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第1章:剣と少年

第3話:鈴木とニコ

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 ここは、どこだ?

「えっ、森ですけど?」

 あー、すまん。
 地名というか。

「テトの森?」

 もっと、こう……そうだな。
 テトの森ってのはどこにあるんだ?

「テトの森は」
 
 どこの国にあるって意味だ。

「ビスマルク王国です」

 ビスマルクか……
 というか、王国とか。
 地球って王国ってある……あるか。
 ブルネイとか、王国じゃなかったっけ?

 いやまてまて、思い出せ。
 カンボジアとか、タイとか。
 というか、ヨーロッパも実は王国だらけだったかな?
 うーん、真面目に勉強するべきだった。
 
 〇〇共和国とか、〇〇公国とかって全然覚えてない。
 国名は分かるけど、あとにつくのが……
 どうでも良いか。

 でも、ビスマルク王国なんて聞いたことないし。
 地名にはありそうだけど。
 ダメだな。
 話が進まない。
 情報収集に徹しよう。

 ビスマルク王国ってのは、どこにある?

「えっと、大陸ってことですかね? 中央大陸?」

 中央大陸って、ざっくりすぎる。
 大陸名が知りたい。

「といわれましても、中央大陸は中央大陸ですし」

 そうか……
 この世界に名前とかあるのかな?

「いや、世界は世界では?」

 ……この子が馬鹿なのか、それともそういう世界なのか。
 まあ、良いか。

 会話が出来るだけ。
 最初は、話しかけるだけで怯えて俯いてたからな。

 少年の名前はニコというらしい。
 14歳の少年。
 とはいえ、冒険者として働いているらしい。
 冒険者って職業なのかな?

 職業だった。
 その時点で、ここが地球じゃない可能性がグッと上がったが。
 まだ、望みは捨てない。

 魔法とかあったりする?

「はは、当り前じゃないですか」

 はは、魔法があるのが当り前じゃないところから来たんだけどな。
 そうか、当たり前なのか。

「あの、剣さん?」

 黙ってくれ。
 ちょっと、気持ちを落ち着かせるのに時間が。
 掛からなかった。
 百年を超える地中生活は、色々と俺のメンタルを鍛えてくらたらしい。
 いや、鍛造されたとでも言っておくかな。
 剣だし。
 多分、鉄だし。
 錆びだらけだけど。

 名乗るかどうか悩んだが、剣さんと呼ばれると別人っぽい。
 ケンさんがいっぱいいる世界から来てるし。

「鈴木さん?」
 
 それでいい。

「鈴木さんは剣なんですよね?」
 
 今はな。

「今は?」

 気にするな。
 それで、俺を連れていってくれないか?

「どこにですか?」

 どこでもいい。
 自分探し……というか、ここは開き直ってこの世界を見て回りたい。

「でも、僕街ギルド所属ですし。この辺りくらいしか、出歩かないですよ」

 まずは、街を見るのも悪くないさ。
 最悪、遠出する冒険者に預けてくれても良いし。

「はあ……」

 お前も、錆びだらけの剣なんていらんだろう。

「何をおっしゃいますか! 命の恩人じゃないですか!」

 そうだな。
 まあ、成り行きだ。
 気にするな。

「気にしますよ! それに……」

 誰にも言わん。
 というか、誰に言うんだ。

「へへ」

 焚火に木をくべながら、ニコが笑っている。
 薄汚れた茶髪に、顔もすすけているけど。
 なかなかに人懐っこい笑顔だ。

 救えて良かったと思える程度には。

 パチパチと薪が弾ける音がする。
 沈黙が訪れる。

「あの……」

 ん?

「僕の剣になってくれませんか?」

 意外だ。
 こんな錆びだらけの剣の、何が良いのか。
 そりゃ、ニコよりは強い自信はあるが。

「その……僕、一人ぼっちだし」

 ふふ……
 誰かに俺を預けてくれないか。
 とは言えない。

 寂しそうな表情を見せられてしまったら。

「戦闘はからっきし、薬草採取もたまに雑草が混じってたり、酷い時は毒草が混じってたり」

 先輩に習ったりとかってのは、無いのか?

「街の皆に嫌われてるから」

 あー、重たそうな話が出そうだ。
 どうしよう。
 聞きたくない。
 
 もう寝た方が良いんじゃないか?

「せっかく、お話が出来る相手が見つかったんです。人と話すのも久しぶりで、少しだけでも聞いてもらえませんか」

 嫌だ……と言えたら、どれだけ楽だろうか。

 ……そして、思ったよりはライトだった。
 いや、ヘヴィかな?

 まあ、端的にいうとニコは娼婦の子供。
 父親は領主様。
 領主様はまだ多少は気を使ってくれると。
 問題はその夫人。

 まあ、お察しだな。
 ニコに手を差し伸べると、領主夫人から色々とされちゃうわけだ。

 公式な立場は領主様の方が夫人よりは上だけど、夫人の父親が領主様の上。
 領主様は子爵、夫人の親は侯爵と。
 なるほどね……

 ご愁傷さまとしかいえない。
 街の外に出たらいいのに。

 長期間旅に出られるような物資の購入が出来ない?
 懐的にも、お店的にも。

 そうか……

 あー、俺を人目の付くところに置いて、一人で街に帰ってくれないかな?

 ダメだよね。
 聞いちゃったもん。
 俺は別に、こいつに付き合ったからって村八分に合う訳でもないし。
 すでに、同情してしまった。

 そうか……
 じゃあ、こいつが街の人に無視できない存在になればいいわけだ。
 そのためにも、俺は俺のことを知る必要がある……か。

「鈴木さん?」

 よしっ、俺とお前は友達だな。
 
「えっ?」

 ズッ友だ!

「ズッ友?」

 何があっても、ずっとお前の友達でいてやろう。

「本当ですか?」
 
 その代わり、ある程度俺の希望もきいてもらうけどな。

「勿論ですよ!」

 そうと決まれば取り合えず寝ろ!

 川のほとりで、熊肉も食えたし。
 こいつの荷物は、まあ獣に荒らされてボロボロだったけど。
 すでに夜も遅い。
 このままやみくもに歩くよりも、しっかり休んで日が昇ってからの方がいいだろう。

「ここで……寝るんですか?」

 安心しろ、俺が見張っておいてやろう。
 俺は寝なくても大丈夫だから。

「良いんですか?」

 乗りかかった船だ。
 お前の相棒になってやる。

「はいっ!」

 しばらく寝返りをうっていたが、やがてスヤスヤと寝息が。

 うんうん、ようやく寝たか。
 
 実はさっきから気になることが。
 身体に力が漲っている。
 いや、刀身に?
 剣身に?
 
 そして、脳内に何やらポップアップぽい響きが。

【錆びだらけの古びた古臭い鉄くずのような剣から進化できます。進化しますか? はい いいえ】

 酷い言われようだ。
 でも進化できるらしい。
 剣が進化したらどうなるんだろう。
 手とか足でも生えるのかな?

 答え。
 錆びた古びた古臭い剣になった。
 錆びだらけよりは多少マシか。
 
 そして、いまこいつは俺を握って寝ている。
 ふふ……動かせる。
 ニコの身体が動かせることを確認。

 さて……色々と、検証をしてみよう。
 さあ、狩りの時間の始まりだ。
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