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第1章:赴任

第38話:実験

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「そーれ! そーれ!」

 村の中心から大きな掛け声が聞こえてくる。
 いまやっているのは綱引き。 
 31人で。

 なぜ奇数なのかというと……

 俺対、進化ゴブリン30人での綱引き。
 1対30だ。

 ちなみに、現在綱はぴくりとも動いていない。
 というか、ワイヤーだけど。
 綱でやったら、途中で切れてけが人がでてしまった。
 ゴブリン側に。

 俺はさして踏ん張ってもいなかったので、なんともなかったけど。

 で、ワイヤーを使って仕切り直し。

「本当に出鱈目っすねー」

 キノコマルが何か言ってるが、気にしない。
 とりあえず、片手で思いっきり引っ張る。
 
「うわわあ」
「わあああああ」

 これ、接待……されてないよね?

「本気でやってる?」

 俺の一言に、対戦相手の30人から怒気が立ち上る。
 本気だったのかな?

「もっと、呼んで来い!」
「このままじゃ、終われん」

 気が付けば50対1。
 うーん……

「本気でやってる?」

 今度は全員が両手両膝をついて項垂れた。
 満身創痍だ。
 俺が接待すべきだったかな?

「本当に本気を出したら、どれほどの馬鹿力なんじゃお主は……」

 このワイヤー引きちぎれたりして。
 流石に無理かなー。

「あっ……」

 思いっきり両側に引っ張ったら、ブチブチっという音が聞こえたので途中でやめた。
 ゴブリン達がドン引きしている。

「50対1の綱引きに耐えられた綱が……」

 たぶん、いままでの引っ張り合いですでにダメージを負ってたんじゃないかな?
 綱引きの途中じゃなくてよかった。
 洒落じゃすまないけが人が出るところだったなー。

 ここは安心するところだろ?
 そんな微妙な目でみなくても。
 どんよりとした100個の目って、意外と圧が凄いんだぞー!

***
 ジャッキーさんに相談。

「だったら、弱体化の魔法を自身に掛けたらどうですか?」

 なるほど……そんなこと、できるの?
 そっち方面の耐性、かなり育ててるけど。

「あー……じゃあ、まずは耐性を剥がす魔法から」

 その魔法の耐性も万全。

「……全ての耐性を解除する魔法を」

 もちろん、対策済み。

「……詰んでますね」

 詰んでるとか言わないで、一緒に考えてほしい。
 
「というか、魔王とか目指してます?」
「魔王ならこないだあったけど、あれはやりたくないかなー」

 魔王ってなんか、大変そうだし。
 そもそも魔族でもない俺が、魔族の王なんて無理無理。
 支持率0%で、秒で政権崩壊だな。

「力こそ全ての人達ですよ」

 脳筋の集まりかー。
 賢そうなイメージあったのに。

「いえ、魔力や知識等含めて才あるものこそ正義という、国民性です」

 なるほど。
 でも、やりたくないなー。

「ちなみに、私が言ってる魔王ってのはゲームのラスボス系の方ですよ? 基本、デバフ無効で物理も魔法も馬鹿げたダメージを与えてくる方の」
「俺の知ってる魔王は、眠るけどね」
「……特殊な例を持ち出さないでください」

 ジャッキーさんが諦めて会社に戻って2時間後。

「できましたよ! ステータス確認してください」

 ステータスを確認すると、スキルのところにNEWの文字が。
 見ると、全耐性絶対貫通膂力魔力割合自在変動付与スキル。
 長いスキル名だなー……

「マジーン様に特別に作ってもらいました。サトウさん専用スキルですよ」

 とりあえず、無料でくれるらしい。
 さっそく習得。
 で、ジャッキーさんに。

「ちょっとー! 何してくれてるんですか!」

 割合を一厘にまで減らしたら、地面にペタンと伏せてた。
 すぐに解除する。
 
「へえ、本当に凄いスキル……あれ? ジャッキーさーん?」

 ジャッキーさんが消えた。
 と思ったら、数分で息を切らして戻ってきた。

「人に向けて使えないようにしてもらいました」

 なんだ、無敵のスキルゲットだと思ったのに。
 まあ、別に人に向けて使う気は無かったけど。

「真っ先に私に打っておいて、何を!」

 いや、神に効くなら間違いないかなと。
 自分で実験するの、ちょっと怖くて。

「あなたは、神をなんだと思ってるんですか!」
「上司?」
「上司をなんだと思ってるんですか!」

 そりゃあれだ……責任を押し付けて、手柄を横取りする……

「酷い上司ですね……私は、そんなことしたことないでしょう!」

 まあ、そうだけど。
 人に働かせておいて、合コン三昧なのはいかがなものかと……

「それを言われると、ちょっと痛いところではありますが……」

 ちょっとだけスッとしたので、改めて自分に。
 おお、凄い!
 綱引きで使ったワイヤーで。
 指でブチブチ切れる。

「な……何を?」
「割合を10割増しにしてみました。いや、変動って書いてあったから」

 盛大に溜息を吐かれた。
 で一応、色々と調整して3分くらいまでに抑えると、不意に力が入ってもガラスのコップが砕けるてい……2分で調整しておいた。

 まあ、ステータスの方はこれ以上増やすつもりもないし。
 てか、もしかしなくても人の町に行っても安全なんじゃないかな?
 護衛にゴブ美と……あとは、ジニーを連れて行ったら。

「問題ないとは思いますが」

 そっか、もしかしたら観光が出来るってことか。
 うん、ようやく異世界の町を見られるんだな。

「ある程度、覚悟はしておいてください」

 ん?

「中世風の文明度ですから……まあ、魔法のお陰である程度は衛生面はマシですけど、路地裏には入らないようにお勧めします。それと、民家と民家の間の狭い通りも歩かない方がいいですよ」

 なんだろう。
 スラムとかで治安が悪いのかな?
 でも、いまさら追いはぎやチンピラに絡まれたところで。

「上から降ってきますよ……その、人の排泄物とか」

 あっ、全然町に行きたくなくなった。
 ここの方がマシなのかな?

 ジャッキーさんが全力で首を縦に振るってる。
 マジかー……

「大丈夫ですよ! 大通りとか、表通りなら普通に綺麗ですから」

 なんの慰めにもなってないと思うけど。


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