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第5章:会長と勇者

第5話:それぞれの迎撃準備後半

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 イコールのダンジョンは普通だった。
 クアザイ・ヴァルハラ……偽りの神々の座という意味らしい。
 うん、ダンジョンの名前まで謙虚。
 まあ良いや、普通だけど凶悪。
 普通の罠を上手に使ってる。

 まず転移の罠。
 これ、ちょっと違う部屋に転移するだけの罠。
 1cm浮いた状態で。
 転移した瞬間に着地、その床も転移の罠。
 違う場所に1cm浮いた状態で転移。
 そして着地、また転移。
 無限ループ……

 工夫して罠を設置したら、有効的に敵戦力を減らせると言ったけど。
 工夫の方向が違う気がする。

 類似品に落とし穴、転移、その場所の天井付近、足元は落とし穴という永遠に落ち続ける落とし穴とかもあった。
 ちょっと楽しそう。

 手が引っ付いて離れなくなるタイル壁。
 5秒で離れるタイルから、最長100年離れなくなるタイル。
 普通なら手が引っ付いて離れない罠とか腕を切り落として、回復に掛けるレベル。
 欠損を回復させられるのはかなり高位の回復魔法。
 
 でも、他の人が5秒や、一番多い5分~10分で離れたら、自分も待っとけばまあいつか離れるだろうと思って待つよね。
 しかも、ここは魔物を配置してない部屋。
 不安になった頃に離れる30分~1時間コースもある。
 諦めかけた5時間コースとか?
 そんなの小刻みに見てたら、いつか自分もと思うよね?
 集団攻略部隊用の罠らしい。
 
 狭い通路みたいな部屋に設置してあるから、つい触れてしまうレベル。
 でも、全てのタイルに罠がある訳じゃない。
 ちなみに1人が罠に掛かると、後ろの人達は必ず反対側のタイルに触れないと進めないレベルで狭い。
 で、たまに両方に罠があったりする。
 両方に掛かると、誰も進めない。

 うん……なんか、方向性がおかしい。

「色々と考えてたら楽しくなってしまいまして。小声で喋ったら声が10倍の大きさで10回程リピートされる罠とか」
「なにそれ。意味あんの?」
「自分の声って、実は聞いてみると自分で思ってたのと違って変な気分にならないですか? あと小声で喋る内容って色々ありますからね。 ちなみに魔物も罠も無さそうな見通しのいい広い正方形の部屋に設置してあるので、警戒して小声っていうより、くだらない内容度が高そうですし」

 地味な嫌がらせだな。
 うっかりその部屋で上司の悪口でも言おうもんなら……地獄だな。
 なんか、特に得られるものも無かったけど、楽しそうだったからまあ良いか。
 どっちかっていうと、悪戯っぽい罠の方が多かったわ。
 装備が前後ろ反対になる罠とか、転移を上手い事使ってるらしいけど無駄遣いだよね?
 水筒の中の水だけ頭の上に転移とか……真面目にやる気あるのか?

――――――
「はあ……罠ってこれだけなのか?」
「えっ? これで十分かと」

 でももっと酷い奴が居た。
 テューポーンのダンジョン。
 全力で力を掛けて造った罠が一つ。
 部屋単位で発動する罠。
 しかも回避不能レベルの特級の罠。
 高額ポイント商品らしい。

「ソロで挑むような冒険者相手だとあまり意味ないよな?」
「まあ……」

 確かに人間が一人でドラゴンに勝てるなんてのは、まずありえない。
 普通はね。
 でも、そういう事が出来る人も居たりもする。
 むしろそれに特化した人。
 竜専門の退治屋。
 ドラゴンスレイヤーさんだ。
 この世界に3人しか居ないらしい。
 3人居たら充分だろう。

 テューポーンや上位種をソロ討伐は無理でも、並以下のドラゴンならソロでも狩れるらしい。
 上位種でも準備をしっかりしてれば、可能性はあるとか。
 なのに、ここの罠は1種類。
 入ったものを一人ずつ個別で、順番にドラゴンが待機する部屋に飛ばす。
 待機しているドラゴンは1000体。
 だから、1000人までなら1対1になるらしい。
 入った瞬間に転移するから、2人目以降は用心するだろうね。
 その部屋を通らないと次にはいけないらしいから、必ず通らないといけない場所だけどさ……
 俺も普通に全然知らないドラゴンの部屋に飛ばされた。
 ここでドラゴンと戦うのも、目的と違うし。
 そもそも、転移先に魔物を普通に用意してるだけどか……
 仕方が無いから変化を解いて話しかける。
 
「テューポーン居る?」
「えっと……無理……」

 20%状態の俺に対して、目の前の若い地竜が頭を地面に付ける。

「あー、違う。俺クラタだから。お前んとこの主と同盟組んでてって聞いてない?」
「はっ! 会長様でしたか。テューポーン様なら、こことは全然違う場所に居ます。一応ご案内致しますが、40分くらい掛かります」
「この罠は?」
「はっ、1対1なら人間相手にまず負ける事は無いだろうと、入り口に入った瞬間に飛ばすようセットした罠です。部屋自体が罠なので回避不能です……何か、お気に召しませんでしたでしょうか?」

 地竜が不安そうにこっちを見上げる。
 お気に召さないというか……全然俺の言った事を理解してなかったようだ。
 いや、それとも理解したうえで誤魔化しにきたのか?
 
「入った奴等は全員この部屋に来るのか?」
「いえ、2人目は隣の部屋、3人目はさらに隣と1000人まで対応しております」
「はあ……有難う、もう転移で行くから良いよ」

 セーブポイントに頼んで、テューポーンの部屋まで転移で連れて行ってもらった。

「取りあえず、やり直しな?」

――――――
 まあ、ある意味で有意義な視察だったわ。
 特に優秀だったのは、メガララか?
 イコールのは何ていうか……まあ、本人が楽しいなら良いや。
 罠としては、割と凶悪だしね。

『あの……ブラムスのところには行かなくても良いのですか?』
「様付けなくなったのね」
『もはや、マスターよりだいぶ格下になりましたので、わざわざ敬意を払う必要も無いかと』
「そう? てか、ブラムスとなんか約束してたっけ?」
『えっ? 会議の後、物凄く張り切って罠を作りに戻ってましたが?』

 ああ、そういう事か。
 そう言えば、一応ブラムスも同盟参加者だったわ。
 視察か……
 取りあえず行くか。

「まあ、良いんじゃ無いかな? 一つ言えるのは、普通過ぎて面白くない」
「えっ? 面白いっていうのは指示に無かったのですが?」
「あー、そこは個性出してねって意味。別に面白いは必須じゃないからいいけどさ」

 ガッチリ無難に固めてきやがった。
 文句の付けどころは無いし、褒めるポイントもある。
 でも、光る部分は全くない。
 普通にふるいに掛けるだけで、抜ける奴は抜けるだろうね。
 65点

「それは、良いのでしょうか?悪いのでしょうか?」
「あー、テューポーンのダンジョンの罠が20点だと思えば」
「有難うございます!」

 おお、めっちゃ喜んでる。
 でも、マッチョなイケメンおっさんなんだよねコイツ。
 全然可愛くない。
 もう帰ろっと。

――――――
『ここの罠も増やしました』
「ほう……どんな?」
『ダンジョンに入ったら転移の罠が発動します』

 テューポーンと同レベルだったわ。

『マスターが入り口に自動で飛ばされます』
「ちょっ! お前が楽したいだけじゃねーか! しかもテューポーンよりひでえ!」

 あいつらはまだ部下に戦わせてるけど、こっちはいきなりマスターが飛んでくるとか……
 なんだ、通常運行だったわ。
 いや、そうじゃねー!
 今までは、わざわざセーブポイントが関知して、転移で飛ばしてたのをオートメーション化しただけとか。

『一番被害の少ない形です』

 反論出来ねーよ!
 ちくしょう!

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