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第5章:会長と勇者

第15話:クラタ覚醒

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「あくまで、このダンジョン内での制限緩和ですが……」
「分かったから、早くしろ」

 悪いが、今は少しでも早くあいつに会いたい。

「【事象消滅タイムエクステンション】」

 なんか不穏な単語が混ざっていたような。

「先ほど起こった出来事を消し去りました。どうぞ、ご自由に……」
「ああ……というか、普通に声が聞こえる」
「それこそ、今はどうでも良いでしょう」

 どうでも良いかな?
 うん、まあ良いか。

「ダンジョンの力って事か……」

 あー、いいタイミングに戻してくれたな。
 もう一度斬ればこいつは、ミカエルを盾にするはずだ。

「クソッ、来いミカエル!」
「えっ?」

 ほらっ、残念……フェイントだ。
 振り抜くとみせかけた剣をピタリと止めて、代わりに左の拳でミカエルの後ろにあるカイロスの顔をぶん殴る。

「ブッホ」

 ブッホって。
 今時、漫画でもこんなセリフ吐いて殴られる奴なんて居ないぞ?
 まあ良いや、ようやく拳でダメージを入れられたっぽくて少しスッキリ。
 カイロスから解放されたミカエルを抱き寄せると、そのまま後ろに庇う。

「なんだ、女を盾にしようとしたのか? 酷い奴だな?」
「なんで……なんで、たかが拳でダメージが」

 あー、取りあえず魔人化ってのを試してみないとな。
 やり方は知ってる。
 魔人になりたいと思えば良いだけだ。
 
「クラタさん、その姿は?」
「ま……魔人……」

 カオルちゃんと、ローレルが驚いている。
 うんうん、ミカエルが死んでないからカオルちゃんも普通に困惑してるだけだし。
 良かった。
 焦らしプレイのセーブポイントにはちょっとイラッとしたけど。
 まあ、嬉しいサプライズだから許してやろう。
 あと、声が綺麗だし。
 本当に女だったのか?
 いや、石ころだから性別は無いはずだ。 

「カッコいいです」

 これはセーブポイントの言葉だ。
 いくら綺麗な声とはいえ、急に手から女性の声が聞こえてくるのはちょっと気持ち悪いかも。
 
 あと自分自身は、どこがどう変わったのか分からんのだけど。
 頭に角が生えただろうことは、感覚で分かる。
 あとは、身体が少し大きくなったか?
 手は……爪が伸びてるな。
 これ、元に戻るのかな?
 背中に猛烈な違和感が。
 翼でも生えたか?
 例の頑丈な白装束のお陰で、背中がモコモコしてるっぽい。
 こういうところが、しまらないと思う。
 なので、取りあえず遠山の金さんよろしく上半身をはだけさす。
 半分なんてけち臭い事はしない。
 全部だよ。

「なっ……変身型の魔族だったのか? クソッ、ミカエル手伝え」
「黙れよ、屑が!」
「ヒャッ!」

 あー、これまた一から手加減の練習だな。
 本当に腹をつま先で軽く蹴ったつもりだったのに、天井に思いっきりぶち当たった。
 そのまますぐに落ちて来て、潰れた蛙のように地べたに這いつくばる。

「ふんっ、人の事を小虫だの羽虫だの言っておきながら、地面を這うお前の方がよっぽど虫らしいじゃないか……まあ、女を盾にするようなゴミにはお似合いの姿だな」
「グッ」

 そのまま背中を思いっきり踏みつける。

「虫けらみたいに、このまま地面で踏みつぶされるか?」
「【再起必倒ワンモアタイム】」
「学習しない奴だな……ここをどこだと思ってるんだ?」

 あれっ?
 徐々に回りの時間の流れが緩やかになっていくのを感じる。

「フフフ……完全にマスターとカイロス以外の時間を制止しました。こんなことも出来るんですよ? 時間を気にすることなく好きなだけいたぶってください」

 どうやら、セーブポイントも若干怒ってたらしい。

「なんだ今の波動は……あれっ? 周囲の時間が……そうか、クロノだな!」

 おお、そういえばさっきセーブストーンのメッセージでクロノの能力制限解除って出てたな。
 もしかして、中の人とか居るパターンなのかな?
 でもって、名前はクロノ?
 ただの、石ころじゃなかったのか?

「たかが中級神の癖に私を呼び捨てですか……少し会わないうちに偉くなったものですね」

 制止した時間の中のせいか、クロノの能力下だからか脳内に直接声が響き渡るようになった。
 そして、カイロスにも声が聞こえているようだ。
 
「貴様が!……貴様が邪魔してたんだな!」

 なんだろう……まるで俺が無視されてる。
 悪いけど、今の俺の前じゃカイロスなんて雑魚にしか見えないんだけどな。

「あー、別にこいつの力なんかなくても、普通にお前如きどうとでも出来るが?」
「ちょっと上位神を味方に付けたからって、調子に乗るなよ! 貴様なんかクロノが居なければ」

 まあ、実際に魔力操作を覚えたわけだし俺も魔法使ってみたいしな。
 
「マスターは魔力を扱えても、体内の魔力は使えませんが?」

 そうだった……
 魔力を外に放出する器官が備わって無かった。

「ですが、魔石を使えば魔法を使う事が出来ます。魔力を溜めた石ですね。使える魔法も今は私の魔法の一部くらいしか使えませんけど……」

 ガッカリ。
 いや、時空魔法を操れるって事か……
 いや、もしかしたら時間そのものを操れたり。

「はあ……お前を殴ったのが誰だか分かって無い訳じゃ無いよな?」
「グッ……なんでダメージを!」
「俺が怒ってるからじゃ無いか? というかさ……お前、自分の立場分かってるのか?」
「えっ?」

 さっきまでは自分の力を確かめる意味もあって、一発ずつ軽く殴ってみたんだけどね。
 十分通用するって分かったからには、とことん力の差を理解してもらわないとな。

「俺の力を知らぬのならそれも仕方あるまい。どれ、先に攻撃させてやろう。絶望を味合うが良い」
「貴様! 馬鹿にするのも大概にしろ! 【時空切断ディメンションソニック】」
「そんな遅い攻撃喰らうかよ!」

 カイロスから放たれた斬撃をあっさりと躱すと、もう一度顔面を殴りつける。

「つっ! クソが! 【時空切断ディメンションソニック】」
「お前は、それしか使えないのか?」

 また同じ攻撃……当たらなければどうという事は無いのに。
 
「馬鹿め! 【時空消滅ディメンションエンド】!」

 っと、躱したところに球体を飛ばしてきやがった。
 斬撃よりもはるかに速い球体に避けきれず、肩に直撃を喰らう。

「喰らったな! これで終わりだ!」
「そう焦るなよ……」

 再度攻撃をしようとしてきたカイロスの手を掴む。
 
「なっ! 当たったはずだろうが! なんで無傷なんだ!」
「ふんっ! 効かなかったからろ?」

 あぶねー。
 50%の確立での特殊状態異常無効が運良く発動したお陰で、怪我が無かったことになった。

「空間を削り取るんだぞ? 再生すら不可能な消滅効果なのに……」
「だからなんだ? そんなもん、俺には効かないってだけだ……」

 これ以上遊ぶとボロが出そうなので、怒りにまかせてボコボコにしとこう。
 
「フヒッ……た……助けて……」

 うん、宣言通り目も開けられないくらいボコボコにしたった。

「もう一度、時間を戻してやり直しますか? 勿論カイロスの記憶はそのままにしておきますが」

 お前は鬼か……良い案だ。
 乗った!

――――――
「……ハハ……ハハハ……アハハハハハ……拳がいっぱい……殴られるの気持ち良い……」」

 ……やり過ぎた。
 恐怖や痛みを通り越して、快楽に変わってしまったらしい。
 もう良いや。
 折角さっきまでスッキリしてたのに、いまは気持ち悪い。
 殺そうかとも思うが、こいつには重大な役割もあるし。

「これに懲りたら、俺達に手を出すなってご主人様に伝えとけ」
「ハハハ……それ報告したら、チジョーン様何してくれるかな? もっと痛い事してくれるかな?」

 あー。
 なんか、チジョーンにも申し訳ない気になってくる。
 部下がこんな気持ち悪い奴になって帰ってきたら、どんな気持ちになるんだろ?

「あー、クロノさん?」
「石ころと呼ばないんですか?」
「うーん、まあそれは置いといて、こいつもう外に捨てて来て」
「フフッ、分かりました」

 目の前からカイロスが消える。
 うん、時間が動き始める。

「あれっ? カイロス様は?」
「あんな奴に、様なんていらないだろ? 適当にぶん殴って外に捨ててきた」
「えっ?」

 ミカエルの顔が青いけど、大丈夫かな?

「神より強いダンジョンマスター?」
 
 俺に怯えてただけか。
 大丈夫、子供と女性には優しいから。
 てことで、ちょっとあっちでゆっくりお話を……
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