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日常
しおりを挟む「ほっんとに悪い!!!だから頼むっ」
「断る」
食堂の一角でベンが深く深く頭を下げる。
サイラスは注文した食事に手をつけながら仏頂面で一蹴した。
サイラスの隣でカーシュナーが苦笑いしている。
「サイラス 」
「うるさい、もう俺はつきあわないぞ。昨日も散々連れ回されたんだからな」
「サイラスぅ、頼むよぉ」
「上目遣いしようが、猫なで声なろうがお断りだ」
問答無用
そんな言葉が似合うほど素っ気ない彼の様子に、ベンは困ったようにカーシュナーに目を向けた。若干、目が潤んでいるのは気のせいだろう。
そんな、 サイラスの取りつく島のない様子の原因は朝まで遡る。
ーーーーーーーーーーーー
時たま明晰夢を見るときがあるだろうか?
例えば、学校に行くのに遅刻して先生に怒られた.....と思ったらじつは朝起きたばかりだった。とか。
そんな日は、夢の中でもう学校についた気持ちになったものだから、朝を二回繰り返す気分にさせられる。
つまり何が言いたいかというと、
「気分が悪い..........」
眉間に皺を寄せたまま、サイラスはいつもより低い声で呟いた。
「珍しいね。君が不機嫌そうな顔を隠さないのも。いつもは不機嫌そうなの無表情が多いのに。ああそうだ、おはようサイラス」
朝、教室の自席で不機嫌さを隠さず頬杖をつくサイラスに対して、丁度登校してきたカーシュナーは鞄を置きながら珍しげに目を瞬かせた。
「お前、いつも思うけど若干失礼だよな。おはよ、カーシュナー 」
「あはは、よく言われる、それでどうしたの?」
「へんな夢を見た 」
仏頂面面のまま端的に説明すれば、前の席の優等生はこてりと首を傾げておうむ返しに聞いてくる。
「へんな?」
「そう、へんな 」
「それってどんな?」
そんな彼の興味津々な言葉に対して、サイラスは呻き声をあげながら突っ伏した。
彼には悪いが、夢の内容は詳しくは覚えていないのだ。まるで濃い霧の向こうで何かがあったかのようにぼんやりとぼやけている。
「.......あんま、覚えてない......」
「おつかれだね。サイラス」
「正直、学校休みたい 」
そう呻けば、カーシュナーは苦笑しながらサイラスの頭をポンポン叩いた。
「おっはようー、サイラス!!!!!」
「ぐえっ」
背後から飛びついたベンだが、予想以上に潰れたサイラスを見て抱きついたまま不思議そうに声を上げた。
「あれ?サイラス元気ないな?大丈夫かい?
ああ、カーシュナーおはよう!サイラスどうしたんだい?」
「あはは、なんか悪い夢でも見たらしくて疲れているみたいだよ? 」
返事を返したカーシュナーは困ったように首を傾げて続けた。
「それより、離れてあげなよ。サイラス、潰れて死にかけてる蛙みたいになってる 」
「......あ」
「うぐっ.....ベン.......てめぇ........」
時すでに遅し。
慌てて離れようとしたベンの下から、地獄の底から響くような声が漏れてきた。
ーーーーーーーーーーー
その後、無事潰れた蛙もどきになる前に解放されたサイラスは不機嫌なまま授業を受け、不機嫌なまま昼休みに至る。
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