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第1章:赴任

転勤は突然に

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「佐藤君、いまから君うちの取引先の取引先のお得意さんのところに出向ね」
「はっ?」
「転勤ってこと」
「今からですか?」
「うん、今から。だからこれ着けて」

 出勤して早々に専務に呼び出されて何かなと思ったら、まさかの異動。
 辞令って今の今出して、適用されるものなのか?
 いや、でも転勤って断れる……

「うちみたいな零細企業じゃ絶対に逆らえないところから、君がご指名されたから断れないの。ごめんねー」
「ちょっ、とりあえずどこにっていうか、取引先の取引先のお得意さんてうち関係ないんじゃ」
「必要なものは全部揃ってるし、何も心配しなくていいから。というか、とりあえずプロジェクトリーダーとしての指名だから細かいことは気にしないで? 元受けの元受けの取引先っていったら分かるよね?」

 分かんねーよ!
 末端の下請けの上だから中小企業の中くらいとしてその上……一部上場の大企業かもしれないけどそのお得意さんって……

「つべこべいわず、これ着けろや!」
「はいいいい!」

 まごまごしてたら、アイマスクみたいなの着けられた。
 それからヘッドフォンも。
 嫌な予感しかしない。
 てか、うちの専務がこんなおちゃめなことをするとは思ってもみなかった。
 グレイな感じのギリブラック手前くらいの会社だったけど、これは完全にアウトやろ。
 悲しいけど、この上下社会において平社員が専務に口ごたえなど出来るはずもなく。

 俺はそのまま車に乗せられて、ドナドナされていった。

「家の方は任せておいて。ドスキン入れて、定期的に清掃も入るし」
「いや、まあ……冷蔵庫の中身とか……」
「戻ってきたら、きっと大出世で給料もグンと上がるからさ。一応、冷蔵庫に何が入ってたか記録しといて戻った時に、同じもの買って支給するよ。まあ、もっと良いものが買えるくらいの給与にはなると思うよ」

 窓が塞がれた車に乗せかえられてアイマスクとヘッドフォンを外されると、専務とどうでもいいやり取りを。
 脳みそが追い付かない。

「僕も行ったことあるけどさ、大変なのは慣れるまでだから。あー、僕の時は勇者って呼ばれたなー」

 勇者?
 それは、実現不可能な難題ミッションに挑まされるから? それとも、社会情勢が不安定な中東あたりへの出向とかか?
 でもパスポートは家に……
 家にあるよな?
 社宅だから、管理人もグルってことで……

「じゃあ、ここからまたアイマスクよろしく。それじゃあ、頑張ってね。ウォースさん、佐藤君をよろしくお願いします」
「任せておいてくれ」

 どうやら目的地に着いたらしい。
 てか、運転手さん日本人じゃなかったのか。
 またアイマスクを着けられる。

「じゃあ、頑張ってね! 期待してるよー! 結構長い期間に感じるかもだけど、実際は短期の出張みたいなものだから! 体感では数年から数百年くらいの感覚かもしれないけどねー」

 なんか、最後に変なことを言われたけど。
 そのまま、ごつい手に引かれてどこかの建物の中に。
 そして、何かに乗せられた感覚が。

「えっ? なに、この魔力」
「うわぁ、これ魔神様の干渉じゃね?」
「ちょっと、ミラース様呼んできて!」
「間に合わない!」

 なんだろう、いい歳して恥ずかしくないのかなって言葉が聞こえてきた。

「なかなかいい素材みたいだから、先にこっちに貸してねー」
「うわっ、魔神様! いやいや、困ります! 佐藤さんはツベンヘルトの世界の勇者の補佐として見つけてきたんですよ!」
「彼がいないと、あっちの世界の平和が」
「そっちは、あとでねー!」

 そんな会話の後で、アイマスク越しで分かるような光を浴び。
 俺は意識を手放した。
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