チュートリアルと思ったらチートリアルだった件

へたまろ

文字の大きさ
上 下
41 / 99
第二章:ダンジョンマスターと魔物と人とチーター

第10話:残念吸血姫カーミラ 中編

しおりを挟む
「貴様!」
「待て、トルド!」

 同僚を殺された怒りからか、さっきまで無表情だったもう一人の男ヴァンパイアが剣を抜いて飛び掛かって来る。
 勢いは凄いけど、トルドと呼ばれた男の表情は相変わらず無表情だ。
 こえーよ。

「助けてファング!」
「アウーン!」

 俺の元に飛び掛かって来たトルドに対して、ファングが横から体当たりをかます。
 ついでに、腕も食いちぎったようだ。
 あらやだ、うちの子が優秀すぎて困っちゃう。

「お主……生まれたての癖に、そんなものまで隠しておったのか? お主……生まれたての癖に、そんなものまで隠しておったのか? 召喚獣か?」
「いや、こいつが本当の最後の守護者だよ?」

 吹っ飛んでいったトルドを追いかけて、その首をかみ切ったファングが戻って来て俺の横に座る。
 こんな場面なのに見上げられると、つい頭を撫でてしまう。
 ワシャワシャワシャ。
 可愛い。

「くっ、いかに従魔が優れておっても、お主自身は生まれたてひよっこ……しかも半分人間では無いか。さては、お主は戦えぬのでは?」
「そんな安い挑発には乗らないよ?」

 他の2匹の狼は、フェンリル相手に完全に戦意を喪失してるっぽいし。
 正直、俺の元に辿り着けたかも怪しいけどさ……
 多分、セーブポイントはこいつを配下に加えたいから俺を呼んだんだろう。
 でも、その前に……

「でも、敢えて乗っちゃおう。来いよ! 1対1で相手してやるよ」
「生意気な……」

 スレイプニルから降りた方が良いかな?
 それとも、この状態で戦って「貴様なぞスレイプニルの上でも十分だ!」をやらかしちゃう場面か?
 いや、スレイプニル自身結構な戦闘能力を有してたわ。
 でも、それ言ったらどこぞの世紀末覇者の馬もだから、条件一緒か?

「下馬せぬか、無礼者が!」

 そんな事を考えてたら、何やら赤い斬撃が飛んできた。
 あれか、血を飛ばしてきたんだろう。
 元々、高位の吸血鬼って血の球体が本体って説もあるし。
 仕方が無い、ここで培った身体能力を使ってアクロバティックに躱すか。
 
 血の斬撃に対して、スレイプニルの背中を蹴って空中で伸身3回転の2回捻りを加えて躱して地面に降り立つ。
 うん、ファングが火球飛ばして相殺したせいで、勝手にビビッて大袈裟に避けた人みたいになった。
 恨むぞ?

「クーン?」

 ファングに不安そうな表情で見られると、許さざるを得ない。
 もう一度言おう。
 許さざるを得ない。
 でも、今は褒めてる場合じゃ無いな。
 カーミラさんの顔がめっちゃ紅潮してるもん。
 元々白いだけに、分かりやすい。

「スレイプニルに、フェンリルの子狼……さらに生まれたてとはいえ、ダンジョンマスター相手にわし一人は流石に分が悪いか?」
 
 だが、すぐに落ち着いた。
 なんだろう?
 感情を抑えるスキルでももってるのか?
 それとも、やっぱりダンジョンマスターは精神力が高いのだろうか?

「メラミの町に向かわせた眷族どもを呼び寄せるか……」

 同時進行で、メラミの街に強襲を掛けてたらしい。
 向かわせたとか言ってるけど、実際はここに入った時点でその眷族たちも1歩も進んで無いんだけど。
 教えた方が良いのかな?

「はあ……1対1で相手してやるって言ってるだろ?」
「嘗めるな! そんな事言って、どうせピンチになったらそこの馬と狼をけしかけるのだろう!」

 こいつ面倒くさい。
 俺的には未知の攻撃で、新耐性ゲットしたいところなんだけど?

「良いからとっとと掛かって来いよ! 最初の1撃は譲ってやるよ」
「なんだと? そのような余裕を見せてよいのか? だが、ここは格上としての威厳を見せるために逆にお主から掛かって来ても……」

 最後ボソボソってなってて、よく聞き取れなかった。
 たぶん、プライドと不安がせめぎ合ってるのだろう。
 この人、存外残念な人だ。

「はあ、俺が迎え撃つ形なんだから、良いじゃん。そっちが攻めて来てる側なんだし。気が変わらないうちに来いよ」

 まあ、よっぽどの事が無い限り気が変わる事は無いんだけどね。
 いまだ見ぬ攻撃に、めっちゃ興味深々だし。

 ……
 ……
 ……

 長いな……
 そんなに悩む事か?
 めっちゃ悔しそうな顔して俯いた。
 おお、上げた顔が若干スッキリしてる。
 覚悟決めたようだ。

「その言葉後悔するなよ!」
「消えた?」

 目の前に居たお姉さんが消えたかと思うと、背後に気配を感じる。
 
「わしに血を吸われたものは、我が眷族となるのだ。ハハハ! ヴァンパイアを嘗めすぎたな! いかにダンジョンマスターとはいえ、半分は人。この牙を受けて……」
「受けて?」
「受へへ……はへ?」

 ああ、吸血耐性取れるかと思ったけど、そもそも刺突無効があるから牙が刺さらないんだった。

「えいっ!」
「……」

 えいっ! て急に可愛いな。
 一度口を離したカーミラが再度噛み付いてくる。
 そして、そのままハムハムと首に噛み付く。
 セーブストーンから、セーブポイントがだんだんと不機嫌になってくるのが伝わってくる。
 同時に、ファングの機嫌も悪くなってくる。

「アウーン!」
「痛い!」

 いつまで経っても離れないカーミラに、痺れを切らしたファングがとうとう体当たりをして吹っ飛ばした。
 個人的には、首を美女に甘噛みされるご褒美の真っ只中だったから、ちょっと残念。
 嘘です、助かりました。
 どうしようかと、思ってたので。
 だから、睨むなファング。
 
「嘘つき……」

 そして、カーミラに嘘つき呼ばわりされた。
 いきなり体当たりされてびっくりした顔からの、頬を膨らませて見上げるように呟かれるとその。
 酷い話だけど、これなんてご褒美。
 もしかして、RPGじゃなくて恋愛シュミレーション?
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...