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奇妙な最上階
しおりを挟む塔に用事があるのは、魔法を研究する余程の物好きだけだ。だからなのか管理は一年に一度司書が書物の整理に来るだけだ。
価値がないと知っているから、なにもないから安全だと思っているからだかはわからないけど、塔に入る申請はひどく簡単に済むのは有名な話だ。(ーーー西の森は有名な心霊スポットである)
ベンが許可を取りに行った司書曰く、塔にあるのは本棚だけで特別なものはなにもないのだという。
最近は魔法を研究する生徒が減ったせいか遊び半分、肝試しに来る生徒以外は来ないのだという。
入塔記録の最後は一ヶ月前の生徒の肝試しが最後。
記録では異常なし。
だが、これはなんだ。
下の階と違い、埃のない清浄な空気、何かを守るように円形に並べられた書籍。
「 まるでなにかの儀式の後みたいだ 」
「そうだが、なんのために?」
塔の鍵は司書がひとつだけ管理している。噂ではなんの変哲も無い鉄製の鍵の見た目に反して、古い魔法がかかった鍵だかで複製は難しいのだという。
「いたずらは有り得ないよ、俺が聞いた噂を立てたやつ以外の入室記録はなかったから 」
「じゃあ、魔法か?こんな魔法なんざない時代に?」
「それだったら面白いんだけどなぁ、俺的には」
どこか楽しげな声音でそう言いながら、スタスタと得体の知れないそれに近づいて行く。
「おい!!何かあったら......」
「だいじょうぶだろ、今まで何にもなかったんだし」
気楽な様子でそれを近くで観察する彼は楽しげだ。
そのなんともない様子に、サイラスが恐る恐る近づいても、ただ不思議な円を描くそれは沈黙したままだ。
ただただ、静寂とひたひたと寄ってくる夜の気配だけが部屋を支配する。
「............なにも、ないね」
「........ああ 、やはりいたずらだったのか 」
ほっとしたサイラスは、そのまま興味本意で並べられた本に触れようとする。
ーーーーーーー リン
涼やかな鈴の音が耳元で鳴った気がした。
サイラスは驚いて手を止めあたりを見回す。
「なあ、ベン」
「どうしたの急に手を止めて、周りなんか見回して?ユーレイが怖くなったとか?」
隣で他の本を手に取っていた彼は楽しげに笑う。
どうやら、ベンには聞こえていないらしかった。きっと気のせいだろう、臆病な自分が雰囲気にビビったらしい。そう思ってサイラスは少し笑った。
「いやなんでもないさ。ただ早くかいらないと門限だって思っただけさ 」
「げっ、それ早く言ってよ。俺がりょーちょーに怒られるだろ? 早く帰ろう、美女なんていなかったわけだし」
「ま、そうだな」
興味を失ったのだろう、そのまま振り返らずにスタスタ戻って行く彼を追う。
ふと、振り返ってもその不思議な本たちは静かに眠っているだけだ。
きっとさっきの鈴の音は幻聴だったのだろう。
サイラスはそう思って、今度こそ振り返らずに帰路に着いた。
ーーSigillum est solved
誰かがそう言ってクスリと嗤った。
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