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② 人間関係ひっかきまわすの好きな人いるよね

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「お気を確かに。ノエル様」
「ありがとう……」

 私を別棟の食堂に連れてきたラグナルが、瓶から銀のグラスに水を注ぎ私の手元に差し出した。それを飲み干すと、私の熱くなった目頭も少しは熱の引いたよう。

「先ほどはありがとう、庇い立てしてくれて」

 私の謝辞を受け、彼は照れたような笑みを浮かべるのだった。

「弁明なさるおつもりはないのですか?」
「そうね……」

 私は政の上で王家に限りなく近しい地位にいる、国で屈指の高位貴族、カンテミール侯爵家の娘。その裏の顔は、“世の乙女たちにひと時の夢をみせる恋愛小説家”だ。

 しかし次期王妃という立場で自己実現を果たした“真実の私”を、みだりに明かすわけにいかない。この宮廷は保守的な考えに凝り固まった上流貴族が幅を利かせている。いつ何時でも私を、私の一族を引きずり降ろさんとする輩が存在する。

 その中のひとつが、ガンニバル家だったというわけ。そこの娘アデラはある日、私の部屋に突進し、やたらと誉め言葉連発ですり寄ってきた……。


────「社交界で“知性エスプリの姫”ともてはやされるノエル様とこのように親しくさせていただけるなんて、私の人生最大の喜びですわ!」

「あら、そんな」
 まだそこまでいうほど親しくなっていませんが。

「私、あなたの“真実の友”として、いかなる時もお役に立ちたいのです。私には何でもお話しください」
 交友関係にも段階というものがあると思うわ……。

「私、あなたのことをよく存じ上げていますのよ! たとえば……ノエル様はマティアス殿下の凡才ぶりに、物足りなく思われている……」
 それあなたがそう思っているのでは。

「本音をお隠しにならないで。ノエル様は何も悪くない。ノエル様が賢すぎるだけ。比べたらこの宮廷の人間なんて……たいていの者は愚かに見えてしまいますわよね!」
 それ根拠なく広範囲の他人を見下してるってあなたの自己紹介よね。

「ところであなたは確かにかなり美人ですが、少し鼻が高すぎます。だから美人だけどお高くとまってるなどと言われ、ご友人にも恵まれないのですわ」
「友人に不自由してないけど……」

「あらでもぉ、親友であるはずのレイラ様が陰であなたのこと、気位だけは高いが実家の力を借りないと何にもできない天然ぶりっこ。ってあちこちで言っていましたわ」
「そ、そんなこと彼女は言わないわよ……」

 「ノエル様は純粋すぎます。そのようなあなたのために、あなたの陰の部分を私が担いますわ。私、あなたの半身となりたいのです。あと優秀な外科医を紹介いたしますので、その鼻の骨、少しお削りになるといいですわ! どれもこれもあなたのためですから!」────


 このように、相手に口出しの隙を与えずぺらぺらと持論を述べながら彼女は私の近辺の者ら、友人らを排除していった。今思えば詐欺師の手口だ。でっち上げの噂を駆使して私の信用を損ねるようなことばかり。

 まぁ執筆で日々忙しく、華麗に放置して気を配れなかった私の失策だ。

 そして数日前、“真実の友”の仮面を被り、私の部屋に上がりこんできた。そして詩集や物語集などあれもこれも貸してほしいと本棚を物色していた。原稿を持っていったのはあの時か。私は彼女の言う通り純粋すぎたようだ。
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