チュートリアルと思ったらチートリアルだった件

へたまろ

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第二章:ダンジョンマスターと魔物と人とチーター

閑話:擦れ擦れスレイプニール

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 俺はスレイプニル、この世に存在する全ての馬のトップに立つ存在だぜ?
 昔にゃ、オーディンっていう神の中でも偉い奴を乗せた事だってあるんだ。
 まあ、お袋は悪戯好きの神様のロキだから、文字通り神馬って奴だな?
 知ってるか? お袋……男なんだぜ?
 で、親父は魔法の馬だ。
 まあ、ちょっと色々とあったんだよ。
 両親野郎って、そりゃ俺だってぐれるってもんよ。

 おっと嬢ちゃん、迂闊に近寄るんじゃねーぜ?
 俺に触れると火傷するぜ?
 文字通りな?鬣燃えてるんだからさ。
 いや、最初は燃えて無かったんだけどな。
 何故か俺の鬣が燃えてるってデマが広まったから、敢えて燃やしてんのさ。
 本当は、燃えるような鬣ってだけだったのに。
 
 悪魔の子。そこのけそこのけ王馬が通るってぐらいにゃ有名でさ? 俺の巨体が駆け抜けた後は、本当にひでーもんだよ。
 踏みつぶされた悪魔やらなんやらが、数えきれない程寝転がって血の道を作ってやがる。
 まあ、なんの障害にもならねーんだけどさ。

 おっと、話が逸れちまった。
 そんな俺なんだが、いま困った事態になってるんだ。
 分かるか?
 ダンジョーン様が勝手に俺を天界から連れ去って来て、ダンジョンの守りに据え置いたのは良いんだよ。
 そこまでは、良いんだ。
 だけどな?
 肝心の仕える主を完成させる前に、逝っちまいやがった。
 なんてこったいだよ!
 取りあえず、最後の指示は背後の扉を死守せよだったけどさ、そもそも飯とかどうなんだって話だよ。
 ハハハハ! 笑えねーわ!

 そんな事を考えていたら、背後の扉が開く音がする。
 おいおい、守るべき扉から侵入者って意味分かんねーわ。
 人か?
 ちょっと、魔族っぽい匂いがするがどう考えても人だよな?

「ブルルル!」

 取りあえず、思い切り威嚇してやろう。
 ビビッてちびるなよ?

「どうどう」

 おう? 意外と肝が据わってんな兄ちゃん。
 なんで、そんなに目をキラキラさせてんだ?
 俺に、乗りてーのか?
 駄目駄目だ、俺に乗ったら燃えちまうぜ?
 それ以前に、俺よりよえーやつはお断りだ。

「ブルルルウッ!」

 後ろ足で地面をカッカッと蹴って、これから突っ込んでやるって教えてやる。
 優しいだろ?
 避けろよ?
 避けれるならな!

 地面が弾けるような勢いで蹴りつけて、一気に加速する。
 後ろ足だけで4本あるんだ。
 一気に最高速だぜ!
 ヒャッハー!

 ガシッ!

「ブルッ?」

 はっ?
 簡単に受け止められたんだけど?
 あれ? 人間じゃねーのコイツ?

「やっぱりダメか……」

 ブチッ、ブチッ……
 痛いんだけど?
 燃える鬣をものともせずに、毟り始めた男に初めて恐怖を覚える。
 でも、この程度で屈する俺じゃねー!

「コイツが乗せてくれたら移動が楽になるのに」

 ブチッ、ブチッ……
 何やら落ち込んだ様子で、ぼやきながら俺の鬣を毟るな!
 これは草じゃねーんだぞ!

 気を取り直して、再度地面を蹴るがビクともしない。
 なにこの人……怖いんだけど。

「はあ、回復しながら移動できるとか最高なのにな~」

 ブチッ! ブチッ!……
 なんか、毟る勢いが上がってるんだけど?
 というか、チラチラこっちみんな。
 
 たかが人間の分際で、こうなって痛い痛い痛い痛い!

「乗せてくれないんなら、こんな鬣要らないよな?」

 怖い怖い怖い怖い。

「それに、さっきから足癖も悪いし」

 ポキポキポキポキポキポキポキバキッ!

「ヒヒーーーーーーーーン!」

 こいつ頭おかしい。
 表情一つ変えずに鬣全部毟った挙句に、小枝を折るように俺の足全部折りやがった。
 ちょっ、やめて! 来るな! 来るなって!

「そんな、馬ポーイだ!」

 あっ、あかん……死ぬる。
 最後に見た景色は顔面に迫りくる壁とか。
 俺、マジでなんでここに呼ばれたんだろう……

――――――
 アスモデウス弱いものトライアルいじめ終盤

 ゾクリ……
 背後の扉から、とてつもない気配を感じる。
 これが、強敵ともか。
 いや、悪魔だ。
 地面を蹴って、襲撃に備える。
 その扉を開けた瞬間に、全力でぶちかまして壁の染みにしてやろう。

 ガチャッ!

「ヒヒーン!」
「なんだ、まだやるのか……」
「ヒッ!」

 受け止めただ……と?

「まあ、いいや。ヨーシヨシヨシヨシ!」
「ブルルルルル」

 やめろ、首が! 首が取れる!
 くそっ、馬鹿力め!

「こわくない、こわくない」

 凄い勢いで、鬣ごと首をワシャワシャされたから、つい思いっきり頭に噛み付く。

「ほらっ、こわくない……ねっ……」

 こいつ、怖い!
 ゴリゴリゴリゴリ。
 歯が震えて噛み合わないけど、こいつの頭を離したら確実にやられる。
 いや、殺られる。

「おびえていたんだね、でももう大丈夫」

 全然大丈夫じゃねーよー……
 こえーよこいつ……
 ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ!

「鬱陶しいわ!」

 バキン!
 あっ、首折られた……
 すげー、つまらないものを見るような眼で見下される。
 涎だらけの人間に。
 なんなの、ここ……

――――――
 心を折って、膝を折ったスレイプニル

 あっ、駄目なやつきた。
 こいつ、絶対勝てねーわ。
 だって、元ご主人様オーディン様と同じような匂いがする。
 扉から入って来たの人間だけど、あれ絶対人間じゃない。
 どうぞ、お通り下さい。

「おっ、殊勝だねー。じゃあ、お邪魔します」
 
 邪魔しないように、膝を折って大人しくしてたのに何を思ったのか背中に乗ってきた。

「うーん、座り辛いな」
 
 お尻をモゾモゾさせる人間。
 もう乗られてるし、ご主人様で良いや。
 雰囲気というか、オーラ似てるし。
 あっ、鬣の火が燃え移ったら大変。
 消さなきゃ。
 えっ? 消さなくていい?
 炎熱吸収スキルあるから、燃えてると回復出来て助かる?
 そうですか。
 えっと、御主人様は人間……なわけないですよね。
 火に触れて回復するなんて、聞いた事ないですし。

「ちょっと、待って」

 ご主人様が、右腕に何か話しかけると無機質な石の床だった辺り一面が牧草地帯になる。
 ご丁寧に疑似太陽と、自然の風と同じような風が吹く心地よい草原。
 まるで、ヴァルハラの草原に似ている。
 ああ、貴方が神か……
 どこまでも、お供します。
 全力で走り回ってみたが、全然振り落とされる様子も無い。
 オーディン様ですら、馬具無しでは乗れなかったのに。
 ああ、幸せ。
 
 その後、御主人様が腕を見て凄く嫌そうな顔をしたと思ったら、部屋の一角に広い屋根付きの厩舎が現れた。
 もう、驚かない。
 きっと、この人はダンジョーン様の隠し子に違いない。
 だって、オーラが神様みたいなんだもん。
 
――――――
スレイプニル:神話にでるくらいの老馬

スキル
・瞬間加速
他色々……
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