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第1章:剣と少年

第8話:いざリンドの街へ!

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「ニコさま! これ、みんなで集めたの」

 森の入り口で、ゴブリンの子供が皮袋を手渡してくる。
 中身は、様々な木の実が。

「わあ、こんなにたくさん。大変だったでしょ?」
「ううん、鈴木様の畑から採ってきたから」
「すぐ、集まったよ!」
「あっ……そう」

 ランドールのスキルの中に、植物関連もあったので。
 色々と、やってた。
 子供達には好きに採っていいとは、言ってあったけど。
 そして、子供たちの悪気無い言葉にニコがちょっとトーンダウン。
 軽く威圧をぶつける。

「あっ、それでも大変だったよね? 有難うね」
「うん、ニコ様ちょいちょいグレプの実とデスキラーポイズンの実を間違えたりするから」
「自分で、何か採って食べちゃダメだよ?」
「お腹壊しちゃうよ?」
「はは……」

 これは毒のある植物の擬態が見事なのか。
 それとも、ニコに才能がないだけなのか。
 いまだに採取の際に、色々とまずいものが混ざっていたり。

 長老であるゴブスチャンからも採ったものを食べるときは、まずはゴブフィーナに毒見をさせるよう念を押されてた。
 
「我の鱗を持っていくか? 人間ってのは、こんなもんにアホみたいなお金を出すのだろ?」
「ありがとう」

 ランドールはよく身体を家や、木にぶつける。
 たまに鱗がはがれる勢いで。

「つっ!」

 と、声にならない悲鳴をあげてるときはそういうとき。
 箪笥の角に小指をぶつけた人みたいな反応だと思ったのは内緒。

 その鱗を取っておいてくれたらしい。
 うーん、ありがたい。
 なんだかんだで、大荷物。

 マジックバックや異空間収納とか、憧れる。
 自分の身体よりおおきなリュックを背負ったゴブフィーナと、頭陀袋を持ったニコ。
 絵面が気になるところだが。

 ニコも、なんとなく気まずそう。

「ニコは繊細だから仕方ないよ。そのぶん、私が頑張る」
「はは」

 そういって力こぶを作って見せるゴブフィーナ。
 女の子らしく、ちょっとプニっとした二の腕……からは信じられないような膂力を発揮する。
 具体的にいうと、バフ全乗せのニコに腕相撲で両手対片手で勝っちゃうくらい。
 うーん、スキルってあんまり効果ないのかな?
 過度の期待はしないでおこうと、思った出来事だった。

 そしていよいよ出立。
 なんだかんだで森の奥でお別れしたはずなのに、ゾロゾロと入り口までついてきてくれたけど。
 今度こそ、本当にお別れ。

「じゃあ、皆さんお達者で!」
「我らは、いつまでも主とニコ様と共に」
「お二方の窮地にはたとえ世界の裏側であろうとも、馳せ参じましょうぞ!」

 うん、本当にそうなりそうで怖い。
 頭脳担当のゴブリンが、俺の絵空事の飛空艇やら飛行機を真剣に検討してたし。
 設計図っぽいものもすでに……
 あと、ランドールの飛行能力を向上するなんやかんやも着手してたようにも。
 うんうん……俺は何も知らない。
 ニコも何も知らない。

「うふふ、これでようやく2人きり」
「ではないよね?」
 
 ニヘラと下心満載なゴブフィーナに対して、剣を掲げてみせるニコ。

「2人で1人ですわ! 雄々しくも猛々しい主様と、繊細でたおやかなニコ様……」
「あー……えっと……」

 あんまり変なことをしたら、置いていくといえ。

「鈴木さんが、度が過ぎると置いていくって」
「あら、いけずですね」

 いけずとか、どこで覚えたんだ?
 まあ、良いか。
 言葉に関してなんて今更出しな。

 あっ、そうだった。
 名前名前!

「あー、うん。あのゴブフィーナ」
「なんですか?」
「鈴木さんが、ゴブフィーナって人の前で呼んだら目立つから、今日からフィーナって呼ぶようにって言われた」
「フィーナ? 悪くないですわ!」
 
 上機嫌に、フィーナと何度も呟きながら歩くゴブリンの後ろ姿を見て、ニコがほっこりしてる。
 ほっこりしてるとこ悪いけど、見た目と違ってあいつまだ5歳だからな?
 意思は強く持てよ?

 しかし、この1年でだいぶ年相応になったかな?
 いや、ちょっと大人びてきた気もするけど。
 そうだな……

 ニコの居た街に寄ってみるか?

「えっ? ロブスレーの街にですか?」
 
 そんな名前だったのか。
 まあ、どうでも良いけどさ。

 ああ。
 いまのお前なら、いろいろとけじめをつけられるんじゃないか?

 俺の言葉に、ニコがしばらく黙って考え込む。
 そして、顔をあげる。

「いや、このままリンドの街を目指します」

 そうか。
 表情を見る限り、もしかしたらとっくに振り切ったのかもしれないな。
 こうして成長を目の当たりにすると、目頭に熱いものが。
 目頭無いけど。

 そして目尻に光るものが。
 目尻も無いけど。
 でも、たぶん光ってるはず。
 鉄っぽいし。
 光を反射して。

「ニコ! 野兎」
「うんうん、可愛いね」
「えっ?」

 ニコが可愛いと言ったときにはすでに、フィーナが石をぶつけて仕留めていた。

「いや、晩御飯」
「うん……そうだよね」

 大丈夫だろうか?
 色々と不安になってきたけど、フィーナのお陰でなんとかなるだろう。
 それにフィーナを連れてきたのには、他にも理由があるし。

 ドリーミーなフィーナは、竜すら眠らせる睡眠誘導スキルを持ってるのだ。 
 いや、あれはまあランドールがかかりにいってるとこがあったけど。
 地竜のランドールが寝付きが悪い時に頼りにするほどの、睡眠スキル。
 人がくらえば、もはや昏睡レベルのスキル。

 万が一のときは、それでニコを眠らせるよう指示してある。
 俺が身体を動かせるようにするためだ。

 ふふ、万が一の時は敵に使った方がよくないですか? と冷静に言われてしまった。
 ……そうだよね。
 でも、もしかしたら睡眠耐性が凄く高い敵が出てくるかも。

 その耐性を余裕で突き抜ける?

 ……いや、ゴーレムとか。
 それでも? まあ、少し黙れ。

 取り合えず、そういうことだから!

 主従の立場を全力で使わせてもらった。
 パワハラとか言わない!
 
 とりあえずなんかあったら、遠慮せず使えといってある。
 本当に使ってくれるか、いまいち不安だけど。

「ここが人の街……」
「村だけどね」

 リンドの街までは。テトの森から徒歩で4日はかかるとのこと。
 だから、適度な場所にある村や町を中継していくように、工程を組んだ。

 ゴブスチャンが。
 優秀。
 どうやって、周辺地図をゲットしたかは知らない。
 聞かない。

「色々としょぼい」
「村だからね……」

 フィーナが辛辣な言葉を投げかけているが、ニコが苦笑いで誤魔化している。
 この村がしょぼいんじゃなくて、森の奥地に出来た集落が規格外とだけいっておこう。
 洗浄機能付き水洗トイレを、機械文明がほぼ発達してない世界の村に期待しないでほしい。

 地中落下式のトイレに、フィーナがあからさまな嫌悪感を抱いている。
 もしかして、ホームシックに陥ったりしないよね?

 お尻を拭く葉っぱも固そうだったので、洗浄魔法を使った?
 もともと垂れ流しのゴブリンが偉く出世したもんだ。
 でも気分的にあれだから、洗浄魔法かけても形だけでも拭いてほしい。
 洗浄魔法を疑ってるわけじゃない。
 なんとなく、気分の問題。

「えー! お風呂無いんですか?」
「はは、えらく上等なお客様だ。すまんな、お湯と桶なら貸し出してるから、それと布で身体を拭いてくれ」

 宿の受付でお風呂が無いときいて、フィーナが凄く不満そう。
 お湯と桶の貸し出しも有料。

「お風呂無いのが悪いのにお湯に金を取るなんて」
「まあまあ」

 部屋でぷりぷりとまだ文句を言っているフィーナを、ニコがなだめている。
 まあ仕方ないので、ニコが寝たあとで俺が用意しよう。

「ごはん食べに行こうか?」
「うん、人の食べるご飯ってどんなのかな? 鈴木様の料理とどっちが美味しいかな?」
「あー……はは」

 このフィーナの発言にも、ニコが苦笑い。
 たぶん俺が指示しながらゴブリンコックとか、ゴブリンシェフが作った料理の方が美味しいと思う。
 この世界の料理を俺も見たことなかったけど、ニコの反応で分かってしまった。

 いや、ゴブリンのロハスな生食に、ニコのお腹が心配になって教えたのだが。
 よくよく考えると、悪食のスキルでどうにかなったかもしれない。

 そんな悪食のゴブリンたちも、今じゃグルメ気取りだからな。
 
「なんか……楽しくない」
「む……村だから」

 ニコが村をディスってるように聞こえてきたが、仕方ないか。
 村の酒場で出された料理に、目を輝かせてフィーナだったけど。
 一口食べた瞬間に顔が死んでた。
 レディの顔じゃないぞ。
 気を付けろ。

 ちなみに人間基準で考えると、凄く美少女なフィーナ。
 そりゃ、ニコの理想の女性になれるように願って進化してるからな。
 それなり以上。
 ニコの理想が高すぎるってのも、あるかもしれない。

 ニコに身の程を知れ! と言いたいが。
 結果、理想の女性と結婚できそうだぞニコ。
 良かったな!
 ゴブリンロードだけど。

 だから、酒場でもナンパされた。
 ニコと楽しくおしゃべりしてる最中に。
 酔っ払いに。

 料理に期待できないかわりに、ニコと2人きりの時間を楽しもうとした矢先に。

「あら、このカップ壊れてたのかしら?」
「ひっ」

 水の入った木のカップを握りつぶした瞬間に、酔っ払いはどっかいったけど。
 
「すげーな嬢ちゃん!」
「へえ、やるじゃん!」
「マスター、あの嬢ちゃんにこれを!」
「俺からは、これをご馳走だ!」

 不安そうに成り行きを見ていた周りは、大盛り上がり。
 結果大量の食べ物や飲み物が貢がれて。
 フィーナがかなりげんなりしていたのが、雰囲気で伝わった。
 なんとか、笑顔でお礼が言えたのはあとで褒めておこう。

 そして人の料理の味を知っているニコが、頑張ってほとんどの料理をやっつけたとだけ。

「く……苦しい」
「初夜が、全然ロマンチックじゃない」

 何を期待したのかしらないが、ニコにそんな度胸はない。
 あと、こんだけお腹がパンパンの状態だと、仮に健全でちょっと積極的な野郎でもね……
 夜の運動はお休みすると思う。

 ニコが寝たあとで、村の外で魔法でお風呂を作ってやったらご機嫌になったけど。 
 俺が魔法使えない問題は、最初の街で出会った親切なおじさんのお陰で解決したとだけ。
 あの、おじさんっていったらダメージ受ける変なおっさんのお陰。

 
 
 
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