上 下
19 / 91
第1章:剣と少年

閑話4:ゴブリンの町

しおりを挟む
「いやあ、だいぶ栄えましたね」
『まあ、そろそろ貨幣経済に手を出してもいいかもしれんな』

 綺麗に区画整理された通りを歩きながらひとりごちると、腰につけた剣から返事が。
 ゴブリンが貨幣経済とか……

 一応、商店っぽい通りもあるが。
 実質は、倉庫と管理人みたいなもの。

 食材別に棚に並べて、その建物に2~3人の管理人を置いている。
 利用者は、欲しいものを貰っていく形。

 現状仕事に手を抜くものがいないから、それでも成り立ってるけど。
 
 サボってても、ご飯が食べられるならサボるゴブリンとか出てこないかな?

『よくも悪くも群れの維持拡大に真面目な種族だからな。そういったことはしないだろう』

 現在貢献と施しが見合ってないものは、この町では3名……

 地竜のランドールと、僕と、ゴブフィーナくらいかな?

 いや、ランドールは血を提供してくれたし。
 なによりも、いるだけで人や他の魔物に対する牽制になる。

 納得いかないのはゴブフィーナ。

 まあ、僕の身の回りの世話をしてくれてはいるのだけども。
 基本は、僕の傍にいてこっちをチラチラ見てるだけ。

 最初はちょっと目の大きな、団子鼻のぶちゃいくなゴブリンだったけど。
 今じゃ、通りを歩けば人間でも振り返るほどの美少女に。
 
 そして、僕のどストライクの容姿。

 何故か、肌も肌色だし。
 肌が肌色って字面が馬鹿っぽいけど、それ以外に言葉を知らない。
 僕と似た肌色というか、やや白い。

 サラサラの金髪を後ろで一本に結って、うっすらと化粧している。

 これでも種族はゴブリンロード。
 これの居る群れに襲われたら、小規模の町くらいなら滅んじゃうくらいの脅威度。

 そのゴブリンロードがあちらこちらに居る。
 
 うーん……
 
 ランドールのせいというか、ランドールのお陰というか。

 惜しむらくは、戦闘特化の職業についているのが少ないことかな?
 ある意味、人間にとってはよかったかもしれない。

 ゴブリンロード以外にも、ゴブリンエンペラーやゴブリンキング、ゴブリンノブレスなどなど上位種のゴブリンが居たり。
 あとホブゴブリンの上の、ハイゴブリンやネオゴブリン、エルダーゴブリンなんてのもいる。

 エルダーゴブリン……通常のゴブリンの寿命30年から50年に対し、その倍以上を生きたゴブリンが至れる極地。

 その倍以上生きて、なお種族進化条件を満たさないといけない。

 そこで初めてホブゴブリンではなく、エルダーゴブリンに至れる。

 目の前の若々しいグラマラスな女性ゴブリン。
 ゴブザベスさん。
 彼女は御年100歳だ。
 そこまで生きただけでもヤバイのに、そこにランドールの血なんか飲んだものだから。

 一気に若返って、今じゃ美魔女……
  
 うーん、年齢を知らなければ頬を染めてしまいそうな……

「ゴブノ……わたしゃ、お昼をまだ食べておらんのだが」
「やだよおばあちゃん、さっき食べたじゃない」
「そうだっけのう?」

 うーん……
 中身は進化しないのかな?

『今のは笑うところだぞ?』
「えっ?」

 どうやら、僕が前を通りかかったときにわざとそんな小芝居をしたと……
 なんで?

『うーん、俺のいたところじゃ鉄板だったんだけどな……若返ってるから、シュールな笑いを期待したのだが』

 鈴木さんの入れ知恵だった。

 本気で心配した僕を見て、ゴブザベスさんとゴブノさんが真っ赤な顔を両手で覆って恥ずかしがってる。

 ちょっとほっこり。

 そんな僕の頬の横を何かが凄い速さで通り抜け、耳の後ろあたりでドンという音がする。

「私だけを見ろよ!」

 近い近い!

 正面を見たら、ゴブフィーナが僕の頬の横に手を付きだして、壁と彼女の間に閉じ込められてしまった。
 
 なんだろう?
 何がしたいのか分からないけど、ちょっと怖かった。

 そのまま見つめあう。
 彼女の迫力に、頬を冷や汗が伝うのを感じる。
 そして、彼女が目を閉じる。

「うーん」
「ちょっと、何してるの!」

 いきなり口を突き出して迫ってきた彼女を横にどけ……なんて力だ。
 仕方ないので腕の下をくぐって、反対側に移動。

「いけずです」

 横を向いて頬を膨らませているゴブフィーナを無視して、歩き始める。

 もはや、集落ではなく町とかしたゴブリンの巣。
 
 木造住宅だけじゃなく、石材を使った建物もあちらこちらに。

 教会なんてのも建てられているけど、ゴブリンプリーストを筆頭にゴブリンパラディンまでいる。

 ただ、ゴブリンコンマンは何か違う気が……
 布教の成果はかなり高いらしい。

 信仰しているのは、よく分からないゴブリンの神様。
 ちょっとゴブザベスさんに似てる。

 彼女はすでに普通に、自分の仕事をしている。

 長老たちとの寄り合い。

 エルダーゴブリンに進化した彼女の寿命は、1000年まで伸びたらしい。
 ゆえに、この町のゴブリンの記憶、歴史、伝統を覚えて後世に伝える役割。

 生き字引になるつもりとか。

「あと、何回結婚できるかな?」

 そんなことを鼻歌混じりに言ってるゴブザベスさんに、ちょっとげんなりしつつ先へ進む。

 宝物殿の前を通り過ぎる。
 普通の食料品や素材は、誰でも交換できる。

 でもここにあるものは、それなりの功績と引き換え。

 ちなみに、ランドールの家でもある。

 流石にランドールの護る倉庫から物を盗ろうなんて輩は居ない。

 いないけど、もともと鈴木さんの配下になったゴブリンたちはモラルが高い。
 だから、門番なんかいらないんだけどね。


「来たか」
「うん、何の用?」

 ここに来たのは、ランドールに呼ばれたから。

「用がないと、呼んだらダメなのか?」
「えっ? ダメでしょう……」
「そうなのか?」

 何故、そこで驚くかが分からない。
 分からないけど、用も無いのに呼んだ理由の方がもっと分からない。

 結局2~3言、会話して一緒に町を歩いて回る。

 大工なゴブリンたちは、相変わらず忙しそうに建物を建てているが。
 あちらこちらから、ゴブリンがここに集まってきているので家が足りないのだ。

「しかし、本当に感心するな」
「えっ?」
「いや、愚かなゴブリン共がここまで知恵ある生物に進化するとは」

 ああ。
 僕も、ゴブリンたちがこんなに親しみやすいとは思わなかった。
 見た目も進化に伴って、人に近い姿になっているのはとても嬉しい。

 嬉しいけど、その理由が僕のためだったのは少し泣けた。
 少しでも、僕に近い姿になりたいという願望。

 ランドールが言ってた。
 進化の際に強く願ったこと、その思いが強ければ進化に大きな影響を与えると。

 その話を聞いて横でニヨニヨしてるゴブフィーナを見る。
 凄く誇らしげに、頬を染めている。

 純粋に嬉しいけどね。

 でも、実はあまりグイグイくる女性は……
 それに、人間不信が直ってないから、もう少しゴブリンに寄った方が危なかったかも。
 言わないけど。

 流石に、ショックを受けるだろうことは僕でも分かる。

 でも……じゃあ、色々な職業についてるゴブリンたちは、その職業になりたいと強く願ったのかな?

 ゴブリンマッドサイエンティストとか……
 マッドサイエンティストが何か、さっぱり分からない。

 分からないけど、分からない職業はあらかた鈴木さんの入れ知恵だった。

 語り口調が上手いのか。
 
 魅力的に鈴木さんしか知らない職業を、どんな仕事をするのかを交えながら説明。

 それぞれが色んな職業を夢みて、結果色んな職種の凄いゴブリン達の集まりになった。

 ただ、意味が分からないのがゴブリンソルジャー。
 普通のソルジャーじゃなさそう。
 なんか、やけにクールで強そう。

「クラスは1stだ」

 ちょっと、何言ってるか分からない。
 確かクラスは、ゴブリンエンペラーだったと思うんだけど。
 
 うーん……

 他にはゴブリン四天王とかってのも居たり。
 10人。
 大人気。
 
 全員ゴブリンキングかと思いきや、ゴブリンロードが1体混じってる。

 一番強いはずなのに、一番肩身狭そう。
 可哀そう。

 ゴブリンスミスのお陰で、鈴木さんの鞘も完成したし。
 少しだけ、僕もかっこがついた気が。

「気が付いたら、町の外なんだけど」
「ああ、鈴木にお前を鍛えろって言われてな」

 外に出た瞬間に、ランドールに襟を咥えられる。
 そしてそのまま上空に。

「えーっと……怖いんだけど?」
「ちょっと、森の奥に行ってみよう!」
「え?」
「割と、強い魔物がいるはずだ」

 意味が分からない。
 分からないけど、僕からすればランドールが一番強くて怖い魔物だ。
 そう言ったら、嬉しそうに笑った。
 大口を開けて……

 うん、普通に落っこちたよ。

 すぐに助けに来てくれたからよかったけど。

 凄く慌てた必死の表情が、物凄く怖かったとだけ。


 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

処理中です...