チュートリアルと思ったらチートリアルだった件

へたまろ

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第一章:チュートリアル

第22話:NPC相手でも女の涙には勝てない

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「お前、本当に強いな! 助かったよ!」

 そう言って俺の肩を激しく叩いてくるくせ毛が特徴的な赤毛の男性。
 装備は背中に皮のベルトで結ばれた二本のショートソード。
 それと、動きを阻害しないようなフォルムの皮の鎧だ。
 背は俺と同じくらいだから、180cm届くか届かないくらいだけど筋肉はそこそこついている。
 どちらかというと痩せマッチョに近いかな?

「全く、オーウェン兄さんはもう少し警戒してください! アシッドスライムの酸弾の前に飛び出すなんてどうかしてます」
 
 そう言ってふくれっ面をする、女性。
 オーウェンとよく似ているが、整った顔立ちの綺麗な女性だ。
 という事は、認めたくないがオーウェンと呼ばれた男性もイケメンなのだ。
 クソッ!

「いや、それを言うなら敵を前に硬直するお前もどうかと思うぞ!」
「だって、あんなハイレベルの魔物がいきなり集団で現れるとは思わなくて……不意を突かれただけです」

 そのせいでお前の兄さんは顔と身体のあちこちを溶かされて死んでたんだけどな。
 NPCと分かっていても、こんな綺麗な女性が泣いているのを見ると心が痛むし……

――――――
 遡る事0分前。
 だって、ここは時が止まっているからね。

「なあ、蘇生の薬とかって無いの?」
『……死んだ人は生き返りませんよ?』

 お前が言うな!
 腕のセーブストーンに聞くと、あっさりとした答えが返ってきた。
 ただこの……は不満では無く、実はあるんだろうなという風に感じた。
 薬か秘術かは知らないけど。
 なら方法は1つしか無いか……

「オーウェン兄さんを置いて行くくらいなら、私もここに残って一緒に死ぬー! ウエーン」

 急に幼い感じの泣き声をあげるジェシカをチラッと見て溜息を吐く。
 ミランと相談して俺が入り口まで連れて行くという話になったが、ジェシカが兄をここに置いて行くことを激しく拒否した。
 
「こんなところで兄さんが魔物に1人食べれられるなんて耐えられない! どうして連れて帰れないの!」

 強酸にどっぷり浸かった死体を食べるとか、胃もたれどころか食あたり一直線だろう。
 胃に穴があいてもおかしくないと思う。

「こんな危険な場所で、死んだ人間を担いで帰られる訳が無いだろう!」

 うん、あとどうやって担ぐんだろう。
 かついだところで液が垂れたら、肩が溶けそうだ。

「無茶を言わないでジェシカ! それに、冒険者なら当たり前の事じゃない!」

 ジェシカに対してジェウォンとロンが必至に説得を試みるが、ジェシカは嫌々と首を横に振るだけだ。
 いや、まあその気持ちは痛い程分かるけどこいつらってプログラムの存在じゃないのか?
 嫌に生々しい表情と、リアルなやり取りについつい同情的になってしまう。

「なあ、俺を殺せる方法ってあるか?」
『はあ? もしかして死ぬつもりですか?』
「ああ……やり直して、今度はタイミングよく転移で来ればこいつの兄さんも助けられるかなって」

 俺の言葉に対して、セーブストーンと繋がっているセーブポイントが呆れているのが分かる。
 とはいえ、流石にこのままこいつの兄を置いて帰るのは夢見が悪いし、生きてる妹まで置いてくのはもっと無理。

『一応毒の上位に位置する猛毒の薬である、バードヘルム草がドロップでありますが……80本ほど』
「それ早く言えよ! それ飲んだら、猛毒耐性も付くじゃん!」
『目的が変わってますよ?』

 はっ!
 新しい耐性をゲットできる可能性を聞いて、ついテンションが上がってしまった。
 実際には読んだのだけどな。
 まあ良いや。

「とっととそれ寄越せ」
『……嫌です』

 こいつ部下の癖に拒否しやがった。

「良いから寄越せ! まあ仮にどうしても嫌だつっても上書きセーブしてないから、なんとかして死ぬけどね」
『知ってます』

 セーブストーンにいつもより小さいフォントの文字が出ると、俺の手に緑色の液体が入った瓶が現れる。

「それは?」
「ああ、これは俺用」

 急に瓶が現れた事でジェウォンが何事かとこちらを見てくるが、俺は軽く手を振ってその瓶を一気に煽る。

 猛毒耐性を獲得しました。
 最後にセーブした地点で復活します。

 よっしゃ!
 新しい耐性ゲットしたぜ!
 じゃなくて、やり直しやり直し
 
「あっ、ファング久しぶり!」
「ワフッ!」

 実際には時間は経過してないけど、セーブポイントに戻った瞬間にファングが尻尾を振りながらこっちに頭を擦りつけてくる。
 完全な従魔になった事で、死に戻ってこいつの時間は戻らないらしい。
 厳密には肉体的には若返るみたいだけど、そんな何年も放置したわけじゃないしね。

『ターゲットが転移しました。アシッドスライムに近づいております』
「行くか」

 それから4時間ほどファングとじゃれていると、セーブポイントが光を放ったのでメッセージを確認する。
 そして転移で24階層に移動すると、丁度アシッドスライムに火の誓いが会敵したところだった

「そんな! アシッドスライム!」
「馬鹿、ジェシカ! 下がれ!」

 ジェシカが驚き戸惑っている。
 そして、そのジェシカの声に反応したアシッドスライム達が一斉に酸弾を放った瞬間。

「お前が下がれ!」
 
 火の誓いの後ろに転移した俺が右手でオーウェンを引きずり倒して、左手に装備した盾でスライムの酸弾を受け止める。
 酸でも全然溶ける気配がしない。
 牛男の宝箱からドロップしたタワーシールド、すげーな。
 ただの液体みたいに足元に垂れて、地面で煙をあげてるのを見るとやっぱり優しくない酸だな。

 セーブストーンに変な目で見られてたけど、目ないけど。
 視線は感じた。
 不思議な世界だ。

「誰だ!」

 ジェウォンが何やら叫んでいるが、取りあえず無視して右手に持った剣で先頭のスライムを切り飛ばし、後ろのスライムを一斉に盾で叩き潰す。
 スライムの上に盾を投げて、飛び上がってその上から踏みつぶしただけだけどな。
 殺し損ねたスライムも次々と剣で斬り飛ばし、3分程で全てのスライムを殲滅したあと額の汗を拭うふりをしつつ振り返る。

「大丈夫か?」
「あ……ああ、助かった」

 ジェウォンの問いかけを放置したま、尻もちを着いているオーウェンを引きずり起こし、それから自己紹介のやり直しをする。
 取りあえず俺は旅人という事にして、出口まで向かう事が決定した。
 オーウェンは割と人懐っこいところがあるらしく、道すがらずっと話しかけてくる。
 個人的には妹さんと仲良くしたいんですけどね。

――――――
レベル:722←1UP
名前:ヨシキ・クラタ
スキル

中級スキル
猛毒耐性レベル:1←NEW

ステータス
STR:S
VIT:A
AGI:SS+
DEX:B
INT:C-
MND:SS
LUK:F

総合評価:Sランク生命体
――――――

 また死なないといけない事もあるかもしれないから、猛毒耐性のレベルは上げないことにしたけどね。
 あと、地味にレベルが上がった。
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