上 下
23 / 99
第一章:チュートリアル

第23話:プレイヤーはチートです

しおりを挟む
「アーマーオーガだと!」

 20階層のボス部屋を反対側から入ると、貧相な皮鎧を装備したオーガが背中を向けていた。
 が、ジェウォンの声に反応してゆっくりと振り返る。
 そこは黙って背後から不意打ちだろジャック! と言いたくなったけど、敢えて視線で訴える。

「すまん……」

 俺の視線の意味に気付いたのか、ジェウォンが肩をすくめる。

「よし、じゃあ俺が取りあえず「待て! 取りあえずどうするんだ?」」

 オーウェンが双剣を手に持って、ゆっくりとオーガに近づこうとするを止める。
 24階層の雑魚に殺されるような奴が、ボスに挑むつもりなのか?
 あれ? 20階層のボスと、24階層の雑魚ってどっちが強いんだ?

『ボスに決まってるでしょう……31階層の雑魚相当の実力者ですよ?』
「やっぱ、雑魚なんじゃん」

 セーブストーンの説明にモヤモヤしたものを感じつつ、オーウェンの方を見ると。

「えっ? この双剣で翻弄して隙を作ろうかと?」
「はあ……お兄さんの剣がアーマーオーガなんかに効くわけないじゃない! ここは私が「待て! 私がどうするんだ?」」

 オーウェンの発言に溜息を吐きながら杖を手に前に出ようとする妹さんを止める。

「私の火魔法で、オーガを焼いて隙を作ろうかなって?」
「はあ……いいからお前ら下がれ」

 ジェシカの発言に呆れてさらに溜息が出る。
 というか、似たもの兄妹だけど無謀過ぎるだろ。
 せめてアシッドスライムを瞬殺できるようになってから言ってくれ。

「いや、こんな機会でも無いとアーマーオーガに攻撃できないですからね。経験値を共有するにはダメージを与える事が最低条件ですから」

 なるほど……攻撃さえすれば俺が倒しても経験値が上がるのか。
 いまは、加入したパーティ扱いだから仲間と言えば仲間だけどさ。
 それって寄生って言うんだよ? 知ってた?
 というか、NPCのレベル上げたところでなんの役に立つかも分からんし。

「じゃあ私が「待て……私が何をするんだロン!」」
「この剣で「お前もかっ!」」

 ロンがショートソードを構えてウキウキと前に出ようとするのを止めると、俺は一気に地面を蹴ってアーマーオーガに肉薄し、一瞬で唐竹割よろしく縦に真っ二つにする。

「ああ! 高経験値がー!」
「勿体ない!」
「なんで一撃で!」
「あっ、レベルが上がった……」
「ミランさん……」

 オーウェンとジェシカとロンが悲痛な叫びをあげている中で、ミランだけがちょっと嬉しそうにしている。
 オーガの死体の方を見ると、半分になった左側のお尻に短剣が刺さっていた。
 どうやら俺が倒す直前に、ミランがシレっと短剣を投げつけていたらしい。
 ちゃっかりしてるわ。
 というか、アシッドスライムの時に対して恐怖を感じる間も無く助けたせいか、かなりお気楽な御一行になっている。
 前回会った時はお通夜ムードだったくせに。
 まあ、いいわ。
 頼むから邪魔だけはするなよ。
 つっても、ここら辺まで来ると幼児を連れてても問題無く進めそうなくらい、敵が雑魚だけど。

「宝箱か……」

 オーガを倒した後に出て来た宝箱を開けると、中には刀身が真黒なナイフが入っていた。
 これがなんなのか俺には分からないけど……

『オーガナイフですよ……オーガの持つナイフで、オーク種、ゴブリン種、コボルト種等、オーガより下の亜人種の魔物ならランクに関係なく絶大なダメージを与えます』

 ああ、下位種族に対して弱点効果があるのか。

「オーガナイフか……」
「はっ? それって、かなり貴重な……」
「上級装備……」

 上級なのか?
 まあ、別に俺の拳の方が強いから要らないんだけどね。
 ちなみにアスモデウスや、フェンリルのドロップは神器らしい。
 そっちもそんなに必要性が分からないけど。 

 取りあえずチート転生を題材にゲームをすると最初は無双が楽しそうだけど、すぐに飽きそうだという事は分かった。
 だって、前半で最強系の武具や防具が手に入ってステータスも規格外になったら、やる事無いじゃん?
 やっぱり、コツコツとレベル上げて、お金も少しずつ溜めてちょっとでも高い武器を買って強い敵を倒して、それでまたレベル上げと金稼ぎをしてって感じで強化してく方が楽しいわ。
 で、勝てなかったボスを倒した時の達成感が良いんだよ。
 すでにこのダンジョンに敵は居ないし、良いアイテムも手に入る見込み無いからね。
 だって、さっきのアーマーオーガの装備より、50階層辺りのコボルトの方がよっぽど良い装備身に着けてたからね。
 ちなみに50階層のコボルトはドーベルマンぽかったけど、ここら辺のコボルトはレトリバーだ。
 可愛いから無視してるけどね。
 あとフェンリルの匂いが付いてるからか知らないけど、コボルト系は襲ってこないしね。
 うんうん、イージーモードってゲームにしちゃ駄目だって。

「有難う!」
「なんで、博士にあげちゃうんですか!」
「えっ?」

 どうやら、ミランがナイフを強請ってたらしく、考え事をしてた俺はうんうんと頷いて居たらしい。
 まあ、要らないからいいけどさ。

「それ一つで、宿屋に5年は泊まれるんですよ!」
「そんなに高いの? やっぱり、貰えない……かな?」

 ジェシカの説明に、ミランがおずおずとナイフを差し出してくる。
 うーん……よくよく見ても、いらね。
 ナイフって、かっこいいと思わないし。
 果物の皮を剥いたりするなら、ツヴァイケルのナイフでもあれば十分だろう。

「いや、別にそんなの使わないし」
「やたっ!」

 この世界では物の価値を宿屋に泊まれる日数で例えるのが流行っているのだろうか?
 どうせなら、もっと分かりやすい物で……十分分かりやすいか。
 いや、でも宿泊料金って宿によって違うし。
 ちなみにミランには敬語は要らないよって言っただけなのに、敬語と一緒に礼儀と遠慮もどっかに行ってしまったらしい。
 そこまでは許可したつもりはない……つもりはないが、自分のこの世界での社会的地位が分からない。
 ただ、初対面程度の礼儀は捨ててほしくなかったかも。

『ここのダンマスで分類上は魔王と同等です』

 今も、ナイフを持って小躍りしているし。

『人如きが話しかけて良い、存在ではありません』

 この石ころは、俺の事を馬鹿にしつつも敬意は持ってるのだろう。
 親しみやすさでも感じてもらっているのか、現状では自分の方が知識面や能力が上だとみて見下してきているのかは知らないが。
 凄く年上っぽい感じの印象を受けるから、実年齢は相当いってる『不機嫌』
 
 年齢の話はタブーっぽいな。
 考えることも、許されないとは。
 あと不機嫌ってなんだよ、不機嫌って。
 不快なら分かるけど、かまってちゃんか!


「オーガ出て来い!」
「いや、オーガには普通のナイフ程にしか効かないから……オーガより格下の亜人型の魔物じゃないと」
「そうなの? じゃあ、オーク出て来い!」

 はは、博士とかって呼ばれてるからもう少し大人かと思ったけど、こうしてみると普通に子供っぽいな。
 
「5年も宿屋に泊まれるような高級品をタダで……」
「私が先に強請れば良かった……」
「おい! お前ら! 助けて貰ったうえに厚かましいぞ! そもそも博士の護衛だって押し付けて、俺達の報酬は全部ヨシキさんに渡すからな!」
「ええ、リーダーそれは……そうか。私、今回の報酬でこの子を研ぎに出そうと思ってたのに……」

 ジェウォンだけがまともだ。
 リーダーだからってのもあるだろうけど。
 1回目の時はかなりドライに見えたけど、多分一人でも多く生き残る方法を冷静に考えていただけなんだろうな。
 依頼人が死ぬより、仲間が死ぬ方を嫌う辺り冒険者としてはどうかと思うが、パーティのリーダーとしては優秀っぽい。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

処理中です...