チュートリアルと思ったらチートリアルだった件

へたまろ

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第一章:チュートリアル

閑話1:ファングの場合

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 気が付いたら狭い部屋に居た。
 どうやらフェンリルという種類らしい。
 オリジナルがフェンリルだから、そのまま種族名にしたとか……安直。

 生まれたばかりだが、何故か色々な事が理解できる。
 作られた存在かもしれない。
 背後にある扉を守れという事だったが、その扉を見ていると不意に開いた。
 なんで?
 そっちから来るの?
 正面じゃなくて?

 そして、扉から出て来たのは凡庸な人間。

 目の前に広がった部屋をキョロキョロと見渡しているが、隙だらけだ。
 試しに唸ってみると私を見て固まる。
 なんだ?
 もしかして、これが餌なのか?
 そう思って、飛び掛かって喰らい付く。

 硬い……
 全然牙が通らなかった

 イタイ……
 と思ったら思いっきり鼻っ柱をぶん殴られた。
 女性の顔に手をあげるとは、酷い奴だ。

 何か叫んでいるが、良く分からない。
 取りあえず餌と同時に敵だと認識。
 そうか、生まれたばかりだから実戦訓練も兼ねた食事。
 様子見で爪で攻撃する。

「ってー!」

 あれ?
 今度は簡単に斬り裂けた。
 どういう事だ?
 もしかして、一回で切れるような防御力強化の魔法でも使っていたのか?
 再度噛み付く。

「だから、それは効かねーっての!」

 またも牙が通らず、殴り飛ばされた。
 イタイ……
 二度もぶった! 親父にもぶたれたことないのに! という言葉が脳裏を過った。
 私に親は居ない。

 思い切り魔力を乗せて睨み付けたあとで、踏み付けて切り刻む。
 うん、爪だとあっさり切れるという事は私の牙って飾り物なのかな?
 そして牙が通らないこれをどうやって食べたらいいのかな?
 教えて偉い人。

――――――
15回目

 なんなのこの人間は!
 後ろの扉から入って来たからてっきり餌だと思ったのに、こっちの攻撃が全然通用しない。
 守るべき扉から入って来たから、私もなんのためにこんなに頑張って戦ってるんだろう? と疑問に思ったりもしたが、油断したら殺される。
 というか、なんで後ろから来るの!

「キャイーン!(目が! 目が~!)」

 イタイイタイイタイイタイ!
 こいつ信じられない!
 レディの目に親指突き刺しやがった!
 ぶっ殺す!
 ぶっ殺す!
 ぶっ殺す!

「ガアッ!(【大炎球フレイムショット】)」

 なんだ他愛無い……というか、この目治るのかしら?
 あれ? 気配が!

 イタイ!
 熱い!
 イタイ!
 熱い!
 なんで?
 誰に?
 こいつ効いてないの?
 なんで死なないの?
 ちょっと痛いってば!

 なにアイツ!
 超キモイ!
 なんで死ぬ瞬間笑ってんの?
 全身炭化しながら笑うなんて信じられない。

――――――
31回目

 ちょっと、なんで後ろからこんな強い奴が来るのよ!
 聞いてないわよ!
 目の前の扉から来た奴を、後ろの扉にいかせない為に私居るんじゃないの?
 というか、強すぎるでしょ!

 ああもう腹立つ!
 こんなの聞いてないわよ!

「グアアアアア!(ちょっと、離れなさいよ!)」

 生意気にも目の前の人間がこちらを挑発するように、こいこいと手を振っている。
 生まれたばかりだけど、私にだって誇りはある。
 その誇りを傷付けられたんだ。
 許さない!
 殺す!
 絶対に殺す!

「ガアッ!(【大炎球フレイムショット】)」
「それも、もう効かねーよ!」

 えっ?
 牙も爪も通らないのに、私の必殺技まで……
 イタイ!
 イタイ!
 あっ、駄目だこれ……
 これ、駄目な奴……
 死ぬ……

―――――――
ヨシキ:レベル90

 ゾクッ……
 なに……こいつ。
 急に背後から現れた巨大な気配に、一瞬で身構える。
 不用意にこっちに向かって進んでくる人を相手に思わず後ずさる。
 まさか、人ごときにフェンリルたる私が下がらされるなんて……
 向こうは余裕があるのか、その場で立ち止まって首を傾げている。
 あっちが下がったので、一歩で飛び掛かれる距離を保つためにこっちも前に進む。
 こっちの一歩の方がはるかに長く、手のリーチもこっちが上だ。
 だけど、頭に警鐘が鳴り続けている。
 と思ったら、相手が踵を返した。
 来ないなら放っておけばいいのに、臨戦態勢のまま最大限にまで高められた緊張感が急にいなされた為、無意識に飛び掛かってしまう。
 そして振り向きざまに蹴り飛ばされた。
 
「ガッ……(さ……誘われた?)」
 
 驚くことにその一撃だけで、私は壁にまで蹴り飛ばされたのだ。
 なんでなんでなんでなんで!
 私何か悪い事した?
 こっちの扉から来るって事は、私を管理する側の人?
 来ないで!
 来ないで!
 来ないで!
 来ないで!

 無我夢中で火球を放ち続けるが、
 うそ……でしょ?
 な……んで?

 驚くべきことに、私の火球を全て受けきって目の前までに来たソレに恐怖が隠し切れない。
 避けるでも無く。
 捌くでも無く。
 正面から火球にぶつかりながら。
 速度も落とさず。
 傷も負わずに、向かってくるソレ。
 もはやソレは人なんて生優しいもんじゃない。
 魔王……いや、魔神?

 苦し紛れに放った爪すらも通らず。
 逆にあっちが軽く突いた拳が私の腹を貫く……
 死……にたく……無い。
 せめて……私が何したかだけでも……教えて偉い人。

――――――
クラタ:レベル135

 あ……ダメな奴だ。
 この人、無理……というか、人ですらない。

「クーン(助けて……)」

 その人は暖かく力強い手をこちらに向けてくる。
 一瞬恐怖で固まってしまう。

 あふっ、気持ちいい……
 と思ったらメッチャ頭撫でられてる。
 超上手!

「ハッハッハッハッ!(こっちも、こっちも!)」
「おいおい……出会った当初の野生はどこいったよ……」

 寝転がって腹を見せると、めっちゃワシャワシャと撫でてくれる。
 あらやだ、超上手!
 というか、出会った当初の野生とか言う辺り、この人が私を拾って来たのかな?
 ていう事は、私のご主人様!
 いや、強くて素敵!
 でも、私がここを守る意味あるのかな?
 あれか、やっぱりいきなり主人が相手する訳にもいかないから、ふるいにかける役割ね!
 私納得!

 良かった!
 私が負けても、この人ならきっと仇とってくれそうだし。
 うん。
 一生付いてくワン!

――――――
ファング:0歳







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