上 下
72 / 77
第1章:赴任

第61話:酔っ払いs

しおりを挟む
「ジャッキーさんって、本当に神様なんですかー?」
「にゃにおー! 私は、由緒正しい血筋の神様です!」

 にゃにおーって……
 あんたは、猫じゃなくて狼だろう。
 やばいな……
 ジャッキーさんに勧められるがままに、吞んでしまった。
 状態異常無効は流石に野暮なので、切っているけど。
 ほろ酔いを通り越してそう。
 いつの間にかビールがワインになって、それが焼酎になって……
 いまは熱燗を呑まされているところ。

「わたしの祖父も曾祖父も凄い神様なんですよ!」

 目の前の狼ほどではないけど。
 神様って、案外酒に弱いのかもしれない。

「そうそう、北欧神話! ちょっと、興味あったりするんですよね」
「ほう! ほうほうほう! それはぜひ、聞いてください! こう見えても血縁者なのでそれなりに裏話は知ってますよ!」

 いや、表向きの話なんだけど。
 神様の裏事情とかは、特に興味ないというか。
 それはそれで、興味あるけど。

「北欧神話の神様って、意外と下衆い人多いですけどね」
「……いきなり、批判から入りますか? 身内を前にして」

 思ったことを伝えたままなのに。
 まあ、いいや。
 色々と謎が多いというか、不思議な立ち位置の曾祖父の話でも振っとくか。
 良い酒の肴になりそうだし。

「ロキさんって、どういう人なんですか?」
「人じゃないですけどね……うーん、陽キャ? いや、チャラ男ですかね? まあ、リア充ではありますけど」

 この人も、大概酷いこと言うな。
 まあ、なんとなくイメージ湧かなくもないけど。
 やってることはスケールでかいけど、軽いイメージは確かにある。

 それから、色々と身内の話をしてくれた。
 親族会では、蛇や6本足の馬も来るから会場が面倒と言ってたけど。
 サイズが調整できるのが、せめてもの救いとのこと。
 スレイプニルさんの血縁も、ポニーのサイズにまで小さくなれるとか。
 ヨルムンガルドさんの血縁は、小さくなっても大蛇らしい。
 ヘルさんとこは、割と色々と腐ってるって言ってたかな?
 ナリさんとヴァーリさんは、ロキさんがあんなんだから根暗だとか……
 それで、知名度無さ過ぎて、いっつも誰それってってなってるらしい。
 酔った勢いで、凄いこと言ってたな。

 ペラペラしゃべっているけど、大丈夫かな?

「ヘル大叔母さんは、日本のイザナミ様と仲良くってですね! 婦女子連合なるものを作ってましたよ! で、腐ってないのにスキュラおばさんが無理矢理参加させられてて」

 いや腐女子連合じゃなくて、婦女子連合なら参加資格あるんじゃないですか?
 それにしても、スキュラおばさんって……

「クッキー作りが得意だったりする?」
「よく分かりましたね! 幼い頃にハロウィンの時に何度かお邪魔したことがありまして」

 そうなのか。
 イメージが全然湧かない。
 スキュラ……下半身犬の人。
 だからかな?

「あはは……分かりますよ、言いたいこと。ギリシャ組の中では一番私を可愛がってくれましたし」

 そういうことらしい。
 てか、巨人同士の間になんで狼と蛇が産まれたんだろう?
 というか、もしかしなくても托卵……

「酷いこと考えますね! ちゃんと曾祖父の血統です!」
 
 そうですか。
 村のあちこちで、酔っ払い共がはしゃいでいるが。
 一部、怪しい集団も。
 キノコマルを中心とした集団。
 車座になって、真ん中にお香を焚いているけど。
 絶対にあれだよね?
 ハッピーになるやつだよね?

「違います。魔物避けと、酔い軽減のあるお香です。皆さんが酔ってる時に、襲撃受けたらどうするんですか?」

 お……おおう。
 真面目か。
 逆に酔ってるんじゃないかなって思うのは、流石に考えすぎだろうか?
 あと、キノコマル以外、全員が目が逝ってるけど?

「まあ、私たちも魔物ですからね」

 ……じゃあ、駄目じゃん。
 とは、言えない雰囲気。
 キリっとした表情で、真面目そのもの。
 担がれてる?

「心外です! いつも、ふざけてばかりだと思わないでください!」

 なんだろう。
 正論だし、やってることは正しいのに。
 こいつにそれを言われるのは腹が立つ。
 やっぱり、呑みすぎたかな?

 なんか、話しかけにくい雰囲気だったので、ジャッキーさんの方に戻る。
 あっ、女性のゴブリンに囲まれてご満悦そう。
 ちょっと、風に当たってくるかな?

 そんなことを思っていたら、ジソチが声を掛けてきたのでキノコマルのことを聞く。

「ああ、あれですか? また、材木置き場でハッピーマッシュ量産して、ゴブサクさんとゴブオさんがブチ切れて全部焼き払ってしまって」

 そうか……なんとなく感じたけど。
 それで哀愁漂う背中になってたのか。
 拗ねてるだけだと分かって、一安心。
 また、一時したらおバカなキノコマルに戻るだろう。

 うわぁ、悪い顔して魔物避けのお香、おかわりしてる。
 完全に闇落ちした顔だ。
 もう拗ねてるというより、やさぐれてるな。
 グレてドラッグが絶てるなら、いいことだと思うが。
 あっ……

「痛いっす!」

 なんだ……と?
 ゴブオが背後から忍び寄って、キノコマルの頭にげんこつを落としていた。
 そして、それが当たっていたことにびっくり。

「ゴブオさんは、必中スキルの一つ親方のげんこつ持ちですから」

 そうなの?
 そんなスキルあったのか?
 俺も欲しいんだけど?

「ユニークスキルのなかでも、最上級にレアなスキルみたいですよ? アスマ先生が長い人生の中で必中スキルを見たのは、ゴブオで2人目だと言ってましたし」

 いや、長い人生というか。
 長すぎるうえに、人ですらないというか。

 とりあえず、皆が飲みすぎなのは分かったけど。

 明日は酷いことになってそうだな。
 やっぱり、状態異常を多少は軽減させておこう。
 
 うーん、ジャッキーさんがまたトッロトロになってるけど。
 回収した方がいいかな?
 てか、もう5時過ぎたけど会社に連絡とか?

「今日は半休とって明日も有給にしたので、オールナイトでいきますよー!」

 いや、そんな自由なの?
 ホワイトだなー……
 重役だからかな?
 それとも、俺以外はそうなのかな?

「うちは育休も取れますし、超絶ホワイトですよ?」

 絶賛、俺がブラック勤務に近いのですが?
 まあ、業務内容が仕事っぽくないから、別にきつくはないですけど。

「ふふ……時間の流れが違うので、別にあっちの世界の個人的都合は気にしなくてもいいですよー」

 いや、でもテレビの放送内容とか……

「タイムシフトで転移陣に戻るときには、転移した時間軸に近い時間に戻りますよ!」

 そういうものなのか。
 まあ、神の成せる業だな。
 それにしても……

「俺って、なんか物語の主人公っぽいですよね? 転生転移系の」
「どっちかっていったら、ラスボス系じゃないですか?」

 いや、なんで?

「戦力とステータスが凶悪過ぎて。骸骨やら魔王やら、交友関係がブラック過ぎて笑えます」

 そう言って爆笑してる狼を見ていると、考えるのがあほらしくなってくる。
 交友関係がブラックって、そういう意味なのだろうか?
 そういった点では、黒い大きな狼と懇意にしているこの関係が、黒い交際の筆頭だと思う。

「上手い事いいますねー!」

 まあ、あほなことを考えた。
 ただの社畜が、物語の主人公だとか。
 笑えない。
 よーし、今夜はとことん飲むぞ!

 敢えて口に出して宣言したら、周りから歓声があがる。

「これは、ワンチャンあるかも!」
「ロードの子種!」

 あっ、やっぱり状態異常解除して、一度リセットしておこう。
 なんか、背筋がゾワゾワしたし。

「無粋ですねー」

 いや、貴方が一番気を付けた方がいいと思うんですけど。
 既成事実作られて、異世界婚とか……曾祖父さんのこと笑えなくなるけど?

「じゃんじゃん飲みましょー! そうだ、会社の若い子も仕事終わるんで呼んでもいいですか?」

 うーん……ややこしい人じゃなければ。

「人じゃないですけどね」

 うん、ぜひ先に素面しらふの時に紹介してください。
 いきなり、飲み会に呼び出すのはお互い迷惑ですよ!

「一緒にお酒飲んだら、無問題モーマンタイ!」

 なぜ、中国語?
 あとそれ、アルハラだから。

「あははは、それ言ったら私が日本語使ってる自体がおかしいでしょう」

 笑うところ、そこ?
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 よろしくお願いいたします。 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...