ガマンできない小鶴は今日も甘くとろける蜜を吸う

松ノ木るな

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序章

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 幼子の抵抗など、まるで無力なアリの斧。
「い、いやぁ……きゃあぁぁあっ!!」
 
 闇から伸びるおぞましい手にからめ取られ、そのいたいけな姫は、
 
「あ……あぁぁ……」
 
 欲望と背徳への興奮が混濁した、暗澹たる閉所せかいにスルリ、スルリと引きずり込まれた。

 ──怖ィ……次郎、ドコ、助ケテ──…………
 
 
 
 此処ハ、ドコ……?
 気付けばジトリ湿った空気の満ちる、薄暗い納屋の奥にて、彼女は両の手首を固く縛られていた。

「か、母さまぁ……」

 彼女はここら一帯に根差す小国の姫。まだ九つの、清らで可憐な小鶴姫。

「良い子にせよ……」
「い、いやぁっ」
 目の前のそれは、未だ世間もの知らずの姫すら理解するほどに、常軌を逸した表情を見せていた。
 向こうの壁に大きな影を背負い、獣のごとき姿態の人間が、己を捻り潰す勢いで迫りくる。
 
 コナイデ……!!
 底知れぬ恐怖が胸を絞め、後ろ首を伝い脳天を貫いた。
「っジロー!! ジロっ、助けっ…キャァッ!」
「おとなしくしておれ……」

 人の形はしていても、人の心を持たぬ化け物に手繰り寄せられてしまった、姫の命運はもう────
 
 ジロー…怖ィョ……タス、ケテ…

 従者らが血眼になって姫を探している時分だが、ここは誰も見当のつかぬ密室だ。救いの手が差し込まれることはない。

 ヨベバイツモ
 キテ、クレタノニ……


 
 時を経て、滴り落ちる涙の枯れた頃、彼女の本能は絶望を和らげんと違う景色を見せ出した。聴覚、嗅覚、知覚、痛覚……いずれも手放し、大事な人らの待つあたたかな庭に帰ろうと。

 だのに姫のその瞳は、下劣な熱を帯びた男のマナコを、じぃと眺めて止まなかった。

 か弱きものをなぶっては雄々しく高ぶり、愉悦にまみれた男のマナコ。それだけを、脳裏に激しく焼き付けて──

 ナゼ、コノ人ガ……?

 最後の瞬間、ふと湧いた疑問を抱いて、小鶴姫はついに意識を失った。

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