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第2章:風の調べとゴブリンとコボルトと

第6話:普通のゴブリンの集落

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「本当に大丈夫なのか?」
「うーん、たぶんね。フィーナもいるし」

 ニコたちが、老婆ゴブリンのあとをついて彼女たちの集落に向かう。
 ここから、結構かかるみたいだ。

 一応危険ということで、バンチョ達は街に帰したが。

「ゴブリン言語が話せるからか?」
「あー、はは。まあ、そんなところかな」

 ゴートはニコとフィーナが心配だといって、ついてきているが。

「まだ、奥に行くのか? 罠じゃないのか?」
「そんな、森の入り口付近だったら、すぐに人に見つかって壊されちゃうじゃん」

 ゴートの言葉に、ニコではなくフィーナがそっけなく答える。
 若干、小ばかにした様子で。

「いや、まあそうなんだけどさ」
「それに入り口付近の巣は殆ど壊されてるんだから、住処が森の奥になるのは必然」
「……」

 フィーナにピシャリと言われて、ゴートが黙りこんでいる。
 
「なあニコ……お前の彼女、俺に冷たくない?」
「うーん」
「えぇ……」

 色々と思うところのあるニコが、少し困り顔。
 すぐに否定もフォローもされなかったゴートが、若干ダメージ受けてるのがウケる。
 
「もしかしたら、すでにコボルトの手が伸びてたりとか」
「うーん」
『だとしたら、コボルトキングの情報を得たバンチョ達を逃がす手はないだろう』
「だったら、バンチョ達を街に帰したりしないかな?」
「はっ! あいつらに危険が」
「森の入り口で? 出たらすぐに街道だし……平野だから、歩いている人が見たら分かるんじゃない?」
「いや、周りに他にもゴブリンが「いたら、気付くし!」」
「いたら分かるよ!(鈴木さんが)」

 ゴートの言葉にかぶせるように、フィーナとニコが否定する。
 ニコは、小声で俺が気付くと言ってたが。
 自分の力のようにいうのは、少し気が引けたのだろう。

「そっか……俺も気づくか」

 さらに森の奥深くに。
 だいぶ木の密度が増してきて、森に差し込む光も減ってきた。
 地面も湿り気を増し、苔の生えた石も多くある。
 あちらこちらでコポコポと水が湧き、澄んだ水たまりが出来ている。
 細い小川とも呼べない水の通り道がそれを繋いでいて、またその水たまりの中に小魚や虫も。
 ちょっと形の変わった綺麗なトンボなんかも飛んでいて、幻想的な雰囲気だ。

「綺麗な場所」
「こんなところが……」
「うわぁ……もしかして、これ誘いこまれたんじゃ」

 ニコとフィーナが感動している横で、ゴートが剣の柄に手を置いて周囲を警戒。
 剣の俺でも、ため息を吐きそうになる。

「じゃあ、あんたもう帰ったらいいじゃん! いちいちうるさいし」
「えっ?」
「大体、誰もついてきてくれなんて言ってないし! 勝手についてきておいてグチグチと女々しい!」
「うっ」
「ニコ様より冒険者ランクが上だからって、実力まで上だと思わないでくれる?」
「あ、うぅ……流石にそれは」
「はぁ? 私より弱いくせに、ニコ様より強くなったつもり? 本当に馬鹿なのね。その力量差も分からないようじゃ、早死にするわよ」
「ひ……酷い」
「大体ねぇ「あの、フィーナ……その辺で」」

 だいぶボコボコにされて、ゴートが口からエクトプラズムを吐いているが。
 こころなしニコが止めに入るのが遅かったから、無意識のうちにこいつもフラストレーションが溜まっていたのだろう。

 ただ老婆は、ちょっと怯えた様子でフィーナを見ていた。
 子供たちは……お腹いっぱいで眠たいのかな?
 老婆と手を繋いでいるけど、少し傾いてるな。

 流石に、まだ遠かったらきついんじゃないかな? 
 ニコ?

「えっと、ここからまだ掛かるのですか?」
「うーんと、あと30分ほど歩いたところですが」
「そうですか」

 30分か。
 人の子供よりは体力あるだろうけど。
 
「フィーナ」
「あー……はい」

 ニコとフィーナが一匹ずつ子供を背負う。
 自分たちの荷物をゴートに……大して持ってなかった。
 預ける物はないか。

 ただ、ゴートの手が寂しそう……でもないか。
 剣の柄に手を掛けて、周囲を警戒するのに忙しそうだな。
 まあ、バーベキューした場所からもってきた、余った肉くらい持たせとこうか。

 そこから50分ほど進んだところで、ようやく開けた場所に。
 うーん、ゴブリンの時間感覚のいい加減さ。
 これ、子供ゴブリンの足に合わせてたら、もっと掛かってたよね?
 まあ、俺が歩いてるわけじゃないから、良いんだけどさ。
 ニコは子供ゴブリンの体温を背中に感じて、ちょっとほっこりしてたけど。
 フィーナはげんなりしてるぞ。

 ゴートはその後も2~3泣き言をいって、フィーナにわりかし強めのいいやつを貰って黙ってついてくることになったけど。
 本当に、何しに来たんだこいつ。

「あー、警戒されておりますね」
「うーん、やっぱり人間が来たらこうなるよね」
「なんか、騒がしいんだけど」
「すぐに黙らせるから、大丈夫よ」

 ゴートが焦ってたけど、たかだかゴブリンの群れに焦るC級冒険者とか。

「コボルトの群れまではどうにかなるとしても、コボルトキングは流石に、無理だぞ?」
「どうだか」

 あー、コボルトキングを警戒してたのか。
 フィーナに露骨に怪しまれてるけど。

「戻ってきたぞい!」
「メルダ婆さんが帰ってきた!」
「人間を狩ってきたのか?」
「そんなわけないだろう……味方になってくれる奇特な人じゃぞ!」
「メルダ婆さん、裏切ったのか?」
「裏切るまでも、もう滅びゆく運命さだめじゃろうに」

 先行した老婆と村のゴブリン達が再会を喜びつつも、あれこれ喋っているが。
 いろいろと憶測が飛び交っている。
 それを一つ一つ老婆が否定して、説明を丁寧にしている。
 少し時間掛かるかな?

「なんか、槍というか尖った木の棒を持って集まってるぞ」
「全員ヨボヨボだから、相手にもならないよ」
「フィーナ、もう少し言葉を選んで」
 
 なんか、フィーナの気が立ってるな。
 よっぽど、ゴートにイラついてると見える。
 これはゴートじゃなくて、フィーナのフォローを後でしといた方が良いぞ。

 一応、ニコに警告。
 下手したら、今夜血の雨が降るかもしれない。
 被害者は……まあ、コボルトキングかゴートのどっちかだろうな。

「落ち着け! 子供たちの前で、あたふたするんじゃないよ! みっともない」
 
 と思ったら、あっちで老婆もキレてた。
 なかなか理解が得られなくて、面倒くさくなったのだろう。
 もしかしたら、それなりの立場のある女性なのだろうか。

「もういいかしら?」

 空気が凍ってあたりが静まり返ったところに、フィーナが声をかけたらさらに凍った。
 そして、その場にいたゴブリンが全員平服。
 子供達を除いて。

 子供ゴブリンは……少し遅れて他の大人ゴブリンの真似をしたけど。
 ちょっと楽しそう。
 落ち着きなく、顔をあげてフィーナを興味深そうに見てるけど。

「お前の彼女何者よ……俺もビビったけど、ゴブリンがこんなにビビるなんて」
「まあ、物凄く強いとだけ」

 ゴブリンロードだしな。
 ロード種って、他の種族のキング種よりも強いんだったよな。

 しかも、そのゴブリンロードの中でも、ユニークなジョブ持ち。
 戦えるかどうか、怪しいジョブだけど。

「あのさ……いや、やめとこう」
「なんですか?」
「いや、いい」
「うわぁ……気になる」

 ゴートがニコに何か言いかけて、口ごもる。
 そして、言うのをやめたけど。
 
 ニコが気になるって言ってるけど、気になるか?
 あんまり、ゴートに興味湧かないんだけど。
 どうせ、くだらないことだろうし。

「本気で、お前……俺より強い?」
「なんでですか! そんな訳ないじゃないですか」
「だって、彼女……より、お前の方が強いみたいな口ぶりだったし……」
「まあ、彼女は僕のことを、何故か過剰に評価してますから」
「そうなのか?」
「なんていうか、好かれすぎてちょっと対応に困るくらいに」
「のろけか」

 なんだこいつ。
 自分から、聞いておいて。
 勝手にいじけて。

 なんだろう……街ごとに、人の特徴というか気性というか、特色が違うのはなんか良いけど。
 あまりに違いすぎて……

「ていうか、マジで俺……いなくてもいい感じだった?」
「……ソンナコト、ナイデスヨ?」
「そっか……いい奴だなお前」

 下手くそか!
 むしろ悪意すら感じる……
 いや、悪意じゃないか。
 正直に言いかけて、空気を読んだ感じか。
 
 正直なのは美徳だが……
 できないことをするもんじゃないぞ?
 ゴートも微妙な表情だ。
 
 気遣ってくれたニコに、逆に気遣いつつも。
 ただ、本人はそれ以上に傷ついてるがな!

 こればっかりは、お節介が過ぎたゴートの自業自得か。

「それよりも、あっちまとまったみたいですよ?」
「それよりも? それよりもか……その程度か……」

 こいつ、メンタル弱すぎるだろう。
 面倒くさいな。

 ゴブリン達が両脇に避けて、平服する。
 中央に道が出来るように。
 その奥で、フィーナがにこやかな表情で、ニコを呼んでいるが。

「偉大なる王よ、こちらに!」
「王よ! 是非、我らに道を示してください」
「王よ! 何卒、我らを導いてください」
「王よ! お救いください」

 この短時間で、打ち合わせからここまで。
 どんだけ……ああ、ゴブリンロードの種族特製ね。
 配下に加えたゴブリンの能力値を全て、1段階引き上げる。

 この短時間で、この集落のゴブリンを配下に加えたと。
 確実に裏切られることがなくなったのは、良かったけど。
 
 しかも、ここにいるのは老獪ろうかいな、年老いたゴブリンばかり。
 うーん、まあさして知性が上がるわけでもなかろうが、若いゴブリンよりは賢いはず。
 その賢さが1段階上がったとなれば……

 このくらいの芸は出来るか。

 問題は全員の視線を受けたニコが頬をひくつかせて、苦笑いをしていることかな?
 なかなか進みださないし。

 対照的に満面の笑みを浮かべたフィーナの3度目の催促にも、固まったままだし。

 おっ、ようやく動き出した。
 足取り重いなぁ……
 人見知り発動か?

 ゴブリン見知り?
 ゴブリンには割と、そういったことないと思ったんだけどな。
 アウェーだからかな?

「なあ、なんかこいつら、お前に平服してる感じなんだけど」
「気のせいじゃないですかねぇ?」
「なんか、俺見えてる? こいつらの視界に、絶対に俺映ってないよね?」
「気のせいじゃないですかねぇ?」
「俺がお前に話しかけると、若干殺気を向けられてる気も」
「気のせいじゃないですかねぇ?」
「おーい! 大丈夫か?」
「気のせいじゃないですかねぇ?」
「ダメだこりゃ」

 ダメだな……
 ……ゴートと感想がかぶった。
 まあ良いけど、何故かあまり気分が良いもんじゃないのは……こいつの、日ごろの行いのせいだろうな。

 完全に上の空でトボトボと歩き出したニコを、途中までフィーナが迎えにいって手を引いて奥に。
 老いて枯れた……違った、置いてかれたゴートが慌てて、追いかけてたけど。

 本当、無理にでもこいつは追い返させるべきだったか?
 
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