなぁ……
「いまこそ、我の出番だろう!」
……うーん。
いっそのこと、こいつらまとめてテトの森に送るか?
「あの……無視はやめてくれんか?」
「はあ? ずっと上空を飛び回ってたくせに、このタイミングで出てきて何を言ってやがる」
「いや、やはり真打には見せ場に相応しいタイミングというものがだな……」
ニコ達が森に入ったあたりから、ずっと近くで様子を見ていたランドールが乱入してきたが。
ここで、何やら美味しいところを持っていこうとしたので、ちょっとイラっとした。
「ド! ドラゴン!」
「ひいっ!」
コボルトとゴブリンが仲良く抱き合ったりして、怯えているけど。
そうか……
ドラゴンって、ロードどころじゃない脅威なんだっけ?
こいつはちょっと残念なドラゴンだけど。
「フィーナ! 樽もってこーい!」
「えっ?」
「この駄竜が手伝ってくれるらしいから、とりあえず血をもらってやろう」
「あの、我の血ってかなり貴重……」
「大丈夫、お前の身体のサイズからしたらちょっとだけだから」
「……鈴木、怒ってる?」
「少しな」
ちなみに俺の方が年上だからか、ランドールはニコには偉そうだが俺にはあまり強く出ない。
だからといって、俺もあまりぞんざいな扱いをすることは無かったが。
ここまであからさまにタイミングを見計らって登場するなら、それなりの扱いをさせてもらおう。
結果として、この地のコボルトとゴブリンも良い感じに……
「僕も付いて行っていいですか?」
「ダメにきまってるでしょ!」
なんと、進化の過程で性転換に成功した白いコボルトが、ニコ達についていきたいと。
しかもかなり可愛らしい感じのケモミミ娘に。
「後ろは汚れちゃいましたが、一応処女ですよ?」
「そういう問題じゃないでしょう! あなた男の子でしょ!」
「今は、女の子です!」
フィーナが全力で阻止しようとしてるが……
うん、俺は剣だから、そういったことは無理だと思うよ?
取り合えずワーワーとうるさいフィーナとコボルトのせいで、ニコが目を覚ましそう。
いや別に、敢えて俺の方から意識を手放して、ニコの目覚めを手伝おうとしてるわけじゃないよ?
気付けの威圧を飛ばしてるけど、別に勝手に漏れ出てるだけだから?
急にパッシブスキルになったっぽいだけだから。
ゴートは……物凄く幸せそうに眠ってるから、とりあえず放っておこう。
というか、マジでこいつ何しに来たんだろう……
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