魔法亡き世界の魔法

庭伊 凛

文字の大きさ
上 下
5 / 11

無価値な書物達

しおりを挟む
 2人は【鑑定】で病にかかっている者を探し出し、状態異常回復の実を付いてきていた騎士達に渡し配らせていた。城門を出て別行動をとっていた2人であったが、時を同じくして索敵範囲に魔物の気配を確認する。

 2人は示し合わせた様に自分達が闇の魔法で操る魔物を向かわせるが、自身が多くの住人に対して【鑑定】を行っているために目視で確認し魔物を動かせないために数に押されていた。

「う~ん どうしよう…… みんないそがしいのに~」

 2人がそんな言葉を思わずこぼした時、2人の索敵範囲に大量の家族が湧き出したことに気づく。

「あっ! みんな来てくたくれた♪」

 王都の中心に出された大きな扉からヒカリを除く蟲人達が飛び出し、その後をヒカリ、クウ、レイの家族が後を追う。王都の獣人の人々にとっては突然魔物が大量に現れた様に見えパニックを起こしそうになるが、騎士達や冒険者達が事情を説明したことによりすぐに鎮静化する。

 ヒカリの子供達は、扉を出るとすぐに王都の上空に飛び出したファントムの指揮の元、王都の城壁のさらに外の上空に円を描く様に待機する。クウの子供達は王都の中心の広場から東西南北の城門から外にでてヒカリの子供達が待機する地上部に広がる。

 それまで、王都の周りに集まり始めた魔物達に気づいた騎士や冒険者達はその対処に向かうか城壁の周りにいる者達の救援をそのまま手伝うか迷っていたが、緑達の家族が魔物を討伐すると連絡を受けると安心し病人たちの世話にもどる。

「間に合ったです♪」

「ふぅ、なんとか魔物が住民を襲う前に前に出る事が出来たか……」

「さぁ、ここは通しませんよ~」

 いそいで扉より飛び出し城壁の外に出て、王都の周りをクウ、兜、レイが均等に別れ魔物達の前に立った時、ぼそりと3人はこぼす。

 上空よりその様子を確認したファントムは自分の周りにいる司令塔となるキラービー達に命令を下す。

「さて皆さん、攻撃を始めてください」

 その言葉を聞いた司令塔となる子供達は城壁の周りにいる他の子供達にその命令を伝えるために飛ぶ。その数十秒後、ヒカリの子供達による緑の爆弾の実を使った攻撃がはじまる。

 空を飛ぶ魔物は、ヒカリの子供達の集団での連携になすすべもなく地面に落ちていき、地上を進む魔物達は、はるか上空から落とされる爆弾の実によってことごとく数を減らしていく。

 その光景を確認した3人は叫ぶ。

「みんないきますよ~♪」

「みんな行くぜ!」

「みなさ~ん、行きますよ~!」

 その言葉を聞いた緑の家族は、爆弾の実によって数を減らした魔物達に向かって走り出す。



 時間は少し遡り、王都の状況を知らずに王都に向かっていた冒険者達はあせっていた。本来であれば王都の周りは、魔物が少ないはずなのに普段は見ないような強い魔物や、数が集まる前に討伐される魔物が集団で行動をしていることを発見する。

「どうなってるんだ! 普段は、ここいらにはいない魔物が居るぞ!」

 1人の冒険者が思わずチームのメンバーに叫ぶ。

「馬鹿! 叫ぶんじゃねぇ!」

 思わず叫んだしまった2人の冒険者を責めるチームのメンバーは居なかった。なぜなら、2人が叫ばなかければ自分達が叫んでしまったと思っていたからだ。

「とにかく、急いで王都に向かうぞ!」

 2人が叫んだ直後、リーダーと思われる冒険者がチームのメンバーに叫ぶ。魔物と遭遇してしまった冒険者のチームはろくに戦いもせず、最低限の魔物を倒すと倒した魔物の死骸を回収もせず王都に全員で走る。

 そんな彼らの視界は王都から向かってくる大量のキラービーをとらえる。その光景を見た冒険者のリーダーはメンバーに向かって叫ぶ。

「おい! お前達恨みっこはなしだ! 何も考えず王都に向かって走れ!」

 大量のキラービーのを見たリーダーの冒険者は自分達のチームは誰一人として王都にたどり着けないと思うが万が一、億が一助かるかもしれないという思いで全員に戦闘をすることなく王都に向かえと叫ぶ。

「「おう!」」

 チームのメンバーから返事を聞くとリーダーの冒険者は走る速度を落とし、仲間の最後尾に着くとその足を止める。

「「リーダー!!」」

 その行動に気づいたチームのメンバーが思わず叫ぶ。

 リーダーの冒険者は弓での遠距離を攻撃を得意とする冒険者であり、足を止め後ろから自分達を追うように向って来る魔物に向かって矢を撃ち始める。

 リーダーの冒険者が矢を放ち続けるも魔物の数は膨大で、魔物は壁の様に迫ってくる、

「お前達!?」

 矢を撃ち続けていたリーダーの冒険者の前に前衛の冒険者が立ちふさがる。思わず叫ぶリーダーの冒険者。

 その光景を見ても矢を撃ち続けるリーダーの冒険者。矢を撃ちすぎたために指先からは血が流れ落ちる。だが、温かい光が指先を包みそれがピタリと止まる。

 それは、回復魔法を使える仲間がリーダーの傷を回復させたのであった。

「「俺達が決めた約束を破るのか!?」」

 そう言ったリーダーと追ってくる魔物の間には前衛職の冒険者が立ち、その後ろには魔力を圧縮する攻撃魔法と回復魔法を操る冒険者がいた。

「忘れてない!」「全員で生き延びる!」「それが約束だろう!」

 その言葉にリーダーの冒険者は涙を流しながら笑う。

「ああっ! 俺が間違っていた!」

 その瞬間、冒険者達の迫りくる魔物の群れが突如として爆発した。その爆発は1度では終わらず、わずかな時の間に数を増やしていき、しばらくの間爆発音が絶え間なく響いた。

 冒険者達は必死に目を閉じずにその光景を見続けた。

 その爆発音が止まった時、迫っていた魔物の数は大きく数を減らしていた。だが、それでも冒険者のチームが生きて王都にたどり着けないと思うほどの魔物が迫っていた。

 一瞬混乱するも直ぐに残った魔物達に応戦する冒険者達であったが、徐々に押され始めとどめとばかりに自分達では対処できないと思われる魔物が姿を現す。

 その魔物は前衛の冒険者は弾き飛し、そのままの勢いでリーダーの冒険者目の前に迫る。


 リーダーの冒険者を魔物の攻撃が襲う。


 冒険者は意地でも目はつぶらないと目に映る全てを見つめ続ける。最後の時とばかりか、冒険者の視界は全てのものがゆったりとした動きになり、魔物の攻撃が自分にせまり全てが終わったと思った。

 だがその時、それだけが時間を進む速度が違うかのように、冒険者に攻撃をしようとしていた魔物を斧が両断した。

 その斧が魔物を両断したうえに地面に突き刺さる光景を見て、冒険者のチームのメンバー全員が体を硬直させる。

 その直後、斧を追うように冒険者達の目の前に男が空から降ってきた。その男は地面に大きなクレータ―を作るが何事もなかったかの様に振り向き叫ぶ。

「大丈夫か!?」

 その声に体を硬直させていた冒険者達の1人が意識を取り戻し返事をする。

「ああ! 助かった!」

「じゃあ、あんた達はそのまま王都に向かって走れ!」

 男の叫んだ言葉にすぐさま冒険者は叫び返す。

「あんたはどうするだ!?」

 冒険者がそう叫んだ瞬間、先ほど魔物を両断した斧がもう1本降ってきた。

「俺か? 俺は、向って来る魔物を倒すだけだ!」

 そう言って男は冒険者達に振り返ると笑顔を見せるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...