魔法亡き世界の魔法

庭伊 凛

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第一図書館

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  第一図書館

 それは開校以来存在しているといわれる古い図書室。
一説によると、西の森の塔に負けないくらい古くからあるのだという。

 そのせいか、その図書室には数々の魔法遺産が眠っている。その中でももっとも有名なのが自動天球儀だ。

他にも

『踊る甲冑』『見つめる婦人像』などがある。

毎年、新入生が来ると多くの初々しい学生が興味深かそうにそれらを見つめるものだが、今は夏のはじめ。
これらの不思議なものにも飽きてしまった学生達はもう見に来ることも無く、放課後の図書室は閑散としていた。

地下にあるためか、夏のはじめだというのに少しひんやりとした空気が漂う。

図書室の入り口に鎮座するのは、噂に名高い自動天球儀だ。

天井に着きそうなほど大きなその球体は、枠はマボガニーで作られ星座を模した繊細な彫刻が施されている、開いた部分に当時は珍しい透明度の高いガラスが嵌め込まれていた。

中心部には電光ではない光り輝く球体が一つ。

その周りを6つの宝飾品で彩られた球がくるくると浮遊しながら回っている。

「ほぅーへぇーふぅーん、おおー」

「相変わらず回っているな」

「その感想はどうかと思うよ?サイラス」

サイラスとカーシュナーは魔法遺産を見た瞬間、張り付くように観察しだしたベンを傍目に、自動天球儀を見上げる。
 ぽつりと呟かれたサイラスの直球すぎる感想にカーシュナーは苦笑をこぼす。そんな優等生な友人をサイラスは悩ましげに見つめた。

「ん?どうしたの?そんなに心配そうに僕を見つめて」
「ん、ああいや、少し心配になったんだ。」
「何が?」
「最近、社交で忙しいだろう?ここの件でベンあの馬鹿に付き合って大丈夫か?」

 カーシュナーは名家の出身だ。確か公式には発表されてはいないとはいえ、何処かの国の貴族であると彼自身が話していた。

そのせいか、2年生になってから彼は結構な頻度で、学園の外に行き、社交界に出席している。

「ああ、うん大分落ち着いたから大丈夫だよ」

 それに....そう彼は続け、考え込むように顎に手を当て黒く笑った。

「この依頼、学園長に貸しが作れるかもしれないしね。どうにもきな臭い匂いしかしないし」

「まあ、この以来受けに行った時、断れるような雰囲気ではなかったのは確かだね 」

「そうか、それでベンなにか気づいたことは?」

「んー、起動するための魔方陣と魔導石が球体の台座内部にあること以外全く。動き自体は問題なさそうだけどね 」

 二人の側に戻ったベンは全く打つ手がないとぼやきながら首を横に振った。
カーシュナーが考え込むように首を傾げて続ける。

「つまり、設計図か魔方陣図がない限りなにもわからないわけか 」
「そゆことだね。あー俺も久し振りにこんな面倒な依頼受けたよ」
「いつも面倒な依頼しかなかっただろう?」
「あ、バレるよなそりゃ」

 呆れた口調で突っ込んだサイラスに対しベンはいたずらっぽく舌をペロリと出した。

 

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