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第1章:剣と少年
閑話5:ゴブリン王国
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「しっかし、お城まで建てるとは」
「思い切ったことをしたものだ」
あれから約1年。
ゴブリン達の住処は、とんでもないことになっていた。
通りは石畳となっていて、住宅街の建物は頑強な造りの鉄筋コンクリート製や、高級感漂う木造住宅が立ち並んでいる。
ランドールが少し呆れた様子だが、せっかく人数分の住居を用意できたゴブリンの町は捨てて、森の最深部に新たにゴブリンの集落を築き上げたことを指してのことだ。
流石に人の町に近い場所にあの規模の魔物の巣を作るのは、確執を生むだろうと鈴木が見越してのこと。
そして、森の中心に全員で移住した。
もともとそこに居た凶悪な魔物達も、流石にゴブリンロードが群れるこの集団に敵うはずもなく。
あっという間に狩られ、素材や食料へと化していった。
王都でも見られないような最先端の建築技術は、複数のゴブリンアーキテクトによるものだ。
商店街のお店の中には、大きな1枚ガラスを使っているところもある。
そこに目玉の商品を並べ、外の通りから見られるような作り。
ロブスレーの街から出たことのないニコには、出所の分からない鈴木の知識にただただ困惑するばかり。
横で美味しそうに串焼きを頬張っている大男を見上げて、ため息を吐く。
人化の技術を磨き、ようやく3mほどに収まったランドール。
それでも小柄なハーフジャイアントほどの背丈もあるのだから、まだまだ先は長そうだ。
色々と鈴木と話す機会の多いランドールでも、鈴木が何者かというのは知らないらしい。
本人が語るまで聞く気はないとのこと。
なにより自分より年上であることから、目上の者として扱っている節も見られる。
そして反対側では、何もないのにニコニコと笑みを浮かべるゴブフィーナが腕を絡ませている。
振りほどこうにも、相手の方が力が上だ。
ただ自分と一緒の空間に居るだけで幸せになれる彼女を見て、これまたニコがため息を吐く。
その能天気な性格を羨ましいと思ってしまったようだ。
商店が立ち並ぶ目抜き通りの両端には大きな門がある。
南の門は、集落と外を隔離するもの。
通りを北に向かい、街の中央に位置する門は王城と街を隔離するためのものだ。
この町には王城があり、そこの主はもともとこの群れを率いていたゴブスチャンかと思いきや鈴木だったりする。
ニコではない。
本来であれば鈴木がニコの付属品だが、この町ではニコが鈴木の付属品の扱い。
それについても、ニコは少し思うところがあった。
が、そのお陰で、甘い汁を吸っているのだから面と向かって文句を言うことは無い。
そもそも剣を持つものは誰でもいいわけで、ニコじゃないとだめというわけでもない。
そのことで、彼もまた鈴木に強く出られない。
名実ともに、このゴブリンの国の国主はただの錆びた剣である鈴木なのだ。
インテリジェンスソードが一国の王など、どんな冗談だとニコとランドールは思ったが。
ランドールは鈴木の次から次へと湧き出てくる様々な知識に舌を巻き、一廉の人物として認めた。
ニコは……鈴木のあれこれを実際に体感しているので、ただただもにょるだけ。
本来なら普通の人はこれだけ持ち上げられれば調子にのりそうなものだが、ただの剣だということを嫌というほど実感している鈴木は驕ることもなく、それがゴブリン達の忠誠心をさらに押し上げている。
それぞれが絶妙な理解のバランスの上に、上手く国が回っている状況だ。
「お帰りなさいませニコ様、ランドール様」
「あー、はい戻りました」
城に戻ると整列して出迎えてくれるゴブリンロイヤルガードに、気おされながら歩を進める。
一応日中は自由にしているが、城内での彼の待機場所は玉座。
なれないVIP待遇に、たびたび外に出るニコ。
定期的に城に居ないと、城勤めの者達が悲しそうな表情をするので仕方なくある程度は城にとどまる。
「西区でジャイアントキラービーが大量発生しております。クイーンを筆頭に我が群れに臣従を申し出ておりますが?」
「あっ、はい……えっと、蜂蜜取れる?」
「……うむ。出来るそうです」
報告に来たゴブリンが、横に従えた蜂に声を掛ける。
ホバリングしている蜂が顎をならして、何やらそのゴブリンに答えているようだが。
ニコには、さっぱり分かっていない。
彼らの間で、会話が行われていることだけは確かなようだ。
その証拠に、ゴブリンに何か言われた蜂がニコに向かって頭を下げていた。
そして、蜂蜜が取れると聞いたニコが、少し考え込む。
「ケイオツだって」
「ケイオツ?」
「……オッケイ! だって」
「オッケイ?」
「励めって」
「御意に」
鈴木がニコを仲介して、色々と指示を出している。
そのため、時折こういったことが起こる。
そもそもごく普通の一般家庭に生まれた鈴木に、王族たらんとさせることが土台無理な話だ。
まあ、祖父の代まで先祖から怪しげな古武術を受け継いだ道場のある家を、一般的と呼んでいいものかどうかは甚だ疑問があるが。
華族の血統でもないのに、帝王学など学ぶはずもなく。
高貴な人の振舞いなど、現代日本における一般人とスラム産まれ、生まれたてのドラゴンに、ゴブリンしかいないこの国の住人に求める方が無理な話だ。
森の奥にこの国を隠した理由は他にもあるが。
そも、ここのゴブリン達は鈴木のせいで現代日本の職人や専門職のような素養を兼ね備えたゴブリンの集まりなのだ。
小さなものでいうと温水洗浄機能付きのトイレや、携帯電話のようなもの、大型のものになればエレベーター、エスカレータなんてものも開発されている。
それどころか、車のようなものまで。
飛行機すらも、現在開発段階に入っている。
この異世界の文明度が分からない状態で、あきらかに異質な技術になりえると鈴木自身が思っていた。
そのことが悪いとは思っていないが、それはこの場所だけで良いと。
いずれ世界に広めることになるかもしれないが、いまは純粋にこの世界を見て回りたいという好奇心が勝っていた。
ただ、おそらく不便も多いだろうということで、自分の心の安寧の為にゴブリンを利用してこの場所を作り上げただけ。
早い話が、鈴木の趣味全開の国だということだ。
異世界情緒も良いけど、慣れ親しんだものも欲しいよね? という、ただの自己満足。
だから、和風建築に畳なんてのもあるし。
風鈴や焼物、提灯なんてのも作っている。
城から南にのびる通りが一応のメインの通りになっている。
この世界に合わせた、西洋風のお店が立ち並ぶ通り。
だが、鈴木のお気に入りは北の通り。
彼の全力が詰まっている。
和風建築に、着物を着たゴブリン達。
通りには提灯が吊るされていて、夜になると幻想的な風景を作り出す。
食堂街には居酒屋や、料亭が立ち並び日本酒や焼酎まで取り扱っている。
酒蔵や醤油蔵なんかもここに集められていて、全力で古い日本を作り出している。
基本は教会しかないこの世界で、寺や神社まで。
菩薩を模したゴブザベスっぽい、女神像まで作って。
そのまま進んで街を出ると小高い山もあり、良質な土が取れるので登り窯を作っていた。
そこでは日々焼物が作られており、職人たちが切磋琢磨してよりよいものを目指していた。
耐火煉瓦を作ったり、釉薬を作り出したりと課題は多いが。
それらを、全部職人特化のゴブリンに丸投げしてなおこの完成度は、職業補正ぱないとしか言いようがない。
鈴木はよく分からないけど凄いと感動していたし、ニコもこの通りを気に入っていた。
城である程度、鈴木の裁可が必要な案件をニコを仲介して捌いた後また外に出る。
何が面白いのかランドールは、常に一緒に行動しているが。
彼と仲が良いのは鈴木なのだが、ニコにも興味があるのかもしれない。
脆弱な生き物が鈴木の力で、強者とよべる魔物を簡単に下すことに何かを感じているのかもしれない。
それが分かれば若輩の地竜である自分でも、古竜を下せると思っているのだろう。
まあ、ランドールが鈴木を使えばそうなるかもしれないが。
今度彼らが向かったのは、街を出て西の通り。
主に住宅区となる場所だが、そこにある教会にニコが入ると子供達が駆け寄ってくる。
もともと最弱の名をほしいままにしていたゴブリン。
親が死んで、孤児となった子ゴブリンも多くいる。
教会で孤児院を開いたわけだが、少なくない子供たちがここにお世話になっていた。
「こんにちわ」
「こんにちわ、ニコ様、ランドール様! ゴブフィーナ様!」
子供に囲まれたニコが笑顔で挨拶すると、子供たちが返事を返す。
無邪気な笑みを向けられて、思わずほっこりとしているニコ。
ただ、一番人気はやっぱりドラゴンのランドールだが。
「ニコ様、今日はどこに行くの?」
「うーん、そうだね。美味しい山菜でも取りに行こうか?」
「うん! さんさいすきー!」
「てんぷらにするとおいしい!」
ニコの提案に、子供たちがおおはしゃぎで走り回る。
それから、いったん建物に戻って籠を背負ってもどってくる。
これでもハイゴブリンのゴブリンキッズたち。
膂力では強化無しのニコを上回る。
「いつも申し訳ありません」
「いえいえ、僕も子供が好きだから、気にしないでください」
ゴブリンポープのゴブエルとゴブリンカーディナルのゴブクロスの2人が、申し訳なさそうに頭を下げている。
ちなみにカーディナルはゴブリンロードだけど、ゴブリンポープはゴブリンデミセラフ。
ゴブリンロードの上らしい。
ランドールも知らないみたいだけど、色々なステータス値でゴブリンロードを下においているらしい。
このうえは、ゴブリンデミゴッドかなと笑っていた。
流石にデミゴッドなんてのは、神話でしか聞いたことないらしいけど。
いたら、ランドール曰くドラゴンでもてこずるか下手したら負けるとか。
「神魔法は神聖魔法と違って、ガチで反則だから! 事象をすっ飛ばして結果を出す魔法とかマジ理不尽」
とは彼の祖父の言葉。
1000年以上前に実際にデミゴッドに至った人間に、こっぴどくやられたことがあるらしい。
眉唾だが、嘘とも本当とも証明できない話だ。
「ニコ様、それ食べられないよ?」
「えっ? これシュガーベリーじゃないの?」
「シュガーベリーはこれ! それは、ドラゴンブレスベリー! 全身を焼かれたような痛みに襲われて、ショック死しちゃうし」
ニコがゴブリンの子供に注意されていた。
子供が持っている実は、ピンク色の角の丸いとげのある実。
ニコが叩き落されたのは、ピンク色の角が鋭利なとげのある実。
似ているといえば、似ているのだが。
流石に森の最深部ともなると、恐ろしい毒性植物も多くある。
慎重にならないといけないのだが。
「ゴブエル様の解毒魔法でなら治るけど、食べたら3秒で死ぬから。ゴブエル様の目の前で食べなきゃだね」
「ははは、食べないよー」
ニコが苦笑いしているが、その目は少し淀んでいた。
夜になるとここ1週間、毎晩のように宴会が開かれている。
それもこれも、ニコがリンドの街に旅立つことになったからだ。
送別会的なものなのだろうが。
一応成人しているので、酒も飲んでいるが。
あまり強くはないらしく、途中で鈴木と入れ替わっている。
だからこそ、周囲も酒をぐいぐい勧めているのかもしれないが。
やはり、彼らからすれば主である鈴木と別れを惜しみたいのだろう。
ニコ自身それを分かっているから、酒を断ることもしない。
ロブスレーに居た頃には考えられないが、お互いを思いやって行動できることが嬉しいらしい。
意識を失うその時まで素直に宴会を楽しんでいるニコに、徐々にゴブリン達が罪悪感を感じていることにはニコは気付いていなかった。
ちなみにどれだけ飲んでも鈴木が酔いつぶれることはないから、翌朝だいたいニコがそのとばっちりを喰らっている。
頭が割れそうなほどの痛みに襲われ、倦怠感に嘔吐感。
胃からこみ上げてくる酒の匂いに、さらに気持ち悪くなるといった悪いサイクル。
それを朝一、ゴブエルの祈りで取り払ってから一日が始まる。
その後は、またいつも通りの日常なのだが。
夕方になると忘れて、また宴会。
別に今生の別れというわけではないが。
いや、ニコにとってはそうなる可能性もあるわけで。
鈴木は他の人が連れてきてくれたらすむが、ニコは鈴木と違って簡単に死ぬ弱い人間。
だからこそ、必死でレベル上げをしていた。
ちなみに、夜中は鈴木がニコの身体を使って筋トレをしているので、身体の基礎も出来上がっている。
本人に自覚がないだけで、かなりのハイスペックなボディが出来上がったわけだが……
残念ながら、非才のニコはその身体のポテンシャルを十全に発揮できない。
まだまだ、英雄への道のりは長そうだ。
本人が望んでいるわけではないが……
「思い切ったことをしたものだ」
あれから約1年。
ゴブリン達の住処は、とんでもないことになっていた。
通りは石畳となっていて、住宅街の建物は頑強な造りの鉄筋コンクリート製や、高級感漂う木造住宅が立ち並んでいる。
ランドールが少し呆れた様子だが、せっかく人数分の住居を用意できたゴブリンの町は捨てて、森の最深部に新たにゴブリンの集落を築き上げたことを指してのことだ。
流石に人の町に近い場所にあの規模の魔物の巣を作るのは、確執を生むだろうと鈴木が見越してのこと。
そして、森の中心に全員で移住した。
もともとそこに居た凶悪な魔物達も、流石にゴブリンロードが群れるこの集団に敵うはずもなく。
あっという間に狩られ、素材や食料へと化していった。
王都でも見られないような最先端の建築技術は、複数のゴブリンアーキテクトによるものだ。
商店街のお店の中には、大きな1枚ガラスを使っているところもある。
そこに目玉の商品を並べ、外の通りから見られるような作り。
ロブスレーの街から出たことのないニコには、出所の分からない鈴木の知識にただただ困惑するばかり。
横で美味しそうに串焼きを頬張っている大男を見上げて、ため息を吐く。
人化の技術を磨き、ようやく3mほどに収まったランドール。
それでも小柄なハーフジャイアントほどの背丈もあるのだから、まだまだ先は長そうだ。
色々と鈴木と話す機会の多いランドールでも、鈴木が何者かというのは知らないらしい。
本人が語るまで聞く気はないとのこと。
なにより自分より年上であることから、目上の者として扱っている節も見られる。
そして反対側では、何もないのにニコニコと笑みを浮かべるゴブフィーナが腕を絡ませている。
振りほどこうにも、相手の方が力が上だ。
ただ自分と一緒の空間に居るだけで幸せになれる彼女を見て、これまたニコがため息を吐く。
その能天気な性格を羨ましいと思ってしまったようだ。
商店が立ち並ぶ目抜き通りの両端には大きな門がある。
南の門は、集落と外を隔離するもの。
通りを北に向かい、街の中央に位置する門は王城と街を隔離するためのものだ。
この町には王城があり、そこの主はもともとこの群れを率いていたゴブスチャンかと思いきや鈴木だったりする。
ニコではない。
本来であれば鈴木がニコの付属品だが、この町ではニコが鈴木の付属品の扱い。
それについても、ニコは少し思うところがあった。
が、そのお陰で、甘い汁を吸っているのだから面と向かって文句を言うことは無い。
そもそも剣を持つものは誰でもいいわけで、ニコじゃないとだめというわけでもない。
そのことで、彼もまた鈴木に強く出られない。
名実ともに、このゴブリンの国の国主はただの錆びた剣である鈴木なのだ。
インテリジェンスソードが一国の王など、どんな冗談だとニコとランドールは思ったが。
ランドールは鈴木の次から次へと湧き出てくる様々な知識に舌を巻き、一廉の人物として認めた。
ニコは……鈴木のあれこれを実際に体感しているので、ただただもにょるだけ。
本来なら普通の人はこれだけ持ち上げられれば調子にのりそうなものだが、ただの剣だということを嫌というほど実感している鈴木は驕ることもなく、それがゴブリン達の忠誠心をさらに押し上げている。
それぞれが絶妙な理解のバランスの上に、上手く国が回っている状況だ。
「お帰りなさいませニコ様、ランドール様」
「あー、はい戻りました」
城に戻ると整列して出迎えてくれるゴブリンロイヤルガードに、気おされながら歩を進める。
一応日中は自由にしているが、城内での彼の待機場所は玉座。
なれないVIP待遇に、たびたび外に出るニコ。
定期的に城に居ないと、城勤めの者達が悲しそうな表情をするので仕方なくある程度は城にとどまる。
「西区でジャイアントキラービーが大量発生しております。クイーンを筆頭に我が群れに臣従を申し出ておりますが?」
「あっ、はい……えっと、蜂蜜取れる?」
「……うむ。出来るそうです」
報告に来たゴブリンが、横に従えた蜂に声を掛ける。
ホバリングしている蜂が顎をならして、何やらそのゴブリンに答えているようだが。
ニコには、さっぱり分かっていない。
彼らの間で、会話が行われていることだけは確かなようだ。
その証拠に、ゴブリンに何か言われた蜂がニコに向かって頭を下げていた。
そして、蜂蜜が取れると聞いたニコが、少し考え込む。
「ケイオツだって」
「ケイオツ?」
「……オッケイ! だって」
「オッケイ?」
「励めって」
「御意に」
鈴木がニコを仲介して、色々と指示を出している。
そのため、時折こういったことが起こる。
そもそもごく普通の一般家庭に生まれた鈴木に、王族たらんとさせることが土台無理な話だ。
まあ、祖父の代まで先祖から怪しげな古武術を受け継いだ道場のある家を、一般的と呼んでいいものかどうかは甚だ疑問があるが。
華族の血統でもないのに、帝王学など学ぶはずもなく。
高貴な人の振舞いなど、現代日本における一般人とスラム産まれ、生まれたてのドラゴンに、ゴブリンしかいないこの国の住人に求める方が無理な話だ。
森の奥にこの国を隠した理由は他にもあるが。
そも、ここのゴブリン達は鈴木のせいで現代日本の職人や専門職のような素養を兼ね備えたゴブリンの集まりなのだ。
小さなものでいうと温水洗浄機能付きのトイレや、携帯電話のようなもの、大型のものになればエレベーター、エスカレータなんてものも開発されている。
それどころか、車のようなものまで。
飛行機すらも、現在開発段階に入っている。
この異世界の文明度が分からない状態で、あきらかに異質な技術になりえると鈴木自身が思っていた。
そのことが悪いとは思っていないが、それはこの場所だけで良いと。
いずれ世界に広めることになるかもしれないが、いまは純粋にこの世界を見て回りたいという好奇心が勝っていた。
ただ、おそらく不便も多いだろうということで、自分の心の安寧の為にゴブリンを利用してこの場所を作り上げただけ。
早い話が、鈴木の趣味全開の国だということだ。
異世界情緒も良いけど、慣れ親しんだものも欲しいよね? という、ただの自己満足。
だから、和風建築に畳なんてのもあるし。
風鈴や焼物、提灯なんてのも作っている。
城から南にのびる通りが一応のメインの通りになっている。
この世界に合わせた、西洋風のお店が立ち並ぶ通り。
だが、鈴木のお気に入りは北の通り。
彼の全力が詰まっている。
和風建築に、着物を着たゴブリン達。
通りには提灯が吊るされていて、夜になると幻想的な風景を作り出す。
食堂街には居酒屋や、料亭が立ち並び日本酒や焼酎まで取り扱っている。
酒蔵や醤油蔵なんかもここに集められていて、全力で古い日本を作り出している。
基本は教会しかないこの世界で、寺や神社まで。
菩薩を模したゴブザベスっぽい、女神像まで作って。
そのまま進んで街を出ると小高い山もあり、良質な土が取れるので登り窯を作っていた。
そこでは日々焼物が作られており、職人たちが切磋琢磨してよりよいものを目指していた。
耐火煉瓦を作ったり、釉薬を作り出したりと課題は多いが。
それらを、全部職人特化のゴブリンに丸投げしてなおこの完成度は、職業補正ぱないとしか言いようがない。
鈴木はよく分からないけど凄いと感動していたし、ニコもこの通りを気に入っていた。
城である程度、鈴木の裁可が必要な案件をニコを仲介して捌いた後また外に出る。
何が面白いのかランドールは、常に一緒に行動しているが。
彼と仲が良いのは鈴木なのだが、ニコにも興味があるのかもしれない。
脆弱な生き物が鈴木の力で、強者とよべる魔物を簡単に下すことに何かを感じているのかもしれない。
それが分かれば若輩の地竜である自分でも、古竜を下せると思っているのだろう。
まあ、ランドールが鈴木を使えばそうなるかもしれないが。
今度彼らが向かったのは、街を出て西の通り。
主に住宅区となる場所だが、そこにある教会にニコが入ると子供達が駆け寄ってくる。
もともと最弱の名をほしいままにしていたゴブリン。
親が死んで、孤児となった子ゴブリンも多くいる。
教会で孤児院を開いたわけだが、少なくない子供たちがここにお世話になっていた。
「こんにちわ」
「こんにちわ、ニコ様、ランドール様! ゴブフィーナ様!」
子供に囲まれたニコが笑顔で挨拶すると、子供たちが返事を返す。
無邪気な笑みを向けられて、思わずほっこりとしているニコ。
ただ、一番人気はやっぱりドラゴンのランドールだが。
「ニコ様、今日はどこに行くの?」
「うーん、そうだね。美味しい山菜でも取りに行こうか?」
「うん! さんさいすきー!」
「てんぷらにするとおいしい!」
ニコの提案に、子供たちがおおはしゃぎで走り回る。
それから、いったん建物に戻って籠を背負ってもどってくる。
これでもハイゴブリンのゴブリンキッズたち。
膂力では強化無しのニコを上回る。
「いつも申し訳ありません」
「いえいえ、僕も子供が好きだから、気にしないでください」
ゴブリンポープのゴブエルとゴブリンカーディナルのゴブクロスの2人が、申し訳なさそうに頭を下げている。
ちなみにカーディナルはゴブリンロードだけど、ゴブリンポープはゴブリンデミセラフ。
ゴブリンロードの上らしい。
ランドールも知らないみたいだけど、色々なステータス値でゴブリンロードを下においているらしい。
このうえは、ゴブリンデミゴッドかなと笑っていた。
流石にデミゴッドなんてのは、神話でしか聞いたことないらしいけど。
いたら、ランドール曰くドラゴンでもてこずるか下手したら負けるとか。
「神魔法は神聖魔法と違って、ガチで反則だから! 事象をすっ飛ばして結果を出す魔法とかマジ理不尽」
とは彼の祖父の言葉。
1000年以上前に実際にデミゴッドに至った人間に、こっぴどくやられたことがあるらしい。
眉唾だが、嘘とも本当とも証明できない話だ。
「ニコ様、それ食べられないよ?」
「えっ? これシュガーベリーじゃないの?」
「シュガーベリーはこれ! それは、ドラゴンブレスベリー! 全身を焼かれたような痛みに襲われて、ショック死しちゃうし」
ニコがゴブリンの子供に注意されていた。
子供が持っている実は、ピンク色の角の丸いとげのある実。
ニコが叩き落されたのは、ピンク色の角が鋭利なとげのある実。
似ているといえば、似ているのだが。
流石に森の最深部ともなると、恐ろしい毒性植物も多くある。
慎重にならないといけないのだが。
「ゴブエル様の解毒魔法でなら治るけど、食べたら3秒で死ぬから。ゴブエル様の目の前で食べなきゃだね」
「ははは、食べないよー」
ニコが苦笑いしているが、その目は少し淀んでいた。
夜になるとここ1週間、毎晩のように宴会が開かれている。
それもこれも、ニコがリンドの街に旅立つことになったからだ。
送別会的なものなのだろうが。
一応成人しているので、酒も飲んでいるが。
あまり強くはないらしく、途中で鈴木と入れ替わっている。
だからこそ、周囲も酒をぐいぐい勧めているのかもしれないが。
やはり、彼らからすれば主である鈴木と別れを惜しみたいのだろう。
ニコ自身それを分かっているから、酒を断ることもしない。
ロブスレーに居た頃には考えられないが、お互いを思いやって行動できることが嬉しいらしい。
意識を失うその時まで素直に宴会を楽しんでいるニコに、徐々にゴブリン達が罪悪感を感じていることにはニコは気付いていなかった。
ちなみにどれだけ飲んでも鈴木が酔いつぶれることはないから、翌朝だいたいニコがそのとばっちりを喰らっている。
頭が割れそうなほどの痛みに襲われ、倦怠感に嘔吐感。
胃からこみ上げてくる酒の匂いに、さらに気持ち悪くなるといった悪いサイクル。
それを朝一、ゴブエルの祈りで取り払ってから一日が始まる。
その後は、またいつも通りの日常なのだが。
夕方になると忘れて、また宴会。
別に今生の別れというわけではないが。
いや、ニコにとってはそうなる可能性もあるわけで。
鈴木は他の人が連れてきてくれたらすむが、ニコは鈴木と違って簡単に死ぬ弱い人間。
だからこそ、必死でレベル上げをしていた。
ちなみに、夜中は鈴木がニコの身体を使って筋トレをしているので、身体の基礎も出来上がっている。
本人に自覚がないだけで、かなりのハイスペックなボディが出来上がったわけだが……
残念ながら、非才のニコはその身体のポテンシャルを十全に発揮できない。
まだまだ、英雄への道のりは長そうだ。
本人が望んでいるわけではないが……
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