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√エリザベース act.2

④ 仮面舞踏会で仮面が外れたら。

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 そして3日後の夕刻、ラインホルト様がお迎えに来てくださりました。仮面舞踏会は私、初めてですわ。少し大人になった気分です。

「……君、その仮面はなんだい?」
「3日間ヒマでしたので仮面を装飾しておりましたが、何か?」

「余すところなく真っ赤な下地に蜘蛛の巣のような罫線、そして黒の目の縁取り……」
 だって真っ白な仮面では味気ないですわ。蜘蛛座の怪人コスプレです。これデコり始めたら、まぁ楽しくなってきてしまって。
「普通に絵具で塗りたくっただけだピコ。それデコとは言わないピコ」

「まぁ、その赤と青のドレスとよく調和しているよ」
「入場したら即ラインホルト様に捨てられそうだピコ」


 馬車に乗ったら、彼に聞きたいことがありましたの。
「どうして今日は私をお誘いくださったの? ラインホルト様ならすぐお相手が見つかっておられるはず」
「うむ。実は、私はまだ結婚したくないのだ。しかし社交界に一応顔を出していないと、周りがいろいろとうるさくてね」
 あぁ、だから私をカモフラに使うわけですか。

「あら、どうして? 伯爵家令息ともあろうお方が、いつまでも独身でいらっしゃるだなんて」
 エリザベースとは一応結婚するつもりでいたんだよね? カビローンロンのことがなければ。

「運命の相手を探している、と以前話しただろう?」
 ああエリザベースを振った時ね。
「そんな出会い、いつになるのやら。それともアテがありまして?」

「あ、いや、まぁ……」
 あれ、ラインホルト様、赤くなった? ははーん、さてはいるんだな?

「どちらのご令嬢かしら? そのお幸せな方は」
「それが、分からないんだ」
「分からない?」
「このフランポフルトのどこかにいるはずなのだが……」
「どういった方ですの?」

「こう、強気で気高く、他者に親身で頼りがいがあり、物怖じせず毅然として……それでいて見目は可憐極まりなく……」
 なにそれ~~??

「いつその方と出会われましたの……」
「……子どもの頃の話さ。それもたった1度きりだ、彼女といた時は」
 ああ、初恋のお姉さんが忘れられない系かぁ~~。それもほぼ一目惚れ?

「ラインホルト様、意外に可愛らしいところがおありですのね」
「からかわないでくれ……」



 おかしいですわ。会場に着いたのですけど。
「ごきげんうるわしゅう、エリザベースどの」
「ごきげんよう、エリザベース。今日の奇抜な赤と青のドレスもよくお似合いだ」

 仮面をしているのにどうやら私の正体がみなさまに露呈してしまっているようですの。これでは仮面の意味がございませんでしてよ。
「カビローンロンといい、やっぱり何かしら滲み出てるピコよ」

 会場に入るなり、ラインホルト様は臨戦態勢の令嬢らの波に流されていってしまわれました。私は晴れて自由の身ですわ……。
「あ、ピコピコ。しまった! 私、踊れない!」
「まぁ男性に任せておけば、なんとかなるピコ」

 それから2時間ほど壁に張り付いているのですけど、声がかかりませんの……。どうしてですの……?
「どうしてピコね~~? ①エリザベースと踊りたくない ②奇抜赤青ドレスと並びたくない ③エリザベースと噂になるのが嫌だ ④エリザベースに責任取れと迫られるのが嫌だ ⑤カビローンロンウケルw ⑥……」

「もういいですわっ!!」
 悲しくなってきたので、庭に逃げ込みました。

「私も踊りたいですわっ!!(泣)」
「広い庭ピコ、ここでソロで思う存分踊るピコよ」
「や~や~や、や~や~や、てやぁっ!!」
「空手の型のようなダンスを始めてしまったピコ」

 そのとき、誰かがガサっと草を踏む音を耳にしました。振り向いたら、やって来られたのは男性のようです。暗くてあまりよくご様子が見えませんが……。

「失礼、先客がおられましたか」
 とても爽やかなお声の持ち主です。

「あ、いえ、お邪魔でしたら……」
「いや、中の雰囲気が落ち着かないので、逃げてきただけだ。私の方こそ邪魔であれば」
「いえ、そんなことは」
「もじもじしてるふたりだピコ~~」

「ホールで踊らないのですか?」
 誘われなくて逃げてきたなんて言えない……。

「ええと、私、上手に踊れなくて、恥ずかしいので逃げてきたのです」
「そうですか。……でしたら、ここで私と踊っていただけませんか?」
 えええ? 私なんかでいいんですかっ??
「暗がりで仮面もドレスも素性も見えなくて良かったピコね~~」

「あの、私、本当に踊れないんですけど……」
「お任せください」

 引き寄せられてしまった!

 しゃ~~る・うぃ~・だんす!

 きゅぅぅぅん!! こんなの初めて!! 帰国子女だけど、こんな機会なかったから初めてぇぇ!

「さすがにこれくらい近付くと、蜘蛛座の怪人の仮面がお相手から見えてるはずピコだけど……逃げられてないってことは~~?」

 こちらの紳士が優しくリードしてくださるので、うまく踊れている気がしますわ。
「でもでも油断するとぉ~~」
「きゃぁ!!」
 庭の石につまずいてしまいました!

「! ……いてぇっ!」
 彼を巻き込んで転んでしまって! ……そしてそのとき突然の強風に煽られて、お互いの仮面が飛んで行ってしまいましたの!
「運命のいたずらピコ~~」

「ああ、ごめんなさい! 痛むところはございませんか?」
「あ、ああ、大事ない……」
 私は心配で彼の顔を覗き込みました。

「え?」
「?」
「ピータン??」
「…………」
 どういうことでしょう、私の目に狂いがなければ、目の前のこちらの紳士は……マリーヤの元カレ・ピータン……。

「! ……君は……」
 ど、どうしよう、何て言えば? マリーヤがお世話になってます? もう、頭が働かない!

 こうなったら、逃げよう!!

「あっ、待ってくれ! 君は……」



 一目散に逃げてしまいました。
「はぁ……。とりあえず人気のないところまで逃げてきちゃったけど。ピコピコ~~??」
「ピ、ピコぉ~~……」

「どうしてこっちのルートにピータンがいるの!? しかも貴族の集まりに。またバグ!?」
「わ、分かんないピコぉ~~。他人の空似じゃないかピコ~~?」

 そりゃ暗がりだったけど、あれは絶対ピータンだった。おじいさんの時よりひどいバグだよ、これ。

「あ、靴、片方脱げてどこかに落としてきちゃった。帰りづらいなぁ」
「気分転換にルートチェンジするピコ?」

「そうしよっかなぁ……全然相手が見つかる気配ないんだけど……」

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